ep110.災いの助太刀
「ランス…何故…何故お前がここに…!」
「さん付けで呼べ…と言いたいが、そう言ってる場合ではないみたいだな」
ランスが右腕に力を込める。
ランスがホワイトとミカ、サザナを目で追う。
「…ホワイトが大量出血…ミカは動けない…その綺麗な女性は恐らく妊娠中で魔物からの打撃を受けて動けない…か」
「っ…ランス………!」
「だがお前は動けそうだな、ミカに次ぐ問題児」
ランスがジンを青白い目で見つめる。
「ランス…ホワイトが…あの魔物に尻尾で刺されて…」
「…あぁ、重傷だな。回復できる奴が重傷だと戦闘は困難…」
「それもだが…そうじゃない…!ホワイトが…ホワイトが…あの魔物に…体内に体液を入れられた可能性が………!!」
「体液…なるほど、苗床か」
「このままじゃ…ホワイトが魔物を妊娠して………」
「…分かった、急ごう」
ランスが右手の拳を握り締める。
ランスがエクストデスの方へ歩き始める。
「っ…でも…あの魔物には俺の最大火力も…」
「急ごうと言った、ちょっと待て」
ランスがそう言うと、瞬間移動のような動きでエクストデスに近付く。
「っ…!?」
「グル!?」
「おらっ!」
ランスが飛び上がり、エクストデスの頭に瞬時に蹴りを入れる。
「ガアア!?」
エクストデスがランスの蹴りによって吹っ飛ぶ。
「っ…!?」
ジンがその光景に驚く。
エクストデスが雪に埋もれる。
「なんだよ…あの蹴り…というか…あの蹴りであの巨大な魔物を…吹っ飛ばしやがった…!?」
「終わりだ…!」
ランスが瞬間移動の様にエクストデスの近くへ寄る。
そして右腕に力を込め、倒れるエクストデスに殴りかかる。
「ガアア!?」
「お前は俺の団員を傷付けた」
ランスがエクストデスを青白い目で睨み付ける。
「だから、死ね」
ランスが不可能の災いの魔力を発動する。
「ガア!?」
エクストデスが石化し始める。
「っ…石化の魔力…!?」
「正確には二度と動けなくなる魔力、不可能の災いだ」
エクストデスが完全に石化する。
「っ…一瞬で…あの魔物を………」
「…ふむ」
ランスが右腕に力を込める。
「っ…!?」
ランスが右腕で石化したエクストデスを殴る。
石化したエクストデスにヒビが入り、バラバラに砕け散る。
「な…バラバラに………」
「これで、こいつの命は潰えた」
「つ…強い………」
ジンがランスの背中を見て驚いた表情をする。
「右目と左腕があればもっと楽に倒せたが…失った物は戻ってこないからな」
「っ…そんな事より…ホワイト………!!」
ジンが大量に血を流しながら倒れるホワイトに近付く。
「ホワイト……!」
「…う…ジン…君………」
「ホワイト……!しっかり…し………ろ………」
ジンが大量に出血しているホワイトの姿を見て涙を流す。
「っ………そうだ……魔物の体液を…抜かないと………」
ジンがホワイトの腹に触れる。
「痛いっ…うぐっ…がはっ………」
傷口に触れられたホワイトが苦しむ。
「っ…すまん………!」
ジンが手を離す。
ジンの手にはホワイトの血が付いていた。
「ジン君…私に…構わないで…お願…ゲホッ…」
ホワイトが吐血する。
「っ………ホワイト…待ってろ…今…治して………」
ジンがホワイトの血だらけの姿を涙を零しながら眺める。
「…でも…どうやって…魔物の体液だけを…抜くんだ……これは………」
「ジン」
ランスがジンに近付く。
「ランス………!」
「ホワイトを見せろ」
「っ………」
ランスがホワイトを見下ろす。
「団…長………」
ジンが涙を零す。
「俺には…回復させれない…ホワイトを……助けて………くれ………」
「ジン」
「ホワイトを………お願いだ………もう俺の目の前から…」
「大丈夫だ、この状態ならば――」
ランスが魔力でホワイトを睨む。
そして…ホワイトの中にあるエクストデスの体液が消える。
「………これでいい。ホワイトの血液の中からあの魔物の体液だけを抜いた。これで…苗床にされる心配は無くなった」
「っ…そんな事が………」
「不可能の災いの力だ。まぁ血を抜いたというよりかはホワイトの血液内に魔物の体液が存在できないようにルールを足した、それだけだ」
「っ…す…すげぇ………」
「ついでに止血も不可能の災いでできた。だが…出血を止めただけだ…今のホワイトは当然重傷で危ない状態だ…それに…俺に回復はできない…これ以降はホワイトの魔力次第だ」
「っ…」
ジンが絶句する。
「それに…今の俺には魔力の制限ができている…これ以上は…魔力が使えない…」
ランスが右腕を見る。
ランスの右腕は少し震えていた。
「魔力制限…?いや…それより――」
ジンがホワイトを見る。
「ホワイト………!!」
ジンがホワイトを揺する。
「っ…ジン…君………ランス…さん………」
「ホワイト………早く自分を…回復させてくれ………」
「…うん…そう…する………よ………」
ホワイトが自身に回復魔法をかける。
「っ………団長…」
ジンが立ち上がるランスを見上げる。
「なんだ、言いたい事があるなら早く言え」
「…ありがとう、ホワイトを…いや…皆を助けてくれて………」
「礼には及ばん。じゃあな」
ランスが吹雪の中、その場から去ろうとする。
ジンがランスを引き留めようとする。
「っ…!待て…!」
「なんだ?」
「会ったばかりなのに…もう…行くのか…?」
「あぁ。俺にはまだやるべきことがある」
「っ…ラッシュ師団…いや…シェールさんに会う事よりもか…?」
「…あぁ」
「どうして…!」
ジンがランスの腕を掴む。
ランスの腕は魔力故かジンにも熱気が感じられる程に熱かった。
「団長を辞めて…俺達の前からいなくなって…でも戻ってくるってシェールさんに約束しただろ…そして今…俺達に再び顔を出してくれた…それなのに…何故あの人に会おうとしない…?シェールさんがどれだけ辛い思いをしていたか………また…皆の前からいなくなるのか…?」
「…あぁ。お前の言うことはごもっともだ。だが…どうしてもやる事がある」
ランスがジンの腕を振り払う。
「やる事ってなんだよ!」
「…あぁ?」
大きな声をあげるジンをランスが睨む。
「お前は団長だけど…その感じ…俺の信じてた団長じゃねえ…!それに…ネオカオスの残党がまだ暗躍してる…この有様はネオカオスが起こしたことと言っても過言じゃない…!」
「団長…じゃない…か。それにネオカオス…か」
ランスが吹雪の中、白い息を吐く。
「またネオカオスの暗躍によって人々に…いや…また世界の危機に………だからラッシュ師団に戻ってくれ…!団長としてじゃなくてもいい…一人の人間として…!」
「今の俺にはラッシュ師団としてではなく…人間代表として、やるべきことがある」
ランスが再び背をジンに向ける。
「は…人間代表って…なんだよ…どういうつもりだよ…」
「いつか話す、今は話せない。それまで…ラッシュ師団を頼む、何れ分かる事だ。今回会った事はシェールや他の団員には黙っていてくれ」
「っ…!」
「お前には…何れ世界の未来を託すことになるだろう」
「は…世界って…何を言って………」
ジンが言葉を続けようとするが…
ランスが飛び上がり、その場から去る。
「っ………」
ジンはただ空を見上げる事しかできなかった。
「世界の未来を託す…俺にか…?意味…分かんねえよ…」
「う…うぅ………」
ホワイトが腹を押さえる。
「っ…ホワイト…!」
ホワイトの傷口は塞がっていたが、多量出血で身体を動かせなかった。
「ゲホッ…回復は…できても………身体が…動かないや…ごめん…ジン君………」
「っ…待て…しっかりしろ…」
ジンがホワイトをゆっくりと持ち上げようとする。
そして…
「ジン…!」
ロキが走ってジン達の元へやってくる。
骨折した足はホワイトの魔力でかなり治っていた。
痛みに苦しみながらも走るロキ。
「ロキ………」
「っ…この惨状は…なんだ………」
ロキがミカとサザナの方を見る。
「ミカが倒れてるのと…そのお姉さんは…何処かで見た事ある…確か何処かの教師を…」
ロキが血だらけで倒れているホワイトを見る。
「…!ホワイト…!!」
「っ…ロキ…君………ごめん…私…こんなにも…弱くて………」
「っ…兎に角…三人を病院に…!!」
「ロキ…さっき…俺達の前に…」
「ジン!よく分からないが今は後だ…今は皆を助けるのを手伝え…!!」
「あ…あぁ…」
ロキがミカとサザナを、ジンがホワイトを運び始める。
――数時間後…ゼッヒョウの街の病院にて…
「ゲホッ………」
ホワイトが咳をする。
ホワイトは病院のベッドで寝かされていた。
ロキは腕を組んでいた。
「ホワイトの身体は…止血は完全にされているし魔力による治療もされている。ただ…吹雪で少し身体を冷やされている関係もあるし少し安静にした方がいいだろう」
「そ……うか」
ジンが安心したのか、床に膝をつく。
「ジン…?」
「はぁ…はぁ………良かっ…た………」
「ジン…お前…」
「悪い…安心して…身体に力が抜けて………」
立ち上がれないジンをロキが見下ろす。
「…そうか。ホワイトはこのまま治していけば大丈夫なのと…ミカの方は別室で寝てもらってるがひとまずは大丈夫だ。体内にいた魔物はホワイトの先生とやらが分解して完全にいなくなった。ミカの方も少しの間安静にしたら完全に治るだろう」
「…そうか」
「ホワイトの先生は…もう妊娠を何か月も迎えている状態だったことが判明した。妊娠してる状態で無理に動きすぎだ。生徒のためとはいえ…やりすぎだ。暫くはここで見る事になりそうだ。先生の旦那さんにも連絡済みだ」
「…そっか…良かった………」
ホワイトが安堵する。
「先生と…先生のお腹の子が無事で…本当に………」
「ジン、ホワイトは何故あの状態になった?何故あんな重傷を…」
「…あのデカい魔物のせいだ…」
「魔物…エクストデスか」
「あの魔物にホワイトが腹を尻尾で刺された…」
「っ…尻尾で…!?」
「あぁ…」
「まさか…ホワイトの身体の中に魔物が…」
ロキがホワイトの方を向く。
「…いいや、それについては大丈夫だ」
「大丈夫って…何故…」
「それはあの時…」
「ジン君…」
事情を説明しようとするジンをホワイトが止める。
「ホワイト…?」
「…あの時は運が良くて体液を入れられずに済んだの。それに…ジン君があの魔物を倒してくれた…だから…」
ホワイトは咄嗟に嘘をついた。
それはランスからの約束でもあった。
「今回会った事はシェールや他の団員には黙っていてくれ」という言葉にホワイトは答えていた。
「ホワイト…?」
「………」
ロキがホワイトとジンの目を見る。
「…何れにせよ、お前達が無事なら俺はそれでいい」
「ロキ君…」
「ただ…暫くは救助は俺とジンとルドさん…とゼトラ教団の人達とでやる事になりそうだ」
「…そうだな」
「俺の方も…骨折はだいぶ治った。ホワイトの魔力故に回復が早く終わった」
ロキが頭を掻く。
「ジン君…ロキ君…ごめん…」
「気にするな。お前は暫く身体を休ませろ」
「…ありがとう、少しの間…言葉に甘えるね…」
「あぁ」
「…無理されて心肺停止になっても困るからな…」
ジンが小さな声で呟く。
「…ジン君?」
「…なんでもない。身体…大事にしてくれ」
「う…うん…?」
「ジン?」
ロキがジンの目を見る。
「どうかしたか?」
「…なんでもない」
「そうか。ホワイトとミカが暫く動けないし…かと言って急がないと行方不明者を危険に追いやってしまう。救えるかもしれない命を救いに行くぞ」
「あぁ、分かった」
ジンとロキが部屋から出る。
「ジン君…」
部屋から出るジンを目で追うホワイト。
「…ジン君…なんか様子が…ここ最近おかしいような…」
――ゼッヒョウの街にて…
街の中を歩くジンとロキ。
「救助の続きだが、行方不明者も指で数えれる程に減った。行方不明者を見つけたらホワイトがくれた応急薬を飲ませて体力を回復。俺達のどっちかでその人を担ぎ、街まで運ぶ。これなら俺達二人でも行ける」
「………」
「吹雪も弱くなってきたところだし、恐らくエクストデスの登場によって荒れた天候が元に戻った。通信機に記されている雨雲レーダー通りの天候になっている。お前がエクストデスを倒してくれたおかげだ」
「………」
「天候がいい今の内に救助を…って、聞いてるか?」
黙り込みながら歩くジンにロキが疑問を抱く。
「……あ、あぁ…聞いてる…さ…」
ジンが自身の頭を軽く叩く。
「大丈夫か?」
「…ロキ、変な事聞いていいか?」
「ん、どうした?」
「…ふとした瞬間、最悪な未来が見える事って…あるか?」
「…え?」
ロキが首を傾げる。
「ゼッヒョウの街に向かう最中から…何度か…現実になって欲しくないくらい…最悪な未来が見えるんだ…ふとした瞬間に…視覚として…うっすらと見えるんだ…」
「最悪な未来が見える…か」
ロキが腕を組む。
「別に無くはないな。ただ…夢の中でならって感じだな」
「夢の中で…」
「あぁ。その未来が訪れてほしくないと思うくらいには酷い悪夢を見た事がある。過去に数回…正夢になって…団員を失った事も何度かあった…俺には…夢の中で見た未来を変えれなかった…防げなかった…」
「…そうか。夢の中…か」
ジンが額に手を当てる。
「お前の言い方だと…意識が基本ない夢の中ではなく、意識がある状態の時に起こる症状…みたいなものだろうか」
「…あぁ」
「どんな未来だ?」
「…簡単に言えば…ホワイトが…死ぬ未来だ」
「…ホワイトが」
ロキが腕を組む。
「だからあの時ホワイトが安静にすれば治るって分かった時…酷く力が抜けてたのか」
「…そうだ。あの時…本当にホワイトを失うかと思った…また…死ぬんじゃないかって…」
「…そうだな…また…か」
ロキが頭を掻く。
「…一度生き返っているんだったな。確か…ウィッシュマウンテンの…」
「…あぁ」
「そういえば…ウィッシュマウンテンに行った団長はどうしたんだろうか」
「っ…」
ジンがロキの言葉に息を詰まらせる。
ランスは今どこにいるのかロキは気になっていた。
「あれからもう一か月半は経っている。進展があってもおかしくはないと思うが…」
「…元気にやってる」
「え?」
ロキが首を傾げる。
「あっ…言い方が良くなかったな…ランスの事だ…あいつならきっと…元気でやってる、そんな気がする。今はきっと山にいるあの女神族と交渉してる最中かもな…」
「あぁ…そうだな。女神族と交渉…か」
ロキが腕を組む。
「そういえば、ホワイトはネオカオスの一件で女神族の魔力に目覚めてたな」
「…そうだな」
「あれ以来…女神族の力に関しては特に進展はないみたいだが…どうなんだろうか」
「…それは俺もよく分からない。ここ最近は女神族の力とは別で繋命の方に重点を置いてたからな…」
「それもそうか。そうなると…うーん………」
ロキが空を見上げる。
ジンがロキの方を見て少し悲しそうな顔をする。
「…なんか、ごめんな」
「気にするな。お前から悩みを打ち明けるなんて珍しいな。俺を頼ってくれるなんて嬉しいぞ、ジン?」
「っ…別に…俺はそんなつもりじゃ…」
「悩みを聞く事ならいつでもできる。解決までできるかは知らないが…まぁ、その…なんだ、俺を頼ってもいいんだぞ」
「…あぁ。助かる」
ジンが小さく微笑む。
「それで…お前の見る最悪の未来の話…か。何度か起こったと言ってたが、具体的にどの場面で起こった?」
「えっと…一回目は電車の中で…二回目はホワイトの手に触れた際…三回目は…ホワイトの先生を運んでいた時…」
「…なるほど。その内容は?」
「一回目は…ホワイトが寒さにやられていて…二回目は…その力を使えって言われて…三回目は…ホワイトが心肺停止になる未来だった…」
「…酷い未来だな。だがひとつ気になるとしたら…」
ロキが腕を組む。
「二回目の…『力を使え…』とはどういう意味だろうか」
「…俺にも分からない。まるで…俺に秘められた力があるような…そう言う言い方に聞こえる…」
「ほう。まぁ、秘められた力があるって、結構珍しい事でもないか」
「…そうなのか?」
「ホワイトとか、特にそうだろ?」
「…確かに」
「秘められた力がある奴なんて幾らでもいる。漸くお前の番が来たって感じだな」
「…そういうものなのか。そうか…秘められた力…か…」
ジンが自身の手のひらを見る。
「二人が動けない間に、俺等で救助しに行こう。その間に…お前の秘められた力が開花するといいな」
「そうだな。よし…行こう」
――ロキとジンが走り出す。
ゼッヒョウの地に来た、本来の目的である救助を完遂するために――




