ep13.城下町
――一方、同じく一人で城下町を歩いているジンは…
「……色々あるんだな。店もあれば、魔力の訓練場もある」
魔力の訓練場にジンは目を向けていた。
「――昔々、あるところに…村で犬と暮らしていた男の子がいました」
ジンの傍から昔話をしている声が聞こえた。
細身の老人が昔話を話していた。
「…昔話か?」
ジンが立ち止まって聞く。
周りには子供達が沢山いた。
子供達がジンの顔には目もくれず老人の話に気を向けていた。
「――犬と少年はとても仲良くしており、家族共々揃って幸せな生活をしていました」
「…案外ベターだな」
「――だがある日…悪魔が多く現れ、人間の村は襲われてしまいました。悪魔は人間を倒し、村を我が物にしようとしていました。ですがそこに少年の犬がかけつけ、人間を守る一心で自分の魔力を最大限使い、悪魔を追い払いました」
「…追い払った…凄いな」
「お兄ちゃん、ぶつぶつうるさい」
ジンに話しかける子供。
「お…おう…ごめんな坊主」
「―――ですが、少年の犬は力を使い果たし、ぱたりと倒れ、死んでしまいました」
「…急展開」
「―――少年は願いを乞いました。犬を生き返らせてくれと。しかし、その思いは当然誰の耳にも届きません。一度死んで無くなってしまった物は、取り戻せません。村で泣きじゃくっていた少年に一人の男の術師が現れ、願いの泉について話し始めました」
「…願いの泉?」
願いの泉…ジンは湖を頭の中に浮かべていた。
「―――術師は言いました。願いの泉に住まう女神族に頼めば、どんな願いでも叶えてくれると。例えそれが生き返りなどの世界の理を無視するような願いであったとしても。少年は聞きました。この子も生き返らせることができるのかと。術師は当然頷き、険しい山を指で指しました。それが、ウィッシュマウンテンです。
―――ウィッシュマウンテンを登り切り、犬を生き返らせる事を決めた少年でしたが、まだ身体も小さく外に出るには強くならないといけませんでした。何年もかけて少年は一人前の青年に成長し、遂に山を登る日がやってきました。山は当然険しく、天気もすぐ変わり、地上とは大違いの環境でした。今までこの山を踏破できた者がいなかったのもこの環境の変わり具合のせいでした。
―――しかし、青年となった少年は諦めませんでした。青年は何か月もかけて遂にその山を登り切りました。山頂には、術師の言ってた泉と、それを守る女神族がいました。青年は早速犬を生き返らせたい、願いをかなえてくれと頼みました。女神族は躊躇いを見せました。生き返りをするという事はこの世界の理を乱す事になるということ。理を乱したこの世界に災いが起きた時、あなたに責任が取れるのかと問いました」
「…理…災い…責任…」
「―――青年は頷き、それでも、愛するものが戻ってくるなら、と。そして…女神族は青年の愛した犬を生き返らせました。感動の再開をした犬と青年は共に山を降り、仲良く暮らしました」
「…ハッピーエンド…か?」
「―――…世界は当然乱れました。日照りによる村の作物の悪化。そして、急な水害による青年の家の損失。…しかし、青年とその愛犬はそんな物に屈しませんでした。この先どんなに災いが降りかかろうと、お互いを信頼し合う気持ちがあれば、乗り越えられると」
「………信頼し合う気持ち」
ジンは話が更に気になっていたが、老人が少し黙り込む。
「…話はここで終わりじゃ。…長くてすまんな。…しかも作り話じゃから、途中からだいぶ端折っておる…」
「…いや、いい話だったよ、じいさん」
ジンが拍手をする。
子供も合わせて拍手していた。
「おや、その服は…ラッシュ師団か…」
老人がジンの服と目を見て判断する。
「…そう…だな」
「この物語は作り話ではあるのだが、ウィッシュマウンテンというのは実在してな。湖があるのもあるんじゃが、物語の時と比べるとそんな険しくもないんじゃ。女神族も…いないようで実はいるかもしれない」
「…ほう。それで…?」
「うむ…お主に叶えたい願いがあるかどうかを問いたい」
老人に聞かれると、ジンは少し悩んだ顔をする。
ジンの叶えたい願いは…蘇生術の様な物だった。
かつて失った人に…この世に再び生を与えたかったのだ。
「叶えたい願いか…一応あるにはあるけど、世界の理を乱すような事だったから、俺の願いはないかな」
「そうかそうか。さぞかし大切なものでも失ったのかの?」
「…」
老人の言葉にジンは少しだけ驚きつつも、落ち込んだ顔をする。
「良い良い。わしも婆さんには既に先に逝かれてな…大切な婆さんを戻して欲しいという願いを叶えたいとも思った事があるんじゃ。…じゃが、その願いは今日で取り下げじゃ」
「…ん?」
「お主に、願いの泉が本当かどうか調べて欲しい」
「…俺に?」
「そうじゃ。…願う事は何でもよい、お主の叶えたい願いにするがいい。…お主の願いが叶ったら、わしはこの物語を…書き直せる。わしはこの物語をハッピーエンドにしたいんじゃ」
「…そうか」
ジンが一つの決心をする。
「じゃあじいさんの願い、俺が叶えるよ」
「がっはっはっは…!若造にしちゃ口が達者じゃのう!」
「…別に。いつになるかは分からないけど」
ジンが目を一瞬逸らす。
逸らした後、老人の方を見て微笑む。
「良い良い。わしはこのあたりで昔話をいつもしておる。いい報告を待っておるぞ」
「…おうよ」
ジンがその場を後にした。
「…願い、なぁ」
ジンは少しため息をつく。
「…そんな簡単に叶ったら、苦労しねぇよ…」
――一方、城の近くの方を歩いているホワイトは…
「…手がかりって言っても…本当は別の事なんだけどね…」
ホワイトは独り言を喋りながら歩いていた。
(…生きてるかもしれない『お父さんの手がかり』を探さなきゃ)
ホワイトはそう思っていた。
ホワイトの父親は自身の持つ魔力の影響で左腕が神々しく光っている銀髪の男性だ。
名前はソレイユと言い、2年前のネオカオスのジハとの対決を境に生死不明となってしまっていた。
ホワイトは現在、母の仇を討つのと、父を探すの二つの目的でラッシュ師団に入団していた。
(…大きい街だし、もしかしたらお父さんがいるかもしれない。)
「おーい、そこの姉ちゃん」
ホワイトの右から声が聞こえた。
「…あ、私…?」
「そうそう、ラッシュ師団って奴だろ?」
ホワイトが右を向くと、そこには武器屋をやっている男性がいた。
「あっ…えっと…そうです」
「姉ちゃんの横顔、昔ここに来た奴に似ててさ。…正面から見ても、やっぱあいつに似てんなって」
ホワイトは似てんなという言葉に反応する。
似ている人…もしかしたら…とホワイトは思っていた。
「えっ…!えっと…その人って…もしかして…左腕が…凄い人…?」
「おう、よく分かったな。確かにあいつの左腕はヤバかったな」
「もっと詳しく…聞かせて下さい!」
ホワイトが武器屋の店員の顔に近付く。
「お?おう。…えっとな、あいつの左腕は…骨折してたんだ」
「左腕が光って…え、骨折?」
ホワイトが首を傾げる。
「あぁ。むっちゃ包帯巻いてて、そいつに聞いたらドラゴンにやられた傷だ~とか言い出してよお」
「ちょっ…えっ…その人の左腕の…肌ってみた事ありますか…?」
「あぁ、チラッと見たな。っつっても、普通の肌だったな」
「普通の…肌…」
ホワイトは思った。
(…これは、私に似てるだけの別人の話…だよね。)
「……ごめんなさい、違う人かも…」
「おぉ…って事は、姉ちゃんも人探しか?」
「…まぁ、そんなところ…です。左腕が光っている人を探してるんですけど…」
「そうか。あいにくだが、左腕が光ってる奴は知らないな。他の特徴はどんな奴なんだ?」
「えっと…金髪で…もしかしたら、何人かで行動してるかも…」
「何人かで…?うーん、それだけだとちょっと分からんな」
「うぅ…」
「…ただ、今までに腕が光ってる奴は見た事はないな。だから俺は知らねえ、ごめんな」
「あ…えっと…大丈夫です」
ホワイトが少し落ち込む。
「ごめんな、俺が力になれず…」
「その人なら知ってるわよ」
ホワイトの後ろから声が聞こえた。
「わっ…!」
「驚かせちゃったかしら、ごめんなさい」
ホワイトの後ろにはホワイトと同じくらいの年齢の少女が立っていた。
「左腕が光ってる人、知ってるわよ。さっき見かけたわ」
「…え、本当ですか!?」
「えぇ」
「案内…してください…!」
ホワイトが少女の言葉に食いつく。
「いいわよ。ついてきて」
「やった…!」
少女はホワイトの前を立って、歩き始める。
「偶然も、いい人もいるもんだなぁ…」
「うふふ、嬉しいわ。あなた、名前は?」
「ホワイトです」
「ホワイト」
少女がホワイトの名前を聞いて、少し笑う。
まるで…獲物を見つけたかのように。
「私は、まだ名乗らなくていっか。もうすぐ着くから案内が終わったら言うわ」
「わざわざありがとうございます…!」
そして、ホワイトと少女は城下町の見通しが悪い狭い通路の前へ着く。
「この奥に向かっていくのを見たわ」
「…この奥に?」
少女が薄暗くなっている通路に指を指す。
「えぇ。確かこの奥には、秘密の酒場があってね」
「酒場…?なんかあの人らしくないなぁ…」
「あなたが良ければ着いてくけど、同行していい?」
「はい!勿論です!」
「そう、了解」
少女が通路の前を歩く。
「…せま…」
「ちょっとしたら着くわ」
二人が少し歩くと、少し広がった場所に着いた。
「っ!見えた…」
少女が足を止める。
ホワイトは少女の前を歩き出す。
…が、そこは行き止まりだった。
「…あれ?」
ホワイトは周りを見渡すが、酒場の様な建物や入口、看板はなかった。
「……えっと…酒場って…」
ホワイトがそう言うと、ホワイトの腹に何かが突き刺さる。
「っ…!?」
「…引っかかってくれて、ありがとう」
ホワイトの腹にはナイフが刺されていた。
ホワイトの血が地面に垂れる。
「がっ…あなた…は…」
「…ごめんね、騙して」
ホワイトを刺した少女が不敵に笑う。
「――私は『暗殺のルキ』、ネオカオス四天王の一人」
後書き~世界観とキャラの設定~
『暗殺のルキ』
…ネオカオス四天王の一人で、ホワイト達と同じくらいの年齢で赤色の瞳を持った銀髪の少女。返り血をその身に浴びることが好きで、基本は白い服を着ている事が多い。
ナイフを扱ったり、巧みな口遣いで人を暗殺するのが趣味であり仕事。
ネオカオス四天王として着任したのは割と最近で、一番の新参者であるらしい。
何やらラッシュ師団のとある人物と密接な関係に陥ってた時があるらしいが…




