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白と悪魔と  作者: りあん
第一部 世界の改変
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ep2.槍の山

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ――二年前のある日…

 とある荒野にて…ミカがジハを強く睨んでいた。

 ジハはミカとその隣で血を流し…倒れていたホワイトの母リュンヌを見下ろしていた。

 ミカが持っている剣を強く握りしめる。


「ジハ…!リュンヌさんをよくも…!!」

「ククク…リュンヌの弟子か?遅すぎるものだな!」

「私があなたを許さない…!絶対に…殺す…!」

「私を殺すだと?戯言は寄せ。世界の改変のために私に協力するか、世界の改変に巻き込まれて死ぬかどちらかを選ぶがいい…ククク…」


 ジハが魔力で剣を作り出し、ミカに向ける。


「世界の改変を阻止するのが私の答え……覚悟…!」


 ミカが剣をジハに振るう。

 ジハの剣とミカの剣がぶつかり合う。


「…なら、貴様の運命はただひとつだ」


 その瞬間、ジハの剣がミカの剣をバラバラにする。

 そして…ミカの腹にジハの剣が突き刺さる。


「ぐっ……」


 ミカの血が腹から噴き出る。

 想像を絶する痛みがミカの身体を襲う。


「うーむ、やはり私ももうすぐ50。…歳だな、倒すのに時間がかかるかかる」

「はぁ…はぁ…」

「だが、これで終わりだ…!」


 ジハがミカの腹に深く剣を刺す。


「がっ…ぐはっ…」


 深く刺された勢いでミカは吐血し、ジハの服に血が付く。


「………リュン…ヌ…さん……」


 ジハがミカの身体から剣を抜く。

 ミカはその場に倒れ、気を失ってしまう。


「…ククク…世界の改変はもうすぐだ…!」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「……!!」


 ミカが目覚める。

 どうやら二年前のあの時を夢として見ていたようだった。

 だがその夢に、ミカは現実味を感じていた。


「夢…?夢にしてはやけにリアル…それにアレは…知っている…」


 悪夢を見たミカが息を荒くする。


「けど…あたしが…ジハに…刺された……?」


 二年前のあの時の出来事は。

 だが、ミカにとっては身に覚えのない夢だった。


「う…うーん…」

「っ!?」


 ミカが声に気付き、咄嗟に警戒態勢で声のした方向を向く。


「……ミカ…あんまり怪我しちゃ…だめだよ…?………んぅ」


 ミカの隣で寝ているホワイトの寝言だった。

 ミカはホッとした表情を見せる。


「……ホワイト…」

「おはよう、ミカ」


 今度は違う声が扉の方向からした。


「っ!?」


 ミカが今度は扉がある方を向く。


「…どうした?」


 そこにはジンが立っていた。

 ジンはホワイトとミカの分の朝食も持ってきていた。


「…なんだ、アンタか…ずいぶんと早起きなんだね」

「まぁな。それより飯持ってきたから、ホワイト起きたら食おうか」

「…ん」


 ミカがベッドから降りる。

 相変わらず…ジンに対して不信感を抱いており、ジンの事を睨んでいた。


「ホワイトは…寝かせておこってか」

「ミカ、さっき俺の声でやけに驚いてたが…なんかあったのか?」


 ジンの言葉にミカが少し動揺する。

 ミカは察されないようにジンの目を見る。


「…ちょっと変な夢見てただけ、言わせないで」

「そうか…」


 仲の悪めな二人だけが起きている。

 気まずい雰囲気。


「……」

「………」


 ミカとジンがお互いを見つめ合っては目を逸らすを繰り返す。


「なんか話しなさいよ」

「話…か…。聞いていいもんなんだろうか」

「ん、何。変な事じゃなきゃ答えるわ」

「…俺らは何で三人で同じ部屋なんだ?」


 ジンはホワイトとミカとの三人の同室に少し心がざわついていた。

 それもそのはず…女二人に対して男一人の部屋…何も起こらない訳が…とまでは考えないが、ジンも年頃の男なのである。

 年頃の男が年頃の女二人と同室なんて、流石に意識もしてしまうものである。


「確かに、このままだとアンタはハーレム状態ね、襲ったらランスに殺されるわ。その前にあたしが殺すけど」

「変な事言わないで真面目に答えてくれ」

「真面目ねぇ…理由を聞いた訳じゃないからあたしの考えになるけど、団長の気まぐれなんじゃない?」

「気まぐれ……か」

「…ってのと、後はアンタにホワイトが気を向けてるってのもあると思う」

「…ホワイトが?」


 ミカの意外な言葉にジンが首を傾げる。


「アンタと初めて出会った時のこと。殺し屋で悪でしかないアンタにホワイトは優しく接してくれたでしょう」

「…なるほど」

「まぁアンタ、ホワイトのおかげで命救われてるんだから感謝しなさい。ホワイトがいなかったら今頃アンタはあたしが殺してたわ」

「…怖い事を言うな」


 ジンが少しため息を吐く。

 ミカは表情を一切変えずに話し、ジンを睨み続けていた。

 ミカの目を見てジンが嫌われているのかと錯覚する。


「お前…俺の事嫌いか?」

「正直嫌い。ホワイトに手を出したし、元々はあたし達の敵だ」

「…そうだな、だけど当たり前だ…」


 ミカの言葉をジンは否定しなかった。

 何せ元殺し屋…それにホワイトも傷付けている。ジンにとって、ミカに自身を否定されるのは当然の事だった。


「おはよう、ミカ、ジン君」


 ホワイトが目を擦りながら起き上がる。


「ホワイト」

「ん………?」


 ホワイトが起きてミカとジンの間に入る。


「…ホワイト、おはよう」

「うん、おはようミカ。…何を話してたの?」

「…いや、なんでもない」

「そっか。…仲良くしてね?」

「…おう」

「分かってるわよ…」






 ――三人は朝ごはんを済ませた後、各自仕事の準備をしている。


「今日は…全員バラバラかぁ…」

「ホワイトは街の人の治療に、ジンは魔力源の探索…で、あたしは武器作り、か」

「…ミカ、ひとつだけ聞いていいか?」

「もう仕事だから話しかけないでくれない?」


 ミカが怒りの込めた笑顔でジンを見る。


「…ホワイト、頼む」


 ジンがホワイトの肩に手を乗せる。

 ジンの気持ちを感じ取り、ホワイトが話し始める。


「ミカ、ジン君がひとつ聞きたいって」

「アンタ、それはずるいわよ…で、何」

「…ミカの武器作りって魔力によるものなのか?」


 ジンの言葉にミカが少し黙り込む。

 ミカはどう話すべきかを考えている最中だった。


 数秒が経つ。

 ミカが話し始める。


「…そうよ」

「そうか。…で、もうひとつ聞きたいんだが――」

「ひとつって約束。早く仕事の準備しなさいよ」


 ミカがため息をつく。


「…ミカ」

「どうしたの、ホワイト」

「…あんまり一人で抱え込まないでね」

「っ…」


 ホワイトの意外な言葉にミカが息を詰まらせる。

 いつもホワイトに言ってきた言葉を逆に言われて、少し戸惑っていたのだ。


「…別にあなたに言われなくても分かってるわ…」

「…うん。武器、今日もいいの作ってね…!」

「…分かってる」


 ミカはそう言うと、ジンとホワイトはそれぞれ自分達の仕事へ行った。






 ―とある街…名前も知らないような場所でホワイトがゆっくりと歩く。

 この場所が今回のホワイトの仕事の場所。街の人達の傷を癒すため、ホワイトが出向く。


「…ミカ、大丈夫かな」


 ホワイトが呟くと、近くにいたラッシュ師団団員の女性がホワイトに話しかける。


「ねぇ、ミカって武器作ってるミカちゃんのこと?」

「あっ…あ、はい…。ごめんなさい、急に私情はさんじゃって」

「いいよいいよ。で、あなたはホワイトちゃんだよね」

「あっ、はい。…えっと、あなたは…」


 ホワイトは団員の名前をあまり覚えていなかったので少し考えていた。


「シェール。まあ実際私も団員の子の名前あんまり覚えてないんだよね。けどあなたはよく覚えてるわ」

「シェールさん…確かランスさんから教えてもらった時は毒とか病気とかそういうのを治す専門…って言っていたような」


 ――ラッシュ師団の団員シェール…ホワイトより少し背が高く、青色の瞳に紺色の長い髪の女性だ。

 彼女にはホワイトが言った通り毒や病気と言った状態異常の様な物を治す魔力がある。

 そして、実はラッシュ師団の副団長である。


「あってるあってる。で、これ、内緒なんだけど私ランスくんの恋人ね」

「ふぇっ!?」


 ホワイトがシェールの言った恋人という言葉に動揺する。


「こ、ここここ…恋人…!?ララララ…ランス…さんと…!?」

「ふふっ、驚いた?」


 「ランスさん…とても綺麗な人と付き合ってるんだなぁ…」と、ホワイトは思っていた。


「ふふっ、綺麗って言われたの、君が初めてかな」

「だって、シェールさんは本当に綺麗…って、心が読めるんですか…!?」


 シェールには人の心を読み取れる魔力をがあった。

 その魔力でホワイトの心を読み取り、ホワイトの純粋な心に微笑んでいた。


「あ、ごめんごめん、言ってなかったね。私は近くの人の心の声が聞こえる魔力も持ってるんだけど、これは例えば苦しんでる人を探すために使う感じかな。例えば…」


 シェールがそう言うとホワイトに手招きをする。

 そして男性の住民に駆け寄る。


「ラッシュ師団です。…その、怪我の方は大丈夫ですか?」


 ホワイトが住民をよく見るとかなりの怪我をしていた。

 シェールは人の心の声を聞く事で、怪我人を探す事にも長けていた。


「…あぁ、さっき外にいる奴にやられてね…」

「外にいる奴…もしや…いや、それよりも…ホワイトちゃん、あなたの回復の時間よ」

「えっ、あっ、はい…!」


 ホワイトは住民の傷口に回復魔法をかける。


「…このくらいの傷だったら、30分くらいで完治すると思います。安静にしていてください」

「ありがとう…若い子達…」

「おじさんも気を付けてね~」


 ホワイトとシェールは住民に手を振り、その場を去る。


「ね?凄いでしょ?」

「…よく分からなかったんですけど、さっきの人が「痛い」って言ってたのを感知した感じですか?」

「まぁ、そんな感じかな?それで見つけたはいいけど、私の魔力は毒などは治せるけど外傷は治せないからホワイトちゃんの助けが欲しかったって訳」

「なるほど…。今度私にも、魔法での毒の治療法教えてください」

「いいよ~!」


 シェールは笑顔で答える。


 笑顔から変わり、シェールが険しい顔をする。

 その顔にホワイトが少しだけ驚く。


「で、ホワイトちゃん」

「…はい」

「さっきおじさんが言ってた、外にいる奴ってなんだと思う…?」

「外にいる奴…もしかしてネオカオス…!」


 ホワイトの言葉にシェールが少し微笑む。

 そして再び険しい顔に戻る。


「可能性はあるよね。それにあのかすり傷、武器によるものだった」

「本当…ですか…?」

「えぇ」


 シェールは住民の傷から自然な物ではなく人工的な物の傷だと感じ取っていた。

 そしてこれが、恐らくはネオカオスの仕業だと言う事もある程度察せていた。


「この街の近くでネオカオスが出没する可能性があるってのをランス君に報告した方がいいかな」

「言った方がいいのかも…」

「こういう時の小型通信機、本当に便利だよね」


 シェールが左腕につけていた通信機を使い始める。


「人間の技術の進歩を感じる~!」

「…これって誰が作った物なんですか?」

「ミカちゃんだよ。あの子武器だけじゃなくてこういうのも作れるの凄いよね~」

「ミカが…?やっぱり凄いなぁ…」


 ミカの作った小型の通信機…ホワイトも左腕に巻いている。

 ラッシュ師団の団員はこの小型通信機を使い、連絡を取り合うために使う。

 通信機とは思えない程のシステムの量があり、通信手段…位置情報…雨雲レーダーなどなど、「これは便利!」から「これ必要か?」と思わせる程の色々な機能が揃っている…


「…もしもし?ランス君?」


 通信機からランスの顔がホログラムのように登場する。

 そう…この通信機の真骨頂はホログラムである。

 声だけでなく、その奥にいる人の表情までホログラムで読み取る事ができるのだ。


「わっ…ビデオ通話みたい…」

『シェールとホワイトか。で、どうした?』

「…今来ているこの街の近くにネオカオスが出たかもしれないの。もしかしたら何か手掛かりになるかと思って通信を繋いでみたよ」

『ほう。まあ、その情報も元にして今回お前等を向かわせたからな』

「…え?」


 シェールが首を傾げる。


『住民全員を治療したら、近くの岩山に行ってくれ、そこに大型の魔力の反応があるかもしれない。頼んだぞ』

「…でも、私達の魔力は戦闘向きでは…」

『その岩山にジンを向かわせている。奴に戦闘を任せろ』

「ジン君が…!」


 ホワイトがジンという言葉に驚きと少しだけ喜びを感じていた。


「…分かった、私達も行くねランス君」

『うむ、頼んだぞ』


 ランスはそう言うと通信を切り、シェールの目の前からホログラムが消える。


「…シェールさん、早く皆さんを治療しにいきましょう」

「そうね。今ここにきている他の団員もやっているし、私達は岩山に向かった方がいいかも」

「岩山…通信機の地図で書いてあるのはスピアマウンテン…」


 ――スピアマウンテン…別名槍の山と呼ばれし場所であり、かつて魔力による柱が現れた場所もこの山であり、魔力の根源が奥深くにあるとも噂されていた場所だった。


「というか、この通信機、地図機能もついているし有能過ぎないですか?」

「さっすがホワイトちゃん、これ作ったのミカちゃんだしミカちゃんに有能って言ってあげようか。それはそうと早く行こうか」

「はいっ…!」


 ホワイトとシェールは走ってスピアマウンテンへ向かう。






 ――槍の山スピアマウンテンにて…


「…ジン君!」


 ホワイトとシェールは探索していたジンに合流する。


「ホワイト!…と、そちらは?」

「シェール。君がジン君だね、ランス君から話は聞いてるよ」

「…それはどうも」


 ジンはシェールの美貌に少しだけ惚れていた。

 途中で見つめすぎるのも良くないと思ったのか、目を逸らす。


「岩山だから登りづらいけど、ゆっくりでいいよ。ゆっくり行きましょう」

「はい…!」

「…了解」


 ホワイトはジンの顔を見て少しだけ安心した顔をする。

 それに気付いたジンは話し始める。


「…そうだ、シェールさんとホワイトに話しておきたい事が」

「ジン君…?」

「この岩山、最初は他の団員と一緒に探索していたんですけど、ここにネオカオスがいたのを確認して――」

「ネオカオスが…!?」

「さっき登って行ったのを確認しました。で、もしものため、団員の治療用にホワイトとシェールさんの助けを借りろって言われて俺がふもとに待機してた感じです」

「…なるほど」

「じゃ…じゃあ急がないと…」

「まあ確かにそれだけ聞くと急がないとだけど、私の心を読み取る魔力で…」


 シェールが目を瞑り、魔力を発動して辺りの心を見破ろうとする。


「………なるほどね」

「何か、分かったんですか?」

「ネオカオス、魔力源を探すのに苦労しているみたい」


 シェールはこの周辺に潜んでいるネオカオスの心を感じ取っていた。

 そして、二人には黙っていたが居場所までも特定していた。


「…こんな岩山だからなんだろうか」

「まあそれでも、登った方が良さそうね。行きましょう」


 三人は山を登り始める。


 ――このスピアマウンテンには果たしてネオカオスの狙う魔力の根源があるのか…

 それはまだ、誰も知らなかった。



後書き~世界観とキャラの設定~


『シェール』

…ラッシュ師団の団員であり、副団長である。

ホワイトより少し背が高く、青色の瞳に紺色の長い髪の女性。

毒や病気と言った状態異常の様な物を治す魔力がある他、人の心を読み取れる魔力も持っている。

ランスとは過去に恋仲関係に落ち、現在も恋仲である。


『スピアマウンテン』

…別名槍の山と呼ばれし場所。

かつて魔力による柱が現れた場所もこの山であり、魔力の根源が奥深くにあるとも噂されていた。

ゴツゴツとした岩山で標高は高くないが、ホワイト達女性にとってはやや険しい道をしている。

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本編のスピンオフである
悪魔に堕ちて悪魔と結婚した太陽
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