ep101.救出
――ゼッヒョウの地の外に出て、遭難したルドを救出しに向かうホワイト、ジン、ロキの三人………
「とは言った物の…」
吹雪の中、三人が雪道を歩く。
街の中は晴れていても、街の外は吹雪が強かった。
「この吹雪の中…ルドさんを探すなんて無理じゃないか…?」
「…俺も同感だ…ルドさんが街に着く事を祈った方が俺達としても安全…じゃないか…?」
「大丈夫…!私に任せて…!」
「ホワイト?」
ホワイトが目を瞑る。
そして、ルドの気配を感じ取る。
「…ルドさん!」
ホワイトが南の方へ歩き出す。
「ホワイト!待て…!」
「そっちに何かあるのか?」
「ルドさん…こっちの方にいる…!」
「ほんとか!?でも何故分かるんだ…?」
「一か月の間に色々繋命の力を試してみたの…そしたら…触れた事がある人限定だけど近くの人がどこにいるか探知できるようになったの…距離は限られるけど…!」
ホワイトもまた、繋命の魔力で新たな発見をしていた。
触れた事がある人間限定に、何処にいるかを探知できるようになっていた。
いわばレーダーや波導のような物だった。
「そんな能力が…凄いな…」
「えっと…こっち…!」
ホワイトが手で雪を退かしながら歩く。
「冷た…」
「ホワイト…!雪は俺が溶かす、ルドさんがどっちの方にいるか教えてくれ…!」
「分かった…!」
ジンが炎の魔力で雪を溶かし始める。
「強い吹雪だからあまり雪は溶かせないが…簡単な道を作る事くらいならできる…!」
「ルドさん…無事でいて……!」
ジンが雪を溶かしながら三人がルドのいる方へ向かう。
「…!」
気配を追えたのか、ホワイトが右を向く。
「ホワイト…?」
「こっち…!」
ホワイトが手で雪を退かす。
「…!!」
ホワイトが雪を退かした先には…ルドが倒れていた。
気を失っているルドにホワイトが手を触れる。
「ルドさん…!」
「嘘だろ…雪に埋まって…」
ロキが辺りを見渡す。
ロキが上の方にある崖を見つける。
「…なるほど、落雪か」
「落雪…?」
「雪があの崖から落ちて、それにルドさんが直撃した…そういう感じだろう」
「っ…!」
「雪の量によっては最悪命にも関わるが…吹雪のおかげで柔らかい雪で助かった…でも…気を失ってるな…」
「ルドさん…しっかりして………!」
ホワイトがルドの頬を触る。
ルドの頬はとても冷たくなっていた。
「っ…凄く冷たい……まさか…何時間も雪に埋もれてたんじゃ………」
「息はあるか…?」
「この吹雪の中だと確認しづらい…兎に角街まで運ぶぞ…!ジン…!」
「あぁ…!」
ロキとジンが二人がかりでルドを背負う。
「ホワイト、先頭を頼む」
「うん…!」
ホワイトが先頭で歩き始める。
――数分後…ゼッヒョウの地の宿にて…
「身体が冷たい…」
ミカが眠っているルドの頬を触る。
「ルドさんがこっちに来るなんてどういう風の吹き回し…いいや、それより…」
ミカがホワイトの方を見る。
「ホワイト…あなたまさか…繋命の更なる力に目覚めたの?」
「えっ…あぁ…そう…だよ…」
「…そう」
ミカがホワイトの頬を触る。
ホワイトの身体は少し冷たかった。
「…ミカ?」
「あなたもちょっと身体が冷たいじゃない」
「っ…ルドさんを助けるのに必死で…」
「環境が悪いと体力だけでなく、魔力も消費しやすい。そのせいで特に疲労がたまりやすいから気を付けて」
「…うん、分かってる」
「ホワイト、紅茶を作ってきたぞ。飲むか?」
ロキが紅茶を持ってくる。
「あ…飲む…!」
「紅茶?」
ホワイトがロキから紅茶を受け取る。
ホワイトが紅茶をゆっくりと飲む。
「…美味しい…やっぱりこの味と香り…好き…」
「いい香りがするわね…でも、なんで紅茶?」
「あ…それはムツ…いや、ナギサさんから貰った紅茶の茶葉があって…それを使ってるの」
「へぇ、ナギサさんから。甘い物好きなんだあの人。ちょっとちょうだい」
ミカがホワイトから紅茶を貰う。
そして、ミカの口の中に甘い香りが広がる。
「…あっま…甘すぎない…?」
「そうかな…?」
「あたしはちょっと苦手かも」
「どれ、俺にもくれ」
ジンがホワイトから紅茶を貰う。
「…どう?」
「めっちゃ甘いな」
「…苦手?」
「…なんかその、ガキの頃の事を思い出すような味わいだ」
「…それってどういう事?」
「ガキの頃って甘い物好きだろ?あの頃はあんなに飲めたのに…今は程々にしたくなる感じだ」
「あぁ…なるほど」
ホワイトがそう言うと、ミカがジンの方を向く。
「…そういやジン、アンタの子供時代の頃の話聞いてみたいわ」
「え…?俺の子供時代の…?」
「そう。殺し屋だったアンタは一体どういう生活をしてたのかなって」
「そうだな…話にして面白そうな話題は…」
ジンが考え始める。
「………?」
ジンが頭を抱える。
「…どうしたの、ジン君?」
「…いや、何でもない。特に…武勇伝みたいなのはないな…」
「なんでもいいわ。どういう場所で生活してたのか、とか」
「っ…それは…」
ジンが言葉を続けようとすると、ルドが目を覚ます。
「っ…!ここは――」
「…!」
「ルドさん…!」
「ホワイトさん…と、皆も…!」
ルドが起き上がる。
「良かった…良かったルドさん…雪の中に埋もれてて…危なかったんですよ………」
「…そうだったのか。皆には命を助けられてしまったな…」
「助けたのはあたし以外の三人です。あたしはちょっとここの情報を集めてただけで」
「そうか。しかし…まさか吹雪の中とは言え雪が落ちてくるとは思わなくてな…。首の骨とかをやらなくて良かったよ…」
ルドが立ち上がる。
「もう、立てるんですか?」
「…ちょっと目が眩む」
「ルドさん」
ホワイトがルドに回復魔法をかける。
「…少しでも早く良くなってください」
「あぁ、ありがとうホワイトさん」
「………」
ジンが二人を見つめる。
少し嫉妬深い目だった。
「ところでルドさん、一体何用でゼッヒョウの地に向かってたのです?」
「あぁ…それはね――」
ルドが通信機を操作する。
「実はカルム師団ではゼッヒョウの地にも団員を配置しててね」
「え…本当ですか?」
「本当だよ。ゼッヒョウの地の近くの雪山に生息する生物たちが魔力を帯びていたり、魔力を帯びた鉱脈があったりするんだ。カルム師団はそれを目当てにして研究を続けててね」
「なるほど…」
「でも電車が通らなくなったから偶然こっちに近かった俺がゼッヒョウの地にそのまま資源を取りに行こうと思ってたんだけど…雨雲レーダーを信じて進んだら御覧の有様だよ…」
ルドが頭を掻く。
「ルドさんも雨雲レーダーを頼りにするんですね」
「天気予報とか全部信じちゃうタイプだよ。あの吹雪は予想外で俺の魔力でも守り切るのが厳しかった…」
「…そういやルドさんの魔力について詳しく知らないな…ちょっと教えてくれませんか?」
「あぁ、簡単に言うと魔力によるシールドを展開する魔力だよ。この前のスピアの件で使ったアレだね。アレによって攻撃を防ぐのが主な使い道だ」
「シールドを…でもそれだけだと攻撃に転じられないんじゃ…?」
「そうだな、例えば…こうやって」
ルドが魔力で小さなシールドを二つ作り、手に帯びる。
「こんな感じで装着したら、シールドで殴って攻撃…みたいなのもできる」
「おぉ」
「凄い……!」
「この魔力があればどんな現場も基本的には大丈夫だ。まぁ…ナギサの水の魔力ほどのインチキな性能はないんだけどな…」
ルドが頭を掻く。
ルドもナギサの魔力の強さは尊敬していた。
「ナギサさんは水の魔力というか、水そのものを完全に知り尽くしてるような感じします。水そのものを魔力で攻守多様に扱えているの…凄いと思います」
「あぁ。あいつは普段はあんなだけど…魔力の使い方は正直誰よりも上手いだろうな。だから戦闘力も高い。まぁ…それを教えたのも…」
ルドが言葉を続けようとするが、途中で辞める。
「いや、なんでもない」
「…え?」
「ルドさん?」
「…俺もまだまだって事だよ。俺の魔力は基本的に一人で使うには弱い魔力だ。攻撃に転じる事も難しいし味方頼りの魔力だ…だからこそ…ナギサみたいな攻撃できる奴が傍にいれば…なぁ」
ルドが頭を搔く。
「あ、もしかしてルドさん、ナギサさんの事…」
ミカがルドの目を見る。
ミカがルドのナギサへの好意を察する。
「…ん?」
「へぇ…」
「三角関係…いや…四角か…?いやシェールさんは団長一筋か…」
ミカがルドとナギサ、ランスとシェールの四人の顔を思い浮かべる。
「ところで、ラッシュ師団の皆は何故ここに?依頼かい?」
「そうです」
「ゼッヒョウの地ではさっきの通り吹雪が起こっていて街の人達から行方不明者が出てます。今すぐにでも助けたいけれど…ちょっと情報が少なくて…」
「なるほど…その情報ならここに配置してる団員からもちょっと聞いてるな。確か遭難者が多く出てるのは、『ヒョウガイ山』って所だな」
「ヒョウガイ山?」
ヒョウガイ山…ゼッヒョウの地の近くにある雪山の事だった。
厳しい傾斜は多いが天候が荒れにくく、魔力を帯びた鉱脈が多くあったり、魔力を帯びているが弱い魔物が多い故に資源の調達によく使われている場所だった。
「ゼッヒョウの地に住んでいる人達は皆、魔物を狩ってそれを食料としてるんだ。山に住んでる豚とかは特に美味いぞ?」
「なるほど」
「魔力を持った鉱脈と魔物か…」
ミカが考え始める。
「もしかして…今回の件はその鉱脈や魔物が関係してるのかも…?雨雲レーダーが反応しない吹雪…でもちゃんと空には雲がある。これは…魔力が影響してると思うの」
「あ…確かに…」
「一理あるな…まさか…強い魔物が出てしまったとか…?」
「その魔物がもし強い吹雪を使えるような魔物だったら…!」
「…!」
強い吹雪を使える魔物…それが今回の犯人だと皆は推測する。
「確かに、ここ最近あまり現れなかった強力な魔物の報告例も少しあるな。カルム師団のデータにもそう載っている」
「…そういえば、魔物って私あんまりイメージないや。戦ってきたのは…ネオカオスだったりスピアだったりエルだったり…人間を相手してたから…」
「なるほど?この中で魔物との戦闘経験がある人いるか?」
「………」
「………」
沈黙が続く。
「そうか、皆はない感じか」
「今はもう本当に弱い魔物しかいないからね。特にネオカオスがいた頃は…ネオカオスが魔力を得るために周辺の魔物を絶滅させたってくらいもあるから…」
「ぜ…絶滅…!?」
「そこまでして魔力の根源に近付きたかったって事…か…」
「っ…なんて奴…」
ミカが拳を強く握る。
ネオカオスが亡き今もネオカオスがかつてやってきた事はラッシュ師団にとっては許せなかった。
「でも、そんなネオカオスの脅威ももうない。そのおかげで魔物も安心して暮らせるようになった…って所かしら。再び強い魔物が姿を現すのも分からなくはない気がするわ」
「なるほど」
「…ふん、ネオカオスを蹴散らして魔力の根源もぶっ飛ばして、契約の悪魔も分からせたと思ったら今度は魔物かよ…俺達の戦いはいつまで続くんだ…?」
「まさに俺達の戦いは終わらない…だな」
ジンやロキが拳を握ると、そこへホワイトが言葉を挟む。
「…でも、魔物にだって意思というか知能はあるんじゃないんかな…?」
「ホワイト?」
「魔物って…私の記憶が合ってればなんだけど、お母さんが丁度私くらいの頃にかなり繁栄してたらしくて…強い魔物も多くいて今よりも地獄の世界だったって私が子供の頃にお母さんが言ってたような…」
魔物…ホワイトの言う通りリュンヌがホワイトと同じ18歳くらいの頃は繁栄していた。今の世界よりも地獄と評せる程の魔物時代だった。
「あぁ、確かにな」
「俺は…ちょっと分からないな」
「あたしもそこまでは知らなかったわ」
「それでホワイトさん、その話と魔物が意思があるってどういう?」
「あっ…えっと…私のお母さんは…魔物となんか仲良くなった事があったみたいで…人間との会話みたいに意思の疎通までできたらしくて…」
「は…」
「え…」
「すっご…」
ホワイトとミカ以外の三人が驚く。
リュンヌは魔物と心を通わせる事ができる力を持っていた。そんな母親をホワイトだけでなく、皆が尊敬する。
「…正直私のお母さん…凄い人だと思う…」
「ホワイトのお母さん…マジで何者だったんだよ…」
「…惜しい人を亡くしたな…あの人が今頃この世にいれば…」
「………うん」
「………」
ミカがホワイトの目を見続ける。
視線に気付くホワイト。
「…ミカ?どうしたの?」
「あ、いや、何でもない。…リュンヌさんが凄い人なのは改めて分かったけど、その吹雪の原因…かもしれない魔物が意思疎通できるとは限らないわ」
「っ…それもそっか…」
「…だな。そうなればその原因を潰しに…」
「待って。それも大事だけれど、今のあたし達は救助を任されている身だって事、忘れないで」
「あ…」
「そういえばそうだった…」
「行方不明者…か」
今回の四人の使命は飽くまでゼッヒョウの地周辺で行方不明になった人の救助。
原因を潰すのも大事だがそれ以前に人命救助が最優先だった。
「ホワイトの開花してる魔力…では恐らく触れた事の無い人は探せないから、基本的に狩りへ行った同行者、若しくは目撃者頼りになりそうね…。どのあたりではぐれたか…とか」
「…そうだね…」
「この吹雪の中…生き残っている可能性はあるんだろうか…」
「正直既に何人か亡くなっている可能性はかなり高いとは思うわ。それでも…あたし達は命を助ける立場である以上、向かわなければいけない」
「…そうだね」
ホワイトが拳を握る。
「ラッシュ師団として…ゼッヒョウの地の皆さんを助けるわよ…!」
「おう…!」
「うん…!」
四人が決心すると、ルドが話に割り込む。
「よし、なら俺も同行していいかな?」
「ルドさんも?」
「俺は命を助けられている身だからね…それに、俺の魔力は油断しなければきっと吹雪の中でも耐えれるはず。きっと役に立てるよ」
「ルドさんがいるなら心強い…!」
「まぁ戦闘と言うか攻撃はちょっと不向きだから…もし魔物と戦闘になるって事があったら、少し任せるよ」
「それは勿論」
「なにせ…ルドさんはラッシュ師団ではなくカルム師団ですからね。戦闘はラッシュ師団の出番です」
「助かるよ」
「助かるのは此方もです」
「…よし、そうと決まれば――」
「行こう…ヒョウガイ山へ…!!」
――外に出る一行。
「…あ、そうだホワイト」
「ん?どうしたの、ミカ?」
ホワイトが首を傾げる。
「…絶対…死なないで」
「え…?あ…うん。勿論…!」
「…うん。この救助は…ジンの炎の魔力もそうだけど…何よりホワイトの力が重要。ホワイトの力があれば…普通は助からない命も助けられるかもしれない。だからこそ…あなたは絶対この救助で死なないで欲しい」
「ミカ…」
ホワイトがミカの肩に手を乗せる。
「…大丈夫だよ。私も強くなったから。一か月だけだったけど、皆を助けれるくらい強くなった。絶対…街の皆さんを助けて見せる…!」
「そう、良かったわ」
ミカがホワイトの目を見て微笑む。
「よし、いこっか」
「うん……!」
――ホワイト達が吹雪が荒れ狂うヒョウガイ山へ向かう。
後書き~世界観とキャラの設定~
『魔物が繫栄していた時代』
…ホワイトによって語られた過去の事実。かつてホワイトの母リュンヌがホワイトと同じくらいの年齢の時、強い魔物が外に溢れんばかりに存在していた。外に出歩くだけで場合によっては死が待っていると言っても過言ではないほどの修羅の世界。今の世界よりも地獄と評せる程の魔物時代だった。
そして…ホワイトの母リュンヌは何故か魔物と心を通わせる力を持っていた。ホワイトにその力が遺伝されているかは現在不明。




