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白と悪魔と  作者: りあん
第三部 繋がる命と共存の悪魔
106/271

ep-α6.甘い契約

 ――エルが悪魔族だと言う衝撃的な言葉を発するボロ。


「あ…悪魔…族………?」

「な…あの少女が………?」

「人畜無害そうに見えるあの子が…?」

「人畜無害かは怪しいが………だが………」


 驚く四人。

 ボロの言葉は続く。


「悪魔族とはかつての時代、世界を絶望に陥れた種族の末裔。得体の知れぬ魔力で幾度の人間を洗脳し、殺しも行った咎人だ。我々は悪魔族を許せるだろうか?否、許せる訳がない。奪われるべきじゃなかった命すらも奪った、それは大罪だ。そして今の時代に悪魔族が再び人間界にやって来たのも、再び人間を蹂躙するための前触れなのだろう。この世界は我達人間達の安寧が確保されている、悪魔族の介入は許してはならない。生け捕り及び暗殺を成功した者にはこの紙に書いてある額の分賞金を渡そう」


 ボロはそう言うとその場を立ち去った。


「あいつ………!!」


 アヤメが身を乗り出そうとするが、カイが止める。


「待て…!今は行くな!」

「あの旅人擬き…!殺す………!!」

「落ち着け!俺達の第一優先事項は…ジンとエルの護衛だ」

「っ………」


 アヤメが力を押さえる。


「…ごめん」

「あいつを今殺しても騒ぎになるだけだ、今は冷静になれアヤメ」

「………しかし、彼がまさか…ですよ…」

「…あの男と接触したの?」

「うん…さっき屋台で話した…でもまさか…あいつが…」


 アヤメが歯をキリキリと鳴らす。


「…今は怒っても仕方ない、兎に角…ジンに報告だ」

「っ…そうだった」


 アヤメが通信機を取り出す。







 ――荒野を歩くジンとエル。


「なぁエル」

「ん?どうしたの?」

「砂漠の街について教えてくれないか?」

「いいよ」


 エルが微笑む。

 エルが少し大股に歩き、ジンの前に出る。


「砂漠の街は…正確には『サキュア』って場所なんだ」

「サキュア」

「私なんかをずっと居させてもらえて、良い人も多くて、第二の故郷みたいな感じ」

「第二の故郷か。…という事は、その場所は明確には故郷ではないのか?」

「まぁ、そうだね」

「どんなところなんだ?」

「……………」


 エルは自身の故郷を聞かれて黙る。

 ここで悪魔族だと打ち明けてしまうと、ジンにいらぬ誤解を生んでしまうかもしれない。


「………サキュアの方だよね?」

「第一も気になるが、遥か南の砂漠の街と聞くと少し胸が高ぶる気がする。どんなところか、知りたい」

「ジンって結構冒険家だね」

「殺し屋な以上、何処でも出向く。出向いた事のない場所の情報くらい、得たい」

「そっか。じゃあサキュアの事なら教えてあげる」


 エルが腰から剣を取り出す。


「剣?」

「私はサキュアで信用を得るために、村の守護者的な事をしていたんだ」

「守護者?何か…厄介な物でもあったのか?」

「かつての時代に暴れたとされる人間の…肉体が眠る場所がサキュア――」

「………何?」


 疑問を抱くジン。

 かつての時代に暴れた人間…それは『可能の災いディ・スピア』の話だ。

 サキュアにはスピアの本来の肉体が眠っている。魔力は殆ど持っておらず、魔力の根源として別の場所にある。


「封印を破ろうとする人間はいないけど、封印を破ろうとする魔物は存在する。恐らく魔物は、その肉体に宿る強大な残存魔力を求めてサキュアを襲っている」

「なんか…話が難しくなってきたな」


 ジンが腕を組む。

 難しい事を理解できない訳ではない。だが、急にスケールの大きな話の展開が起こると困惑するだろう。


「私は魔物を追い払う守護者になった。街の人達との契約の元に、私は契約の守護者となった」

「………ほう」

「私の魔力と剣筋で魔物を追い払い続けて…魔物は寄り付かなくなった。私は契約の守護者としての使命を果たせた。そして………人間の子どもを身籠ろうと思った」

「ほ………う…?」


 困惑するジン。

 人間の子どもを身籠る…つまり、妊娠すると言う事。

 だがエルはジンと同じくらいの年齢。

 ジンはまだ18歳で、大人になりかけている辺りの時期だ。


「その年齢で…か…?」

「これは私の本当の故郷の話になるんだけど…えっと――」


 言い訳を考えるエル。

 悪魔族であると言う事を隠し、ジンに納得してもらえる答えを探す。

 そして、思い付く。


「…私の持つこの魔力を、後世に繋げるために」

「…あぁ、そういう事」


 エルの言葉に納得するジン。

 エルが嘘を吐いているとも知らず、ジンはただ聞く。


「私のこの魔力は人間にとっては特別に近い物。この魔力は、継がないといけない」

「そうか」

「だから子どもを作るために…身体を差し出そうとした。けど………無理だった」

「…まぁ、お前若そうだしな。肉体的にも精神的にも成熟しきって…」

「そうじゃない…」

「………ん?」


 ジンが疑問を抱く。


「情が………湧いてしまったの」

「情?」

「サキュアの人達に………私の一族を継がせるなんて…できない………!」

「………」


 エルはサキュアの人々に自身の一族を継がせる事は…かえって不幸にさせてしまわないかと思っていた。

 それをジンは察する。


「…何か深い事情があるんだな」

「………ごめん、ちゃんと言わなきゃ…分からないよね…」

「言わなくていい。お前が人思いな女だって事は良く伝わった」

「ジン………」


 エルが少し涙を流す。


「あ、すまん………」

「いいや…違う…嬉し涙だよ」

「だが疑問がある。エルは俺と最初に会った時、魔力が殆ど満ちてなくて人々の生気も全くない街と言っていた。だがエルの今の話を聞くと…とてもそうには聞こえないが」

「……………サキュアは………」

「…何かあったのか?」

「………とある魔物の介入で、崩壊を迎えた――」

「………!?」


 ジンが驚いた表情を浮かべる。

 サキュアはかつて、とある魔物が街を襲った事があったのだ。


「魔物はもう寄ってこない…そう思っていた矢先だった。あの時の惨劇は…忘れない………」

「…何があった」

「…誰かが死んだ訳じゃない…けれどあの時…あの街は………」

「エル――」

「私が守り切れず…全て燃やされて………!」

「エル………!!」


 感情的になるエル。

 ジンがエルの肩に手を乗せる。


「ジン………」

「…要するに、魔物が街を破壊したん…だろ?」

「………うん」

「その魔物は…どうしたんだ…?」

「………私が倒した…命を…奪った…」

「………そうか」


 少し安心するジン。


「魔物が逃げたならまだ危機に曝されていたかもしれないが、魔物を殺したのなら…もう大丈夫だ」

「ジン………」

「荒らされても…また作り直せばいい。それに…お前が言う限りだと命は失われずに繋がっている。サキュアは…まだ取り戻せる。そう思ったから…何か方法が思い付いてこっちに来たんだろ?」

「………そう…だった………」


 エルはそう言うと、手から紫色の炎を宿す。

 そして、その炎の中から大きな缶を取り出す。


「…それは」

「私が今まで集めてきた、魔力の数々。勿論人から奪った訳じゃない。協力して貰って…分けて貰った物達。私は…自身の魔力である………与える力を応用して集めてきた」

「………そうか」

「これだけあれば…サキュアを元通りにできる。けれど…私はこの魔力のせいか分からないけど、狙われている」

「………」


 エルが狙われている理由は、エルは本来悪魔族であると言う事。かつての悪魔族が犯した大罪のせいで、エルにも被害が及ぼうとしている。

 だが、それはエルもジンも知らない。


「狙われて大変だった所で…偶然ジンに出会えた訳。…今思えばあなたに出会えなかったら私は今頃死んでたかも…しれない」

「そうか」

「…だから、あなたみたいな人に出会えて良かった。全てが解決したら、お返しは…いくらでもする」

「…お返しか」


 ジンは天を向く。


「…いや、いい」

「…え?」

「お前が幸せなら、それでいい」

「…!」


 エルがジンの方を見る。


「金は得られないが…それよりも大きな得られる物がある、そんな気がしてきた」

「ジン…」

「俺も…お前の目的が達成されたら…目標に向かって更に立ち向かう」

「殺しの仕事?」

「…そのつもりだったが、殺し以外にも、救いがあるかもしれない。世界の癌を…命を奪わないで、何かしらの方法で無くせる方法を………」

「………そっか」


 ジンもまた目標ができた。

 殺し屋としてではなく、一人の生き物として、世界に絶望する人間を少しでも減らそうと思って、何か別の方法がないか…そう考えていた。


「…それに…お前と…」


 ジンが言葉を続けると、ジンの通信機が鳴る。


「…あ?」

「…連絡、来てるよ?」


 ジンが通信機を使い、通信する。


「…なんだよ、いい所だったのに。…アヤメか、どうした?」

『ジン…!聞こえる…!?』


 アヤメの声がいつもより焦っていた。


「お前にしては珍しいな、どうした?」

『すぐその子と遠くまで逃げて!!』

「逃げ…?どうした…?」

『その…あなたが護衛してる少女…指名手配されてる…!』

「…は?」

『貼り紙に護衛してる少女…多額の賞金…あく………いや、兎に角…ヤバい…』

「アヤメ、落ち着け。何があった?他の皆は?」

『ジン』


 通信機からルキの声が聞こえる。


「ルキか…何があった?」

『アヤメが言った事は本当…今あなた達は狙われてる。…できる限り早く…逃げて欲しい』

「…マジかよ」


 ジンが腰に付けている銃に片方の手を伸ばす。


『砂漠の街とやらに早く行って欲しい。そこにまでは指名手配はされてないはず…』

「…分かった。砂漠の街の方は…あいつの第二の故郷だ。きっと…どうにかなる」

『あら…そうなのね。じゃあ…早めに逃げてね…私達もこっそり後を追ってあなた達を守るから…!』

「…頼む」


 ジンが通信を切る。


「エル、聞いてたか?」

「…うん、聞いてた」

「急ぐぞ」

「…うん」


 ジンとエルは走り始める。


「…こうなる事は予想してた」

「…なんだと?」

「私が…指名手配されて、ジンに大きな迷惑をかけちゃうって事…なんとなく起こっちゃうと思ってた…」

「っ………」

「…今、ジン怒ってるよね…私の事…憎いよね…」


 エルが泣きそうな顔でジンを見る。


「怒ってはいるが、お前に対してじゃない」

「え…?」

「…エルを指名手配するクソみてえな世間…俺は許せない」

「そっか…」

「…この荒野は少し見通しが良すぎて見つかりやすい。見通しが悪い場所はないか?」

「それなら…少し寄り道にはなるけど…この荒野を西に行くと森がある…そこの森なら…見通しも悪いし見つかりづらいはず…!」

「…また森か…でも…都合がいい…!」


 ジンとエルは森の方へ走り出す。


「本当はこの荒野をずっと抜ければ街と街が挟んでいる山があって…山を超えれば砂漠が広がってて…後少しで辿り着けるんだけど…この事態だから仕方ないよね…」

「あぁ。寧ろ街に行く方が危険だ。人気のない森を選ぶのが正解だ」

「…でも、砂漠に行くにはあの山も越えないといけない…どうすれば…」

「っ………」


 エルは一つの選択肢を思い付いた。


「翼を…使えば………」

「エル?」

「っ………」


 ジンの言葉に気付き、エルは悪魔の翼を使う事を辞める。

 まだジンに正体をバレてはいけない。

 最後まで…隠し通さないといけない。


「歩いて…行くしかない…!」

「森をずっと通れば、山には行けるか?」

「見通しのいい場所しか通った事ないけど…たぶんいける…!」

「そうか…分かった、森へ行こう」

「うん…!」






 ――森に入るジンとエル。


「…はぁ…はぁ…ちょっと疲れたよ…」


 走り続けたせいか息切れするエル。


「馬鹿言うな…本当はすぐにでもサキュアに着くべきなんだ。休んでる暇なんてねぇ…」

「そうは言っても…限界って物があるよ…」

「っ…まぁ…そうだよな…」


 ジンが頭を掻きながら走る。


「…逃げ続けるにしても休息は必要か…何処か休める場所を探そう」


 ジンが走りを止める。


「うん…ありがと…」

「薄暗くなってきたな。そういえばもう夕方…か。今夜はここで野宿か」

「火起こし…は、できないね。追っ手にバレちゃう」

「…いや、できるかもしれない」


 ジンが辺りを見回す。

 ジンが巨大な木を発見。

 木の幹に手を触れる。


「…この木…この感じ…とても硬く育ってるはずだ。上の方でも問題なく行ける」

「…ほんと?」

「あぁ。登るのはちょっと面倒だが…ここで野宿するくらいなら可能だ」


 ジンは木を登り始める。

 上の方の木の枝に立った。


「頑丈な木だ。エル、来れるか?」

「うん、行ける」


 エルも木を登り始める。

 エルの手をジンが掴む。


「…ありがと」

「ここなら見渡しもいいし、寝るのもギリギリ可能だ。…まぁ、落っこちなきゃの話だが」

「それなら、いい方法がある」


 エルはそう言うと、木の一部を魔力で変形させた。

 変形させた木は綺麗な足場になった。


「…これは」

「ウッドデッキみたいでいいでしょ…?私の魔力の応用」

「なるほど。流石はエルだ」

「これなら落ちる心配もないし、今晩はここでゆっくり寝れるね」

「あぁ、そうだな」


 ジンがオイルランタンを取り出す。


「火、私付けるよ」

「………いや、いい」

「え?」


 エルが疑問を抱く。

 ジンが指先に魔力を込め、ランタンに火を付ける。


「…それは」

「俺の炎の魔力だ。銃火器に本当は応用する魔力なんだが…こういう時は別だ」


 ジンもまた嘘を吐く。

 本当は炎の魔力をもっと強く使えるし、銃火器に応用しなくてもいい。だが目立ちすぎると良くない。


「野宿用の持ち物だ。この位置とこの火の強さなら目立たない」

「なんかキャンプみたい」


 エルがその場に座り込む。


「飯、いるか?」

「いる」


 ジンはおにぎりを取り出した。


「またおにぎり?」

「キャンプはこれが美味いだろ?」


 ジンは食べ始める。


「…うん」


 エルもつられて食べ始める。


「…とても、美味しい」


 エルが涙を流す。


「…!?どうした!?」

「…なんか、嬉しくてさ…涙出てきちゃった」

「嬉しい…?」

「…ジンってさ、何でそんなに優しいの?」

「別に優しくはないだろ、普通の行動だ。仲間と野宿する時もこんな感じでてきとうに調達してきた飯を食ってるだけだ」

「そっか。私は…仲間?」

「あぁ」

「…ありがと」


 エルはそう言うと、ジンの傍に寄る。


「…どうした」

「…夜は寒いから、近くにいた方がいいかなって」

「…そうかよ」


 ジンもエルの傍に寄った。

 ジンは持っていた上着をエルに着せた。


「…あ」

「…少し貸してやる」

「え、でも…ジン寒くないの?」

「俺は俺の魔力で自分の体温が高いからそんなに問題ない」

「なるほど」


 エルはジンの上着の匂いを嗅いでた。


「…ジンの匂いがする」

「あまり匂いを嗅ぐんじゃねえ」

「…落ち着く」


 エルの言葉にジンは戸惑っていた。


「それ、サキュアに着いた後も使え」

「え…でも…」

「返すのはいつでもいい。勝手に洗って貰っても構わないし…俺だと思って貰っても構わない」

「…ジンって、案外変態?」

「…多少は自覚ある」

「そう…ふふっ…」


 エルが笑い出す。


「…いつか返すよ。それまで、待ってて」

「あぁ」

「…口元、失礼」


 エルがジンに口付けをする。


「…ん」

「ねぇ…ジン」

「…なんだ?」

「私が責任取るからさ…ちょっと…さ………」

「………何が?」

「………」


 エルはジンへの口付けを続ける。

 そして、舌を入れる。


「っ………?」

「丁度暗いし…いい感じ…」


 エルの身体の匂いを間近で感じ取り…気を失いかけるジン。


「………何が………起き………て………」

「契約の元、私に身を委ねて」

「っ………エル…なに……を………――」


 ………

 ――その晩、ジンとエルは森の中…甘い野宿をした。


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悪魔に堕ちて悪魔と結婚した太陽
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