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白と悪魔と  作者: りあん
プロローグ
2/239

非常な現実


 何時間走ったんだろう。

 日が落ちて、薄暗くなってきた。夕日ももう見えない。

 足が痛い…体力も無くなってきた…。


 そもそもラルの街からハンバ荒野までの道は長い。

 電車を使った方が良かったんだろうけど、つい走って行ってしまった。 

 それに…さっきの混乱的に電車がハンバ荒野方面まで行くという事はできないはず。

 恐らく電車は止まっている、巨大な光の柱が立ったってなると交通にも影響を与える。


「はぁ…はぁ…」


 私の目の前に映り続ける魔力の柱。

 …そして、突如ゆっくりと消えていく魔力の柱。


「っ!」


 急がなきゃ…











「はぁ…はぁ…はぁ………」


 荒野…文字通り荒れている。

 だがそれは荒野だから…ではなかった。

 明らかにこの辺りだけ魔力の気配を感じる。

 魔力の気配が大気に充満している…


「何…ここ…」


 人の気配がない。

 …でも、全くなかった訳ではなかった。

 そこに人がいた気配があった。

 人の呼吸で出たような息が少し感じられた。




 そして…そこに映る光景に私は…絶望した。


「………!!」


 目の前にある巨大な穴…

 それを覆うかのような魔力で作られたかのような光り輝く網…誤って落ちないように張られてるかのように。

 穴の中には紫色の魔力の残骸があった。まるでここに紫色のマグマがあったかのように、少しだけ残っていた。

 恐らくここから魔力の柱が出ていたんだと思う…いや…それより………


「っ………」


 私の足元にある…大量の血。


「ひっ…」


 足を引っ込める私…

 明らかにここに人がいた…

 血が飛び散っている感じも何個かある…

 ここで間違いなく戦闘が行われていた…

 そして…この大きな穴が、魔力の柱の出ていた場所………


「何が…一体………」


 口を押さえる私。

 ゆっくり足音を立てながら穴の方へ歩く私。


「ここ…一体…何があって…」

「誰かいるのか!?」

「っ…!?」


 大きな声がした。

 振り向く私。

 私に銃を向けるような音が聞こえる。


 そこには…ラッシュ師団の制服を着た男性が立っていた。


「わ…」

「女の子…?」


 団員の人が銃を下ろす。


「えっ…と………」


 震える私。

 …いや、ラッシュ師団は敵じゃない。味方だ。お母さんの味方のはず…。


「…迷子かい?」

「っ…いや………えっと…」

「まさか魔力の柱を追ってここに?」

「っ…!」


 彼の言う事は私にとって図星だった。 

 魔力の柱を見て…何か行けない予感がして走っていったなんて言えない…。


「…なんとなく察した。一先ずここは危ない。ラッシュ師団の基地へ行こう」

「え…っと…」

「ネオカオスが近くにいるかもしれない…それまでに…!」

「っ…ネオカオス…!」


 ネオカオスという言葉…

 まさかネオカオスが…この魔力の柱を…

 だとすると…ここで戦っていたのは…ラッシュ師団とネオカオス…?


「早く行こう…」

「待ってください…ここで一体何が………」


 私ははっきりさせたかった。

 ここで何が起こったか…知りたかった。


「死亡者が一人…重傷が一人、行方不明者が一人出たんだ…」

「っ…そんな…まさかラッシュ師団の人が…また………」

「………いや、違う」

「え…?」


 首を傾げる私。

 違うってどういう事…?

 ラッシュ師団の人が殺されたんじゃ…ないの…?


「…基地に行くよ」

「あ………はい………」


 私は団員の人に匿われながら、ラッシュ師団の基地に向かう。











 それから走り続けて…

 いつの間にか私と団員の人は…ラッシュ師団基地の団長室に来てた。

 ラッシュ師団の基地…森の中にあった基地。

 あんまり外観までは覚えていない…。


「迷子の子を…拾いました」

「…ほう」


 目の前に座って、こちらに背を向けている男の人…

 この声…何処かで聞いた事があるような………


「こんな事態の時に迷子か…」


 男の人が立ち上がって頭を掻く。

 …めんどくさいのかな。

 いやそもそも…私は迷子じゃない…もう子供じゃない。だから…


「こんな事態でもちゃんと返すぞ」

「承知」


 男の人が振り向く。

 …!その顔…その声…


「………ランス…さん?」

「あ?」


 目の前に立っていたのは…ラッシュ師団団長のランスさんだった。

 師団の皆には優しく振舞う憧れの団長。

 背が高くてイケメンで…惚れそう。


「俺の名前を知ってるのか」

「知ってるも何も…ラッシュ師団の団長さん…ですよね…」

「まぁそうだが」

「やっぱり…!」


 目を光らせるかのようにランスさんをジロジロ見る私。

 生で見るのは初めてだ、やっぱりかっこいい…。

 ちょっと髭を生やしてる所とか…無精髭…そこもいいよね…。


「…なんだ、子供みたいなキラキラした目しやがって」

「あっ…ごめんなさい…」

「別にいい」

「団長、知り合いなんですか?」

「知り合いじゃねえ。どっかのメディアに流れた俺の也を見た子供だろ」


 ランスさんが頭を掻く。

 頭を掻く姿も…かっこいい………


「…ったく、こっちはリュンヌさんの件で忙しいのに…」

「…え?」


 今、リュンヌさんって言った…?

 リュンヌ…私の母親の名前…

 …まぁ、そっか。ラッシュ師団と協力している私のお母さんなら、ランスさんとならお話くらいしているか…


「…あの人の遺体…暫くはうちで預からないといけない…か」

「っ…!?」


 遺体…?え…お母さんの…?

 ど…どういう事…?


「まぁひとまずは」

「待ってください!」


 ついうっかり大きな声でランスさんを引き留めてしまった。


「…なんだよ、デカい声出して」

「あっ…ごめんなさい…えっと………リュンヌさんの件で忙しいって…えっとその…」

「…あぁ。さっき地中にあった魔力がネオカオスによって暴走を起こし…それに巻き込まれた人の話だ」

「巻き込まれっ…!?」

「ネオカオスのボス…ジハがその魔力を利用してリュンヌさんを殺害…隣にいたソレイユさんを魔力で吹き飛ばし、ミカを重傷にさせた」

「っ…!?」


 嘘…

 嘘…でしょ………

 お母さんを殺害…?隣にいたお父さんを…吹き飛ばし…ミカって人を…重傷…?


「は………殺…害って………」

「…今、うちで遺体を預かっている。まぁ見せモンではないから一般人には見せられない。だから…」

「…リュンヌは………私の…母です………」


 私の目から涙が零れた。

 現実を…受け止められなかった。


「…は?」

「私の………母………と………お父さん………」

「っ…!?」


 ランスさんが驚いた表情を浮かべる。


「お前の…母親…だと………!?」

「っ………」


 涙が止まらない…。

 身体の震えが…止まらない…。


「………そうか、お前が…ホワイトか」


 ランスさんが…私の傍に寄ってくる。

 顔が近い…本当は照れるところだったけれど、そんな余裕は全くなかった…。


「…おい」

「…はい」


 ランスさんが私を連れてきてくれた団員さんを呼ぶ。


「…お前はミカの方を頼む。俺は…この子をどうするか決める」

「…承知しました」


 団員の人はそう言うと、部屋を出て行った。

 ミカって子の所に行くのかな…


「………すまなかった」


 ランスさんが…涙を流す私を抱く。


「っ…」

「俺達の…俺達の不覚だ………リュンヌさんが亡くなったのも………ソレイユさんが行方不明になったのも…全部………」

「ランス………さん……………」


 私はランスさんを抱き…返したかったけどできなかった。

 この人にもし恋人がいたらと思うと怖かったのもあったけど…

 それ以上に余裕がなかった………


 …涙が止まらない。

 …でも、まだお母さんの遺体を見ていない。

 お母さんの遺体を…私はまだ………


「お母…さんは………本当に…亡くなっちゃったんですか………?」

「………ホワイト?」


 ランスさんが私から離れる。


「お母さんは…まだ生きてる…そう私は信じてる…だってまだ遺体を………!」

「………そうか」


 ランスさんが目を逸らす。

 なんで…目を逸らすの………?


「………こっちに…来てくれ」


 ランスさんが歩き出す。


「え………」


 私はランスさんに…ついていくしかなかった。






 連れて行かれた場所は、霊安室みたいなところだった。


「…ここだ」

「っ………」


 霊安室…初めて入る。

 こういう場所は病院にあるって聞いた事があるけど…ここに遺体があるって言うの…?


「こっちだ」

「………!」


 ベッドの様な物…そしてシーツの中に…人一人が入っている様な膨らみ…


「………」

「………!?」


 ランスさんが遺体の顔を見せる。

 そしてその顔は………お母さんだった。


「っ………」


 私と同じ白色の、長い髪………

 間違いない…これが…………

 家から出る時の微笑んでいた顔に…似ていた………


「………これが…現実だ………」

「あ…あああ…………」


 お母さんの右腕を掴もうとする私…

 ボロボロになってて…月の魔力を失って…普通の腕になっている右腕…


「ああああああああああああああああああああ!!」


 泣き叫ぶ私。

 目の前にある光景にただ私は…泣くしかなかった。


「嘘…嘘……お母さん…お母さん…!!!」

「………」


 黙り込むランスさんと泣き叫ぶ私…

 どんなに泣き叫んでいても…お母さんは戻ってこない…。


「……………」


 ランスさんが目を逸らす。

 こんなの見せられる側の私も当然辛いが…見せる側のランスさんだってきっと辛い…


「ああああ…ああああ………お母さん………お母…さん……………」




 …それから…お母さんの遺体を抱いて…ずっと泣いてた…

 やけになって回復魔法だって使った…

 生き返る訳ないのに…必死になって使ってた…

 

 でも回復なんてしなかった…お母さんは…死んだんだ…

 ネオカオスのボス…ジハに…殺されたんだ………


 お母さんが………ジハに………


「おえっ………」


 吐き出す私。吐き出すのは子供の頃以来だった…

 私の吐瀉物が、ラッシュ師団の基地…団長室を汚した…

 家族を失うって…家族を殺されるって…こんなにも…苦しくて…辛いの………?


 それにお父さんだっていない…

 ランスさんが言った通り行方不明になっていたとしたら…今頃何処にいるというの…?


 お母さんもお父さんもいない…


 実家に帰る理由が無くなり…行く宛を失った私…

 ご飯を作って待ってるって約束したのに…

 「世界を救いに行ってくる」って約束されたのに…

 …それが、私が聞いた最期の言葉だなんて…嫌だよ…
















 それから二年後………

 ラッシュ師団とネオカオスとの戦いはまだ終わっていない。

 ただ、ネオカオスが魔力の根源に辿り着いている訳でもなかった。

 今もなお、冷戦中だった。


 行き宛てのなくなった私は、ラッシュ師団の団員として…戦い始めることになった。

 ランスさんからの誘いと…この後私の一番の理解者で親友になるミカからの誘い。

 帰る実家には…誰もいない。帰りを待ってても仕方ない。

 ラッシュ師団基地…ここが私の第二の実家になる。

 私はここで戦い…ここで人を回復させる…それこそが今私にできる精一杯。


 死んだお母さんの魂を慰めるために。

 行方不明のお父さんを探すために。

 ネオカオスを…ジハを………止めるために。











 ―――この時、私は…この後私を待っている戦いが…


 ―――世界の真相、世界の広さを物語っているなんてまだ知る由もなかった。

 ―――ネオカオスを討つ…お父さんを探す…


 ―――それだけじゃなかった事を、私は…知らなかった。










後書き~世界観とキャラの設定~

『ランス』

…ラッシュ師団団長。背が高くイケメンでホワイトの好みのタイプの人間。

冷静沈着でありながら、師団の皆には優しく振舞う憧れの団長。だが秘めたる威厳もあるため、ネオカオスの下っ端には恐れられている事もあるらしい。

彼が持っている魔力は現時点では不明。


『ラッシュ師団』

…ランスが立ち上げた、ラッシュ師団…ネオカオスに立ち向かうための正義の団体。

ネオカオスに立ち向かい、ネオカオスの野望を阻止しようとしている。


次回話から三人称視点になります。

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