ep24.暗殺と研究所
――時は遡り、ルキがネオカオス研究所に来たばかりの頃…
「っ…ゴミ…か…」
「お待ちしておりました、ルキ様」
ルキがジハに転送された先には倉庫のような物があった。
その倉庫の前にはネオカオスの下っ端が立っていた。
「ここがネオカオス研究所…噂には聞いてたけど、入るのは初めてだわ」
「こここそネオカオス研究所…各地にある魔力を帯びた物をここに集め、抽出…我らの力へとそのまま変換する研究所です」
「魔力の根源自体を研究してる訳ではない…と」
ルキは少し残念そうに見ていた。
「魔力の根源に辿り着くためには、まずは微細の魔力から。塵も積もれば山となる。ここはそういう場所です」
「ふーん」
「時にルキ様…その身体中の傷といい、ラッシュ師団と鉢合わせたご様子で」
ルキは先のロキとの戦いで身体も服もボロボロになっていた。
ルキが自分の身体に付いた自分の血を舐める。
「…あなた達はいいわね…ここで研究してるだけでいいなんて。私やフェクト、デストは外に出てラッシュ師団の抹殺を任されているのに」
「いえ、必ずしも安全とは限りません。研究中の不慮の事故などで死亡事故が起こる事も我らは考え、日々気をつけなければなりません」
「不慮の事故…」
「例えば…いや、これは後で話しましょう。あなたは現場責任者です。これからどうぞ宜しく」
団員が笑顔でルキを見つめる。
ルキは団員の笑顔が少し気に食わなかった。
「…立場としては私の方が上なのに…やけに言葉遣いが雑ね。もっと四天王の私を敬いなさい?」
「申し訳ございません。ですが、我らはジハ様直属の部下…あなた達の下っ端達とは訳が違う…」
「…なるほどね」
ルキも確かに感じていた。
今目の前にいる団員はデストやルキが連れている手下とは違う。
ジハ直属の部下であり、ネオカオス四天王のルキですら魔力の差を感じていた。
「下手したらあなた達は四天王より強いんじゃないかしら?」
「それはないです」
「言い切るんだ…」
「では…こちらへ」
下っ端はルキを中へ連れて行く。
「…それにしても、こんな小さい倉庫みたいな場所が研究所なんて…」
「えぇ、勿論研究所自体は地下にあります」
「そうだと思ったわ」
ルキがそう言うと、別の下っ端がやってくる。
ルキの目の前にいた下っ端が別の下っ端へ頭を下げる。
「見張りご苦労」
「あぁ。この方がルキ様か」
「そうだ、くれぐれも失礼のないようにな」
「さっき宜しくって凄い雑に言われたばっかりなんだけど」
「ルキ様、どうぞ宜しく」
「…ここの連中は敬語ってのを御存知でないの?」
ルキの言葉を無視して下っ端は地面にある巨大な蓋のようなものを持ち上げる。
そこには階段が続いていた。
「この下です」
「あら階段」
ルキが階段を見下ろす。
階段の奥は暗くなっており、この中に研究所があるとはルキには予想できなかった。
「このように完全にカモフラージュをしています。見張りも、ここの倉庫の使用者みたいに立ち振る舞う事で更にカモフラージュしています」
「へぇ…」
「この下に…研究所が続いています」
「ふーん。案内しなさい」
「御意」
下っ端がルキの目の前に立ち、階段を降り始める。
ルキもその階段についていく。
「ここです」
「…うお」
階段を降りた先には光が通っており、足場や壁、天井は金属のようなものになっていた。
金属の中には魔力が走ってるような動きがある。ルキはその光景に驚いていた。
「…これがネオカオス研究所…いい…いいわ」
「ルキ様ならこういうのお好きかと思って」
「私が今までいた場所とは真反対の光景ね。…でも、これはこれで好きよ」
「そうですか。そして、こちらがメインルームの方になります」
下っ端が扉の方に手を向ける。
ルキが扉の前に立つと、扉は自動で上の方向へ開いた。
「すご、ハイスペック自動ドア」
「そして、ハイスペックなメインルームです」
メインルームには、沢山の機械とそれを動かすネオカオスの下っ端が大勢いた。
中には女性の下っ端もいた。
「すご」
「ジハ様直々に監修された研究所…素敵でしょう?」
「こういう所…フェクトとかの方が好きそうね」
「元は人造人間のデスト様が見てくれてましたが…現在は私が管理していました。普通の団員である私が」
デストという言葉にルキは眉をひそめる。
「…デスト…か…跡形もなく壊されたあの子は…いや…人造人間である以上こういう運命か…」
「ベースとなった人間も現在は行方不明で使えない。フェクト様やメタリー様はあの方直々の部下な以上任せることは不可能…だからあなたと言う訳です」
「…なるほどね、彼らの代わりに私が任された以上…私が責務を全うするわ」
「助かりますよ、ルキ様」
ルキが自身のボロボロの身体に触れる。
人を汚すのは好きだったが、自分自身の身体が汚れるのは嫌だった。
「どんな研究してるかを見て回りたいけど…シャワー室はないかしら?今服も身体も傷だらけ血だらけで困ってるわ」
「ありますよ、こちらへどうぞ」
下っ端はルキをシャワー室へ案内する。
「それにしても、普段から暗殺してるようなお方が自身に血が付着している事を嫌がるのは珍しい」
「返り血はいいけど、自分の血は嫌なのよ」
「…よく分かりませんね」
ルキがシャワー室から出る。
室外では下っ端が待っていた。
「ふぅ。自分の血も、雑念も払えたいいシャワーだったわ」
「気に入って貰えて何よりです」
「さて…研究所の中をもっと詳しく見させてもらうわ。ここではどういう研究をしているのかの確認をさせてもらうわ」
ルキと下っ端がメインルームに入る。
「えぇ、お教え致しましょう。精密な作業などは別の場所で行ってはいますが…多くの研究はここ、メインルームで行っています。
この広いスペースを使わない理由はありませんからね。この部屋内だけで移動を済ませればいいので情報共有もたやすいです」
「まるで職場みたいね。精密なのは後で見るとして…主な研究は何かしら?」
「そうですね、一番の売りは物体から魔力の抽出…と言ったところでしょうか」
「魔力の抽出」
「魔力の根源に辿り着くためには、まずは微細の魔力からと説明はしましたよね?外にある物には魔力を帯びた物体もあります。例えば…そこの石とか」
「石」
下っ端が指を指すと、大きさがまばらになった石が山積みになっている場所があった。
「つい最近、魔力反応があったと思われる山で取った石達です。中には魔力を帯びた石もあります」
「へぇ。石から魔力を抽出する…って訳ね」
「その通りです、話が早くて助かります」
魔力の抽出は魔力反応があった石や、植物と言った有機物を調べ、そこに含まれた魔力を抽出し、自分達の物にするのが目的だった。
「抽出するために壊す…必要はあるのですが、ただ普通に壊してしまうと魔力が気化してしまいます」
「魔力が気化?」
「ウィッシュマウンテン、分かりますか?」
「あぁ、あのフェクトが行ってた場所の」
「あの場所には霧がかかっている場所がありますが…あの場所は山の土や石などに帯びてる魔力が気化したものが霧となったものなのです」
ウィッシュマウンテンの霧の正体…それは山の土や石に宿った魔力が気化した魔力だった。
魔力が充満しているというのはそういう事だったのだった。
「へぇ、初めて知った」
「そこも踏まえて研究してますからね」
「…研究所、様様です」
ルキが小さく拍手する。
「…それで…気化してしまうと抽出が難しいってのはなんとなく分かったけど…じゃあどうやって抽出するの?」
「それは…これを使います」
下っ端が電動ドリルのような物を持ってくる。
ドリルの先端部分には集塵機能も付いていた。
「ドリル。何やら変な物が付いてるようだけど?」
「えぇ、元々人間が使ってたドリルの集塵機能に…魔力で更に改良を加えました」
下っ端はそう言うと、ドリルで大きな石を砕く。
ドリルにしては小さめな音が鳴り響く。
「…ん、いい音」
「このドリルで石を砕き、吸い込んだ部分がこのように集まる訳です」
ドリルのカップには紫色の液体のような物が微量に入っていた。
「…この紫色の液体が…魔力って事?」
「そういうことです。魔力を帯びてない物の方が多いので大変ではありますが」
「すごいね、思ったより研究所だ」
ルキが液体を見つめる。
「硬い物から魔力を得る時はこんな感じですかね」
「で、この魔力はどうするの?このままじゃ土埃もあってそのままじゃ摂取できないわ」
「それに関してもお気になさらず。ある程度液体がこのカップの中に貯まったら、ろ過をすれば良いだけです。こちらに専用の物があります」
「まぁ、それでいいのか」
「えぇ、今はこれほど取れていますよ」
下っ端が指を指した方向には何個か液体が入っている瓶が置いてあった。
「あら、結構少ないのね」
「そもそもこの石の量でも瓶1個分得られるかすら怪しいですから」
「…だからジハさんはいち早く『魔力の根源』に辿り着きたい訳ね」
ルキが魔力の液体が入った瓶を手に取って見つめる。
「この研究で本当に『魔力の根源』に辿り着けるのかしら?」
「それがですね、実は多少は手掛かりを掴めてるのですよ」
「と、言うと?」
「今先程壊した石と…それとは別の場所で取った石では抽出できた魔力の差に大きく量の違いと色の違いがありました」
「…色の違い」
ルキが持っている瓶と別の瓶の液体のをよく確認する。
紫色の液体…だが少しだけ色の濃さが違っていた。
「あ、なんか違う」
「この前取った場所の物はより濃い色をしていました。毒味してみましたが、確かに差はありました」
「毒味って…なんか家来みたいね。その差とは?」
「…今まで以上に魔力が得られた気がすると言いますか」
「ほう?」
ルキが腕を組む。
「つまり…その魔力を得られた石の近くを更に辿っていけば…」
「根源に近付ける…と言ったところです」
「なるほど、その推測が正しければ…ネオカオスの野望は果たせるという訳ね」
「えぇ。現在はその周辺に部隊を向かわせ、石を集めている所です。そろそろ帰ってくる頃だと思われます」
「そう」
ルキが下っ端の持っているドリルを持つ。
「ところで硬い物以外から魔力を抽出する事はできないのかしら?少なくともこのドリルじゃ柔らかい物は厳しそうよ」
「今の技術だと例えば…植物などから摂取するのはまだできないのですが、何れはできる予定です」
「あ、できる予定ではあるんだ。そりゃ凄い」
「えぇ」
ルキが少し微笑む。
そして、ルキは研究所にあるとある者が気になっていた。
「ところで、一個気になる所があったのだけれど」
「はい」
「このボタンは何?」
ルキがメインルームの真ん中にある黄色いボタンを見つける。
「…このボタンですか」
ボタンの上には大きく注意マークが書いてあった。
「なんか書いてあるけど」
「…これは…最終手段です」
「最終手段?」
「万が一この研究所が奴等に見つかり…万が一この研究所が突破されてしまった時に使う物です」
「…なるほどね」
「この研究所にあった証拠を全て無くすシステムが作動します。そして、この研究所が無くなります」
「…無くなる?」
「平たく言えば…自爆装置です」
「すっごい平たい」
だがルキは不安な表情は一切せず、笑みを浮かべていた。
ルキはこのボタン一つで多くの人間を一瞬で殺せるという事に気付いていた。
ルキに取って…殺しは趣味なのである。
「証拠を無くすと同時に…ここに入り込んだラッシュ師団も道連れです」
「へぇ」
ルキがボタンに手を触れる。
「あっ…だからって押さないでくださいね?」
「押すなは押してくれってこと?」
「そうじゃないです」
下っ端が真面目な顔をして答える。
ルキがボタンから手を離す。
「…冗談よ、押す訳ないじゃない」
「ここにいる者は全員命をかけてジハ様に尽くしています、冗談でも辞めて下さい」
「悪かったわ」
「このボタンを使う事がない状態に…したいですね」
ルキが下っ端の不安そうな目を見て少し笑みを浮かべる。
「ふふっ、そうね。そのためにも、この場所はバレてはいけない。ラッシュ師団にバレたらネオカオスの野望の近道が潰えてしまう」
「話は変わりますが、ルキ様にはこの場所で私達に指示をしていただきたい」
「指示ねぇ…でも、研究しなさいとしか言いようがないのだけれど」
「あなたが現場責任者になった以上、私達はあなた達を頼るしかないのです。逝ってしまわれたデスト様のためにも、あなたがこの役を継いでほしい」
下っ端の真面目な目を見てルキが肩を回す。
「…分かったわ。デストが使ってた資料とかはあるかしら?」
「それなら…こちらに司令用の場所がありましてこちらに」
下っ端に案内されるルキ。
「…ここがデストが元々使ってた場所」
「えぇ。彼は人造人間ながら素晴らしい指示をして下さりました」
ルキが転がっている紙を拾って見る。
そこにはデストがかつて指示する際に使っていたメモ書きがあった。
「惜しい人を亡くしたわ。だからこそ奴等を殺してやりたい…って思ってたけど、今の私はここの責任者…ここでの任務を全うするわ」
「宜しく頼みます。一応中の連中とすぐさま連絡するには此方の機械をお使いください」
下っ端がそう言うと、ルキにインカムを渡す。
「…インカム。本当に司令っぽいわ」
ルキがインカムを取り付ける。
「…あ…あ…マイクテスト、マイクテスト…」
「ルキ様、声が入っていませんよ」
「…あれ?」
ルキがインカムに指を持っていく。
「これは一から教える必要がありそうだ…私にお任せを」
「…レクチャーをお願いするわ」
「ここを押しながら…こうして…発声してみてください」
「…あ…あ…聞こえますか」
「入りましたね」
ルキは喜んだ顔をする。そして真面目な顔に変わって声を発する。
「…私は暗殺のルキ。今日から殺戮のデストに代わってここを任されたわ。…気難しい奴って自分で自覚してるけど、どうか宜しくね。そして…ネオカオスの…ジハさんの野望を助力するわよ」
「…ルキ様、気合が入っておられる」
ルキの声が研究所内の多くの下っ端の耳に入っていく。
「今は皆のそれぞれ研究に専念してほしい。研究で行き詰まる点があったら私が助言するわ、すぐ呼びなさい。では、今後とも宜しくね」
ルキが通信を切る。
「…ルキ様、もしや結構ノリノリでは?」
「あ…ちょっとだけ、テンション上がってた」
「これは頼れる上司になりそうだ…」
「うふふ、もっと敬いなさい?」
ルキが椅子に座る。
「…今からこの研究所は…私が守るわ」
――そして現在…
『ネオカオス研究所』、それはネオカオスの団員が魔力について研究する場所である。
色々な魔力を研究し、魔力の根源に近付こうとしていた。
そして、研究所は何処かの地下にあると言われている。
そして、ネオカオス研究所にて、ルキに話しかけるネオカオスの下っ端。
「ルキ様、先程あの石の一部から魔力を抽出する事ができました」
「そう、ご苦労様」
「肝心の魔力ですが…瓶に入れるとこのような感じに…」
「…へぇ」
下っ端が中に八割程液体が入っている小さい瓶をルキに見せる。
「これは…どうするの?」
「こちらはそのまま…ジハ様がこの場へ帰ってきたときにお渡しします」
「…私にはくれないんだ」
ルキが瓶を覗き込むように見る。
「ジハ様からの命令です。抽出できた魔力は全て、ジハ様の元へ」
「つまらないわ。ちょっとくらい…つまみ食いならぬつまみ飲みしても」
「ダメです。いくらルキ様とは言え、ダメです」
「そんな事言わずに、一口だけ!」
ルキは下っ端の持つ瓶を無理矢理取る。
ルキが蓋を開けて魔力の液体を飲み始める。
「あっ…!」
「…変な味…全身が痺れるような…でも…何か力を感じるわ」
ルキが手を広げる。
ルキの身体中に力が満ちていくような感触が走る。
「一口のみならず全部…ジハ様に怒られても知りませんよ?」
「これくらいきっと不問よ。それにまだ鉱石はいっぱいあるのでしょう?ちょっとくらい四天王に配っても良くて?」
「お嬢様みたいに言ってもダメな物はダメです」
「チッ…」
ルキが舌打ちをする。
ルキがナイフを隠すように持つ。
「私がこの研究に満足いかなければ、あなた達を殺してもいいのよ?私はここの現場責任者なんだから」
「やってみれるものなら、どうぞ。ジハ様からの加護を直接受けた我らは簡単には死にません」
「…はぁ…まぁいいわ。」
ため息を吐くルキ。
だがネオカオスの計画は既に順調だった。
「――もうすぐ…魔力の改変がやってくるのだから…!!」




