ep29.動き出す壁
――一方…
「…へっくしゅん。くしゃみ出ちゃった。誰か噂してるのかな」
ネオカオス四天王の一人、絶壁のメタリーが木の上でくしゃみしていた。
「それにしても…残念だね。あれじゃルキも助からないか」
メタリーはボロボロになったネオカオス研究所を遠くから覗いていた。
ネオカオス研究所の跡地にはラッシュ師団の団員複数で探索していた。
「いい子だったのになぁ。死んじゃって残念」
メタリーは右手で持っているナイフを見つめる。
「しかも死ぬ価値すらないゴミってパパに罵倒されて…本当にゴミになっちゃった、あはは」
メタリーが不敵な笑いをする。
「でもこれで四天王も二人やられちゃったか。フェクトも今は何処にいるか分かんないし…私だけかぁ」
メタリーは木の上から降りる。
着地後、メタリーは手を挙げる。手を挙げると、メタリーの傍にネオカオスの下っ端がテレポートしたかのように現れた。
「…メタリーお嬢様。お呼びで」
「ネオカオス研究所とその責任者…責任者を継いだ者も死んだ。この意味、分かる?」
メタリーが目付きを変え、声を少し低くして喋り出す。
「…存じ上げません」
「存じ上げないんかい」
メタリーがツッコミを入れる。
「えっと…簡単に言うと…ネオカオスの戦力の6割くらいがここ最近で一気に無くなったってことで…」
「なるほど」
「フェクトもどっかにいなくなっちゃったし、ブラックも裏切った。残るは私とパパだけになっちゃったってこと」
「…?私達下っ端もいますが」
「いやそういう意味じゃないわ」
メタリーが再びツッコミを入れる。
「ということでメタリー、動きます。まず…フェクトとブラックを下っ端全員で探します。フェクトはどうにか説得させて戦力に戻します」
「…フェクト様の説得…了解です。ブラックの方は?」
「捕まえて欲しい。あの人には私が直接話したい事が色々あるから」
メタリーが団員を強く睨む。
「…了解しました。もしラッシュ師団と鉢合わせたらどうしましょう?」
「今は戦力を極力落としたくないから…すぐ逃げる事。殺れる場合でも基本的に引くべき。最も向こうは全力で殺しにはかかってこないだろうし、逃げ切れれば大丈夫なはず。捕まらないのが大事」
「了解しました」
下っ端がそう言うと、その場からテレポートをしたかのように消える。
「絶壁のメタリー…動きます。パパ、私を応援しててね」
メタリーが歩き出す。
――ネオカオス研究所の件から数日が経った。
数日の間、ラッシュ師団は情報収集をしつつも、鍛錬をメインに勤しんでいた。
ジハの件や研究所の件から復帰したロキとジンも鍛錬に勤しんでおり、魔力の強化を図っていた。
――ラッシュ師団の四人の部屋にて…
「…この数日間で、だいぶ強くなったかも」
ホワイトがロキとジンの二人話している。
「あぁ。でもまさか俺も鍛錬重視しろって言われるとは思わなかったよ」
「ロキ君って戦闘団員ではあるけど、普段から情報収集も任されてたもんね…」
「まぁ、俺の魔力が団長的には使えるって言う解釈でいっか。…実際、俺の自己強化の魔力ですら当時はジハにすら勝てなかったからな…」
「…ジン君は、どう?」
「俺も、前よりかは。ホワイトは?」
「私…は、長い戦闘の後だと魔力切れを起こしやすかったからそれの改善を頑張ってた。後は…単純に戦闘が苦手だったから、ある程度の距離なら麻酔銃が当てれるくらいには…」
「なるほどな」
ジンがホワイトの成長を聞いて微笑む。
「…私も本当は前に立って戦いたいけど…」
ホワイトが小さな声で呟く。
「…なんか言ったか?」
「…!いや、なんでもない…」
「そうか。…ところで、ミカの方はどうなんだ?」
ミカはラッシュ師団が鍛錬している数日間、身体の回復を重視していたため鍛錬は殆どできていなかった。
「…今も病室にいるかな?…確かにあの身体じゃ、まだ戦えなさそうではあった…」
「ちょっと行ってみるか?」
「…うん」
「休憩も終わったし、せっかくだから行くか」
三人は病室へ向かう。
――三人はミカのいる病室に入る。
「…ミカ、いる?」
「………」
ミカは窓の方を向いていた。
身体に付けていた包帯は殆ど取れていた。
「ミカ?」
「あ、ホワイト…と、戦闘狂組もいたんだ」
ミカが三人の方へ振り向く。
「戦闘狂…」
「強ち間違いではないが…」
ジンとロキの二人が苦笑いをする。
「ミカ…元気?」
「うん、だいぶ良くなった。皆もだいぶ強くなったんだね。魔力が増幅してるのを感じ取れる」
ミカが三人の目を見て三人の魔力を感じ取る。
「あぁ。最も、お前の方がまだ俺より魔力ありそうだけどな」
「ふふっ…まだまだアンタはひよっこって事だよ、ロキ」
「なんだこいつ」
「冗談よ。それより、あたしも明日から復帰できる事になった。明日からは鍛錬にあたしも混ぜてくれるかしら?」
「ほんと!?勿論!」
ホワイトが目を光らせる。
「この数日間動けなかった分、感覚がなまってるだろうし…リカバリーも込めてね」
ミカがそう言うと、シェールが病室に入ってくる。
焦った様子でシェールが四人を見る。
「皆…ここにいたのね…!」
「シェールさん!」
「シェールさん?あなたが何故ここに?」
「お久しぶり皆。…久しぶりなのはいいとして…今はそれを言ってる場合じゃないや。あなた達四人…いや、ラッシュ師団全員に今教えに回ってるの」
「団員全員に?緊急事態ですか?」
「えぇ、そうよ。ランス君は今外にいるから私が代わりに…ね」
「…一体どんな事態が?」
四人が息を吞む。
「ネオカオス研究所、分かるかしら?ホワイトちゃんやミカちゃん、ジン君が頑張った件」
「…あぁ、はい」
「あの後団員が見つけたんだけど…沢山の鉱物が埋まっていたわ」
「鉱物…?」
「それも特殊な鉱物…奴等は鉱物に含まれている微細な魔力を抽出し、その魔力を得ていたの…」
「…!」
ラッシュ師団の団員達は研究所の跡地からネオカオス研究所にあった研究の成果物の元である鉱物を何個か回収していた。
そして、ネオカオスが鉱物に含まれている魔力を得ていた事を理解する。
「だからネオカオスの連中はあんなに実力が高いのか…」
「それだけじゃない。その中に含まれている鉱物から、奴等は既に『魔力の根源』の手掛かりを掴んでいる可能性があって…」
「…!?」
四人が驚く。
「…そこで、研究所を漁っていた団員が確認できた鉱物…そこから3つ手掛かりとなる場所があったわ」
「どこなんですか、教えて下さい!」
「場所は…『ハンバ荒野』、『ウィッシュ森林』そして…『スピアマウンテン』よ」
『ハンバ荒野』…かつてリュンヌとジハが戦闘を行った場所でリュンヌが命を落とした場所だった。
そして『ウィッシュ森林』…ホワイトとジンが暗殺のルキや殺戮のデストと一度対峙した場所…
『スピアマウンテン』…ホワイトとジン、シェールが向かった事のある槍の山と呼ばれし場所だった。
「なるほど、あの場所達…」
「スピアマウンテンはホワイトちゃんとジン君なら知ってるよね?」
「…はい、知ってます。確かあの時…ネオカオスは魔力源が見つからないって言ってたような…」
「あの時は見つからなかったが、最近になってまた湧き出た可能性はあるな」
「お母さんが対峙してた荒野が気になる…」
ホワイトは右手を握る。
ホワイトはハンバ荒野の事が気になっていた。母親が命を落とした場所に行って、何か手掛かりを掴めたら…と思っていた。
「戦闘力のある団員数人でそれぞれ手分けして行く感じ。…で、今回なんだけどあなた達には四人で行ってほしくて」
「…四人」
「数が多すぎても逆に警戒されちゃったりするから四人五人くらいで行く事になってるの。他の団員にウィッシュ森林とハンバ荒野の方を依頼しているから、あなた達はスピアマウンテンの調査ね」
「…そっか」
ホワイトが少し残念がる。
「ハンバ荒野は魔力の暴走が一度あった場所な以上とても危険な場所…ホワイトちゃんの母親を奪った件が関係してたりするしとても危険。…それにミカちゃんもあの場所にはトラウマがあるんでしょ?」
「…別にあたしは…」
ミカが目を逸らす。
ミカもまた、リュンヌと同じくハンバ荒野でジハに致命傷を負わされていた過去があった。
ミカの中に記憶は殆ど残っていなかったが、ミカにとってはトラウマともなりかけていた。
「あの場所にはランス君含む団員が行ってる、彼に任せて大丈夫よ。残った団員達で更なる情報収集をするわ」
「…分かりました」
「出発はいつに?」
「…明日を予定してるわ。ミカちゃん、復帰早々向かわせるようで悪いけど、三人を頼めるかしら?」
シェールの言葉を聞き、ミカがベッドから降りる。
「…シェールさんの頼みであれば、あたしは断りません。それに…あたし以外の三人の方があたしよりもしかしたら強くなっちゃってるかもだし」
「良かった。捕捉として…情報収集班によると、荒野と森の方はネオカオスの目撃情報があったみたい。ただ…ネオカオスが現在スピアマウンテンに向かったって情報はないわ」
「…と、言うと」
「また戦闘しないし魔力の根源の手掛かりもないまま帰還…って事もあるかもね…」
「うっ…」
「大丈夫!若い団員には未来があるから、危険じゃない方に向かわせたいしね!」
シェールがそう言うが、ロキがシェールの美貌を見て呟く。
「そう言うシェールさんもだいぶ若い気が…」
「ランス君が三十路になる頃だし…私も若いかって言われると怪しいかな…」
シェールが残念そうな顔をする。
「…いずれにせよ、明日から皆も向かって欲しい。今日はよく休んで、明日に備えて欲しいな。私は他の団員にも伝えないといけないから一旦失礼するね」
シェールがそう言うと、四人のいる病室を出る。
「…ミカ」
「…あたしの戦闘の感覚が戻る前に…もう状況が動いちゃったか」
ミカが腕を組む。
ミカは鍛錬する暇もなくもう来てしまったのか…と思っていた。
「あたし達は戦闘が起こりえる可能性は低いと思うけど…警戒はちゃんとして行こう」
「…あぁ、分かってる」
「ミカが…ミカらしくない事を言ってるな」
「どういう意味よ?」
ジンがミカの目を見る。
「こういう時に一番頼りになるのがミカなんだよなって」
「…はぁ」
ミカが目を逸らし、顔を少し赤くする。
「…それは兎も角、明日のためにちょっと動いておきたい。戦闘の感覚を少しでも戻しておきたい。皆付き合ってくれるかしら?」
「…!勿論!」
「まぁ、ホワイトが言うなら行くか」
「決まり。じゃ、修行室へ行くわよ」
ミカがそう言うと四人は鍛錬をしていた修行室へ向かった。
「…理想の父さんだ」
ネオカオス本拠地のあった場所の近くでフードを被った少年が呟く。
「大切な物はジハ様だ。ジハ様は…僕が食べる事のできなかった色々な物を食べさせてくれた。理想の父さんだ」
「ジハ様…いや、父さんに立ち向かう奴は…僕の大切な物を壊す悪い奴等だ」
「僕は…ジン…きみに証明する。僕の大切な物を」
「あの場所で…僕は多くの叡智を手に入れた」
「叡智を手に入れ、キャパオーバーとなった。人間臭い偽物の完璧は捨てた。これからは…」
「"真の完璧のフェクト"だ」
フェクトがフードを下ろす。
――フェクトの目はジハに似た紫色に染まっていた。




