ep107.潰えぬ絶望
吹雪の中…
「ホワイト…!!」
「………」
ジンが気を失っているホワイトを揺する。
「ホワイト…ホワイト…!起きろ………!」
「…………ん」
ホワイトが目を開ける。
「……ジン………君…?」
「っ…良かった…この吹雪の中…雪に顔を付けて…気を失ってたから…息もしないから…死んじまったかと思って………っ」
「…!」
ホワイトが顔を上げる。
「っ…そっか………」
ホワイトが自身の手を見る。
「…ホワイト?その顔…」
「え……?」
「泣いてた…のか………?」
ジンがそう言うと、ホワイトの顔には涙が凍った跡が付いていた。
「あ…え………」
ホワイトが涙の氷をゆっくり触る。
そしてホワイトは、ジンの目を見る。
リュンヌに言われた今まで出会った人達を頼る…その言葉を思い出す。
「…ジン君………」
「…どうした…ホワイト………?」
「お願いがあるの…」
「お願い…か」
ホワイトが拳を握る。
「…私…まだ…抗いたい」
「と、言うと…?」
「ミカを…まだ助けれるかもしれないって思ってる…だから………ミカを助ける方法を…探したい………!」
「…そうか。分かった」
ジンが立ち上がる。
「ジン君…?」
「ラッシュ師団に入ってから…俺は…いや、俺達は…そういう割り切りができるようになってきてしまってたんだ…けれど…心の奥底では…俺は割り切れてない………ミカやロキみたいに仲間を失うのは…慣れてないんだ………」
「ジン君…」
「…だから、俺もお前に協力する。ミカを救う方法を…考えるぞ………!」
「ジン君…!!」
「とは言え…時間がないのは事実だ。それに救助の方もある…休む時間はもうない…最悪の場合は諦めるのも視野だ。その覚悟の上で行くぞ」
「…うん…分かってる。私も…覚悟の上だよ………」
「あぁ。助かる」
ジンがホワイトに手を差し伸べる。
「ひとまずここは寒い。それに街の外ではなかなか情報も得られないはずだ。ルドさんにも協力をしてもらおう。過去の情報を引っ張り出せば何か別の方法があるかもしれない」
「…ありがと、ジン君」
「おう。困ったときは…お互い様だ。だって…お前の恋人…だからな」
「っ…そ…そうだね…」
ホワイトが手を赤くしながらジンの手を掴む。
――一方…ラッシュ師団の基地の団長室では…
「…ふぅ。かなり大変ね…けれど後少しで仕事が…」
団長室に団員が急ぎ足で入る。
「シェール団長…!ゼッヒョウに向かったロキ副団長から連絡です」
「えぇ、分かったわ」
「どうやら…緊急連絡のようで…」
「緊急連絡…!」
シェールが団員から通信機を受け取る。
シェールが通信機を使い、ロキのホログラムを出す。
「ロキ君…緊急って…何かあったの…!?」
『…シェール…さん』
ロキの声はいつもの冷静さを失っていた。
「どうしたの…?何か…元気が無さそうな声…」
『…ミカが………』
「…!?ミカちゃんが…まさか…死………」
『…いや…まだです。ミカは…今は大丈夫です』
「っ…なんだ…ビックリさせな………」
シェールが途中で言葉を止める。
言葉の言い回しにシェールが気付く。
「…"まだ"って…何…?"今は"…って…何…?」
『………ミカが体内に…魔物を身籠ってしまいました…』
「は………?」
シェールが絶句する。
一瞬の出来事すぎて、シェールには理解できなかった。
「魔物を身籠るって…それどういう事…?」
『魔物の苗床にされて…人間で例えるなら…妊娠…そう言った状態に陥って…』
「は…妊……え………?」
『…ミカの体内に身籠られている魔物が育ったら…何れは………』
「っ………」
シェールが通信機を落とす。
「………あ」
シェールが通信機をゆっくり拾う。
シェールの手が震えていた。
「………はは………え………ロキ…君…?何かの冗談…よね………?ミカちゃんが………魔物を妊娠………?あははは………人間は人間としか子どもはできないんだよ………?犬と人間では子どもができないように他の生き物とは生殖は不可能………そんな馬鹿な事………」
『……………』
「っ………黙ってないで…何か…言って…よ………」
『………このままじゃ、ミカは何れ死にます…。仮に生き永らえたとしても…魔物を産んだミカの身体は何れ…精神的にも身体的にも………』
「…そう………」
シェールが口を押さえる。
「………解決策は…」
『………残念ながら…現状の我々の技術や魔力では…』
「っ………」
『カルム師団のルドさんにも協力してもらっていますが…もう………』
「………分かった…わ………」
シェールが口を押さえる。
シェールは吐き気を催しそうになっていた。
『…それと、もうひとつ…ネオカオスの残党と思われる者がゼッヒョウの地周辺にいる事が分かりました』
「残党…」
『そして…奴の発現曰く、ネオカオス四天王やジハに代わるような何かが…動かしているという事も…そして…ミカを苗床にした魔物も…ネオカオスが所持しているという事も…』
「っ…!ネオ…カオス………!」
シェールが拳を握る。
「…ネオカオスの情報が分かり次第…すぐに連絡を頂戴。何も分からないからこそ…今は情報が必要よ。お願い…ロキ君…!」
『…分かりました』
「それと…皆なら大丈夫だと思うけれど…救助をして…そして…三人で…生き延びて…」
『三人で…か………』
「ミカちゃんは…ミカちゃんが…もし…魔物と化したら…あの子のために………殺してあげて………」
『っ………』
「あの子はきっと…そう言うから………」
シェールも決心はしたくなかった。
だが…シェールもまた、魔物については知らなすぎた。
『…承知致しました。その時は…俺が………!』
「…頼むわ」
シェールが通信を切る。
「……………魔物を…妊娠…か………」
シェールが自身の腹を摩る。
シェールが自分が魔物を妊娠してしまった時の事を想像し始める。
「っ…この中に……自分が望んでなかった子が…魔物によって…無理矢理…入れられたって事…なの…?」
シェールが絶望した顔をする。
「うっ………」
シェールが口を押さえる。
「…想像したら…吐きそう………」
――一方…ゼッヒョウの地の病院の廊下を歩いているホワイトとジンは…
「ジン君…ミカの身体の中にいる魔物って…どんな魔物だっけ………」
「成体…と思われる奴はエクストデスって言った魔物だったな。ルドさんの情報によると…どんな環境にも適応する鱗を持ち、何処から生まれ何処で育っているか…不明との事だ…」
「出生が不明……でも、今ミカの身体の中にはその幼体が入っている…つまり………人間から生まれて…その前は…?」
「さぁ…それに…人間から生まれるにしろ、何故こんな魔物が人間から生まれるかが分からない…本当は何処から生まれているのか…少し調べたいところだ」
「…調べる時間があれば…だけれどね…」
「あぁ…時間が無いのはもう確定している。ひとまずミカの元へ行こう。そして…症状を改めて確認しよう」
「うん………!」
ミカとロキがいる病室にて…
「ミカ…!」
「…ホワイトとジンか」
部屋に入る二人。
だがそこにはロキしかいなかった。
「ホワイト…その…さっきは…ごめんな」
「っ…ロキ君…ミカは?」
「………ごめん」
「え………?」
ロキが目を逸らす。
「外に出て空気を吸ってくると言ってから少し帰りが遅い。だから通信機を使って何度か連絡しているが…繋がらない」
「繋がらないって…」
ホワイトが通信機を操作する。
「ミカは何処まで行って…」
ホワイトがミカに通信を繋ぐ――
だが、数分経ってもミカは通信に出なかった。
「っ…ミカ………?」
「…もしや…」
「あぁ…もしかしたら………」
「っ…!?」
ホワイトが驚いた表情をする。
「もしかしたら…って…何………?」
「…ミカはもしかしたら………」
ロキの身体が震える。
「………ロキ君…?」
「…あぁ、それが…正解なのかもしれないな………」
ロキが拳を握る。
「正解って…何が………」
「ミカは………ただ一人…俺達を残して…自殺しようとしている………」
「っ………!?」
ホワイトが絶望する。
「は………そ……じさ………え……………」
ホワイトが涙を流す。
「なん…で…そん…………」
「…………だが…これが…寧ろ正解…なのかもしれ――」
「っ……!」
ホワイトがロキの頬を叩く。
頬を叩く音が、部屋に鳴り響く。
「っ………」
「正解なんて言わないでよ………!!」
ホワイトが大きな声をあげる。
「ホワイト………」
「自分で死ぬ事が正解だなんて…そんなのおかしいよ…!!」
「…あぁ、その通りだ」
「ミカが死ぬ運命を変えられないなんて絶対に嫌だ…!何か方法が…絶対…ある………!絶対――」
ホワイトは繋命の世界でリュンヌが言った「この世界に絶対なんてない」の言葉を思い出す。
その言葉は、希望ではなく絶望を意味していたのだと解釈する。
「っ…あ………」
ホワイトが床に膝を付く。
「そん……な………」
「ホワイト…?」
「もう…ダメ…だ………」
ホワイトの涙が床に零れる。
「あ………ミカ………最期くらい………あなたを見て…見送って…それで………」
「………」
「そうだ…私の繋命の力で…まだミカの元へ…行ける………ミカを探して…それで………!」
ホワイトが目を瞑り、ミカの気配を感じ取ろうとする。
「…!ミカ………!」
ホワイトが目を開け、すぐさま部屋を出る。
「ホワイト…!待て…」
「…俺達の…力じゃ…もう………」
「っ………」
「ホワイトの回復や…ミカ本人の魔力でも不可能だ…もう…受け入れるしかないんだよ………」
「………そう………かよ」
ジンが頭を搔く。
「…少し、救助に行ってくる。ルドさんやゼトラ教団の人達にも協力を依頼してくる」
「あぁ…分かった」
「ロキも…早く身体を治してくれ。頼む」
「…あぁ、勿論」
ジンが部屋を出る。
「………ごめんな………ミカ…ホワイト………」
――部屋に一人残されたロキは、ただ一人で自身の無力さを嘆き、泣いていた。




