ドッペルゲンガーについて
なぁ、ドッペルゲンガーって知ってるか?
そうそう、あの自分と同じ顔をしていて、会ったら死ぬって言われてるソレだよソレ。
知ってるなら話が早い。
そのドッペルゲンガーに関する面白い話をしてやろう。
いらねえだなんてそんなツレないこと言うなよ?
どうせ俺たちゃ今夜きりの関係で、明日の朝になったら酒と一緒にこの記憶だって抜けるんだ。
な?俺の話、ちょっくら聞いてくれやしねえかな。
ドッペルゲンガー、やけに有名な都市伝説だけどよ。
一人しかいねえんなら、こんなにもその名が広まることなんてねえはずだよな。
つーこたァ、ドッペルゲンガーってのは何人もいるってことだ。
"ドッペルゲンガー"ってのは固有名詞ではない、種族の名前なんだよ。ほら、人間とか犬とかそんな呼び方と一緒だ。
そんでもって種族ごとに個体差はあれど、共通する特徴ってもんがあるだろ?
例えば犬なら四足歩行をして「Bow!」って鳴くとか、魚なら水中に住んでてえら呼吸するとかな。
ドッペルゲンガーって種族にも特徴があるんだ。
特徴っつーか、人間からしたら能力って言ったほうが分かりやすいかもな。
そのうちの1つはお前も知ってる「他人の姿形を真似られる」ってやつだ。
こいつがなければ始まらねえからな、この話も。
……確かに、自分の知らん間に成り代わられるってのはァ怖いよなぁ。
おっと話がズレたな、すまん。
そんでこいつらの特徴の1つに、「他人の姿ではない間は誰にも認識されねえ」ってのがある。
ああ、透明人間になれるとかそういうことじゃねえぜ?
そこらの店で買い物も出来るし、全裸で街中にいたらそら通報もされるさ。
ただ、記憶に残らねえんだ。記録には残るが、人の記憶や思い出に残ることができねえ。勿論、同種族のドッペルゲンガーである親兄弟の記憶にもだ。
分かりにくい?
……そうだな、例え話にするか。
ドッペルゲンガーのドッペルくんがいるとしようか。
そいつが生きる為に働こうと奉公先を探しに向かった。
幸運にも見つけた奉公先の責任者のジジイと直接話が出来て、大層話が盛り上がったもんだから明日から働けるってことになったそうだ。
ところが次の日。
ドッペルくんが奉公先に行って責任者のジジイと会うと、責任者はあんなにもはしゃいでいたのにドッペルくんのことは何も覚えちゃいねえんだ。
いやいや、責任者のジジイがボケて忘れた訳じゃねえ。
責任者のジジイの元に通してくれた使いの者も、そこに入る時にいた門兵も、誰一人としてドッペルくんのことを覚えている奴はいねえんだ。
そうは言ってもドッペルくんも生きる為にゃ働かなきゃいけねえだろ?
どうにか記録なり何なりを確認してもらって、「確かに書類は揃ってるし今日から来るように書いてある」ってんで、その日は無事に働いて過ごせたんだ。
そんでもってまた次の日だ。
また、ドッペルくんは奉公先の人間全員に忘れられてたんだ。
昨日共に働いた記憶も、勿論一昨日責任者のジジイと話した記憶も、誰も覚えてなんかいやしねえ。
お前、忘れられるだけで記録には残るんだからなんとかやっていけるんじゃねえか?って顔してんな。
確かに数日、あるいは十数日くらいならなんとかできるかもな。
でもな、顔を合わせる度にはじめましてからやり直すってのは精神に来るんだ。
段々と病んで来ちまうもんなんだよ。普通なら3日で耐えらんなくなる。
そう、これがドッペルゲンガーのもう1つの特徴だ。
話は戻るが、俺は"成り代わっていない間"と言ったよな?
そう、誰かにすり替わっている間ならドッペルくんは人の記憶に残ることができるんだ。
誰かに成り代わっている間は毎度はじめしてからやり直す必要もなくなるし、昨日一緒に過ごした話で華を咲かせることも出来るわけだ。
ドッペルゲンガーの寿命は大体人間と同じくらいでな。
お前も生まれてから死ぬまでの60年間誰の思い出にも残れねえなんて嫌だろ?
記憶に残らねえってことは恋人だってつくることも出来ねえんだぜ?
まぁ、ドッペルゲンガーのこの特徴が現れ始めるのは個体差はあれど、大体15才くらいからだから丸々60年って訳ではねえんだけどな。
そうじゃねえと親にも覚えてもらえず育つことが出来ねえだろ?
ドッペルゲンガーの遺伝子は、劣性遺伝子らしくてな。
片親が他の種族ならその子はドッペルゲンガーではなくなるらしい。
ただ、成り代わったドッペルゲンガー同士で子を作っちまうとその子もドッペルゲンガーになんのよ。
ごく稀に片親がドッペルゲンガーの奴も居るけどな。
何事にも例外は付き物だぜ?
しかしまぁ、ドッペルゲンガー同士「こいつも同じ種族だ」ってのはなんとなく分かるらしいからな。
お互いが望まねえ限り、ドッペルゲンガー同士のカップルは出来ねえ。
自分の子供にまで同じような辛い思いをさせたくねえもんな、普通ならよ。
しかしながら、だ。やっぱり惹かれ合うのは同じ種族が多いみたいなんだわ。
こればっかは仕方がねえよな。お前も猿とか犬とかと結婚しろっつっても無理があるだろ?そういうことだ。
そんな訳でドッペルゲンガーってのは成り代わった後は本人を殺してそいつにすり替わるのさ。
だから会ったら死ぬってのはあながち間違いでもねえ。
そりゃ同じ人間が二人いたら不都合が起きるからな。
ごく稀にそれを面白いと歓迎するような酔狂な奴はいるけどな。
成り代わられるかもしれねえ側からしたら迷惑な話かも知れねえ、でも俺のこの話を聞くとちょっとは可哀想に思えてこねえか?
そう、ドッペルゲンガーってのは可哀想な奴らなんだ。
自分のために人を一人殺して、そいつの人生を費やして積み上げてきたもの全てを奪って、その罪を背負って生きるんだ。
しかも、自分が積み上げてきたものも全て捨てて、だ。
たまに子供の頃は毎日のように一緒に遊んでいたのに、急に会えなくなってその後消息が全く掴めねえ奴っているだろ?
もしかしたらそいつはドッペルゲンガーなのかもしれないぜ。
急に会えなくなった訳ではなくて、思い出に残らなくなっただけでな。
他には、特に理由もなく突然人が変わったって人いるだろ?実はドッペルゲンガーがすり替わっていて、本当に人が変わっちまってるって奴も中にはあるかも知んねえぜ?
これで俺の話したかったことは全部だ。
ん?そんなにペラペラ話して後でドッペルゲンガーに殺されたり脅されたりしないかだって?
大丈夫さ。
どうせお前も、明日の朝にはもう覚えてなんかねえからよ。
言っただろ?酒と共にこの記憶も抜けるって。
んじゃ、そろそろ俺はお暇させてもらおう。
話に付き合ってくれたお礼としてここのお代は俺が持つから好きなだけ飲んで帰ってくれ、釣りも取っておけ。
さよならだ、元気でな。
暇が高じてなんとなく書き殴ったは良いものの、どうせなら誰かに読んでほしいと思って初めて投稿いたしました。