ep111.思考の超過
――暫くして…ジンとロキの二人の活躍により、ゼッヒョウの街の行方不明者が全員見つかった。
ゼッヒョウの街の人々はラッシュ師団を称賛し、ラッシュ師団の人命救助の使命は果たされた――
ゼッヒョウの街の病院にて…四人が集まる。
「それで…街の人に重傷者はいたけれど命に別状はないって訳ね…」
「あぁ。これで俺達が一旦ゼッヒョウの地でやる事は終わった」
「…ジン君とロキ君には大変な思いをさせちゃったね…」
ホワイトが落ち込んだ顔をする。
「一時はホワイトもミカも重傷になってどうなるかと思ったが…」
「そう言うロキ…アンタも一度重傷を負ったでしょ」
「うっ…雪山っていつもの慣れている環境とは訳が違うからな…それに…強力な魔物が現れるというアクシデントもあった…寧ろこんな状況下で誰も命を落とさず救えたのは奇跡だな…」
「そうね」
「ホワイトとミカは身体の方は大丈夫なのか?」
「…あたしは大丈夫。吐き気はたまに催すけど…もう身体に異常は殆どないかな」
「そうか。ホワイトは?」
「えっと…」
ホワイトが自身の腹に触れる。
まだ痛みは少し残っていたが、ホワイトはそれを隠そうとする。
「私は…動けるよ…!」
ホワイトが微笑む。
「本当か?」
「うん…皆には迷惑をかけれ――」
言葉を続けようとするホワイトにジンがホワイトの腹に触れる。
「うぐっ…!?」
ホワイトが腹を押さえる。
まだエクストデスに刺された痛みは残っていた。
「…やっぱり、まだ痛むんじゃねえか」
「っ…急に触らないでよ…」
「無理をするな」
「…うん、ありがと。心配してくれて…」
「おう」
「………」
ミカが自身の腹を触る。
ミカの腹は既に治りきっていた。
「そういえば…ルドさんは?」
「ルドさんなら…こっちの街でやる事があるって言って…」
「やる事…?」
「なんでも、ゼトラ教団が云々かんぬんって…」
「ゼトラ教団…あ――」
ホワイトが思い出す。
「…そういえば、ソドさんは吹雪を起こした犯人を探してた…みたいな事を言ってたような…」
「吹雪を起こした犯人か…いや、でもそれはアイスドラゴやエクストデスが環境を変えたっていう結論に至っているはずだ。エクストデスの討伐以降、天候も回復を見せている」
「え…?」
ホワイトは疑問を抱いていた。吹雪を起こしたのは出現した時期も考えてアイスドラゴやエクストデス…
だがそれにしては違和感があると思っていたホワイト。
だが自分の意見は言えず、隠し事をしてしまう。
「あ…そっか…そうだよね、変な事言ってごめん…」
「いいや、大丈夫だ」
「そういえば…話せるタイミングが無かったけれど、あたしが聞いた情報だとゼトラ教団は悪魔族を信仰してるって聞いたわ」
「悪魔族…!」
ジンが目付きを変える。
「まさか…エルみたいな悪魔族を…!」
「でもソドは…極悪な悪魔族もいれば善良な悪魔族もいるって言ってたわね」
「善良…?」
「まぁ…何人かこの街に潜んではいるみたいだけれど、特にトラブルを起こしたって言う過去は聞いてないし、善良な悪魔族の方だとは思うわ」
「は…はぁ…」
ジンがため息をつく。
ジンが拳を握る。
「ジン…?」
「…いや、ほら…サキュアで出会った契約の悪魔エル…あいつはホワイトの親父さんや色んな人を洗脳したりしてホワイトを傷付けていたから…どうもまだ許し切れてなくて…」
「なるほどな」
「イマイチそう言う割り切りが…俺にはできない…俺は悪魔族を恨んでる。あの頃殺し屋として…人間を恨んでいた時のように…」
「…そうか」
「ジン君…」
「………」
ロキが通信機を操作する。
ゼッヒョウの地には救助だけでなく、更に気になる事があった。
「この周辺で見かけたネオカオスの残党についても少し気になるな…」
「っ…」
「…そうだ…奴等が…」
「まさかネオカオスの前の本拠地よりかなり離れた場所で残党が暗躍してるとは師団としても予想外だよ…全く…」
「もしかして…ジハが前のラッシュ師団基地が爆破された際に逃げた先が…この近くに…?」
「その可能性もありそうだ。それを突き止めれば…今ネオカオスの残党を動かしている奴が分かるかもしれない。そうしたらシェールさんの仕事にも大きく貢献出来る」
「残党を動かしている奴等…か」
ジンが拳を握る。
ネオカオスもまた、ジンの恨みの対象だった。
「ただ…俺の推測だが…下っ端の強さからしてかつてのネオカオス四天王と同等…或いはそれ以上の実力を持つ奴が控えているのはほぼ確実だ」
「ネオカオス四天王と並ぶ…か」
「それに…奴等はエクストデスを使役していた。脅威度としては俺達がかつて相手してたネオカオスの奴等とは訳が違う。魔物も使ってくることを頭に入れておかないといけない」
「魔物を使ってくる…」
「正直言ってしまうと魔物は未知数だ…そのためにも今カルム師団とも協力体制を取ってシェールさんが魔物について深く調べている…そういう訳だ」
「なるほど…」
「そして…俺達がその残党に対してする行動は…当然…」
「っ…」
「…あぁ」
「…ん」
三人が頷く。
「かつてのように、全ての残党を確保する事だ」
「っ」
三人が息を呑む。
「…この後の行動は明日以降に話す。今日はよく休んでくれ。特にホワイトとミカ…早急に回復してくれ」
「うん…!」
「分かってる」
――その後…明日に備えてゼッヒョウの街で迎える夜…
ホワイトが病院の窓から外を眺める。
「………」
「ホワイト?」
「あ…ロキ君」
「眠れないのか?」
ロキがホワイトに紅茶を渡す。
「あ…ありがと…ってこれじゃ余計に眠れないよ…」
「まぁ別にいいだろ。身体を温めるのには向いている代物だ」
「それはそうだけど…」
ホワイトとロキが紅茶を飲む。
「相変わらず甘いな」
「…ロキ君」
「どうした?」
「ネオカオスの件…なんだけどさ…」
「あぁ。明日から本格的に始めるぞ。俺達四人でゼッヒョウの地周辺のネオカオスを全員捕らえる」
「うん…そうだね」
ホワイトが目を逸らす。
「…何か疑問でもあるのか?」
「疑問…っていうか…なんていうかさ………」
ホワイトが紅茶をテーブルに置く。
「…ネオカオスの人にも、家族っているのかな」
「家族か」
「私達ラッシュ師団の団員には皆家族がいる。ネオカオスにも…家族はいるって考えると…ちょっとさ…」
「あぁ…そういう事か」
ロキが腕を組む。
「私達は私達で…かつてネオカオスを止めるために頑張っていた事もあったけれど…ネオカオスの人達も…家族のために必死で戦ってたのかなって…」
「…」
「そう考えていたら…私は…彼らと戦えない気がして…」
「ホワイト」
ロキがホワイトの肩に手を乗せる。
「ロキ君…?」
「お前は優しいな」
「…別に…そんな事…」
「…だけど、一つ思うことがあるとすれば、ネオカオスに協力するような奴に…家族の大切さがあるとは思えない」
「っ…」
ロキの言葉にホワイトが息を詰まらせる。
「奴らは奴らで途中で気付けるはずだ…良心が残っているなら…きっと…」
「そっか…そうだよね…」
「まぁフェクトみたいな例外はいたが…」
「…うん」
ロキが紅茶を飲み干す。
「…もしもさ、ロキ君」
「ん、どうした?」
「もしも…ネオカオスの下っ端の人達が…実は全部…人造人間とかだったりしたら…」
「っ…」
「もしも…ネオカオスの人達が…家族のぬくもりも知らない人達だったら――」
「…ホワイト」
ロキが立ち上がる。
「…考えるな」
「ロキ君…?」
「…最悪の事態は本当は考えるべきなんだろうが…お前の場合はあまり考えるな」
「私の場合…?」
「お前は過度に優しすぎるんだ。だから…最悪の事態なんて想定しなくていい。想定してしまうと…いつかその優しさが、自分を壊す可能性がある」
「っ…」
「…その優しさは、自分や信頼している仲間にだけ向けてやるんだ」
「信頼している…仲間…か」
ホワイトが紅茶を見つめる。
「もう寝ておけ。ミカもホワイトもまだ身体が治りきっていない。ジンもかなり疲れている…かくいう俺も骨折が治ってばっかりで少し足が痛い。夜更かしは身体に毒だ」
「…うん」
ホワイトが布団に身体を包む。
「………私達に…真の平穏ってやってくるのかな…」
――夜中、病院の外にて…
ミカが銃剣を構える。
「っ………!」
ミカが銃剣を虚空に向かって振る。
「………ゲホッ…」
ミカが腹を抑えながら咳をする。
そこへルドがやってくる。
「あれ、ミカさん…?」
「…!ルド…さん………」
「もう…体調の方は大丈夫なのかい?」
「…ちょっと咳が出るくらいで、今はもう大丈夫です。気持ち悪さもなくなりました」
ミカが銃剣を腰に納める。
「そうか。でも無理はダメだぞ?何せ…一時的に魔物を腹に身篭ってたんだし…何より…妊娠と同じような症状だった上に中絶までしてしまい…ミカさんは精神的にも身体的にも辛い状態だろう…」
「…身体は兎も角、精神は大丈夫です。あの状態が…ホワイトや他の皆になっていないから…」
「そうか。君は優しいんだな」
「…別にあたしはそんな事…」
「無駄のない身体だね」
ルドがミカの身体を見つめる。
ミカの身体はさっきまで魔物を身籠っていたとは思えない程に…仕上がりが良かった。
「…セクハラですか?」
「いいや、筋肉とか脂肪に全く無駄がないって意味でね。君は普段からこういう感じで夜中にこっそり鍛えていたんだなって」
ルドの言う通り、ミカの身体は無駄が無かった。
筋肉質で戦闘に向いている肉付きをしていた。
「………まぁ、はい」
「君が丈夫なのも理解ができるよ。丈夫な身体は自然治癒も早い。君がラッシュ師団の中でも一際目立って強いのも理解できるよ」
「………まぁ」
「でも君は…身体はできていても本来の力を最大限引き出せていないんじゃないかい?」
ルドがミカの目を見つめる。
「最大限…?」
「例えばそうだな…武器がそもそも合ってないとか」
「っ…」
ミカが腰に戻した銃剣を見る。
「あたしに武器が…合ってない…?」
「…あぁ、いや、言い方が悪かった。武器を持つのはいいんだけど、その武器だけが君の武器ではない気がしてさ」
「え…?」
「その銃剣、片手で構えているでしょ?」
「…まぁ」
「片腕、余ってない?」
「片腕が…余ってる………」
「これはいい意味で捉えてくれると助かるよ。俺はもう寝るね」
「あ…はい」
ルドがその場から去る。
「片腕………」
ミカが何かを閃く。
「…そうだ、力を…持て余してたんだ…あたし………」
――翌朝…
事態は起きた――
「………ん…」
ホワイトが目を擦る。
ホワイトただ一人、部屋に残されていた。
「…あれ、皆いない…」
ホワイトが辺りを見渡す。
「…なんか…外が騒がしいような…」
ホワイトが窓から外を眺める。
そこには予想外の光景が広がっていた。
「……え」
窓の外では吹雪が強く吹いていた。
「吹雪…またなの…?でもなんで…!?原因である魔物は倒したはずなのに…!」
ホワイトが通信機を操作する。
だが…
「っ…何…これ………」
ホワイトの通信機は圏外となって通信が繋がらなくなっていた。
「――まさか…吹雪による影響が…!?」
後書き~世界観とキャラの設定~
『ミカのスタイル』
…ホワイトよりも身長が低いがスタイルが爆発的に良い。
ルドが言った通り筋肉や脂肪に全くの無駄がないがそれはそれとして凄まじいプロポーションを持つ。
言ってしまえばボンキュッボンである。でも特段ムチムチと言う訳でもない。
ミカはそんな身体を別にコンプレックスに感じてはおらず、寧ろ丁度いい重りがある事で自分の力を制御しやすいとまで思うほど。




