ep104.死獣
「………おい………クソ野郎………」
ロキが魔力鎧を纏い、エクストデスを睨む。
「貴様…絶対………殺す…!!」
ロキがエクストデスの顔面に殴りかかろうとする。
「グルルル…」
エクストデスが翼を広げる。
「っ…!またあの風が…!」
エクストデスが突風を起こし、ロキを吹き飛ばす。
「がっ………」
ロキは吹き飛ばされ、その場に倒れる。
「クソッ…魔力を以てしても…クソッ…!!」
「グルル!!」
エクストデスがロキに瞬時に近付く。
「…!?速い…!?」
エクストデスの前脚の爪がロキを引き裂く。
「がっ………」
ロキの血が辺りに飛び散る。
「ぐっ…クソッ…こいつ………」
ロキがエクストデスを睨む。
だが、あまりにも実力の差を感じていた――
「強…すぎる………!」
エクストデスがロキにゆっくりと近付く。
「クッソ…」
ロキが傷を押さえながら立ち上がる。
「吹雪を押さえたと思ったら…!!」
エクストデスがロキを引き裂こうとするが、ロキがエクストデスの爪をかわす。
「…また…バケモンの相手をしないとかよ…クソッ…!」
ロキが再びエクストデスに殴りかかろうとする。
「グルル…!」
だがエクストデスはその攻撃を受け流す。
「…!」
「ガルア!」
エクストデスが振った尻尾がロキの腹に当たる。
「がっ…!」
ロキは尻尾を腹に当てられた衝撃で吐血する。
「ゲホッ………」
ロキが吹っ飛び、倒れる。
「………クソッ…なんで…だよ………」
ロキが立ち上がろうとする。
「なんで…俺は…副団長になってまで…」
ロキがエクストデスの方を見上げる。
「こいつに…負けなきゃ…いけないんだ………」
ロキが立ち上がろうとするが、足の痛みに苦しむ。
ロキの右足は骨折してしまっていた。
「ぐっ…まずい………」
(今ので…骨逝っちまってた………)
「グルル…」
エクストデスがロキを前脚で掴む。
「っ………!離…せ………」
ロキが抵抗する。
その抵抗を物ともしないように…エクストデスが口を開ける。
「………!」
エクストデスの口の中にゆっくりと入れられるロキ。
その時走馬灯のように映る、ロキのトラウマ。
エクストデスに似た、灰色の鱗の魔物の口の中に、同じように入れられる情景を――
「そう…か………あの時…本当は…奴に食われる運命だったんだ…」
ロキが静かに運命を受け入れようとする――
「そうだ…運命は決まってる…例えあの時止められたとしても…先延ばしに過ぎなかったんだ…ゲホッ…」
ロキが吐血する。
ロキの吐いた血がエクストデスの喉元に落ちる。
「…ごめん…ミカ………お前を………守り………切れ――」
「諦めないで…!!」
「………?」
謎の声がすると、ロキの身体が突如宙に浮く。
「ガルル!?」
「………は…?な……」
その瞬間、ロキの身体がジンに掴まれる。
「ジン…!?」
「ロキ………!」
「なんでここに…」
ロキの身体はジンによって抱かれていた。
そして、そこにホワイトやルドも駆け付けていた。
ホワイトがエクストデスの腕を切り裂き、ロキを解放していたのだった。
「そんなのは後だ…!それより………今は逃げるぞ……!!」
「っ…!」
「ホワイト…!」
「うん…!」
ホワイトがエクストデスの攻撃を繋命剣で押さえる。
「ホワイト…なんでお前…――」
「ロキ君…今はそんな事言ってる場合じゃ…!」
「っ…そうだ…ミカが…!!」
「ミカが…!?」
ホワイトが後ろを見ると、ミカが血を大量に流して倒れていた。
「っ…!ミカ………!」
「ミカさん…!」
ルドがミカに近付く。
「ミカさん…しっかり…!!」
「ルドさん……ミカを…安全な場所に運んで………!!」
ホワイトがエクストデスの攻撃を弾く。
「ガルル…!!」
「バール先生から貰った魔物特効用の薬…これを…!」
ホワイトが薬をエクストデスの口に投げ込む。
「ガルル…?」
エクストデスが疑問に思ったその瞬間…
「ガルルル!?」
エクストデスの口元が爆発する。
まるで薬ではなく爆弾のように爆発する。
「…!」
「よし…!」
エクストデスが気を失う。
「っていうか…薬と言うより爆弾…いやそんな事より…!」
ホワイトがエクストデスから距離を取る。
「今はゼッヒョウの地まで降りましょう…!」
「あぁ…ミカさんが重傷だ…すぐに治療しないと…!!」
「っ…!そうだった…ミカ…!!」
ホワイトがミカに寄ろうとするが…
突如吹雪が起こる――
「っ…!?」
「吹雪…!?そんな馬鹿な…!!」
ロキが驚いた表情をする。
「吹雪の原因は討ったはず…それなのに…!!」
「ロキ…今は後だ…!お前も重傷なんだぞ…!!」
「っ…でも…!」
「後で全部話せ…!今は皆無事に帰るのが優先だ…!魔物が気を失っている間に…!」
「っ………クソッ………」
「うぐっ…この吹雪だと回復魔力が使いづらい…!」
吹雪に苦しみながら移動する一同…
「急ぎゼッヒョウの地に向かうぞ…!」
「あぁ…回復は一旦後だ…!!」
「うん……!」
ジンがロキを、ルドがミカを抱え、皆は山を降り始める。
――ゼッヒョウの地の病院にて…
「ルドさん…!」
ミカとロキがいる病室にルドが入る。
「…街の方にまで吹雪が来てる…原因はアイスドラゴ…だけではなかったみたいだな…」
「っ…まさか……」
「あぁ…恐らく犯人は別でいる」
「っ………そんな…」
ホワイトが絶句する。
「ロキ君とミカさんの容態は…?」
「ロキ君は…大丈夫…」
「…ルドさん、ここまで運んでくれてありがとうございます…」
「いいや…君を運んだのはジン君だ。ジン君に感謝してくれ…」
「…あぁ、でも…あんたはミカを助けてくれた…俺も運んでくれたようなもんだ…本当に…本当に………」
「それで…ミカさんの方は……?」
「ミカが…」
ホワイトの目から涙が出る。
「ミカが…ずっと目を覚まさないんです……」
「…そうか」
ルドが眠っているミカの頬に触れる。
「この吹雪に加えてこの出血量だ…もしかしたら一気に体温が冷えて…それでやられた可能性がある…」
「っ…そんな…!」
「…暫くはこの暖かい部屋で眠らせてあげよう…。ロキ君も身体を休ませてくれ…」
「…そうさせて頂きます」
「ジン君は?」
ジンの姿は今ここになかった。
「ジン君は今…救助した人達の方を見てます。皆…身体はとても冷えてたけれど、命に別状はないって…」
「そうか…良かった…!」
「ミカ………」
ホワイトが眠っているミカに回復魔法をかける。
「…俺のせいだ…」
「ロキ君…?」
「俺が…あの時…ミカを庇いきれなかったから…」
「っ…」
「俺が…あの時ミカの代わりに攻撃を受けなかったから…ミカが…こんな目に…!」
ロキが自身の傷付いた右手を見る。
「俺は…副団長失格だ…」
「そんな事ない…!ロキ君は…ミカを守ろうとしてた…だから………だから………」
ホワイトが涙を流す。
「ネオカオス…奴等がまだ暗躍していた…」
「え…」
「あの口振り…服装…シンボル…間違いなかった。ネオカオスは…ジハも四天王も失ってもなお未だに活動を続けている…クソッ…!」
「そんな…ネオカオスが………」
「ジハ亡き今も…ネオカオスが暗躍できるという事は…ジハに代われる程強い奴が奴等にはまだ残っているって事だ…」
ロキが拳を握る。
「奴等…あの魔物をどうしてかは分からんが手懐けていた…あの魔物…とんでもない魔力を感じた………エクストデス…ネオカオスの奴はそう言ってた…。あいつが…ラッシュ師団に入る前の俺が…殺されかけた魔物の名…!!」
「っ…!」
「あの魔物は…俺が絶対に仕留める………絶対に……絶対に殺してやる………!!」
ロキが胸を押さえる。
「ゲホッ…」
ロキが咳をする。
ロキの身体もかなりダメージを受けていた。
「ロキ君…!」
「…クソッ…つい力んでしまった…身体が圧迫されているような感覚だ…クソッ………」
「私の回復魔法は重傷だと一瞬では治せない…ロキ君が恨みを持ってるのは分かるけれど…今は身体を休めて………」
「…そうだな。あの時と一緒…だな…俺がジハにやられて身体中を骨折してた時の…」
「っ…その時は…本当に怖かったよ…」
「…あの頃より俺は…成長できてるかな…」
ロキが天井を見上げる。
ルドがロキに話し始める。
「………ロキ君、君が戦った魔物の名前はエクストデスと言ったか?」
「あぁ…そうです…。ネオカオスの奴等がそう言ってた…」
「そのエクストデスという魔物…カルム師団のデータにも載っている魔物だ」
「…!」
「え…?」
ロキとホワイトが驚く。
「別名『死獣エクストデス』と呼ばれし魔物…奴は黒い鱗を持ち、四つん這いで翼が生えている魔物だ。そして…何処から生まれたかは未だに分かっていない謎多き魔物だ…!」
「謎多き魔物…」
「魔物の中でもトップクラス…いや、現在存在するような魔物の中では余裕でトップの戦闘力を持つ魔物だ…。魔力量も豊富にある…正直…スピアをやった君達でも一人で相手取るのは厳しい…」
「っ………」
「一人で相手は厳しい…か…」
ロキが拳を握る。
ロキは自分の力不足を感じていた。
「そうか…あの時ランスが俺の事を助けてくれた時も…あいつは一人で助けてくれた訳じゃなかった。師団の皆がいたからだ…皆がいたから…誰も命を落とさずに戦えた…だけど…皆がいなかったら…今頃奴に俺達は………」
「そんなに強い魔物が…何故この時代に…?」
「…分からない。俺もこの魔物がとても強く、不明点が多い事以外の知識がない…。ただ…ネオカオスの下っ端が手懐けているって事は…恐らくネオカオスはあの化け物を何体も所有している可能性がある…」
「っ…!?」
「あの化け物が…何体も…!?」
「あぁ…今回は単体だったから逃げ切る事に成功したが…もしも複数体があの場所に現れた場合…」
「っ…!」
「…気持ち悪く…なってきた………」
ホワイトが口を押さえる。
「っ…何か…何か奴等に弱点はないのか…!?」
「弱点…か…あるとすれば…頭だろうか」
「頭…?」
「あぁ。人間も頭が弱点だろう?魔物も人間と同じく頭が弱点だ。頭に対して思い切り衝撃を入れられれば…或いは…」
ロキが再び拳を握る。
「っ…俺の魔力なら…きっと………」
「…かもしれないね。ラッシュ師団副団長の君の魔力…その力があれば、きっと…!」
「…だけど俺は一度…いや、二度敗北した…この俺が…あいつを殺すなんてこと…」
「君…さっき絶対に殺してやるって言ってただろう?昔…どうやら同じ魔物に会ったみたいだけれど…」
ルドがロキの目を見つめる。
「君が自信を無くしてどうする?ミカさんを再び危険な目に合わせていいのか?」
「っ…それは………」
ロキが拳を握る。
「…そうだ、さっき言ったじゃないか…俺はあいつを殺してやるって………」
「…あぁ。その意気だよ、ロキ君」
「…なんか意外かも…」
ホワイトがルドの方を見る。
「ん?意外とは?」
「ルドさん…優しいお兄さんって感じの印象があったから…なんかこうやって強く言うの珍しいなあって…」
「ははっ、そういう事か。…何、ちょっと元気をなくしてそうだったから、ロキ君が元気出そうな言葉を言ってみただけだ」
「あ…なるほど…」
「…ルドさん、ありがとうございます」
ロキがそう言うと、ジンが部屋に入ってくる。
「皆…!」
「ジン君…!」
「ジン…!」
「街の人達にはまだ何人か行方不明者がいるみたいだ…」
「えっ…嘘………」
「街の人からの情報によると…ヒョウガイ山の奥まで行った人達もいるみたいで…」
「っ…」
「奥に…か…」
「今すぐに行きたいけれどミカが…ロキ君も重傷だし…」
「それに…あの魔物…エクストデスにまた遭遇する可能性もある…俺達三人でも勝てるか正直怪しいだろう…さっきはホワイトさんが受け止めてくれたが…受け止めるくらいならできても…倒すのは困難を極めよう…」
「っ…」
「俺が…行かねえと………」
ロキが立ち上がろうとする。
だがロキの足は骨折して使い物にならなかった。
「うぐっ…クソッ…」
「ロキ君…!まだ動いちゃダメ…骨折れてるんだから…」
「っ…だが…副団長としてこのまま動かぬ訳には…」
「えらく騒がしいやんなぁ」
場の空気が悪い中、現れる異質な話し方の男。
「…!」
「ソドさん…!」
ゼトラ教団のソドが、病室に入る。
「――ゼトラ教団のソド、参上や」




