ep-α7.教団の脅威
――一方、アヤメ達は…
「…ジン達…どこ?サツ、魔力で追えない?」
「この森は魔力が豊富に満ちているせいでなかなか追えません…」
「うーん…絶対この森に入ってったのは見たけど…それ以降見失うなんて…」
「…仕方ないです、ジンと連絡を…」
「ねぇ、ここ電波悪くない?」
ルキが通信機を持ちながら話す。
「この前の依頼主から何度か私宛に通信来てるっぽいんだけど…出ようとしても雑音ばっかで上手く繋がらないわ」
「…ほんとだ、よく聞いてみたら昼間仕掛けた盗聴器の音も全然聞こえなくなってる」
「…サツの魔力では追いづらく、電波も悪い…一番最悪なパターンじゃね?」
「…こうなると、ジン達がどこにいるか…本当に分からないね」
「…見通しも悪いし、俺のスナイパーライフルも扱いが難しそうだ。いざという時は厳しいかもな…」
「…なら、団体行動は乱さないようにしなきゃだね」
「そうね」
ルキがそう言うと、物音がした。
「しっ…誰かいる」
「…!」
四人は茂みに隠れる。
物音の方を覗き見する一同。
「…あれは…」
「…ボロ!」
アヤメが声を出す。
物音の正体はボロの足音だった。
「しっ…アヤメ…静かに…!」
サツがそう言うと、銃声が鳴る。
「…!」
「がはっ…」
「…カイ!?」
カイは腹から血を出していた。
銃弾が身体を貫通していた。
「あぁ?昼間のガキ達じゃねえか」
ボロが四人の方に歩き出す。
ボロは右手に銃を持っていた。
「っ…!まさか…おじさんが…撃ったの…!?」
「だったらなんだ?それに…おじさんじゃねえって言ったはずだ」
「っ…!」
アヤメが立ち上がり、2つの剣を両手に構える。
「っ…!」
だがボロは一人ではなかった。
複数人の人間が銃を持ち、ボロの後ろに立っていた。
「一人な訳ないだろ?それに、全員プロの殺し屋だ」
ボロが人差し指を立てると、後ろの殺し屋が一斉に銃を撃ち出す。
「っ…!」
「まずい…!!」
四人は銃弾を避け始める。
銃弾の嵐が、四人を襲う。
「っ………!」
「皆避けて…!!」
だが違和感があった。
一発一発が、当たらない。
多く撃ち続けていれば、いつかは当たるだろう。
それが、起こらなかった。
「っ………」
「撃ち方やめ」
ボロがそう言うと、射撃が止まる。
「何が……起き………」
「今俺は、こいつらに当てないように撃てと命令した。この意味…分かるか?」
「っ…!?」
驚く四人。
疎らに撃った銃弾という訳ではない。一発一発が全て、四人に当たらないように撃った物だった。
「お前達をいつでも殺せるって意味だ」
「っ…どうすれば…」
「ぐっ…クソッ…」
カイが腹を押さえる。
出血が続く、血が垂れ続ける。
「カイ…しっかり…!」
「その銃裁き…その声…さては…」
ルキが睨む。
ルキはボロの正体を知っていた。
「殺し屋の…!!」
「…あぁ、俺達こそが『シゼル教団』…お前達が遊びでやってる殺し屋とは違う、本当の殺し屋だ」
「シゼル教団…!」
「ねぇ…シゼル教団って…」
「…えぇ、全国に指名手配されている名高い犯罪組織…アジト、首領共に不明…。犯罪経歴はネオカオス以上の…!!」
ルキが魔力で大量のナイフを宙に浮かせる。
「…ここであったが百年目…絶対にここで殺すわ…!」
ルキが宙に浮いたナイフをボロに向けて飛ばす。
「撃ち返せ」
ボロが後ろの殺し屋に命令し、射撃する。
だがナイフは止まらずにその殺し屋に突き刺さる。
「ぐあっ!!」
「おぉ。流石は暗殺のルキと呼ばれるだけある手捌き」
突き刺さる。
そしてもう一人に突き刺さる。
少しずつ数を減らしていくルキ。
「…殺すって決めたからには…あなた達全員殺す…」
「威勢のいい事だ。だが、これだけの数じゃない事くらい分かってるよな?」
「っ………!?」
ルキが殺して頭数を減らしていたと思い込んでいたが…
プロの殺し屋はまだ多く後ろに控えていた。
殺し屋達が、四人に銃を向けて構える。
「そんな…あんな数………!」
「分かってなさそうだったから残念だ。お前達は…ここで死ぬか何も見なかった事にしてお家に帰るかのどっちかしか選択がないんだよ」
「っ………」
「だが、選択は無くなった。俺の仲間を殺した以上…生きて返す訳にはいかない。悪魔族含め…皆殺しだ」
「ルキ………!!」
「…アヤメ…サツ……カイを連れて逃げなさい」
「は…なんて………」
「逃げなさい………!!」
ルキが大きな声を上げる。
そして再びナイフを飛ばし、殺し屋を少しずつ殺していく。
「ここは私が食い止めるわ…」
「っ…!でも…」
「いいから…!」
「っ…ごめん…サツ…!」
アヤメがそう言うとサツも頷く。
二人で協力してカイを連れて…逃げ出す。
「一人で俺等を食い止めるだぁ?何を言ってるんだガキ」
「…あなたは皆殺しと言ったわね」
「あぁ、皆殺しだ。全員残らず。悪魔族…共々」
「ならば………それはあなた達の方ね」
「なんだと?」
「っ………!!」
ルキが大量のナイフを再び投げる。
「…撃ち落とすな、かわせ」
撃ち落とそうとすると、銃弾がナイフに負けてしまう。
ならば当たらないように避ければいい。
だが…ルキはそこまで甘くない女だった。
「遅い…!!」
再びナイフが別の殺し屋に突き刺さった。
「…なんだと?」
「あなた達全員…皆殺しよ」
ルキがナイフを再び投げる。
「そうか」
ルキがナイフを飛ばし続ける。
多く構えていた殺し屋を一人ずつ殺していく。
「ここまでやるとは思っていなかったよ、お見事だ」
ボロがそう言うと、ボロが銃をルキに向ける。
ルキはそれに気付き、ナイフを構える。
「そこ………!!」
ルキがボロに向かって、ナイフを投げる。
素早く飛ぶナイフが、ボロに瞬時に向かう。
そして………
………命中しなかった。
「っ………」
どういう訳か、ルキが正確に投げたはずのナイフは…軌道をずらした。
風の影響ではなかった。この場所に風は吹いていない。
ナイフは………魔法をかけられたかのように曲がりくねってしまった。
「死ね――」
ボロがそう言うと、銃声が鳴る。
「っ…!」
ルキの腹に弾丸が貫通する。
ボロの撃った銃が、ルキを貫いていた。
「ぐっ…」
「お前等、やれ」
残った殺し屋が、ルキ目掛けて撃ち始める。
「…!や…ば…」
ルキが何度も撃たれる。
身体の何か所にも穴を開けられる。
その何個もの穴から血が噴き出る。
「がはっ…」
ルキはその場に倒れる。
ボロはルキの元へ歩き出し、倒れているルキに銃を向ける。
「死んだか」
ボロは血だらけで倒れるルキの息を確認した。
ルキはこの時点で、既に息をしていなかった。
ボロがルキの動かなくなった身体を片手で持ち上げる。
「残りのガキ達を追うぞ。ここで合った戦闘の証拠は全て消せ」
「御意」
「奴等を見つけ次第撃って構わない。全員殺せ」
ボロは銃をしまう。
そして逃げたアヤメ達を追いかけ始めた。
シゼル教団は自身達の計画のため、ジン達殺し屋全員を皆殺しにするつもりだった………
――銃弾飛び交う夜の出来事…
そんな気配も感じる事をなく、甘い夜を過ごした二人。
翌朝………
「ジン…おはよ」
「…おう、おはよう」
ジンは木に寄りかかっていた。
ジンは目を擦る。
「…寝てないの?」
「二人とも寝たら危ないだろ、見張りだ」
「そっか」
エルはそう言うと、ジンの頬を抓る。
「いっで…何するんだ」
「ちょっと寝てなよ。私が見張りするからさ」
「っ…俺は別にいい」
「そんな事言わず…寝なさい寝なさい」
エルがジンの頭を優しく叩く。
「っ…仕方ねえな…」
ジンはその場に寝転がる。
「…膝枕、どう?」
「…あ?」
「私の膝の上で、寝ない?枕がない所で寝るよりかは、断然マシだと思うけど」
「………」
エルの言葉に甘え、頭を彼女の膝に持っていくジン。
「……………」
「どう?絶景?」
「………多少は」
エルの成長しきっていない身体、ジンはそれを彼女の膝枕から眺めていた。
「ヘカ………いや、母の血をちゃんと遺伝していたと仮定すれば、私も将来はナイスバディになる予定だから。ジン、あなたを誘惑できるくらいには身体が育つつもりだから」
「………」
ジンを見下ろすエル。
ジンが目を瞑ってエルと目を合わせないようにする。
「…そいつは大層な事だな、成長期」
「ねぇ、真面目に聞いてる?」
「逆に問おう、お前何歳だ?」
「………18」
「…俺と一緒かよ。でも18か。そうなると…もう成長しないな」
「っ………!そんな訳ないから…!絶対するから…!!」
「はぁ、そうか」
顔を赤くするエルと、余裕を見せるジン。
「どうせ男なんて…全員大きい方が好みなんでしょ…?」
「…そう言う訳でもない、カイは貧乳好きだ。アヤメとかドンピシャだろう」
「カイ…アヤメ…仲間の話か…」
「ルキはその反面スタイルいいな、あいつは殺し屋なんてやらなければすぐ彼氏できそうだ。サツの作った彼女は見た事ないが…あいつは見た目よりも中身で選びそうだな。情報屋に相応しい也だし」
「………」
「俺も彼女…欲しいな」
「いるじゃん、私が」
「…そうだったわ」
「………はぁ」
ため息を吐くエル。
想像と違って恥じらいが一切ない今の状態。
膝枕なんてするんじゃなかった、そう思うエル。
「昨晩はありがとう」
「…別に。お前が強制した事だろ」
「………そうだったかも」
エルが顔を赤くする。
昨晩の出来事、そのことについて語っていた。
「そういえば、ジン」
「…ん、どうした」
「仲間、あの後連絡来た?」
エルの言葉を聞き、ジンが通信機を見る。
通信機には一切の連絡が来ていない。
「…いや、来てないな」
「うーん、そっか。…なんか怪しくない?」
「…何がだ?」
「普通さ…森の中入った後って連絡くれない…かな?」
「…確かに」
「連絡してみたら?」
「…俺が寝ようとする前に普通言うか?まぁ…連絡してみるか」
ジンが通信機を使い、アヤメに連絡する。
「俺だ。アヤメ聞こえるか?」
「…ザザ…ザ…カ…ザ…」
通信機は雑音だらけだった。
「…あ?」
「凄い雑音…もしかして電波悪いのかな?」
「森の中だからか…にしても悪すぎるな」
ジンがそう言うと、通信機から声がした。
「…………カイ………が……」
「…ん?カイが…どうした?」
「……ザザザ……撃たれ…」
アヤメとの通信が切断された。
「…おい…どうしたアヤメ?おい…」
「…通信、切れちゃったみたいだね。今カイが…撃たれ…とか聞こえたけど…」
「…カイ…撃たれ………?」
ジンは最悪の状況を考えていた。
カイが撃たれた、世界線を。
「…撃たれた…とか…か?」
「…え」
「…いや…そんな訳……いや…ノイズが走っていたとはいえ、あのアヤメの声…少し焦りが出てたような…」
「…ジン」
「…エル、睡眠は後だ」
ジンがエルの膝枕から起き上がる。
「今は…あいつらの事が心配だ…仲間を放っておけない…」
「…分かった」
エルはそう言うと、剣を取り出した。
「…いざという時は私も戦う」
「そうか、頼む」
エルとジンは木の上から降りる。
「来た道を引き返す?」
「そうしたい。恐らくあいつらは後ろから着いてきてたはずだ。引き返して…確認しよう」
「…分かった」
ジンとエルは、仲間を見つけるために森の中を走り出す。
――暫く走った後の事だった。
「っ………」
ジンが足を止める。
そして小さくしゃがむ。
「この臭い…この焦げたような…臭い…」
ジンが鼻を利かせる。
鼻に走る、焦げた臭い。銃を撃った後の臭いだった。
「焦げたような…?」
エルが疑問を抱く。
ジンが辺りを見渡す。
銃弾が木に撃ち込まれたような跡はない。
血痕も零れていない。
「ここで何かあったようには見えない。だが…銃を撃った後の臭いがする」
「銃の臭い…?つまり…」
「恐らく俺の仲間の………」
だが違う。
普段嗅ぐような銃の臭いとは違う。
ジンの仲間が使う、銃の臭いとは違う臭い。
「…待て、違う――」
気付くジン。
そして、微かな足音にも気付く。
「………!」
咄嗟にエルを守るように振り向き、エルの前に立つジン。
そして、大きな銃声が鳴った。
森の中に響く、大きな銃声が。
「っ…!」
「動くな」
銃声がした方向、ボロとその手下が立つ。
ボロは天に向かって銃を撃っていた。威嚇射撃だ。
「…なんだ…お前…」
「なんだお前はこっちの台詞でもあるな、なんだお前は?」
「何故そんな物騒なモンを持ってる?」
ジンはボロの銃に指を指す。
「ふん、お前も同じような武器を持っているじゃないか」
「………」
ジンの腰に付いている銃に指を指すボロ。
「護身のためだ」
「護身?人を殺す武器の何が護身だ?」
「じゃあお前のその武器はなんだ…人を殺すためか…?」
「正解だ」
ボロがそう言うと、ジンに向かって銃を向ける。
「俺達はお前じゃなくて、その隣の女に用があるんだ。さぁ、こちらへ」
ボロがエルに手招きする。
「っ…」
「…着いていくな、エル」
「勿論だよ…それにあいつは………」
「…あいつは?」
「私を狙っていた連中の…一角…!」
「…!!」
ジンに会う前にエルを狙っていた連中…それがボロだ。
ボロは持っている銃の弾をリロードし、戦闘態勢に入る。
「抵抗しなければ殺しはしなかったが…それなら仕方ない――」
ボロは銃をジンとエルに向ける。
「お前等の魔力、纏めて貰い受ける」
「っ…」
「ジン…!」
ジンは銃を構える。エルも剣を構えていた。
「…どうする…?」
「どうするも何も…追っ手に見つかった以上逃げるか…或いは返り討ちにするかのどっちかだ…!それにあの也、間違いない…あのハゲの名前はボロス…!」
「いかにも…俺達こそが『シゼル教団』。そして俺が…殺番のボロス」
ボロは真の名前を明かす。
シゼル教団の殺番のボロス、それが彼の真の名前。殺し屋のプロだ。
ジンもまた、ボロスに向かって銃を向ける。
「ただお前は、情報屋のボロスとして各地を放浪していたはずだ…銃の腕も凄く、各地に名を馳せる存在だった。だが…何故…?」
「あぁ…アレね。アレは俺のかりそめの姿。本当の俺は…こうして裏社会で殺し屋をしていたのさ…!」
「っ…やはり情報屋だけでは資金が物足りないとか…そういう事か…!」
「まぁそういう事だな。お前等もそうだろ?殺し、稼げるもんなぁ!?」
ボロスはそう言うと、銃をジンに向けて撃つ。
「っ…!」
ジンは銃弾をかわす。
「エル…逃げろ!」
「で…でも…!そんな事したらジンが…」
「いいから逃げろ!お前は早く…目的地まで行ってくれ…!」
「っ…!」
エルが後ろを向く。
少し立ち竦むと、エルは右拳を握る。
「…ごめん………」
エルはそう言うと、ジンを置いて南の方角へ走り出す。
「逃がすな、追え!」
ボロスがエルの方へ指を向け、ボロスの手下がエルを追いかけようとする。
「行かせねえ…!」
ジンはそう言うと、手下に銃を撃つ。
「っ…!」
手下全員に銃弾が命中する。
「やるじゃねえか」
「あぁ…当然だ」
ジンはそう言うと、左手からボールのような物を取り出し、投げる。
「?」
「まずい、目を閉じろ!」
ボロスがそう言うと、ボールのような物は光り出す。
いわゆる閃光玉による目くらましだ。
「ぐあっ!?前が…!?」
「閃光玉だ!目を塞げば効かん!」
ボロスが目を腕で隠す。
「ぐあっ!!」
銃声と同時にボロスの手下が悲鳴を上げる。
「がっ…」
「ぐぅっ…!」
「!?」
ボロスが目を開けると、ボロスの周りには手下が倒れていた。
「………おうおうおう」
場にボロスとジンだけが残る。
「そうか、そうか、そうだったな」
ボロスはそう言うと、高笑いし始める。
「はっはっは!愉快だなぁジン!」
ボロスはそう言うと、目の前に立っているジンに向かって銃を向ける。
「――お前の事を見くびってたよ、悪魔みたいな殺し屋…ジン!」




