ep102.吹雪の中の探索
――ヒョウガイ山の上層部にて…
怪しい人影が不穏な空気を漂わせて歩く。
「魔物、み~つけた」
謎の女が小さな豚の魔物を見つける。
黒いローブを羽織って長くて白い髪…紫色の瞳の20代。
女は豚を追いかけるが豚は逃げ出す。
「待ちな!」
謎の女がそう言うと、豚の動きが止まる。
謎の女が魔力で豚を止めていた。
「アタシの魔力の前に、動けるとでも思ったかい?」
謎の女が魔力で動けなくなった豚に近付く。
「街の連中みたいにアンタを食べるために殺したりはしないよ、安心しな」
謎の女はそう言うと、豚に種の様な物を与える。
「アンタに可能性をくれてやる」
豚が無理矢理種を食べさせられる。
そして、瞬く間に豚の身体に異変が起きる。
豚は身体が変貌し翼が生え、巨大な謎の生物へと移り変わる。
「アンタの同族を食った人間達に…復讐するのさ!」
「ガルルルル」
――雪道の中、ヒョウガイ山へ向かう五人。
歩いている途中、ホワイトがルドに質問をする。
「そういえばルドさん」
「ん、どうしたんだホワイトさん?」
「その…強い魔物がまた姿を現したって言ってましたけど…例えばどんな魔物がいるんですか?」
「あぁ、ちょっと紹介するね――」
ルドが通信機を操作しながら歩く。
通信機に氷のドラゴンがホログラムで表示される。
「ここらへんだと…『アイスドラゴ』と呼ばれる魔物が強い魔物として区分されるかな」
「アイスドラゴ…氷のドラゴン…みたいな感じですか?」
「まぁ簡単に言えばそうだね。あまり人間に危害を加えるような魔物ではないんだけど、ネオカオスのせいで人間に怒りを買っている可能性はある…」
「…なるほど」
「対策方法とかはないんですか…?」
「対策はやはり火だね。氷の生物な以上火には弱い。一応だけど、君達の実力なら互角…いや、あのスピアを倒した君達だから正直かなり勝てる寄りではあるね」
「…!」
「ただ…息で吹雪を吐くのは勿論、爪や牙による攻撃には気を付けたい。奴は爪や牙に毒を持っている。あまり強い毒ではないが…雪山の環境と合わさると強力な物となる」
「息で吹雪を吐く…」
「毒…」
「もしかしたら…奴が今回の吹雪の原因の可能性は全然ある。人間への報復を考えているかもしれない…」
「っ…」
「ネオカオス…」
ジンが拳を握る。
ネオカオスが残した爪痕は、想像してたよりも大きい物だった。
「そのアイスドラゴを倒せば…今回の件は解決するのかしら?」
「そうかもしれない。だが…ゼッヒョウの人達を救助するのが最優先だ。ここは救助する者とアイスドラゴを倒す者で分かれるとしよう。俺とミカでアイスドラゴを探し…倒す。他の三人で救助をしよう。ルドさんの魔力は救助においても使えそうです。お願いできますか?」
「そうだね、分かった。じゃあ俺はホワイトさんとジン君と共に動こう」
「了解」
「分かった…!」
「ミカ、俺達はこっちへ行こう」
「ん」
「ホワイトさん、ジン君、街の人から被害があった場所を教えて貰ってるからまずはそこに行ってみよう」
「はい…!」
「分かりました」
五人が二手に分かれて行動を開始する。
――ホワイト達は被害があった場所へ向かう。
「っ…」
強力な吹雪で周りが見えづらくなっていた。
「この吹雪…さっきの場所よりも強い…!」
「そうだな…恐らくこの吹雪の感じ…間違いなく今回の件の犯人と言っても過言ではないな…」
「っ…誰か…誰かいませんか…!!」
ホワイトが大きな声を出す。
「っ…!?」
ホワイトに吹雪が襲い掛かり、身体が倒れそうになる。
「おっと…!」
ルドがホワイトの背中を押さえる。
「うっ…ごめんなさい…!」
「気にしないでくれ」
「あ…ありがとうございます…」
ホワイトが顔を赤くする。
「………」
ジンが二人を見る。
「俺の…なのに…」
「…ジン君?」
「…なんでもない」
ジンが目を逸らす。
ジンはルドに嫉妬していた。
「ここらへんはゼッヒョウの地の人でもよく訪れる場所みたいだ。恐らくはここ周辺に遭難者はいる」
「…!ならここに…!」
「探知能力みたいなのがあればいいが…ホワイトさんのは触れた事がある人しか探知できないんだっけか…」
「そうなんです…私の魔力じゃ…知ってる人しか助けられない…」
「この一面の雪を俺の魔力で焼き払うって方法は?」
「それはダメだ、ジン君。もしもその雪の中に人がいたら人まで焼いてしまう…」
「っ…でもこの量の雪と吹雪…!」
ジンが炎の魔力を右腕に込める。
ルドがジンの肩に手を乗せる。
「落ち着けジン君…救助というのは…助ける人をどれだけ無事に助けれるかが大事だ…危険を及ぼしてはいけない…!」
「…そうでしたね、すいません」
「危険を及ぼしては…いけない…か」
ホワイトが昔の出来事を思い出す。
ホワイトもまた、救助の最中に一人で勝手な行動し…ジンに撃たれて危険な目にあった事があった。
「…私も…勝手な行動をして団員の皆に迷惑をかけたり…死ぬかもしれなかった事がありました。あの時は皆が偶然来てくれたから大丈夫だったけれど…私はあの件からずっと…ずっと………」
「そっか」
「…そうだったな」
「兎に角…一刻も早く皆を助けましょう…」
「そうだな」
ルドが辺りを見渡す。
「できそうなことがあるとしたら…ホワイトさんが辺りに回復魔法を与えるとかか…?」
「辺りに回復魔法を?」
「あぁ。回復魔法の反応があればそこに人がいる証拠だ。そしたら…雪を掘り起こし…救助だ」
「なるほど…そうと来れば…!」
ホワイトが回復魔法をシャワーのように…辺りにかけるように使う。
「この吹雪の中だけど…もしも効果が出れば…!」
ホワイトがそう言うと、吹雪が強くなる。
「っ…!」
「ホワイト…!」
ジンがホワイトの前に立つ。
ジンが吹雪からホワイトを守ろうとする。
「ジン君…!」
「…お前の身体じゃもしかしたら吹雪に飛ばされちまう」
「っ…でもそんな事したらジン君が私の盾に…」
「俺の傍にいろ…俺は魔力の関係で吹雪に強い。大丈夫だ」
「っ…そ…そうだよね…」
「お前が飛ばされそうになったら、俺がその腕…掴む」
「ありがと…」
ホワイトが顔を赤くする。
「二人とも…こっち…!!」
ルドがそう言うと、雪の中に回復魔法がかかっている反応が何個もある。
回復魔法の反応、それすなわちこの中に人間がいる証拠だった。
「…!」
「魔力の反応が…!」
「この中に人がいるかもしれない…助けよう…!!」
「はい…!」
三人が回復魔法の部分の雪を掘り起こす。
「…!」
雪の中から意識を失った人が出てくる。
「いた…!!」
「この服…間違いない…ゼッヒョウの地の…!」
「っ…!しっかりしてください…!」
ホワイトが息を確認する。
かなり浅くなっていたが息はあった。
「っ…息が……いや…浅いけれどある…!」
ホワイトが回復魔法をかける。
「ホワイト…こっちも頼む…!今この人を魔力で温めてる…!」
「ジン君…!」
「ホワイトさん…こっちも…!」
「ルドさん…!」
ホワイトが回復魔法を次々とかける。
それを防ぐかのように吹雪が強くなる。
「はぁ…はぁ…吹雪が…強い………」
「くっ…!」
ルドが魔力でシールドを展開し、ホワイトとジンを守るように立つ。
「ルドさん…!」
「これでひとまず吹雪を防げる。ジン君はこの人達を吹雪の外にまで運んで救助を呼んで…!吹雪が来ない場所ならきっと街の人も来てくれる…!」
「分かりました…!」
「ホワイトさん、この奥にまだいるかもしれない。手伝ってくれるかい?」
「はい…!」
ルドとホワイトが更に奥へ行く。
――一方…吹雪の中を歩いているロキとミカは…
「…ねぇ、ロキ」
「なんだ?」
「ルドさんはこの吹雪を魔物の仕業と推測してたけれど、本当かしら?」
ミカは魔物の仕業であることを信じていなかった。
「本当かどうかは知らないが、確かめる価値はあるだろう。アイスドラゴって魔物は俺も聞いた事くらいならある。奴の力ならこの吹雪を起こす事も容易い」
「まぁそうかもだけど…」
「というか…元々俺はラッシュ師団に入る前は魔物狩りをしてた事もあった」
「あ、え、そうなの?」
「あぁ」
ロキが古傷が痛むかのように腹を摩る。
「だが…あの頃魔物狩りをしていた時…滅茶苦茶強い魔物に出会ってな…」
「強い魔物に?」
「あぁ。四つん這いの竜の様な頭をしている魔物だ。翼までも持っていて…灰色の鱗に覆われていた…」
「灰色の鱗…」
「俺は奴に殺されそうになった…奴に食われそうになった時…団長が…ランスが助けてくれた」
「ランスが…」
「あぁ。今もあの頃の事は忘れない。団長は…命の恩人だ」
ロキが自身の手を見る。
「…そう。団長が女だったら惚れてた?付き合ってた?」
「当たり前だ。まぁ男相手でも命を救って貰ったら全然惚れるだろ」
「まぁ…確かに。でも…その灰色の鱗の持った魔物って…一体なんなの?」
「さぁな…。今度ルドさんに聞いてみるとしよう」
ロキが再び歩き始める。
ミカがロキについていく。
「…それにしても、さっき魔物との戦闘経験があるかどうかって話をしてたけれど…あの時嘘をついてたのね?」
「え?」
「ほら…あの時戦闘経験がないって…」
「皆は戦闘経験がないってだけで、俺はあっただけだ。黙ってただけだ」
「…アンタって結構嘘つきな所あるでしょ」
「…別にいいだろ」
ロキがミカから目を逸らす。
「良くない…アンタのその隠したり嘘をつくようなところ…それのせいで左右される人だっている…!アンタは…誰かを心配させてるのよ…!」
ミカが大きな声を出す。
「…なんだよ、どうした急に」
「っ…なんでも…ない…」
ミカが目を逸らす。
「…変な奴だな、お前」
「アンタに言われたくない…」
「…そうかよ」
ロキが頭を掻く。
「…そういえば、その話ってラッシュ師団に入る前の話よね?その頃って強い魔物の時代が終わってた頃だと思うけれど…」
「あぁ…それについては俺も疑問に感じててな。何故この時代にあんな強い魔物がいたんだと…」
「…そう。その後その魔物との接触は?」
「…いや、あれっきりだな。その後は団長に救われた恩としてネオカオスとの戦いに俺も参入して…」
「…そう」
「あの時の傷………たまに思い出すかのように痛むんだ」
ロキが目を逸らす。
「…そうね」
「凄く痛かったよあの時は…内臓まで貫通してやられて…凄く………――」
「っ…」
ロキから語られる痛々しい記憶に、ミカは息を詰まらせてしまう。
「強く噛まれた影響で動けなくなってさ…そのまま俺の顔に奴の牙が近付いた時――」
「もう…辞めて」
ミカがロキの口を塞ぐ。
ミカは自分の仲間が死ぬのが怖かった。
「ミカ?」
「アンタが死ぬのは…想像したくないから」
「いや…今俺は御覧の通り生きてるぜ?ランスのおかげではあるけれど、あの件のおかげで俺は寧ろ強くなれた。今や皆を守れる副団長になった。だから…」
「…死にそうになった話をするの…辞めてよ…」
「…」
ロキが黙る。
ミカが零しそうになる涙を堪える。
「あたしは…皆が死ぬのが怖いの…。皆が死ぬのを想像するのが怖いの…例え死んでなかったとしても…致命傷だったり…少し遅かったら死んでたとか…そんなの…嫌なの…」
「……そうか」
ロキが目を逸らす。
「…お前って案外人間臭さ、あるよな」
「は…?何言って…」
「お前ってデストの件と言いスピアの件といい…化け物みたいな耐久力があるのに…人間らしさがあるっていうか…」
「これくらい当たり前でしょ…。あたし本人の身体は耐えれても…あたし以外が傷付くのにはあたしは耐えれない」
「ふぅん。ちょっとホワイトみたいだな」
「…そうね。あの子の情がちょっと移ってしまったかも」
「そうかもな。いい事ではあるけどな」
ロキがミカの頭を撫でる。
「…何?」
「いや?お前って背低いから撫でやすいなって?」
「殺すよ?」
「冗談だ。殺すのはアイスドラゴだけにしてくれ」
「…そうね。アンタを殺すのは、魔物を殺してからでも遅くない」
「ははっ、そうだな…」
ロキが笑っていると…ミカが何かを見つける。
「ロキ、アレを見て」
「…!」
ミカが指を指した方向…
そこには氷のドラゴンが天に向かって吹雪を口から出していた。
「――あの巨大なドラゴン…間違いない。アイスドラゴだ…!」




