92話 復讐に身を委ねて(前編)
まだ私は歩き続ける。
花が咲き、日が暑く照り、葉が染まり、雪が降ろうと私は歩き続ける。
憎き憎き敵を討つため。
『城内』の家系を滅ぼすために。
ー六文市ー
「懐かしいな……」
その女性は10年ぶりに六文市に舞い戻っていた。
敵を討つために日本中を周り旅を続けてきたが、一向にその相手は見つからず。
近くを通りかかったのもあり、懐かしきこの街に足を踏み入れることにしたのだ。
「はあ……。もう旅立ちから10年も経つというのに。一体『城内』はどこにいるのだろうか……」
懐かしさと旅の疲れを感じながら、街を歩く彼女。
もうすぐ実家に着く、という所で通りかかった家から元気のいい声が聞こえてきた。
どうやらこの家には道場があるようで、門下生たちが練習に勤しんでいるようだ。
「竹刀と竹刀がぶつかり合う音……。しかし、私の実家の近くに道場があったとは……」
そう思いながら表札を見た時。
彼女に衝撃が走る。
「なッ!? し、城内だと!? 私の実家から1キロもないこんな場所に!?」
一体今日までの10年の旅はなんだったのか。
灯台下暗しとはまさにこのことである。
しかし、彼女はしょげたりなどしない。
それどころか門をくぐり、凛とした声でこう叫んだのだった。
「たのもーっ!!」
ーその少し前ー
さて、光の家には今日も当然のように皆が居座りぐだぐだしていた。
薫に、宇水に、シナトスに、リーム。
もはや実家のようなくつろぎ方である。
そんななか彼らはこんな話をしていた。
「ねえ、光」
「ん?」
「前に光言ってたわよね、小2で剣道の全日本大会で優勝したって」
「言ったね」
「あれってさ、そもそも小学2年生が参加できるものだったの?」
確かに出場資格についての疑問を持ってもおかしくはない。
光はそっぽを向きながら、少し申し訳なさそうに答える。
「あ……うん、まあ普通は出られないよね」
「だろうな」
傍から聞いていた薫も口を挟む。
「なんかね、婆ちゃんがまあ俗に言う『不正』をして俺を出場させたみたいで……」
「どんな不正だよ……。そこが気になるわ」
「さあ、それは俺も知らないけどさ。婆ちゃんが言うには『良いじゃないか、光の方がレベル的に同じかそれ以上なんだし』ってさ……」
「メチャクチャなお婆さんね……」
「おっと。俺買い物行かないと、今日の夜に間に合わなくなる」
「それなら、私もお供しますよ! ご主人」
「助かる。それじゃあ、みんな留守番よろしくね」
「は~い……って、どこ行くの? そっちは玄関じゃないでしょ?」
「ああ、スーパーは裏口からの方が近いんだ」
そう言って出ていく村正ちゃんと光。
部屋に残った四人は、まださっきの話を続けていた。
「それにしてもメチャクチャな話でしたね……」
「そうだよな、全日本大会なんて目標にして頑張て来たヤツもいるだろうに……それを不正参加のガキに打ち砕かれたとなりゃあ……」
「恨まれてもおかしくはないな」
リームがキッパリと言った、その時。
道場で練習をしていた門下生の一人がドタドタを駆けこんできた!
「た、大変です! 光さん!!」
「ん? どうした、ヤケッパチなら今居ねぇぞ」
「そ、そんな……!」
取り乱した様子の門下生。
あまり良くない事態のようだ。
「何があったんだね? 落ち着いて話してみたまえ」
「ど、道場破りです!」
「道場破りだと……?」
「一人の……めっぽう強い女が攻め込んで来たんです!」
「……やれやれ。今の時代に道場破りとは……。分かった彼の代わりに吾輩達が行こう」
「あ、ありがとうございます!」
と、言う訳で道場へ。
バシン! バシン!! と鋭い音が外からでも聞こえるほどに鳴り響いていた。
道場の木の扉を開けた時、門下生の一人が倒れ込んできた。
「ぐあっ!!」
「……これで全員。たわいないな……次は貴方達か?」
「そうだ。で? 何者だ、てめえは」
「性は大門司、名は大和。かつての敵を討つべく、攻めさせてもらった」
大門司 大和。
凛とした雰囲気の女性はそう名乗った。
見た目だけで言えば華奢で力はあまりなさそうだが、そうではないことを倒れる門下生たちが証明している。
竹刀を手に取り立つ姿は、まさに威風堂々と言った感じだ。
「なるほど。それで? 貴女はなぜ『城内』を恨んでいるのだね?」
落ち着いた口調で質問するリーム。
大和も同じく落ち着いた口調で答える。
「あれは……10年も前の話。なぜか異常に賊に狙われた我が家は、貧乏で質素な道場だった」
「……それはセキュリティ的な問題があったんじゃねぇの?」
「そんなことはない! 何もしていないのに鍵が壊れたり、窓が割れたりしたんだ!」
「怖いわ!!」
「とにかく! 家の道場は苦しい生活を余儀なくされていた。しかし、そんな生活ではあったが潰れることもなかったんだ」
「ほう?」
「私の幼馴染の少年が、何度も何度もギリギリのところで助けてくれていたお陰でな」
「……」
「しかし、父様はそんな生活はいけないと思っていた。だから、ある日いつものように盗難届を出しに行った帰りにこんな話をしだしたんだ」
「いつものようにって……」
「『今度の全日本大会、この大会に優勝すれば賞金200万円が出るらしいんだ。この200万円があれば、あの少年に借金の返済も出来るし、我が道場も立て直すことが出来る』とな」
「道場に関しては疑問だがな」
「その日から父様は修行に勤しんだ。そのかいあって、父様は見事決勝戦まで進んだ。ところがだ!」
「あっ……」
「父様は決勝戦で敗退。結果、家の立て直しはならずショックで寝込んだ父様は、なぜか何回行ってもどこの病院も休みで、薬局も閉まっていたため治療も出来ず病死した……」
「どんだけ運悪いんだよ……」
「ただの敗退であるのなら、それも父様の実力不足と認めよう! しかし! 父様の決勝戦の相手は不正に参加した相手だったというではないか! これは剣士たちに対する侮辱だ!!」
「なるほど……だから道場破りをしたのか……」
「その通りだ。さあ、城内の人間を出すがいい! それとももういるのか?」
ここでシナトス達は顔を見合わせる。
城内の人間……すなわち光はついさっき出かけたばかりなのである。
「いや……そのね。大変言いにくいんだけど……」
「?」
「ついさっき出かけたのよね……」
「何!?」
「多分一時間近く帰らねえと思うぞ」
その言葉を聞いて、大和はその場に項垂れてしまった。
「そんな……10年探し続けたのに実は実家のすぐ近くに居て……。なんとか、気を取り直して入ってみれば……入れ違いで出かけただと!?」
「ホント、運悪いな!」
「い、いや待て! 私は正門から入ったんだぞ!? よく考えればおかしいだろう!?」
「裏口から出たんだよ。そっちのほうが近いってな」
「なッ!?」
「……まあなんだ、運が悪かったと思ってちょっと待てよ。いつかは帰ってくるだろうからさ」
あまりの運の悪さに若干同情気味の薫が、珍しく優しい口調で語りかける。
ところが大和はそうはしなかった。
「ええい! こちとら10年費やしているんだ! もう待てるか!」
「何!?」
「門下生は全て倒したんだ! この城内の道場はもう破った!!」
「待てよ。ならまだ俺達がいるぞ?」
「ほう……。いない主の代わりにそなた達が戦うと?」
「一応ダチだからな」
睨み合う、薫と大和。
当の光がなにも知らぬなか、道場を懸けた戦いは始まった!
ー花蓮ニュータウンー
「ご主人、今日の夜は何ですか?」
「今日はね、すき焼きだ!!」
「やったー!!」
知らぬなか……。
93話 「復讐に身を委ねて(中編)」




