ep106.絶望を乗り切るには
――死獣エクストデスによってミカの身体に魔物の子種が埋め込まれている、そう伝えたロキ。
ホワイトが床に膝を付いて絶望する。
「…ロキ、俺にはよく分からん…」
「…ミカは魔物の苗床にされたんだよ…」
「苗床…つまり?」
「…人間で言う…妊娠みたいなものだ」
「は…?」
ジンが絶句する。
「そ…え…冗談…だよね…?魔物を…つまり…人間の身で………妊娠したって…事………?」
「………」
「ねぇ…ロキ君…黙ってないで…何とか言ってよ………?」
ホワイトがロキの方を見る。
「ねぇ…!!」
「…もう…確定してるんだよ…ホワイト…」
「っ…!」
「…あたしは…奴に尻尾で刺された際…体液を注入されて…腹の中に化け物を身籠ってしまった…あたしは…もう…ここまでみたいなんだよ………」
ミカの身体の中にはミカを刺した魔物の体液が回っていた。
そして今、ミカの子宮の中に魔物の子どもがいるのだった。
「っ…ここまでって…そんな…死ぬ…みたいな言い方…辞めて…よ………」
「なら…あたしに今後生きれる保証があるの…?」
「っ…!」
「魔物を妊娠だなんて…ホワイトの回復でもどうにもならない状態異常のような物よ…あたしはこのまま…化け物が生まれるのを…震えながら待つしかないの………」
「っ…そんなの…!」
「あはは、どうせなら…普通に人間らしい恋愛をしてから…死にたかった…なぁ………」
ミカが自身の顔を手で隠す。
「っ…!ミカ…ダメだよ…諦めないでよ………!」
「ホワイト………」
ジンがホワイトの肩に手を乗せる。
「ジン…君…?」
「…ロキ、ジン…今までありがと」
ミカが下を向きながら喋る。
「…二人とも、ホワイトをお願い。アンタ達にしか…頼めない」
「………あぁ」
「こればかりは…止められない…か……」
「っ…二人とも…!?何で…何を言ってるの…?何か止める手段が…あるんじゃ………ない…の……?」
「…ある訳がない…。俺達は…魔物について知らなすぎる…!」
「…残念だが…俺も分からない…」
「っ…ルドさんまで…」
今まで人間と戦ってきた一行…魔物についてはあまりにも知らなすぎた。
「…化け物を身籠ったのが…ホワイトじゃなくて良かった。あたしで…良かった…」
ミカが自身の腹を摩る。
「っ…こんなの………!」
ホワイトが部屋から出る。
ホワイトの目から涙が出ていた。
「ホワイト…!」
「………」
「………クソッ…」
ジンが拳を握る。
「…俺、ホワイトを追いかけてくる」
「…頼む」
ジンがホワイトを追いかける。
「………」
ミカが自身の腹を摩る。
そして、ミカが決心する。
「………ロキ、アンタは身体が回復したら…あの二人を指導して。そして…もし、あたしが死んだら…シェールさんに報告して…ミカは…己の使命を果たして死亡したって…」
ミカの願いにロキが小さく頷く。
「…分かった。お前の…最期の願いだな」
「…うん。あたしは…最期だし…ちょっと…外の空気を浴びてくるよ…」
「…あぁ、分かった」
ミカが部屋から出る。
「…ロキ君」
ルドがロキの目を見る。
「…はは………」
ロキの目から涙が出る。
そして…自らの思いを打ち明ける。
「…あの頃から…あいつの事が好き…だった…でもこれが…あいつの運命か………」
「…ロキ君」
「…ルドさん…人間が魔物を孕んでしまった場合…なんとかそれを止めるとか…中身にいる魔物だけを殺すとか…みたいなのは…できないんですか…?」
ロキがルドの顔を見るが…ルドは絶望の顔を浮かべていた。
「…残念ながら…前例が…ないんだ………。魔物を孕んだ者は……魔物が普通に人間の出産みたいに出てくるか…或いは………身体の中で育った魔物に無理矢理身体を引き裂かれて死ぬか…そう言う未来しかない…」
「っ…なんだよ…それ………」
「人間とはかけ離れた性質をしてるんだよ…奴等は…」
「っ………」
ロキが絶句する。
「それに…エクストデスの場合だと…話が変わる…奴の場合…身籠った本人が魔物になってしまう可能性もある…実際に…奴を身籠った女性の半分はエクストデスやその近隣種となり…」
「もう…辞めて…下さい………」
「…あぁ、ごめん…」
「………ミカ……あの時…俺がお前の事を…守れなくて…ごめん………」
――ゼッヒョウの地の外にて…
吹雪が強くなっていた。吹雪の中ホワイトが走り出す。
「っ…!吹雪が…強い………」
「ホワイト…!」
ジンがホワイトに追い付く。
「ジン君…」
「こんな吹雪の中…外に出るんじゃねえ…!」
「っ………ジン君は………怖くないの………?ミカが…魔物を産んでしまうかもしれないって言うのに…ミカが…魔物になってしまうかもしれないのに…ミカが…死ぬかもしれない…のに………」
「っ…………」
「ミカが死んだら…私…私………」
ホワイトが涙を流す。
「まだ私…ミカに何も恩返しできてない………」
「ホワイト…」
「私は…ミカに何もできず…ミカを見殺しにしてしまうの………?」
「…!」
「ミカに何も…」
「ホワイト…」
ジンがホワイトの腕を掴む。
「お前の今の使命は…ラッシュ師団として…ゼッヒョウの地の遭難者を助け出す事…だろ………?」
「っ…」
「なら…それに答えるのが…ミカを見殺しにしないやり方…なんじゃないのか…?」
「っ…そんな事言われたって…」
ホワイトがジンの腕を振り払う。
「ホワイト…?」
「ミカの行き先を…運命を受け入れるなんて…できない………!!」
ホワイトが走り出す。
ホワイトにはミカの運命を受け入れることはできなかった。
「っ…!?ホワイト…!馬鹿…そっちは街の外だぞ……!!」
「ほっといてよ…!!」
「っ………」
ホワイトが街の外に出てしまう。
「………あぁ………そう……だよな…」
ジンが拳を握る。
「…ホワイトは優しい奴だから…すぐ受け入れるなんて…無理だ………」
――吹雪の中歩くホワイト…
「っ…寒い………」
ホワイトが身体を震えさせる。
「…ミカが…死んでしまうのも嫌だけど…何より魔物を産むなんて嫌だ…そんなの…人間辞めるのと同義だよ…ミカには…ミカには…ミカが認めた旦那さんとの子どもを作って欲しい…それだけなのに…」
ホワイトは雪に足を取られる。
「うわっ…!」
ホワイトの顔が雪に埋まる。
「うぐっ……冷た………」
ホワイトが顔を腕で拭う。
「………何やってんだろ…私………」
ホワイトが雪を見続ける。
「…私…どうして…ここにいるんだろう………私は………誰かを助けるために…ここに来たんじゃなかったの………?」
「でも…結局私は…魔物に侵食された仲間一人すらも助けれない…弱者…だったんだ………」
(…そっか、これが…運命…か)
(お母さんが死んだのも…ミカが体内に魔物の子種を植え付けられてしまうのも…全部…運命…なんだ…)
(…そっか…必死で運命に抗おうとしてたんだ…私…)
(でも…私は…運命に抗う所か…かえって酷い運命を作ってしまってるんだ………私が何もしなければ…もっと…平和な運命を………)
(こんな辛い思いをするなら…もう………吹雪の中で…雪の中に埋もれて死んだ方が…マシだよ………)
ホワイトは遂に、吹雪の中で気を失ってしまう――
「………」
ホワイトが真っ白な世界で横たわる。
「………あ」
ホワイトが立ち上がる。
「……ここは…繋命の…」
「また会えたね、ホワイト」
「…!その声…」
ホワイトの傍にはリュンヌが立っていた。
ホワイトの複雑な気持ちは、ホワイトとリュンヌを会合させることとなっていた。
「お母さん…」
「私に何度も会ってくれるなんて嬉しいよ、ホワイト」
「…お母さん…私…私………」
ホワイトがリュンヌに抱き付く。
「どうしたの?」
「どうすればいいか…分からないの………」
「ん、そっか」
リュンヌがホワイトの頭を摩る。
「ミカが…ミカの体内に…魔物の子供がいて…ミカはじきにその魔物を産み出すか…魔物が内臓を突き破ってミカが死んじゃうか…もしくは魔物そのものになるかもしれないってなってて…私の魔力じゃどうしようもできなくて…でも皆は…それを受け入れていて…でも私は受け入れられなくて…それで………」
「…なるほどね」
リュンヌが泣きじゃくるホワイトの頭を撫でる。
「ホワイト以外のラッシュ師団の人って、そういう割り切りができるのが凄い所だよねぇ。仲間が死んだ後も少ししたらその仲間の分も生きようって頑張ろうとする所…私はちょっと凄いなとは思ったよ」
「…そう…なんだ…」
「でも、別に正しい事だとは思わないよ」
「…お母さん?」
「かと言って、間違っているとも思わない。正しいし正しくない」
リュンヌがホワイトのまぶたの下に付いている涙に触れる。
「お母…さん…?」
「ミカちゃんの事…少しずつ受け入れてもいいし…でも、もう少し抗ってもいいんじゃないんかなとも思うよ」
「抗う…」
「私もさ…実はちょっとそう言う経験があってさ。丁度…ホワイトが生まれる前…だったかな。ちょっと病気を患ってしまってさ…」
「え…病…気………?」
リュンヌはかつてホワイトを産む前の事を思い出しながら話す。
「その頃…とある魔力による病気が流行っていて…あなたを妊娠してた時の私もそれにかかってしまったの。あなたのお父さんが私の事を必死で回復してくれてたけど…それでもダメでさ………」
「っ…お父さんの魔力でも………」
「かかったら致死率100%の病気…つまり、絶対死ぬ…そんなレベルの病気だった。私とホワイトは…本当はあの頃死ぬ運命…だったんだよ。あなたは生まれず…私は夢を叶えられず…死ぬ運命だった」
「っ………」
「あの頃の私はさ…諦めてたんだよね…酷いお母さんだよ全く…」
リュンヌが苦笑いをする。
「…でも、お父さんはずっと諦めなかった。これは私の問題だけじゃなくて家族全員の問題だって…ずっと言い張っててさ。あの頃は馬鹿だなぁこの人って思ったよ。彼みたいな強い回復魔力を持つ人でも治せなかったのに…もう治せる訳ないって。でも…あの人は必死に病気を治すための薬を…色々な人と協力して魔力も駆使して開発して…私どころか病気にかかった人を沢山救い出してさ………」
「っ………お父さん…凄い………」
「彼が諦めていなかったから…ホワイトが生まれてきてくれた。今のように元気に…ね」
「っ…お父さん………」
「…それに、この世界に絶対なんてない…そんな気がする。ミカちゃんが絶対救えないなんてこと…あっちゃ嫌でしょ?」
「っ…嫌だ…!」
リュンヌの言葉を聞いて、ホワイトが強く否定する。
ホワイトの心の中には救いたいという気持ちでいっぱいだった。
「そうよね。だったら…もう少し抗ってもいいと思うの。私は現実世界に関与できないからミカちゃんに今時間がどれくらいあるかまでは分からないけれど、まだ抗える時間ならば…抗っていいと思う」
「…そうだ…抗える時間…まだ身籠ってから数分しか経っていない………そっか、まだ…あるかも…」
「死んでしまって繋命で繋ぎ止められている私ができる事なんて精々親としてホワイトを励ます事くらいしかできないけれど、あなたが生きている限り…繋命を使える限りは…親としてもっと何かしてあげたい」
「お母さん………!」
「まぁ…死んでしまった以上お父さんより頼りないけれど…ね?」
リュンヌがホワイトを笑顔で見つめる。
「っ…頼りないなんてこと…ない…!お母さんは…私なんかより断然凄い人だから………!」
「ふふっ、ありがと」
リュンヌがホワイトを撫でる。
「それに…お母さんは――」
リュンヌの身体が光り出す。
「…!」
「ん…時間か」
「…まだ、あの時の消費した魔力は戻り切ってないの…?」
「そうみたい。迷惑かけてごめんね、ホワイト」
「っ…そんな事…!」
「時間制限はちょっとあるけれど、また何かあったら会いに来てね」
「…うん…分かった………!」
ホワイトがそう言うと、リュンヌが別の方向へ歩き始める。
「そうだホワイト、もう一つ言わせて」
リュンヌがホワイトの方を振り向く。
「…ホワイト、あなたは一人じゃない。何かあったら…皆を…仲間だけじゃなく…今まで出会った人達も…頼るんだよ」
「…!」
「じゃ、行くね」
リュンヌがホワイトの目の前から姿を消す。
「………お母さん」
ホワイトは目を瞑る。
そしてまだ、自分には抗えると考えていた――
後書き~世界観とキャラの設定~
『ホワイトを産む前』
…リュンヌはホワイトを産む前、とある魔力による病気にかかってしまい、二人とも死ぬ運命だった。
だがその運命を捻じ曲げたのがホワイトの父であるソレイユ。病気を治すための薬を多くの人々の協力の元開発し、多くの人間を救った。
それによりリュンヌもホワイトも救われたのであった。




