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白と悪魔と  作者: りあん
第三部 繋がる命と共存の悪魔
110/271

ep-α10.焼き跡

 ――数日が経った。


「次のニュースです。先日放火があった犯罪組織のアジトについて…」


 世間ではシゼル教団が壊滅に陥ったというニュースが出回っていた。

 そして、原因不明の火事という事にされていた。

 ジンが燃やしたという証言をできる者はいなかった。

 シゼル教団は全員ジンによって燃やされた。



「………」


 ジンは…只一人…街を歩き続けていた。

 感情を持たず…ただ…無言に歩いていた。


 あの後ジンは…カイとサツの遺体を回収し…誰もいない場所で燃やし…あの世へ送ってあげていた。

 その時に浮かべていたジンの表情は…無だった。怒りも悲しみも湧かない…無だった。


 アヤメも…いなくなってしまった。通信を取るにもジン自身が出した地獄の業火が…通信機を破壊してしまっていたのだった。

 アヤメは今も生きているかもしれない。だが、そんなジンがアヤメに対して抱く心は…無だった。


 ルキの遺体はどれだけ探しても見つからなかった。だが…ルキの血痕と持っていたであろうナイフ…そしていつも付けていたアクセサリーを見つけたジンは…それを燃やし…あの世へ送ってあげていた。

 その時に浮かべていた表情もまた、無であった。



 ジンはこの後…何処に行くかは一切決めていなかった。

 このまま殺し屋を続ける理由もない。

 かと言って、社会復帰をするという考えもない。

 何せ…教団の全ての人間を殺してしまった男だからだ。

 ジンの中に眠っていた良心は…無の感情を保てる程度にしか残っていなかった。


 もう何日も喋っていなかった。

 もう何日もまともに食事をとっていなかった。

 もう何日も寝ていなかった。




 そんな時だった。

 見た事のある髪色…嗅いだことのある匂い…

 そして…似合うツリ目。腰には…ナイフ。

 軽装に見えて中身はナイフだらけ…。


「ルキ…!?」

「ジン………!?」


 目を合わせる二人。

 ジンの前にはルキがいた。

 二人とも驚いた表情を浮かべていた。

 お互い生きている事に驚きを隠せなかった。


「ルキ…生きて…たのか………良かった…」


 喉が焼けていたジン。

 枯れたような声を出して喉が痛む。

 だがそれ以上に嬉しかった。ルキが生きていた。

 ジンは嬉しさのあまり、ルキに抱きつこうとした。


 その瞬間だった。


「ルーキーーー?」


 ルキの背後から少女の声。


「…あ」

「どうしたの?亡霊でも見つけたような目をして」

「あ…いや…その………」


 身体を震わせるルキに後ろから抱き着く黒いフードを被った少女。

 少女は紫色の左目と黄緑色の右目を輝かせていた。


 この少女こそ…絶壁のメタリー。

 この時点で既にルキは、ネオカオスに仲間入りしていたのだろうか。

 だがどちらかというと、強制的に入れられたような顔をしていたルキだった。

 ルキは生きていたジンを見て仲間意識が一瞬芽生えた。


「い…今目の前に…えっと…」

「ルキ」


 メタリーがルキの首元に寄る。

 そして、衝撃的な言葉を吐く。


「ルキの仲間は…ルキを裏切ったんだよ?」

「っ…!!」


 メタリーがジンには聞こえない小声でルキに囁く。

 その小声はただならぬ狂気を醸し出していた。

 だがこれは嘘だ。ジンはルキを裏切ってなどいない。

 ジンはルキを必死に探していた、生きている事を祈って探していたのだった。

 メタリーは嘘でルキを自身の仲間達に入れようとしていた最中だった、洗脳中だったのだ。


「そうだよね?」

「………そうね」


 ルキがメタリーに洗脳されたかのように目付きを変える。

 ジンはそんなルキをお構いなしに話しかけようとしていた。


「ルキ…お前だけでも生きてて良かった…俺と一緒に…」

「ジン…」


 ルキがジンを睨む。


「…ルキ?なんだよ、怖い顔して…」

「…私は生き方を見つけたわ」


 ルキがそう言うと、振り向いてどこかへ歩いて行ってしまう。


「っ…!?待てよルキ…まだ話が…!」

「着いてこないで…!!」

「っ!?」


 ルキの大きな声にジンが怯む。


「ねぇ、焦げ臭いんだけど?」


 メタリーが煙たがっているような仕草で辺りを手で払う。


「っ………」

「もしかして、火事に出会った?それとも人でも焼いた?ねぇ?何を焼いたの?敵?仲間?それともどっちも?ねぇねぇ!」


 まるでジンの過去を知っているかの素振りを見せるメタリー。

 実際には知らなかったが、メタリーは口上手だ。

 口だけでジンを陥れる事くらい、造作でもないのだ。


「………」

「まぁいいや、私は興味ないや。重要なのはこっちだからね」


 メタリーがルキの頬を軽く舌で舐める。

 ルキは動じず、彼女のよだれが頬に付くのを黙って見ていた。


「っ………」


 気が付くと、ルキとメタリーは去っていった。

 ジンは去っていくルキとメタリーをただ立って見ることしかできなかった。


「……………」


 ジンが黙り込む。


 ジンの心の中にひとつの炎が宿る。









 ――森の中…黙って歩くジン。


 ルキも完全に失ったジンは…人間界にはもう行く当てがなかった。


「………この世界は…地獄だ」


 ジンが自身の手を見つめる。

 数日前まで血に染まっていた手。

 今は少しボロボロになっているだけだった。


「いっそのこともう…」


 ジンが拳を握る。


「俺も…死のうかな…」


 強く拳を握りすぎたあまり、血が出ていた。


「………人間なんて、クソだな。やっぱり奴等との共存なんて…」


 ジンがそう言いながら…顔を見上げる。


「!?」


 ジンの目の前には…恐ろしい仮面を付けた男が立っていた。

 黒をベースにした鎧のような装備。

 そしてその男からはただならぬ魔力の気配を感じ取っていた。


「ジン…お前、今死のうとしたな?」

「っ…!!」


 ジンが仮面の男から距離を取ろうとする。

 だが謎の圧力故か、仮面の男の前からは動けなかった。


「お前の未来、『未来視』で見ていたぞ」

「っ…『未来視』…!?」

「王だから、当然だよな?」


 仮面の男がジンの背後に回り込んでいた。


「お前の未来は私が見た限りでも絶望だった。お前が見た未来も同じ絶望だったはずだ。だが本来の使い方ができれば、未来は変えれる」


 仮面の男の言葉を聞き、ジンが拳を握る。


「何が…言いたい…?」

「お前はまだ未熟だと言う事だ」

「っ…!」


 ジンが怒りを露わにする。


「俺が…未熟だと…?」

「貴様は持って生まれた訳ではなく、簒奪したのだからな。未熟も当然だろう?」

「ふざけるな…!」


 ジンが咄嗟に仮面の男に向かって銃を撃つ。


「俺は未熟じゃねえ…確かに生まれて無個性だったが今はこんなにも強くなった…こんなにも…」

「強くなったのは…戦闘だけか?」


 仮面の男がそう言うと、ジンの首元に手刀を当てる。


「ぐっ…」


 ジンが気を失いかける。

 仮面の男が倒れそうになるジンを抱き抱える。

 敵意はあっても、殺意はなかった。


「絶望にくれ、怒りに任せて燃やしただけのお前はまだ持つには早い。ならば、記憶を操作してやろう」


 仮面の男がそう言うと、ジンの額に手を当てる。


「な…なにを…す…」

「こんなにも脳が損傷して。だから単純なのだな、お前は」

「っ…!てめ…」

「その単純さを、もっと極めるがいい」


 仮面の男がジンの額に魔力を込める。


「や…辞め………」

「一族の大罪を犯した者よ、今こそ本来の本性を出すのだ」

「が…あ………ああああああああああああああああああああああああ!!」


 ジンが魔力に苦しむ。

 ジンの身体が痺れ続ける。


「お前には………未来を託す義務が私にはある」

「ああああああああああああああああ!!」














 ――数時間後…ジンは街を燃やした。


 ジンは仮面の男によって、記憶を操作されてしまっていた。

 仲間を失った記憶はそのままに…

 エルを失った記憶は…名前を忘れさせられてしまい…


 それ以前の記憶を全て消されたかのように…




 そして…怒りの矛先はシゼル教団ではなく…ネオカオスに………

 そして…人間全員に…






 ――燃やされた街の光景を見る…白い髪の少女…


「これは酷い…」


 街の殆どが炎に包まれていた。

 白い髪の少女…ホワイトは地獄のような光景を…汗を流してみていた。


「まさか…これもネオカオスの仕業…?」


 ホワイトが考えている間に、ラッシュ師団の団員がホワイトの元へやってくる。


「あっ…新入りの回復の子!」

「…あ」

「救助を求めてる人はあそこにいる。きみの回復魔法を使ったあと、早く基地に運んで」

「…わかりました」


 ホワイトは団員の声の元、すかさず向かう。

 そこには人が多く倒れていた。火傷をしていたり、燃えて倒れた木造建築に潰されていた人達まで倒れていた…。

 これも全部…ジンの仕業だった。


 ジンは…全てを燃やしてしまいたかったのだった。



「っ………!」


 ホワイトは身体が震えていた。こんなに倒れてる人がいるなんて思いもしなかった。

 恐怖で足が動かなかった。


「ホワイト!?何をぼーっとしてる!?運ぶのを手伝え!」

「あっ…はいっ…!」


 ホワイトが運ぶのを手伝う。


 ホワイトが途中で煙を吸ってしまい、咳をする。


「ゴホッゴホッ…煙が…」

「しっかりしろホワイト!」

「…すいません…」


 厳しい先輩の団員達。ホワイトにとっては地獄と地獄の二段重ねだった。


「……はぁ…はぁ…」


 倒れている人をかろうじて基地の入口へ運ぶ。


「まだ大勢いる…急げ…!」

「はいっ…」


 ホワイト達は再び街へ向かった。


 …ホワイトは、一瞬、燃えている方とは別の方角…森の方に人の気配を感じた。

 その人の気配こそが…ジン。

 ホワイトは目線を森の方へ向ける。


「…!」

「ホワイト!?どっちを見てる!?街はこっちだ…!」


 ホワイトは戸惑う。

 が、何かを失うと思った気配を感じたホワイトは森の方角に進んだ。


「おいっ…!」

「ごめんなさい…森の方に人がいたのであっちを助けてきます、先に行っててください…」


 ホワイトの呼び掛けに団員は少し怒りを立てながらも…ホワイトの事を信じる事にした。


「……分かったよ」

「ごめんなさい…!」


 ホワイトは森の奥を進んでいく。



 ホワイトが恐る恐る森の中を歩く。

 森の中にある木々には、銃弾のようなものが撃ち込まれているものが何個もあった。


「…これは…」


 ホワイトは気配を追い掛けながら、その撃ち込まれた跡の光景を見る。

 銃弾の撃ち込んだ跡も…ジンの仕業。


「………この奥に、誰かがいる…!」


 ホワイトは森の中を進み続ける。


 そして…


「いた…!」

「…っ!?」


 ホワイトはすぐさま武器を構える。

 1本で銃と剣として使えるミカお手製の武器『銃剣』…

 ホワイトの目の前には…銃を持った赤色の瞳を持つ赤髪の男…ジンがいた。


 だがそのジンは…怒りの感情とは別に少し悲しそうな顔をしていた。


「…女…か。動くな…!」


 ジンがホワイトに銃を向ける。

 ホワイトもそれに対抗するかのように銃のように武器を構える。


 ジンは怖かった。

 銃を持つと…殺し屋時代の事を思い出してしまうからだった。

 そして今目の前にいる少女を殺そうとしているのは…殺し屋の血ゆえか…それとも…


「っ…あなたが街を燃やしたの…?」

「……お前等は簡単に奪った…」

「…奪った?」

「お前ら人間は…大切なものを簡単に奪っていった。それがか弱い女だったとしても…!」

「…え…どういうこと…」


 ホワイトは武器を下ろしてジンに近付く。


「動くな!」

「っ…」

「…動くなら、撃つ…」

「それは私も………!」


 ホワイトは再び銃を向ける。

 二人は銃を向け合う。


 この時の最悪な出会いが………

 彼女と彼の壮大な物語を引き起こしていくのをまだ二人は知らない――




ということでジンとエルの過去編、終わりです!

この話からep1.に繋がる感じでした!!

次回からまた本編に戻ります!

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本編のスピンオフである
悪魔に堕ちて悪魔と結婚した太陽
も連載中!
是非こちらも御覧ください!
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