93話 復讐に身を委ねて(中編)
「それでは、私が貴方達を全員倒せばそれで勝ちでよろしいな?」
「ああ、その通りだ」
というわけで、現在いない光の代わりに道場を守るべく戦うことになった四人。
まずは薫が前に出る。
「勝てそうですか? 薫さん……」
心配そうに宇水が聞くが、薫はフッと鼻で笑うと胸を張って高らかに宣言する。
「なーに言ってんだ! 俺はヤケッパチとそう変わらない実力を持ってるんだぞ? すぐに終わらせてやるよ」
自身満々な薫。
竹刀を構え、しばし向き合った後……
「始め!」
その言葉を合図に飛び出す二人!
どちらもやはり人並み外れた素早さを見せる。
ガンッ!っと普通では鳴らないような力強い音が、連続して鳴り響く。
「へえ……。やるじゃねぇか」
が、勝負は一方的だった。
一見互角に見えなくもないが、大和の攻撃は全て薫に軽く受け流されている。
薫はまだ一発も攻撃を入れていないが、攻撃が出来ない相手に勝ち目はない。
「くっ……」
「まあ、相手が悪かったと思って諦めな!!」
先ほどの宣言通り、試合を終わらせるべく一気に攻めに行った薫だが……。
次の瞬間、敗北を喫したのは薫の方だった。
勢いよく振り下ろされた竹刀、大和はそれを自分の竹刀で受け止める。
そして、なんとそのまま軽く薫を放り投げてしまうではないか!
簡単に吹っ飛ばされた薫は、嫌というほど壁に顔を打ちつけてしまった。
当然、薫の負けである。
「確かに……実力でなら貴方のほうが上だが、油断なされたな」
「い、今のは……?」
「大門司流、壱の奥義『鞘返し』。本来は鞘を使用する技だが……まあこのような応用も可能ではある」
「鞘返し……?」
どういった技なのか見切れなかった宇水とシナトスに、リームがゆっくり説明し始める。
「あれはカウンターの技なんだ。向かってきた相手の力をそのまま利用して、ポイっと先ほどのように相手を放り投げてしまう。向かってくる力が強ければ、強いほどに投げる時の威力も増す」
「だから……」
「ああ、日比谷 薫はあんなに簡単に投げられてしまったんだ」
そんなわけで、あれほど余裕ぶっていた薫は敗北。
次に出たのは……
「よし、吾輩が行こう。まあ先に女性を戦わせるわけにもいくまい」
「だ、大丈夫リーム?」
「ああ、なるべく頑張ってみるさ」
普段戦闘時は武器として扱われるリームに、自身だけの戦いは慣れがない。
おまけにほとんど経験のない剣道だ。
シナトスの心配も無理はない。
「始め!」
二回目の合図。
大和はもちろん容赦なく道場を駆ける。
鋭く放たれた斬撃を……
「何!?」
リームはしっかりと受け止めていた。
経験も慣れもないのなら、今自分に出来ることは光が帰ってくるまで出来る限り時間を稼ぐこと。
そうリームは思ったのだ。
無駄に攻めず防御に集中すれば、受け止めることは出来る。
「私の斬撃を受け止めるとは……」
「まあ、まったくこういうことに自信がないわけでもないのでね」
「ほう……。なら、これはどうかな?」
再び振りかざされた竹刀。
しかし、今度はリームは受け止めずに避けていた。
彼の直感が覚ったのだ、『この斬撃は普通ではない』と。
そしてその直感は当たっていた。
避けきれなかった竹刀の先が、綺麗になくなっていたのである。
「何!? へし折ったって言うのか!?」
薫が驚くが、リームはそれを否定する。
「違う、折ったんじゃない。斬ったんだ!」
リームの言葉の通り、その断面は綺麗に直線になっており確かに『斬った』という表現のほうが正しそうだ。
「これが大門司流、弐の奥義『気合真剣』。達人は武器を選ばぬと言う通り、我が奥義はいかなる武器も真剣と化すことが出来るのだ」
「なんてこった……。こんなに強い奥義があるのに負けたなんて、君の父親は一体どれだけ運が悪かったんだね?」
「う、うるさい!!」
まあ、この場合光の強さも異常なのだが。
「そんなことより、まだ続けるのか? 続けるというのなら、多少の怪我は覚悟なされよ?」
「無論、途中で離脱などしないさ」
その言葉を聞き終えた瞬間、再び大和は距離を詰める。
しかし、斬れてしまった竹刀ではもう受けることは出来ない。
なら、後はひたすら時間を稼ぐしか……。
「つまらぬ時間稼ぎはさせんぞ!」
床を思い切り蹴り、急に方向転換した大和にリームは対応しきれなかった。
「ぐあっ!」
「胴!」
逃げ切ることは叶わず、ここでリームも負けてしまったのだった。
「くっ……すまないお嬢。吾輩はここまでみたいだ」
「大丈夫。どっかの誰かと違って十分戦えたから」
「うっ!」
「……」
「さて? お次はどちらかな? それとも諦めるか?」
「誰が諦めるもんですか。次は私です」
次に立ったのはシナトスだ。
その凛とした雰囲気は、大和と負けず劣らずといった感じだったが。
強さの違いは目に見えている。
『お願い光……! 早く早く帰って来て!!』
「始め!」
三度、叫ばれた開始の合図。
しかしそれが三度目だろうと変わりはしない。
大和はやはり、力強くそして素早く駆け出すのだった。
ーその頃ー
「まったく。こんな時間に大判焼きなにか食べたら、夜食べられなくなるよ?」
「問題ありません! ちゃんとそれぐらいは考えてますから」
「ああそう」
無知とは本当に、恐ろしいものである……。
次回 94話「復讐に身を委ねて(後編)」




