ep100.未知の教団
――それから数時間後…
「………」
ミカが牢獄のような場所で目を覚ます。
薄暗い牢獄…まるでラッシュ師団の基地の牢屋に似ていた。
「はっ………」
ミカは手首から拘束されていた。
「っ…!?何これ…外れない……!」
ミカが拘束を解こうとする。
「ミカ…!」
「っ…!?その声…」
ミカが隣を見るとそこにはホワイトが立っていた。
「ホワイト…!?何して…」
「お、起きよった」
「っ…!」
ソドがミカを見る。
「…どういう…状況?なんであたしは拘束されてるの?」
「私もよく分からない…けれど…この人達は悪い人じゃないよ」
「悪い人……そっか…さっきあたしは右胸を撃たれて…でも…右胸の傷が無くなくってる…まさかホワイトが…?」
「…いや、私じゃない。ソドさん…の、下っ端の人が――」
「下っ端?」
ミカがソドの目を見る。
ソドがホワイトの肩に手を置く。
「さっきはすまへんなぁ嬢ちゃん、急に首元に剣を突き付けられて怖かったろ?」
「…ちょっと怖かったです。けれど…あの人から私を殺そうという気配は感じませんでした」
「あいつん名前はラシスや。教団入って間もない人間や。迷惑かけるかもしれんけど二人とも許してな?」
「…はい」
「…教団…そうだ、教団…!」
ミカがソドの目を見る。
「アンタ達は一体…何者なの…!?」
「ワイか?ワイはソドっちゅーもんや。んで、『ゼトラ教団』っていう組織の大将やっとる」
「大将…つまりボスか…!」
「せや、凄いやろ?」
ドヤ顔して話すソド。
「凄いけど…急にあたしらを襲ってどういうつもり…?」
「すまんすまん、あん時はラシスが荒れとっただけなんや、堪忍な…」
「…えらく変な話し方ね。アンタがボスとか…教団も案外大した事なさそうね」
「ちょっとミカ…」
「えらく気の強い嬢ちゃんよのぉ」
ミカがソドを睨み付ける。
「…で、なんであたしは拘束されてんの?ロキとジンは何処?」
「んー。おぬしみたいな奴、起きた瞬間襲い掛かってきそうだから拘束しただけや」
「あたしを何だと思ってんのよ…」
「おぬしらの副団長とそのお仲間は今ゼッヒョウの街で話しとるねん。で、ホワイトの嬢ちゃんはおぬしの事が心配で一緒に行くと聞かんから連れてきただけや」
ソドの言う通り、ジンやロキは今ゼッヒョウの街にいる。
ミカが意識を失った後…皆無事だった。
「…そう。皆無事…か」
「おん」
「ミカ、この人達…悪い人じゃないと思うの。今回の件の犯人とは思えないかも」
「犯人ねぇ」
ミカが上を向く。
「…とりあえず、拘束を解いてくれるかしら?」
「あ、忘れてた」
ソドがミカの拘束を解く。
「…ん」
ミカが手を開く。
「とりあえずここじゃ雰囲気も悪いやろ。明るい場所でも行こうや」
「…そうね」
三人が移動する。
――外に出る三人…
気温は低かったが吹雪に比べたら屁でもなかった。
ゼッヒョウの街は雪に覆われていながら、空は晴れていた。
「…ん、眩し…」
ミカが手で日光を塞ぐ。
「ここがゼッヒョウの地や」
ソドがそう言うと…辺りには街が広がっていた。
「…街…人もたくさんいる。市場とかもある。アレは…飲食店かしら?」
「せやなぁ。皆ここで暮らしとるんや。ただ…」
ミカも感じ取っていた。街は街でも…空気はあまり宜しくなかった。
寧ろ、少し荒れているようにも見えていた。
「…遭難者が出てる影響か、多少空気がピリピリとしてるわね」
「…その通りや」
ミカが辺りを見渡す。
「普段は雪の弱いうちに外に食材などを調達したり、駅を使って他の街から物を取り寄せたりもしてるんや。けど…ここ最近よー分からん吹雪が発生してなぁ…」
「よく分からない吹雪?」
「そう。この街には直接吹雪は早々来ないが、この街を囲むように吹雪が起こってるんや」
「囲むように…?」
「あぁ。ちょっと街の外の方見てみ?」
「街の外…」
ミカが街の外の方を見る。
奥の方は吹雪いており、雲も黒く染まって先が見えない状態になっていた。
「…ほんとだ、向こうの方はとても暗い」
「せや。他の方からも見てみると分かるんやが、この街を囲むように吹雪があるようにも見えるんや」
「…なるほど」
ミカが腕を組む。
「吹雪は突然やってきてなぁ。それのせいでここ最近外に出た奴等が遭難したり、行方不明になっとったりするんや。幸いにも死亡が確定した奴はおらんが…重傷者は何人か出てる」
「…そう」
「それでここを拠点としてるワイらゼトラ教団は吹雪を起こした犯人を探しとる」
「なるほど…でも、犯人を捜すより、救助の方が優先じゃないかしら?命の優先度は他の物と比べてはいけない気がする」
「ワイらに救助ができるような賢い奴や強い奴はおらん。救助は救助ができる奴等に任せてるんや。けれど…その救助しに向かった奴等も帰ってこねぇ」
「…ミイラ取りがミイラになるって訳ね…」
街の人の救助にはゼトラ教団のボスであるソドも手を焼いていた。
「だから吹雪を止めてもらうためにも犯人を探しとる。で、たまたま見知らぬおぬしらが吹雪の中から出てきよったからラシスがおぬしらの事を犯人だと思った訳や」
「…そうだったのね」
「すまへんなあ」
「すまんで済んだらあたしは拘束されなかったはずなんだけど」
「そいつは堪忍な、はっはっは」
ソドが笑い出すがミカが呆れた顔をする。
「そういや、ここにラッシュ師団って輩が救助に来てくれるって聞いたんやが」
「そのラッシュ師団があたし達よ」
「ホンマ?」
ソドがミカの目を見る。
「ホンマ」
ミカがソドの目を見返す。
「…そいつはとんでもない事をしてもうた」
ソドがそう言うと、ミカに向かって床に頭を付けて土下座をする。
「…!?」
「この通りや…すまん…!!」
「いや…まぁ確かに腹は立てたけど…土下座までしなくても…」
「…本当にすまん…ワイの伝達ミスのせいや…ラッシュ師団が来るって皆に伝えるの忘れとったんや…」
「あぁ…そう…」
ミカが土下座するソドを呆れた顔で見下ろす。
「あ、ロキ君とジン君いた」
ホワイトがロキとジンを見つける。
「ちょっと行ってくるね」
「ん、了解」
ホワイトが二人の元へ走り出す。
ミカとソドの二人がその場に残る。
「そういえば…ゼトラ教団ってどんな活動をしてるのかしら?教団って言うからには何かしら宗教的な物だと思っているのだけれど」
「あぁ、ワイらは一種の宗教活動を行っとる。悪魔の神の信仰や」
「悪魔の神の信仰…」
ゼトラ教団…それはかつて契約の悪魔エルが言ってた悪魔族、その神を信仰している教団だった。
「おぬし、悪魔族について知ってるか?」
「悪魔族…ホワイトやジンからちょっと聞いたくらいだけれど知ってるわ」
「そうか、ほなちょっと悪魔族について話すか。悪魔族はな、かつて人間界を侵略してた種族なんや」
「侵略…悪い奴等じゃない。もしやそんな危ない連中を崇拝してるなんて言わないでしょうね?」
「あぁ、その通りやで」
「その通りかぁ………」
ミカが呆れた顔をする。
ミカの頭の中にも悪魔族には悪い印象しかなかった。
「待てや、悪魔族は必ずしも悪とは限らへん。極悪な悪魔族もおれば、善良な悪魔族もおんねん。それに今悪魔族は人間界に悪気があって攻めてくる事はもうない。奴等は…人間との共存を求めているんや」
「共存?例えばどういう?」
「例えば、悪魔族と人間との交流を深め、どっちの世界でも暮らしてええような状況を作ったりとかやな。後は…悪魔族と人間との間に子どもを作るとかそんな感じやな」
「子どもを作る…あ…それがホワイト達の出会った悪魔族…か」
ミカがエルの件を思い出す。
「なんや?既に会っとったんか?」
「…ホワイト達がね。戦闘になったり精神を抉られたりで結構大変だったみたいよ…」
「なるほどのぉ」
「…あたしはその件以来悪魔族を忌み嫌ってるわ。ホワイトが経験した一件といい…過去の過ちといい…許せない事は多い。何せ…ホワイトのお父さんに無理矢理悪魔族との間に子どもを作らせようとしたのよ…?」
「…そうかい。そいつは悪い事を言っちまったかもしれねぇな…」
ソドが頭を掻く。
「忌み嫌う理由も分かる。だけど…使い方や捉え方次第で悪にもなれば善にもなる。ワイはそう考えとる。実際…このゼッヒョウの地が吹雪の中生きられるのも、悪魔族の加護があってこそや。悪魔族は気温の変化にすらも対応できるとんでも種族や。奴等の加護のおかげでゼッヒョウの地は保たれていると言っても過言じゃねぇ」
「…そう。まぁたしかに雪国って割には結構暮らしやすそうではあるわね」
ミカが腕を組む。
「実はこの街にも何人か悪魔族が住んどるんや」
「え?そうなの?」
「例えば、あいつとか」
ソドが指を指す方には人間の少年がいた。
「あの少年?人間にしか見えないけれど…」
「これで見てみ」
ソドが眼鏡をミカに渡す。
「…何これ?」
「まぁかけてみ」
ミカが眼鏡をかける。
「…!?」
ミカは少年がただならぬ魔力を放っているのを眼鏡越しに見る。
「何…あの…」
「あの魔力こそ悪魔族の魔力や。まぁあんな感じで人間になり、将来的には人間との間に子を作る子や。あの子が上手く行いをこなしてけば人間とも共存ができる…そんな感じや」
「…なるほど。この眼鏡は…内に秘められた魔力の気配を探知できる眼鏡…か」
「良ければそれ、貰ってくか?」
「え?いいのかしら?」
「何個もあるから一個くらい貰ってき。その眼鏡があれば、救助にも役立てれるやろ」
「…ありがと」
ミカが眼鏡をしまう。
「そういえば…この眼鏡を使って犯人を探すって考えには至らないのかしら?」
「あ…」
「え」
「すっかり頭から外れとったわ」
「もしかして、ゼトラ教団のボスって結構アホな子?」
ロキとジンの元へ寄るホワイト。
「二人とも…!」
「…そうですか、分かりました。お忙しい中ありがとうございます」
ロキが街の住民に頭を下げる。
「…ロキ君?」
「ホワイトか。こっちはダメだ」
「えっと…ダメって?」
「吹雪の原因の方だ…魔力で吹雪を扱えるような奴をくまなく探したが、この件には関係しない」
「…そっか」
「この街を囲むかのように吹雪が出ている以上怪しいのは内部だったんだが、今の所全然ダメだ」
「うーん…」
ホワイトが悩むと、ホワイトの通信機が鳴る。
「あれ、私のが鳴ってる?」
ホワイトが通信機を操作する。
通信の相手はカルム師団団長のナギサだった。
「シェールさんか?」
「…いや、ナギサさんだ」
「ナギサさん?何で?」
「分からない、ちょっと出てみる」
ホワイトが通信に出る。
カルム師団とラッシュ師団の通信機は明確に違う物のため、ホログラムは出なかった。
「あ、もしもしホワイトちゃん?」
「ナギサさん?どうしたんですか連絡してくるなんて」
「いや…ちょっと変な事聞くけど、いい?」
「?」
「そっちにルドいない?」
「ルドさん?いや…いないですけど…」
「なんか突如ゼッヒョウの地に行くって言ってたんだけどさ、もしかしたらもうそっちにいるかなって」
「え…」
「雨雲レーダー見てる限りだと吹雪の心配とかは大丈夫そうなんだけど」
「っ…!まさか…まさか……!」
ホワイトが最悪な状況を考えていた。
ルドが吹雪に巻き込まれて…死ぬような光景を…
「どうしたの?」
「ルドさんが危ない……!」
「…え?」
「ナギサさん…!ルドさんがゼッヒョウの地に向かおうとしたのは今から何時間くらい前ですか!」
「えっと…もうかれこれ半日は経ってると思うし吹雪の影響で電車止まってるとはいえ、そろそろそっちに着いてると思ってたけど…」
「っ…!!」
「吹雪の心配はないんじゃ…?」
そんな事はなかった。
現にホワイト達も雨雲レーダーが嘘をついている光景を見ていた。
そしてルドが雨雲レーダーを頼りに此方へ向かい…吹雪に巻き込まれたとしたら………
「ルドさんが…吹雪に巻き込まれてるかもしれない…!!」
「は…え…?」
「ジン君…ロキ君…!」
ホワイトが通信を切る。
「早く行かなきゃ…!!」
「けれど…あの吹雪の中にまた入るのか?また…死にかけないか…?」
「さっきは無策で行ったからダメだったけど…今度はミカの作ってくれたカイロとかもちゃんとある。これで防寒は大丈夫…!それに…ルドさんが仕事以外でこっちに向かうのは何か理由があるはず…何か知ってるかもしれない…!」
「…そうか。そこまで言うなら行こう」
「了解だ」
「うん…!」
三人が街の外に出ようとした。
――吹雪の中遭難したと考えられるルドを助けに行く為に………




