日常の崩壊
「行ってくるね。いい子で待ってて」
私の頭を撫でる母の優しい手。
「もうお母さん…私ももう16歳だし子供じゃないよ」
「ふふっ、母にとっちゃ、娘はずっと私の子供だよ」
「むぅ…」
「ホワイトも、きっと母親になったら分かるよ」
「…そうかな」
母の手が私の頭から離れる。
子供扱いしないで欲しい…と思っていたけど、私も母親になったら分かるようになるのかな。
「じゃ、世界を救いに行ってくる」
「…うん、信じてる」
家の玄関を出る母。その母を私は手を振って見送る。
「行ってらっしゃい…!」
「世界を救いに行ってくる」…それが、私が聞いた母の最期の言葉だった。
私の名前はホワイト。
母リュンヌと父ソレイユの間に生まれた、…一応人間。
そして…人を回復させれる『魔力』を持っている。
『魔力』…この世界に蔓延る…血液のような物。
私の身体にもみなぎってる力。
魔力を使って魔法を使ったり、身体能力を強化したり、色々な事ができる。
私の住まうこの世界では…今や魔力を持つ事が当然。
私だって当然のように魔力を持っている。
私の場合は、一言で言えば『回復』だ。
人の傷を回復したり、骨折を治したり、果てには内臓を…修復したりできる。
心臓とか脳はちょっと無理だけど…内臓を治せるのは自分でも思うけど少し凄いかもしれない。
魔力はかつての時代では魔力超常能力、異能、異質などと言われてきた物…
かつての時代では魔力を持つ者が魔力により世を支配し、魔力は恐れられていた。
だが、世界は変わった。人間はその魔力を受け入れた。
魔力で支配するために使うのではなく、魔力と人間が共存する事で受け入れた。
今やこの世界では…魔力は手足のように扱う者ばかり。私だって勿論そう。
私も手足のように魔力を使い、誰かの回復をしたりする。
まぁ、転んだりした程度のちょっとした傷を治すのには使うのはちょっと勿体ないけど…
魔力を使い過ぎてしまうと当然魔力切れを起こす。魔力切れを起こしても命に関わる事ではないし、普通の人なら身体能力にも影響はないけど、魔力を使ってずっと戦う人にとっては魔力切れは頭に入れておかないといけない。
生活を支え合うために魔力を使い、生活を豊かにするために魔力を使い、世の中は便利になってきてる。
そう…魔力は…有効活用すれば自由そのもの、さっきも言った通り、手足のような物。
だが、世界は…よりよくなる一方ではなかった。
魔力を有効活用する者もいれば、魔力を悪用する者もいる。
そして…魔力を悪用し、世界の改変を狙う組織『ネオカオス』が今、世間を騒がせている。
ネオカオスは世界を思うがままにする野望を企んでる、そのために魔力の源を得ようとしている。
お母さんは『魔力の根源』って言ってたけど、その根源を得たら世界を思うがままにするのも簡単だと名前から推測できる。
そしてネオカオスは…人殺しをする。
持ち前の魔力を使ったり…若しくは魔力を模した武器を作って、人を殺しては魔力を得ている。
魔力の根源を得るためなら、なんだってする組織だ…。
正直…怖い。
そんなネオカオスを、お母さんは「遂に追い詰めれる」って言ってた。
お父さんと協力して、遂にネオカオスのボスであるジハを追い詰めたって言ってた。
…現に私のお母さんは…いやお父さんもだけど、とても強い。
お母さんは…『月神の族』という種族の…一応人間。右腕に月の魔力を模している故に闇の力で覆われている。
右腕に月の魔力…というとしっくり来ないかもしれないけど、強大な魔力の一部が右腕に具現化しているって言った方がいいかもしれない。…とは言っても、手自体には普通に触れれるし、私みたいな人が触れても別に平気。魔力が宿っているのは確かだけど、触れた所で闇の力に覆われる…みたいな事はない。
お父さんはその月神の族に対して…『太陽神の族』という種族の…一応人間。左腕に太陽の魔力を模していて光の力で覆われている。お父さんの左腕も全然触れても問題ない。
…あ、でもお父さんの左腕はちょっと熱い。特に戦闘状態や魔力を解放した状態とかだと、もっと熱くなるらしい。太陽の力を模しているから…その力を使って戦う訳だから…ね。
そして、その二人の間に生まれたのが私。
…別に二人の特別な力を引き継いだ訳でもない、ただの人間。
月と太陽が混ざり合って凄い人間が生まれるのかと思ったら…そうでもなかった。
ただ、一応お父さんの持つ回復の魔力を引き継いでいるし、お母さんの持つ魔力もある程度は持ってる。
二人の魔力はややこしい物が多くてちょっと使いこなすまでは時間かかるから私は持ち合わせている回復魔力に特化する事にしたけど…。
…そうだ、私には兄もいる。
ブラックって言う名前の、兄さん。
兄さんも私と同じで…ただの人間。
兄さんはどちらかというと、お母さんの持つ魔力を強く引き継いでいる気がする。身体能力を強化したり…色々。兄さんもあんまりややこしくて良く分かってないけど。
ただ…兄さんが今、何処にいるかは分からない。
まぁ兄さんは私の7個上…23歳の兄だから、実家を出ていって何処かで安息に暮らしている…と思う。彼女でもいるのかな…?
…私?私はと言うと…魔力学校を卒業したばっかり。
魔力学校と言っても、別に特別何かするという事ではない。普通の学び舎だ。
今は人が当然として魔力を持つ時代なので、授業の中に魔力を使った物も入ってるくらい。
魔力学校は10歳から入学し、16歳の頃に卒業する。私はこの間卒業したばっかりで…これからどうしようか考えている最中。
持ち前の回復魔力を活かして、医者になるのも一つの手だったけど…お医者さんって大変そう。ましてや今の時代、お医者の激務は酷い。
ネオカオスによって傷を負った人達…それらが一斉にも運ばれでもしたら大変だ…そう考えてくるとその夢もあんまり追いたくない…。
今の私は、自分の夢が見えてこない状態だ…。
…そういえばネオカオスで思い出したけど、最近『ラッシュ師団』ならざる団体もできていた。
ラッシュ師団…ネオカオスに立ち向かうための正義の団体。
団長はランスさんという背が高くてイケメンで、でも冷静で…ちょっと私のタイプ。
ネオカオスに立ち向かい、ネオカオスの野望を阻止しようとしているらしい。
ラッシュ師団とネオカオスの戦いは続いている。
ネオカオスもラッシュ師団も…今も続いている戦いのせいで多くの命が削れて行ってる。
この前もラッシュ師団の何人かが亡くなったという情報をお母さんから聞いた。
お母さんとお父さんはラッシュ師団にも協力している。
ネオカオスの野望を止めるため、ラッシュ師団と協力しているらしい。
…ただ、ネオカオス相手に一緒に戦うみたいな事はあんまりしてないっぽいけど。なんでだろ。
…まぁお母さんもお父さんも凄い強い人達だし…ネオカオスもその気になったら壊滅できるんじゃないのかなって思ってる。
私もそれくらい強くなれたらいいのにな…
今日も私は『ラルの街』を歩く。
ラルの街…太陽神の族と月神の族と呼ばれる人達が強力して作り上げた街。
私が生まれる数年前…太陽神の族と月神の族が協力して悪しき一族を討ち倒したという歴史があった。
その歴史から取って、この街が作られた故に太陽と月が同時に輝く街って言われてる。
そして私の実家がある街。
今日はお母さんもお父さんも家にいないから、私が買い出しに行ってご飯を作る番。
今日はどんなご飯を作ろう、カレーにしようかな。
「今日もお願いします」
「ホワイトちゃん、いつもありがとね」
「いえいえこちらこそ、野菜いつもありがとうございます」
御辞儀をする私。
目の前にいるのは八百屋のおばあちゃん。
おばあちゃんの売ってる野菜は…とても新鮮で美味しい。
なんでも、魔力を模した水を撒いてるだとか。
野菜にも魔力が行き渡る時代だ。そしてその魔力が籠った野菜は…味に影響を与える。美味しい。
私もちょっとやってみようかな、農業。
少なくとも、医者よりは簡単だよね。
一応どっちも人の命を繋ぐ仕事ではあるけど。
農業なら野菜を作って人々に届け、食べた人のお腹を満たしてくれる。
医者なら傷付いた人々を助け、途切れかけた命を延長させてくれる。
命を繋ぐ仕事…ひとまずそこを目標にしてみようかな。
ギュオオオオオオオオン!!!
突如として遠くから竜巻が起こったかのような巨大な音が鳴る。
そして…揺れる街。
「っ!?」
「なんだ!?」
街の人達もあたふたする。
地震…ではない。地震というより、近くで工事をしてうっかり重量物を落としたような揺れ…
でもちょっと…揺れ方が横な気がする。
「………なんだ…アレ」
街の男の人が指を指す。
「え………」
彼が指を指した方向を向く私。
遠くにある山に…紫色の巨大な魔力の柱が立っていた。
「何…あれ…」
魔力の柱…なんて言えばいいんだろう。
縦に伸びる、紫色の光でできた柱。
それが立つのは別に珍しい事ではない。何らかの要因で地面が割れて魔力が地面から湧き出るのは、この世界では不思議な事ではない。
だけどその光の柱は、あまりにも大きすぎた。あまりも太くて、凄く長く伸びている。天を突っ切るかのように長く…。
遠くに映っている割には…大きすぎる。
「まさか………」
魔力の根源…?
そう言っても差し支えないくらい巨大な光の柱。
まさかネオカオスが…魔力の根源を…
「ネオ…カオス…」
…いや、そんな事はない。そう思い込んでる。
お母さんやお父さんがネオカオスを止めにかかっている。
だって「遂に追い詰めれる」って言ってた。
だからきっとあの魔力の柱は………
…ひとつ、最悪な考えに至る。
お母さんの言ってた言葉を思い出す。
…追い詰めれる…?
…追い詰めたって訳じゃない…?
「っ………!!」
…足が勝手に動いていた。
巨大な光の柱の立つ方向へ、私が走る。
「………!」
あの場所は確か…『ハンバ荒野』の辺り…凄く…遠い。
別にあの荒野に何かある訳ではなかった…あの荒野は…ただの通り道に使っている人だっていなくもない。
だから………
だけど………!
「お母さん………!!」
後書き~世界観とキャラの設定~
『ホワイト』
…この物語の主人公の女の子。太陽神の族の父と月神の族と呼ばれし母の間に生まれた少女。出が凄い子ではあるが本人は基本的に普通の人間。
回復に関する魔力で人々を癒せるが、重傷を治した事はあまりなく精々大きな擦り傷を治した事がある程度。
『魔力を受け入れた人間達』
…この世界の現代では人間も普通に魔力を持つ存在になっており、生活を豊かにしていた。
『魔力の柱』
…地中にある魔力が溢れた事によって現れる光の中でも、柱の様に長く溢れている物が魔力の柱と呼ばれている。
魔力の柱が上がっているということは、魔力がそれだけ強いと言う事なので魔力の根源である可能性も当然高くなる。