94話 復讐に身を委ねて(後編)
「始め!」
三度目の合図。
変わらず大和は風のように、素早く距離を詰める。
力強く竹刀を振るうも、シナトスはなんとかそれを回避した。
シナトスにはリームほど腕力がないので、受け止めることは出来ないのだ。
「よく避けた。しかし、この先もそう上手くいくかな?」
「くっ……!」
決められた範囲の中で、攻める大和と逃げるシナトス。
これでは圧倒的にシナトスが不利である。
しかし、シナトスもただ逃げるだけではなかった。
「やあ!!」
「甘い!」
力任せに振り下ろされた竹刀を、大和は再び『鞘返し』に嵌めようとするがー
「何!?」
力が斜めに掛かるように振り下ろされた竹刀を、大和は上手く返すことが出来なかった。
「なんと……私の鞘返しを避けるとは……」
「フッ……。貴女の攻撃はもう見切ったのよ!」
なんて、どこかで聞いたことがあるようなセリフを放つシナトス。
光がもしこの場に居たら、真っ赤になって顔を隠していたことだろう……。
『なんて! 前からこのセリフ言ってみたかったのよね!!』
シナトス本人は満足そうであるが。
「『見切った』か、面白い!!」
「へっ!?」
小さく笑った後に、大和は今までよりもさらに速く移動。
一瞬でシナトスの目の前まで移動する!
「私はまだ実力の半分ほどしか出していないのだぞ?」
「そ、そんな……!」
「さて、どこまで耐えられるかな!?」
さらに強くなった斬撃を受けることなど出来るはずもなく、シナトスは必死に避け続ける。
しかし、それも限界は来る。
だが攻撃が出来ない以上避けるしか方法はないのだ。
しばらくそれが続いたが、等々シナトスは追いつめられてしまった。
「これで終わりだな」
「……!」
ゆっくりと竹刀を振り上げる大和。
もう、どうしようもない。
「これで私の勝ちだ!!」
「ヒカルー!!!!」
「あれ? 何してんの?」
その瞬間、随分と呑気な声が道場に響く。
それは即ち……光の声であった。
「え……うそ……?」
光の顔を見て、硬直する大和。
光もしばし大和を見ていたが、突然思い出したかのよう声を上げる。
「あー!!! 大ちゃんじゃん!」
「え……? もしかして……ヒカ君?」
「うん、久しぶりだねぇ! で、何してんの?」
「……」
異様な雰囲気が流れる。
その場にいる全員が状況を理解できていなかった。
ー居間にてー
「つまり……こういうことだね」
居間に戻り、二人の話を聞いたリームが話をまとめる。
「昔、『何度もギリギリのところで助けてくれていた幼馴染の少年』は城内 光のことであり……」
「そして君が追っていた『道場の敵』もまた城内 光のことだったんだね」
「はい……そうみたいです……」
「……」
「何で気づいてなかったんだ?」
「そのヒカ君の苗字を知らなくて……『俺は光って言うんだ!』としか言われていなかったので……」
ジトーっと睨まれる光。
「ま、まあ俺まだその時7歳だったし……。まあ大会に参加させたのは婆ちゃんであって……」
アハハと笑いながら光は誤魔化そうとするが、まあ笑い事ではないのである。
「そのごめんよ、大ちゃん……。謝って済む話じゃないことは分かるけど……」
しばし大和は黙っていたが、フッと笑い優しい笑顔で光に返す。
「いいの、気にしないで。他の人なら話は別だけど、ヒカ君がいなかったらウチの道場はもっと前に潰れてたわけなんだし。私に貴方を責める権利はないわ」
「い、いいの?」
「うん。寧ろ貴方にはお礼を言いたいぐらいだもの、何度も道場を助けてくれてありがとう」
何とか話はまとまったようだ。
まあ、ここまで面倒くさくなったのは光と祖母のせいなのだが。
「しっかし……。お前本当に運悪いな、十年間かけてやっと見つけた敵が恩人だったなんて……」
「ぐぬう……」
「あはは……、大ちゃん昔から運悪いもんね。お弁当食べようとしたらカラスの糞がダイレクトに落ちて来たり、道歩いてて目の前のマンホールがタイミングよく開いたり……」
「ちょっとヒカ君! 思い出させないで!!」
赤面しながら怒る大和と、笑う光。
だが二人はなんだがとても懐かしそうに見えた。
「ハハハ。吾輩達と対話している時はなんだが堅苦しい話口調だったが、城内 光が相手だと随分ともの柔らかになるものだな」
「……フン」
シナトスだけは若干不機嫌そうだ。
と、ここで思い出したかのように大和が話題を切り替える。
「あ、そうだ。私が旅をしていたのにはもう一つ理由があったの」
「もう一つ?」
「うん、ヒカ君を探してたのよ。まあ……どっちも同じ人だったけど……」
「ハハハ……」
「それで? もう一つの理由とはなんなんだね?」
リームが気になると言った感じで、大和に質問する。
「十年前に、私の父様とヒカ君のお婆様がした約束のことなんです」
「約束……? そんなのあったっけ?」
「もう……ヒカ君覚えてないの? ヒカ君もいたよ?」
「うーん……?」
光は首を傾げて唸るが、なかなか思い出せないようだ。
「思い出せないってことは、大したことでもないんじゃないの?」
シナトスが不機嫌そうに、ちょっとキツく返す。
「それで? その約束の内容はなんなんですか……?」
「夫婦の誓いです」
「……へ?」
キッパリと放たれた大和の言葉。
全員が数秒の沈黙のあとに聞き返す。
「え? だから、私とヒカ君が将来結婚するって言う……。許嫁って言った方が分かりやすいですかね?」
「……え? え? ぬええええええええええええええええええええええ!!?????!?!?!?」
驚愕、圧倒的驚愕。
それこそ光にとっては、人生で一番びっくりした瞬間かもしれない。
十年ぶりに再会した幼馴染。
その娘が自分の許嫁であったなど……彼は知らなかった(正確には忘れていた)のである。
次回 95話「城内 光の許嫁!?」




