ep124.鉄仮面の錯乱
「あの後…私の身体は完全に回復した。ジン君もミカもロキ君もルドさんも皆治った。ミカはキンキに心臓を掴まれてかなり重症だった…けれど、今はなんともない。少し安静するようには言われていたけど、ミカにその気はさらさらなさそうだった」
「ロキ君はエクストデスにやられたダメージがまだ足に響いているらしく、完治するまで前線から外れることになった。骨折してるのに無理して動いてたらしい…ルドさんはキンキとの戦いではほとんどダメージがなく、今も元気そうだった。今はもうカルム師団の基地に帰っていった。けれど、また来る予定ができるみたい…みたいな事を言ってた」
「ジン君からはあの後自分の口から、悪魔族で『未来視の悪魔』だということを告白された。どうやら悪魔族としての記憶が戻ったらしい。ジン君は奪われた記憶と言ってた。それがジン君の言う悪魔王に奪われたのかどうかまでは分からなかったけれど…ジン君が言うには…悪魔族は、『人間と悪魔の共存』を目標にしているらしい。その目標達成のひとつとして、人間と悪魔の間に子どもを作る事だった。エルと同じ使命をジン君も背負っていた。いずれはジン君も…あれ、でもこの場合だともしかして…私との間に子どもを作る事になるのかな…?そうなるなら…」
「いや…何でもない。ジン君が悪魔族だからと言って、拒絶するような事はない。私は…ジン君が何者であろうと、ジン君が好き。誰に何と言われようと…誰がそう仕向けようと…私はジン君を信じているから。ミカもロキ君も悪魔族だと分かったジン君を拒絶しなかった。寧ろ受け入れていた。ミカもロキ君も、色々な事情を抱えているから。だからジン君を拒絶だなんて絶対しなかった」
「でも、状況は一切回復してなかった。私はこの後………」
――ゼッヒョウの地の件から数日が経つ…
ゼッヒョウの地の救助は全て終わり、平穏が訪れた。
だが真の意味では平穏は訪れなかった。
ラッシュ師団の基地にて………
「それでは…血液を採りますね。少しチクっとします」
「…はい」
ラッシュ師団の団員がホワイトの右腕に針を刺す。
『魔力検査』…簡単に言えば血液を採ってその中にある魔力からその人間の魔力を査定する行動。ラッシュ師団では入団する際に必ず行われる事だった。
本来はもう一度魔力検査を行うような事は早々しない。だが…ホワイトは脳死から回復してしまった。そしてシェールはそれに対して強く疑問に思っていた。シェールはそれを解明するべくホワイトの魔力検査を行っていた。
同時にジンも悪魔族だということが判明したため、尚更魔力検査をする動機に繋がっていた。
「っ…」
「ありがとうございます」
団員がホワイトの血液を採取する。
「気分は大丈夫ですか?」
「…大丈夫…ですけど…一ついいですか…?」
「なんでしょう…?」
「その…魔力検査はここに入ってすぐに受けた事はありますけど…こんなに血液を取られなかった気がします…」
「あぁ…確かにそうですね」
ホワイトが言う通り、昔の魔力検査による血液の採取はほんの少量だけだった。
だが今回ホワイトから採取された血はかなり多かった――
「…あの時はランスさんが団長だったけど…今はシェールさんが団長だから?」
「そうかもしれませんね…」
「…シェールさんは…私を疑ってるんでしょうか…?」
「…あの方は我々の思考を読めますが、あの方自身の思考はランス団長同様読めないと言いますか…」
「…そう…ですよね…」
ホワイトが立ち上がる。
「ただ…一つあるとしたら…――」
「…?」
「シェール団長…ランス団長がいなくなってから…少し変わってしまったというか…なんというかちょっと色々な事を疑い始めるようになってしまったというか…――」
「っ………」
ホワイトが絶句する。
――部屋に戻るホワイト。
部屋にはミカが待っていた。
「おかえり。調子は…良くはなさそうね…」
「…うん」
ホワイトが下を向く。
「魔力検査か…そういえば…ジンの時はしなかったんだっけ…」
「え…?」
「あの時は丁度ネオカオスの拠点が分かりそうって感じだったから魔力検査をしている場合じゃなかったっていうか、そもそもジンの魔力的に戦闘面は優秀なのは約束されていたから検査する必要もないっていうか…」
「あ…そう…なんだ…」
「まぁあのランスが団長のときだったからなぁ。割といい加減なあいつが…」
ミカがそう言うと、ジンが部屋に入る。
ジンも丁度魔力検査が終わったところだった。
「あ…ジン君…」
「お待たせ」
「ジン」
ジンがホワイトの顔を見る。
「ホワイト…少し顔色悪いな?」
「え…?」
「まだ脳が回復してから少ししか経ってないし血液まで取られるとなると結構来るものがあるだろ、ゆっくり休め」
「あ…うん………」
ホワイトがそう言うと、部屋にロキが入る。
「…よ、お前等」
「ロキ…」
「ロキ君…!」
ロキは紙を持っていた。
その紙には…魔力検査の結果が書いてあった。
「検査結果が出たぞ。まずはジンだが…」
「…俺が悪魔族なのは確定している。なら…ここも追放…か」
「…いいや。別に追放にはならない」
「…何?」
ジンが疑問を抱く。
「そしてホワイトだが…」
「あ…うん」
「…問題あり、再検査との事だ」
「え…」
「は…?」
ミカが立ち上がる。
「明日また再検査する。協力を頼む」
「わ…分かった…」
「ちょっと待って」
ミカがロキの目の前に立つ。
「ミカ?どうした?」
「どうしたもこうしたも…問題ありって何よ?詳しく話しなさい」
「ミカ…?」
ミカがロキを睨む。
「…あぁ。ちゃんと話す。ホワイトの血液からは…血液自体に問題はなくホワイト本来の回復魔力が検出された…と言う事だ」
「ふーん?」
ミカが腕を組む。
「なら異常なんて無いじゃない。それの何がおかしいの?」
「…それが異常だと言っているんだ。ホワイトの今までの魔力といい、異常がない事が異常だと言う事が…」
「っ…」
「だからホワイトは明日も魔力検査してもらう。また血液の採取…頼む」
「…分かった」
ホワイトが軽く頷く。
「ごめんな…俺も本当はこんなことは手短に済ませたいんだが…異常が出た以上仕方ない。鉄分を多く取って貧血にならないようにしてくれ」
「…うん、ありがと」
「待て、ホワイトは兎も角…俺はどうなる?」
ジンがロキの背中を見る。
「…さぁな。だが…お前の再検査はいらない」
ロキが背中で答える。
「…なんだと?」
「…じゃあ、俺はシェールさんの所へ戻る」
ロキが部屋から出る。
「っ…血液に…異常が………」
「………」
――翌日…
またもやホワイトの魔力検査が行われた。
「血液を採りますね」
「…はい」
ラッシュ師団の団員がホワイトの右腕に針を刺す。
「っ…」
団員がホワイトの血液を採取する。
そして数分後…
ロキがホワイト達の部屋で話す。
「ホワイト本来の回復魔力しか検出されなかった…との事だ――」
「っ…」
ホワイトが絶句する。
結果は変わらなかった。
「二回目でそれならいいじゃない。異常なしって事で」
「…いいや、再検査だ。明日また受けてもらう」
「っ…再検査…」
「は?」
ミカがロキを睨む。
「…ホワイト、すまない。また…鉄分を多く取って貧血にならないようにしてくれ」
「っ…うん…分かった…」
ロキが部屋から出る。
「また…異常か………」
「………」
また翌日…
「血液を採りますね――」
「っ…」
「今回も…本来の魔力のみだ――」
「っ…」
「血液を――」
………
「今回も…だ――」
ホワイトの魔力検査は何日も続く…――
そして…正常な魔力と血液だという異常な結果が何日も続く…――
そして…先にホワイトの身体に限界がやってくる――
ラッシュ師団基地、洗面所の前にて…
「はぁ…はぁ…はぁ………」
ホワイトが頭を押さえる。
貧血でホワイトが倒れかける。
ミカが倒れそうになるホワイトを押さえる。
「ホワイト………!」
「うぐっ…うぅっ…頭がフラフラして…足が震えて…腕が…痺れて…」
ミカがホワイトの背中を摩る。
「貧血…起こしてるでしょ…しっかり…」
「また…異常だって…」
「っ…!!」
ミカが目付きを変える。
「また…明日も…血液を採るって…」
「馬鹿じゃないの…ホワイトがこんなになって…それなのにまた検査…?」
ミカがホワイトの手を掴む。
ホワイトの顔も手も青ざめていた。
「シェールさん…いや…シェール…あの女………」
ミカがシェールの顔を思い浮かべる。
ミカが虚空を睨む。
「あの女に…直接…!!」
「私が…何かしら?」
「っ…!!」
ミカの後ろにはシェールが立っていた。
「シェール…さん…」
「っ…!!」
「ミカちゃん…?さっき…私の事を呼び捨てしてたみたいだけど…?」
ミカが拳を握る。
シェールの顔は笑顔だった。
だが、その笑顔から優しさは微塵も感じなかった。
「その拳は何かしら?私を殴りたいのかしら…?」
シェールが目を開ける。
シェールの普段の目付きからは想像できない眼孔がミカを睨んでいた。
「………!」
「残念だけど…私の魔力の前にあなたは思考を読まれるからどう足掻いても私には指一本触れる事すら敵わないわ」
シェールには人の心が読める。
相手の思考を読めば、相手の攻撃なんていくらでもかわせるのだ。
例えそれが…実力者であるミカ相手であっても。
「………どうして――」
「…ん?」
「どうして…ホワイトの魔力検査に…こんなに必死なんですか………?」
「どうしてって…ホワイトちゃんのためでもあるのよ」
「これがホワイトの何のためになるんですか…!!」
ミカが怒鳴る。
「ミカ………」
「………」
「こんなに窶れて…貧血になって…アンタは…アンタはホワイトに何をさせたいんだ…何がしたくて…こんな事………!!」
「………」
「アンタなんて…アンタなんて………ランスなんかと――」
「…皆、ランス君と会ったんでしょ?」
「っ…!?」
ミカとホワイトが驚いた表情をする。
「二人とも、ゼッヒョウの地で…ランス君と会ったんでしょ」
「な…何故それを…」
「二人だけじゃない、ジン君も。私の魔力の前には誤魔化せないわよ、ねぇ?ホワイトちゃん?」
「っ………」
ミカが拳を握る。
ホワイトはシェールに心を読まれていた。
ヒョウガイ山でランスと出会った事…
「ホワイトが嘘をつくのが苦手なのを知ってて…それを利用したとでもいうの…?」
「…嘘…ねぇ」
「こんな事して…団長として恥ずかしくないの…!?」
「ランス君は私の希望だった」
シェールが上を向きながら喋る。
「は…いきなり何を………」
「ランス君は…私がラッシュ師団に入るきっかけだった。…いや、それだけじゃない。出会ってすぐ恋人になった人だった。団長と言う役柄で忙しいながらもずっと私の事を大切にしてくれていた。私の希望だったのよ。でも…魔力の根源…可能の災いのせいで、ランス君は右目と左腕を失った――そしてランス君は…不可能の災いと言う魔力の根源を手に入れてしまった…いや…思い出してしまったってのが正解…か。その身がラッシュ師団にあったら他の団員や人々にいらぬ疑いをかけられてしまう。だからランス君はラッシュ師団からいなくなった…団長は私になった…」
シェールが目線を下に向ける。
「私は二代目団長として…でも…何も分からないまま団長が始まり…兎に角色々な手を使った。私本来の魔力を使って…皆の思考を読み取っては行動に移し…より良くできると思ったの。思っていたの。でも…私には…私達には埋め込まれていた一つの基盤がなかった。そう…ランス君…ラッシュ師団団長としてのよ…こんな時にランス君がいればどう動いていたか…団員の皆がランス団長だったらこうしているかもしれない…私の脳内によぎっていった…私は………ランス君みたいな団長にはなれない………」
シェールが拳を握る。
その拳には、自分自身を責めているかのような拳だった。
「だから…団長になってからは全てを疑ってきた。サキュアの件のエルやソレイユさんの考え、ホワイトちゃんが脳死状態になってしまった時の皆の考え…全部を疑ってきた。そう…本来の私は…こんなにも…こんなにも酷い人間なのよ。持ち前の魔力による色々な情報が脳内に流れ込んで…過去にネオカオスに襲われた一件もあったりで疑ってばっかりいた存在…これがシェールと言う女の…本質よ………」
「っ………」
シェールの話を聞いてホワイトが涙を流す。
ミカがシェールを睨み続ける。
「だから私は…脳死状態から回復したホワイトちゃんをずっと疑っている。ホワイトちゃんの回復魔力…自分だけが持てる剣を産み出せる魔力…口付けをしたら回復させる事ができる魔力…全部を疑っているの。そもそも…今目の前にいるのは本当にホワイトちゃん本人なのか…とかも…」
「っ………!」
「シェールさん………アンタ…!」
ミカが銃剣を取り出そうとする。
「だから…明日も魔力検査をして…ホワイトちゃんの魔力について絶対解析して見せる…そして…その魔力を使って………ラッシュ師団のためにも………」
「シェールさん…」
「っ…」
ミカがホワイトの方を向く。
だがミカには打開できるかもしれない方法が思い付いていた。
そしてミカはかつての出来事を思い出す。
「…ランスならこんなことはしないけど…な――」
ミカが小さく呟く。
「っ…!?」
シェールが驚いた表情をする。
「ランス団長なら…魔力検査を一度したらそこにあった魔力が正常だの異常だのなんて…全然気にしない」
「っ…!!」
ミカから発されるランスの名前。
その言葉を聞き、シェールは強く怒りを覚えていた。
シェールはミカを怒りのままの形相で睨んでいた。
対してミカは、いつもの節操のない顔でシェールを見ていた――




