ep35.絶壁
今まで殺意なんて物は生活する上では存在しなかった。
どんなに黒い感情が湧いても、踏みとどまれる意思がホワイトにはあった。
だが目の前で兄を殺された、そして娘の父には母を殺された。
ホワイトが殺意を持つには、十分すぎる理由だった。
「まぁ家族が死んじゃってる前でも戦える事だけは褒めてあげるよ」
メタリーはそう言うと後ろに後退し、三人から距離を取る。
メタリーが銃口に息を吹く。
「ホワイト…!」
「…ごめん…二人とも…」
ホワイトがそう言うと、ジンがホワイトの元へ駆け寄る。
「…ホワイト、お前の兄さんの方は…」
「…もう…助からない…私の魔力で止血ができなかった…もう………」
「っ…そう…か」
「だから…せめて兄さんのためにも…仇討ちを…」
ホワイトが泣きながら言う。
ミカは先の数秒で、違和感に気付いていた。
「…ホワイト。もしかしたら麻酔銃なら…効くかもしれない」
「…!」
「…さっきまでのあたしとジンの攻撃、メタリーは魔力による絶壁で受け止めていたけど、ホワイトの麻酔銃は避けていた…」
そう、メタリーはさっきまでミカやジンの使う刃物や銃弾を弾いていたが、ホワイトの使う麻酔銃をかわしていた。
そしてそれが今回の勝ち筋になるかもしれないとミカは予想していた。
「攻撃は効かなくとも…状態異常的な物は効くのかもしれない…!」
「…!」
「麻酔銃を当てて眠らせれば…恐らく魔力は使用できない…その間にメタリーを殺せる…!いや…寝かせた場合は捕らえた方がいいかもだけど…」
「っ…なる…ほど…」
ホワイトが麻酔銃を見る。
ホワイトの腕は震えていた。
「…俺とミカで麻酔銃を当てる隙を作る。その間に…頼む」
「ホワイト…頑張って当てて…!」
「…分かった…!」
ホワイトは涙を腕で拭う。
涙は後にする。後で沢山泣く。そんな思いをホワイトが抱く。
「何か思い付いた?」
「…バッチリね」
ミカがそう言うと、メタリーに銃剣を向ける。
「ん、そっか。せっかくだし、三人纏めてかかってきなよ。全員なぎ倒してあげる」
「行くよ…二人とも…!!」
「おう…!」
「…うん!」
ミカの声に合わせて、ホワイトとジンも武器を構える。
――一方、ハンバ荒野にて…
「っ…ラッシュ師団…貴様等…!」
「団長、こちらの方も」
「よし、全て完了だ」
ランス含む団員。
対峙していたネオカオスを全て捕らえていた。
「死者重傷者共に0人、軽症者少々。ネオカオスの方も死者は0だ。良い仕上がりだよお前達。鍛錬の成果だな」
「団長、魔力の根源の方を」
「おう」
ランスが団員の一人と共に歩き始める。
「確かリュンヌさんの件の時は…ここにジハが立っていたな」
ランスが歩きを止める。
この場所でかつて、リュンヌはジハによって殺害された。
そんな場所にランスが立っている。
「あの時はジハが魔力の柱を立てるために使用した魔力が使えないって事態が起こってたが…今の戦闘で空気に多少魔力が含まれている。この状態なら…」
ランスがそう言うと、両手に魔力を込める。
「魔力の根源よ…今こそ姿を見せよ…!」
ランスが地面に手を付き、魔力を当てる。
ランスの魔力に呼応するかのように辺りが揺れ始める。
「…!」
「この揺れは…」
「ビンゴだろう…!」
ランスは笑みを浮かべていた。
強い揺れがランスを更に喜ばせる。
「魔力の根源…遂に…ご対面か…!」
地響きは更に強くなり、地中の方から音がする。
「…!この音は…来るぞ…!!」
(魔力の根源が現れる………!)
ラッシュ師団もネオカオスも誰しもがそう思っていた。
そして…地面から一本の巨大な魔力の柱がランスの目の前に立った。
「…!来たぞ…これが…!!」
ランスは魔力の柱に触れようとする。
「っ…凄い圧力だ…触れようとするだけでも凄い力を感じる…だがこれこそが…魔力の根…」
ランスが何かに気付く。
(…根源なのか?)
ランスは魔力の柱が出ている地面を見る。
魔力の柱は地面から出ていた。
そう、出ていただけだ。
その魔力の柱も強大な魔力である事に間違いはなかった。
だがこれが根源ならば、スケールが小さすぎた。
「これが本当に魔力の根源だとしたら…もっと凄い魔力が溢れ出る…この地形にも影響を与える…そうなるはず…だが…?」
「団長?」
「これは…根源じゃない…!」
「なっ…!」
「何!?」
ラッシュ師団の団員が驚き、捕らえられているネオカオスの下っ端達も驚く。
「まさか…無駄足…!?」
「ははは…ラッシュ師団もネオカオスもここに大勢集まったのに、まさかの無駄足…か。ははは…」
ランスが頭を抱える。
「団長…気を確かに…」
「大丈夫だ。実際凄い魔力量ではあった。だがこの魔力ではネオカオスの目的である魔力の改変とやらは起きないだろう」
「っ…」
「この魔力は我々ラッシュ師団が保管できるだけ保管する。皆、持ってきた瓶に魔力の柱の魔力を入れてってくれ」
「了解!」
ラッシュ師団の団員は瓶を用意し、魔力を瓶に収める。
「その瓶…まさかネオカオス研究所の技術の…」
「これは問題児三人の活躍があってこそだよ。ネオカオスの技術、盗ませてもらった。感謝するよ」
「クソッ…!!」
ランスはまたしてもネオカオス研究所でネオカオスのやっていた魔力の採取の方法を奪い取っていた。
ネオカオスの下っ端は悔しさのあまり地面を蹴る。
「しかし団長…これが魔力の根源じゃないと、魔力の根源とやらはどちらに…?」
「…そういえばさっきシェールやミカから連絡があったな。シェールの方は無駄足だったっぽいがミカの方は…」
「それについても先程シェールさんから連絡がありました。ミカ達は…完璧のフェクトと対峙し、そして捕らえたようです」
「ほう、そうか。ここ最近でジンやミカ、ホワイトがネオカオス四天王を三人も…やるな」
「しかし、魔力の根源については未だ見つからずとの事です」
「そうか」
ランスが考え始める。
「しかし…となると、魔力の根源は…スピアマウンテンに…?」
「…そのまさか…かもしれませんね」
「ひとまず団員達は回収した魔力を基地に持ち帰る事だ。そして俺達も行くぞ、スピアマウンテンに…!」
「了解!」
団員達は捕らえたネオカオスを連れながら基地へ戻る。
ランスがスピアマウンテンの方へ目線を向け、向かい始める。
――一方、スピアマウンテン。
「っ…やっぱり攻撃が…通らない…!」
ミカが銃剣を振るが、メタリーの身体に弾かれる。
「メタリーが動き回っている間は…ホワイトの麻酔銃の照準が合わせづらい…!」
「はぁ…学ばないんだね」
メタリーがミカの攻撃に合わせて腕でガードする。
「っ…!」
ジンが右手に炎の魔力を込め、メタリーに炎で攻撃する。
「…それも効かない」
メタリーはジンに蹴りを入れようとする。
「っ…!」
ジンがメタリーの蹴りをかわす。
「今…!」
ホワイトが麻酔銃を撃つ。
「おっと」
メタリーはホワイトの麻酔銃をかわす。
ミカの予想通り、麻酔銃は身体では受けずに避けようとしていた。
「ジンとミカの二人で隙を作って、ホワイトで麻酔銃を撃つって作戦…ね」
メタリーが辺りを見回す。
「私の絶壁は最強だけど…私は絶壁しか使えない。後は肉体や武器で戦うしかないからパターンが一緒なのが面倒だね…」
メタリーがそう言うと、ホワイトの方へ走り出す。
メタリーはホワイトを先に始末する作戦で動こうとする。
「っ!」
「なら危ない奴から先に始末した方がいいか…!」
瞬時にホワイトに殴りかかろうとするメタリー。
「ホワイト…!」
「っ…ヤバい…!」
「させるか…!」
ジンがメタリーの前に回り込む。
「…邪魔、どいて」
メタリーがジンに右手で殴りかかろうとする。
ジンが左手でメタリーの右手を受け止める。
「っ…!」
ジンがメタリーの力に押される。
絶壁も合わさっているのか、物凄いパワーがジンを襲う。
「なんてパワーだ…!」
ジンが左手を離す。
左手はボロボロになっており、今にも血が出そうになっていた。
メタリーが少しだけ距離を取り、ジンを挑発する。
「その左手…今のでかなりダメージを受けたけど次は耐えれるの?」
「っ…」
「ホワイト…!」
「っ…!」
ジンがホワイトの方へ振り向く。
「…!」
この時、メタリーに一瞬の隙ができた瞬間だった。
ホワイトは麻酔銃を撃つ。
「この距離なら…当たる…!」
ミカはそう確信していた。
麻酔弾がメタリーに当たれば、歩いは。
だが、メタリーの身体は麻酔弾ですら弾いた。
三人の思惑は外れた、それも全く。
「!?」
「っ…!そんな…!」
「…まぁ、避けただけで効くなんて言ってないしね」
メタリーはそう言うとすぐさまホワイトの方へ近寄る。
「っ…!」
「この距離なら…当たるでしょ?」
メタリーはホワイトの背中に蹴りを入れる。
「ぐっ…!」
ホワイトが吹っ飛び、倒れる。
「ホワイト…!」
「人の心配してる場合?」
「っ…!」
メタリーに対して隙なんて存在しない。
さっきできた一瞬の隙すら、絶壁のメタリーに対しては意味のない事。
メタリーはジンの傍にすぐさま近寄り、蹴りを入れる。
「がっ…!」
ジンは吹っ飛ぶ。
咄嗟に受け身を取るジン、岩山のゴツゴツとした足場に身体をひっかけるのを防ぐ。
「クソッ…」
「ホワイト…ジン…!」
ミカがホワイトとジンの方を見る。
「大丈夫だ…だが、ホワイトが…!」
「ホワイト…!平気…!?」
「うぅっ…」
ホワイトは立ち上がろうとする。
ホワイトの額から血が出ていた。
ホワイトは受け身に失敗した。
「っ…ホワイト…血が…」
「がっ…」
ホワイトはメタリーに蹴られた衝撃で立ち上がれず、その場に突っ伏して倒れる。
「っ…!ホワイト…!」
「はぁ、こんくらいでバテちゃうんだ」
メタリーがため息をつく。
「この程度の実力で私に勝てると思ってたなんて。まだあの時のラッシュ師団団長一人の方が強かったなぁ」
「っ…ミカ…!」
「万策…尽きたわ…」
ミカが地面に膝をついて絶望する。
ホワイトの麻酔銃までも防がれた、もう勝ち目はなかった。
「っ…何を言って…」
「ジンの最大火力が効かない、麻酔銃も効かない…もう…あいつを殺す方法も…足止めする方法も…ないわ…」
ミカが諦め、目線を下に向ける。
自身の無力さを嘆くミカ。
「っ…ミカ…!諦めるな…まだ突破口がどっかに…」
「あれ?戦意喪失?」
メタリーがミカを煽る。メタリーがミカを嘲笑する。
だが戦意喪失したミカに遠慮なんてしない。
「じゃあ遠慮なく」
メタリーはそう言うと、ミカの方へ近付く。
メタリーの蹴りの構え。ミカは一切防御の姿勢を取らない。
「っ…!ミカ…!」
「…もう…ダメよ…」
咄嗟にジンが身を乗り出す。
メタリーの蹴りを腕で受け止める。
「ぐっ…!」
「…お、かばった」
「くっ…クソッ…!」
ジンがメタリーの足を振り払う。
諦めるミカ、諦めないジン。
「君はまだ戦えるんだ」
「ここで諦めたら…ホワイトもミカも死なせる事になってしまう…だから諦めない…!」
「へぇ、良い理由じゃん。かっこよ、拍手してあげる」
メタリーが小さく拍手する。
ジンの熱意にメタリーが賞賛。
だが別に賞賛したところで何かが変わる訳ではない。
「ミカ…お前も戦え…!戦っていれば…何か弱点が見えるはずだ…」
「っ…そんな事言われたって…この力の差にどうすれば…」
「っ…確かに今までとは違って考えがある訳ではない…が、弱点の無い敵なんて存在しないはずだ…!それにルキやフェクトの時に使ったあの時の魔力もまだ使って無いだろ…?」
「っ…それを使っても…勝てない…あたしの力は強化であって無敵ではない…あいつの魔力は…無敵なんだよ…!」
ミカの思考はかなり悪い方向に進んでしまっていた。
ミカはもう勝てないと見込んでいた。
絶壁のメタリーは、無敵だ。
無敵の存在に、勝てる訳がない。
「…諦めるな、まだ…何か…まだ…」
「お喋り楽しい?」
ジンとミカの会話に割り込むように、メタリーがミカの傍に来ていた。
「っ…!」
「しまっ…」
「蹴飛ばしてあげる」
メタリーはそう言うと、ミカの腹を蹴る。
「がっ…!」
ミカが吹っ飛び、倒れる。
ミカの持っていた銃剣が吹っ飛び、倒れているホワイトの目の前に転がる。
「ミカ…!」
「殴りや蹴りだとやっぱ殺すには限界あるなぁ」
メタリーがそう言うと、銃を再び構える。
「よいしょ」
メタリーが倒れているミカ目掛けて撃つ。
「がはっ…!」
ミカの腹に貫通し、ミカは吐血してしまう。
ミカの吐いた血と、腹から出た血が地面に飛び散る。
「っ…!ミカ…!」
「それ、もう一発!」
メタリーは再びミカを撃つ。
ミカの血が飛び散る。
「がっ…」
「あははは!死なないの面白い!デストの時の事本当だったんだね!でも…後何発耐えれるかな?」
メタリーは再び撃つ。
ミカの血が飛び散る。
「がはっ…はぁっ…はぁっ…」
「っ…メタリー…!!」
ジンがメタリーの銃目掛けて銃を撃つ。
「おっと…」
メタリーは右腕で銃弾を弾く。
「銃から手を離させようとするのはいい案だけど…私は離さないよ?」
「っ…!」
「このまま…この子から殺してあげるわ!あははは!」
「辞めろ!!」
――メタリーが再びミカに銃を向け、銃を撃ち始めようとする。




