ep122.死も同然
――あれから数分…ミカとジンはホワイトを運んでゼッヒョウの街に辿り着いた。
そして、ゼッヒョウの街の病院にすぐさまホワイトが運ばれた。
ホワイトはすぐさま緊急医療室に運ばれ…治療が行われた。
ホワイトを運び終えたミカはすぐさまロキと共にラッシュ師団の基地にいるシェールへ報告。
ジンが悪魔族の『未来視の悪魔』だと言う事もミカによって報告されたがホワイトの一大事を救った功績もあり、一旦流される事に。
――数時間後………
彼等に救いなんて物は、やってこなかった。
「っ………ホワイト………!!」
ホワイトの部屋にジンが入る。
「………!」
「…ロキと…シェールさん…」
シェールとロキがホワイトの目の前に座っていた。
「二人とも…ホワイトを見てたんですね…」
「………ジン」
「ホワイトは…ホワイトはどうなったんですか…!」
ジンが眠っているホワイトに近付く。
「……ホワイト………?」
ホワイトの身体には人工呼吸器が付けられていた――
「なんだよこの器具…」
「………」
「………」
ロキとシェールが険しい表情をしながら…黙り込む。
「二人とも…なんで黙って………何か言ってくれよ………」
ジンがロキの肩に手を乗せる。
「なぁ…ロキ………?」
「………ホワイトは………もう………」
「っ…まさか………」
シェールが目を逸らす。
「っ…そんな………」
ジンが涙を零す。
「心肺停止していた時間が長かったせいでホワイトちゃんの脳機能が失われてる…ホワイトちゃんは言わば…脳死状態よ…」
「っ…!?」
「もうホワイトちゃんは…皆と戦う事も…皆を回復する事も………喋る事もできない…」
「そんな…嘘…ですよね…?」
「それどころか…もう………」
「もう…なんですか………?」
「死んでるのと…同義なのよ」
「っ…………!!」
ジンがホワイトに付けられている人工呼吸器を見る。
ホワイトの脳は…病院に着いた時点で既に死んでいたのだった――
今はなんとか呼吸を繋いでいるだけの状態――
「まだ生きている…だけ。けれど何れは人工呼吸器による呼吸をする事もできなくなって、死んでしまうわ…脳死とはそういう物なのよ…」
「そん………な………」
ジンが床に膝を付く。
「俺が…再び動かした心臓は………一体………なんであの時一瞬…目を覚ましたんだよ………」
「…あなたの心肺蘇生術は正しかったわ。けれど………正しかっただけで…元に戻る保証はなかった………」
「っ…………」
ジンが頭を抱える。
「じゃあ…俺が見たあの未来は…なんなんだよ………」
「未来…」
「俺が………見たあいつの笑顔は………なんだよ…なんであんな未来を…俺に見せたんだよ………せっかくまた…生きる希望を見つけたって言うのに………」
ジンが涙を流す。
シェールがロキの方を向く。
「…ロキ君」
「…分かりました」
ロキが部屋から出る。
「ロキ…?」
「…彼はソレイユさんを呼びに行ったわ」
「ソレイユ…ホワイトの親父さんを…?」
「…最期くらい、家族に会わせて…あげなきゃ………」
「っ………」
ジンが涙を零す。
そしてこの部屋にはもう一人…いないといけない人物がいた。
だが…今はその暇すらもなかった。
「そうだ………ミカは………」
「ミカちゃんは今…ゼッヒョウの街の人々の安否を確認してる最中よ…」
「っ…そう…か………」
「本当はあの子にもホワイトちゃんの傍にいてあげて欲しいけれど…人が足りなさ過ぎるわ…」
「っ………そう……です…か………」
「こういう時…ランス君がいたら…どうしていたんだろう………」
「ランス………」
「私は…団長失格よ………」
「っ………」
――それから数分後…ソレイユがホワイトの眠る部屋に駆け付けた。
泣きじゃくるジンをソレイユが見る。
「あ…あ………あぁぁぁ………」
「…ジン君」
「っ…親父さん…」
「ホワイトの方は…」
ソレイユが眠っているホワイトを見る。
「っ………ホワイト………」
ソレイユが涙を堪える。
「…俺の心肺蘇生が遅れたから…ホワイトはこんなことに………」
「…君のせいじゃない――」
ソレイユがジンの肩に右手を置く。
「…君は必死に娘を助けてくれた。命だけでも助かっただけ…嬉しいよ…」
「っ…でもこのままじゃホワイトは何れ…」
「…そうだね。このままホワイトは…リュンヌさんやブラックの元へ…逝っちゃうね…」
「っ…!」
そんなのダメだった。
だが…解決する方法なんてなかった。
「俺の魔力でもこれは無理だ…そもそも今の人間の回復の魔力は脳や心臓といった器官を治す事はできない…俺は…まだ学びが足りないみたいだ…」
「親父…さん………」
「死んだ人間を蘇生する魔力は…数百年を有する修行が必要だけど、人間の寿命は百年あるかないかだからね…学ぼうと思ったけれど…会得した事には俺はもうおじいちゃんだよ…いや…もしかしたら普通に死んでるか…人間の寿命は長くないからね………」
「数百年…」
「………はぁ」
ソレイユが息を吐き、肩の力を抜く。
「…僕は弱いな」
「…僕?」
ソレイユの一人称が変わっている事に気付き、ジンが首を傾げる。
「さっきまで俺って…」
「…あぁ、驚くよね。話すのは君が初めてになるかな…ある日を境に自分の事を俺って呼ぶようにしてたんだけど…それは本来の情弱で弱気で非力な自分を覆い隠そうとしてただけなんだ…ホワイトもブラックもリュンヌさんも…失う事になってしまった…肩の力が全部抜けている今が本来のソレイユ…僕の本質だよ…気を張って強くなった気でいたんだ。実際その時の僕は誰かにとって強かったけれど…僕自身はただの情弱で弱気で非力な…子供みたいな大人だ」
「ソレイユ…さん………」
弱々しくなってしまったソレイユをただ見る事しかできないジン。
ジンもまた、弱々しくなってしまっていた。
「…ホワイトは…死亡が確認されたらリュンヌさんやブラックの眠るお墓まで運んであげなきゃだね…そこで静かに見送って…僕もいつかあっちに逝くよ…」
「そん…な………」
「あ…でもリュンヌさんにはこっちに来るのはまだ遅くていいって言われてたんだった…でも…家族の中で一番弱い僕がこのまま生きれるのかな…」
「………」
ジンは黙っていた。
「あなたには生きて欲しい」と言いたかったが、言えなかった。
「死にたい…なぁ………あの世で皆に謝って…また皆でご飯食べて…皆で………笑いたいな」
「…あの頃のホワイトも…同じような事言ってたな…」
ジンが小さく呟く。
あの頃のホワイト…メタリーを殺した時のホワイトもまた同じ事を言っていた。
「死にたくて…あの世で皆に謝りたくて…」
ソレイユがジンの方を向く。
「…ジン君、ホワイトの恋人でいてくれてありがとう」
「…俺は何も…本当に数ヶ月しかいれなかった………そんな…親父さんにそんな事言わせてしまうなんて………」
「君だけでも…最期までどうか…娘の傍にいてくれないか…?」
「…勿論、一緒にいます…」
「ありがとう…」
ソレイユが涙を零す。
「っ…ソレイユ…さん…涙が…」
「…え?」
ソレイユの目から多く涙が流れていた。
「…あぁ、今まで堪えてた涙が…一気に出されたみたいだな…」
「………やっぱ…ソレイユさんも人間なんだな…」
「…そうだよ」
「エルの件ではこの人凄く強い人なんだろうと思ってたけど…ちゃんと…人間をしてて…」
「…そうだね」
ソレイユがジンの目を見る。
そしてソレイユはジンの気配を感じ取っていた。
それは今ではなく…最初から――
「それにしても…やっぱり君は…悪魔族だったんだね」
「っ…!?どうしてそれを…!」
「記憶を戻してから…君を初めて見た時から気付いてたよ」
「っ…やっぱあんた…人間じゃねえよ………」
ジンが汗をかく。
「でも、誰も問わない理由は君の魔力の変化から分かってた、だから僕からは触れなかった。君が本来の力を取り戻すのをこっそり応援してたんだ。誰にも悟られないようにね」
「…その力を取り戻しても…たった一人の大事な人を救えない俺に…」
「………」
「…ソレイユさんは…俺の事が憎いですよね…俺が悪魔族で…ホワイトを助けれなくて…それで………」
ジンが涙を零す。
だがソレイユはそんな自暴自棄になったジンを肯定しなかった。
「…憎くなんてないよ。悪魔族にも心優しい人がいるのを僕は知っている。それに…君は悪魔族としてでなく…一人の生きる者として頑張ってくれた…ラッシュ師団に残ると選んだのはホワイトの選択だ…娘の選択を拒んだりなんてできない。その選択をした娘が…誰かの命を救って死ねるなら…きっと本望だろう…」
「っ…」
二人が話していると…ミカが部屋に入る。
「ホワイト…!」
「ミカ…!」
「…あ、ソレイユ…さん………」
「…ミカちゃん…だっけか」
「えぇ…それより…」
ミカが眠っているホワイトに寄る。
「ホワイト…ホワイト………!」
「…ホワイトはもう…このまま死を待つだけになったよ…」
「っ…そんな…ソレイユさん………どうにかホワイトを…!」
「…僕の回復が無理なら、きっと誰だって無理だ…」
「っ………」
ミカがホワイトに付いている人工呼吸器を見つめる。
「…ミカちゃん、ホワイトをいつも見てくれてありがとう…」
「っ…何を…言って…」
「君が…ホワイトに居場所をくれて…ありがとう…」
「っ………」
ミカが涙を零す。
「…あたしが諦めたからだ…」
「ミカ…?」
「あたしが…蘇生を諦めたから…すぐに行動して蘇生できれば…脳死になんてならなかった……ホワイトが………ホワイトが死ぬことに………なんてっ……」
「…」
「ホワイトは…あの世で………きっとあたしの事を恨む…きっと…あたしの事を呪い殺したいって…」
「………」
「ホワイト………もう…あなたの事………救えないなんて………あなたの傍にいれないなんて……………」
ミカが涙を零す。
「…ミカちゃん」
「ミカ………」
「っ………ごめん…なさい………うぅっ………あたし………あなたに何も……………」
「………」
「…あれ?」
脳死したはずのホワイトが、どういう訳か真っ白な世界に立つ。
「…あ、えっと…」
ホワイトが辺りを見渡す。
そこは繋命の世界…とは言い難い場所だった。
「繋命の世界…かな?」
「お久しぶりですね…ホワイトさん」
「っ……….その声は…」
ホワイトの後ろには癒しの神が立っていた。
「癒しの…神様」
脳死してしまい、命が絶たれたはずのホワイト。
――繋命の世界とも言い難い、真っ白で何もない謎の場所。
果たしてここは、死後の世界なのだろうか――




