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モリスが数字で踊るとき  作者: morriss090
3/6

マック警部登場

警察署署長室。

大きなシェパードが堂々と座っている。あまりにも、堂々としているので、隣にいた署長が小さく見える。

呼び出されたのは、仙田刑事と後輩の幸田刑事。

二人は、訳知り顔で署長の言葉を待っている。

署長は、仰々しくコホンと咳祓いをして、シェパードに手をかざすと、

「こちらは、知っての通りマック・カワサキ・シェパード警部だ。今回こちらの警部殿が手掛ける案件を一緒に捜査してもらいたい…」


「ウォン!」


マック警部は、タイミングよく返事をしたかのように、吠えるのだが、その名の通り階級は警部であっても、いかんせん犬という種族は越えられない。人間とは、最低限の意思疎通しかできないのだ。


「はいはい。」


もう、どうでもいいやとばかり、おざなりの返事をする仙田刑事だが、

そんな言葉と裏腹に、唇の端がにんまりと笑っている。

マック警部も仙田を見つめて、

ちぎれんばかりに尻尾を振っている。

なんだかんだで、相思相愛なのだ。


幸田刑事は犬好きの先輩がマック警部と捜査をするのを楽しみにしているのがバレバレな

のがおかしくて、笑いだしそうなところを必死にこらえて、話をつづけた。


「で、署長、警部殿が手掛ける案件というは…」


「うむ、やけにあっさり引き受けてくれるのだな、マック警部と雪解けしたんだな、いいことだ、うん、実にいい。」


「いいから、はやく言ってくださいよ。」


「そうか、そうか、実はマック警部は、難しい事件を何件も解決した優秀な警部であるけれども、犬の形をしているだろう…、だからこその抜擢なのだが…。」


犬の形って、言うにことかいて、形ときたか…と小声でつぶやいたのは幸田刑事だった。

仙田刑事は、


「もう、まどろこっしい本庁との密約部分は省いてください」


とバッサリ。

しばし、署長のオブラートに包んだ長い長い説明を聞いた後、仙田は


「端的に言えば…」と切り出した。


「中山管技官のお嬢さんを連れて、散歩に行けってことですね。」


「せ、仙田君…そんな身も蓋もない言い方をしなくても…管技官にはお世話になっているんだぞ。その管技官がお嬢さんのことを心配なすってのことじゃないか。その…心の病気というのは、結構怖いんだぞ。早めに対処しなくてはいけないんだ。心を癒す、その点で動物に勝るものはないだろうというお考えだ。むしろ、これは若者のため、市民のための予防処置じゃないかね…。」


「はい。職権乱用という予防処置ですけどね。まい、いいです。さ、マック行くぞ!」


仙田刑事はくるりと背中をむけると、さっさと外に出てしまった。

署長は苦笑いを浮かべたまま、幸田刑事にお嬢さんの連絡先のメモを渡した。


「ひとつ、よろしく」


署長から渡されたメモを握りしめて、幸田刑事が子走りで仙田刑事を追いつくと、

仙田は、ニヤニヤしていた口元をキリリと結んで、不機嫌そうな顔を作った。


――――やっぱり雪解けしてるじゃん。

突っ込みは心の中だけにとどめて、冷静に


「で、お嬢さんの聞き込みは、いつ行きますか?」


「うーん、先方の都合次第だけど、できるだけ早いほうがいいから、連絡して聞いてみてくれ。これも捜査だからな、ちゃんとやらないと。あーあ、犬と捜査なんてバカバカしい。」


――――この期に及んでまだ、それを言うか?大根役者め、バレバレなんすよ…

幸田は、その言葉も心の中だけにとどめ、代わりにいい返事をした。


「ハイ!」

幸田が携帯で連絡を取っている間、仙田は休憩室のソファにドカッと座り、マック警部を横に侍らせて、その豊かな背中の毛をなでながら、どれどれ、どんなプロフィールかな…と独り言をつぶやきながら履歴書を開いた。


――――イヤイヤ連れて歩いてる設定には無理があるって…

携帯越しに仙田を眺めながら、幸田は苦笑した。


「あ、わたくし、大塚南署の幸田と申します。中山和なかやまなごむさんの

携帯ですか…」


携帯はつながったが、少し押し問答になりそうだったのか、幸田は休憩室を出て、静かな所に移っていった。

仙田はマック警部に伝えるためなのか、履歴書を読み上げはじめた。


「結構めんどくさそうなお嬢さんなのか…うーん、なかやまなごむ…男の子みたいな名前だな…え?お嬢さんというから、中学生か高校生かと思ったら、23歳大人じゃん。過保護だな。」


マック警部がくぅぅ~んと相槌を打った。


「それにしても、西京大学大学院理学研究科数学専攻修士課程の1年生って長い肩書だな。都道府県警本部総括署長兼警視庁長官補佐とどっちが長いのかな。字画の多さでは警察の勝ちだが、ま、いいか…どれどれ、写真があるぞ…え、これで大学生?やけに幼いな、中学生でも通りそうだ…」


そこに、幸田がひょこっと顔を出した。


「先方が速攻終わらせたいということで、今からでも大丈夫ですか?」


「せっかちだね。でも、いいよ。願ったりかなったりだ。」


幸田がうなずきながら、電話に戻る。うっすらと、声が聞こえる。

では、はい、今から、ワンダーランドで」


「わ、ワンダーランド!」

仙田と幸田は、苦笑いのまま顔を見合わせた。

何週間か前、マック警部の有給休暇を、そのワンダーランドで消化したのだ。

偶然、近くで爆破騒ぎがあり、一時はテロかと騒がれたその事件で、マック警部と二人はなんというか、知人のつてで、棚ぼた式に犯人を見つけることができて、警察内で「短期解決の鬼」と騒がれ一躍有名人になったのだった。

二人が、その後のちょっとしたバカ騒ぎを思い出していると、マック警部が

ゥーワン、と吠えた。確かに吠えたのに、二人には「行くぞ!」と聞こえてしまい、

思わず「ハイ!」と起立してしまった。立った瞬間に、二人はお互いを指さして笑い出し、そのまま笑いながら出発した。


二人と1匹が、久しぶりワンダーランドに到着すると、すぐさまマック警部が、

「遊ぶのかな?」という顔で二人を見たので、幸田刑事がすかさず、

「警部、今回は一応仕事で」

それを聞いたマック警部は、しょんぼりと頭をおろした。


「ね、先輩、やっぱり、警部は人の言葉がわかるんじゃあないですかね…」

仙田は

「分かるわけないだろ!」


と間髪入れず、返したものの…


「実は、そう思わないでもないよ、最近は。」

と、そんな話をしながら、

しばらく歩いていると、待合ゾーンの二股に分かれたところに、ひとつのテントが現れた。


「あ、あそこですね。」


見ると、8人ほどの女の子がテントの前に並んでいた。

二人と一匹は大人しく最後尾に並んた。中山和さんからそういう指示があったからだ。


「テント、何気にしっかり立ててあるな…」


並んでいる女の子たちの誤解をまねかないように、こっそり彼女たちが手に持っているチラシを盗み見た。


「えーっと、数字占い。人は誰でも固有の数字を持っています。生涯変わらぬ数字で過ごす人もいれば、転換期となる何か大きな出来事によって変わる人もいるでしょう。いずれにせよ、大切なのは今のあなたが持っている数字です。ってことみたいですよ。」


幸田刑事が苦労して読み上げてくれた。

「わかります?」


「いや、まったく、わからん。」

「ですね、では別の場所を読んでみましょう。」


幸田刑事は別の女の子のチラシを読み始めた。


「例えば…1の人。誰とでも仲良くできます。始まりとか“あるなし”のあるを意味します。出会った誰かが何かを始めるきっかけになったりします。2の人。偶数の人と仲良くなれるので、友人が多いです。3の人。自分を特別と思う傾向が強いです。3の倍数の人と仲良くなれるので、集団でもたいていの場合孤立することはありません。」


「幸田、もういいよ。なんとなく分かった。」


「ホントですか。若者の心がわかるなんて、先輩若いっすね。」


「あ、いや、いくら聞いてもわからんということが、分かったんだ。」


「なるほど」




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