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魂のレッドライン  作者: ギン次郎
1章 夢を見た天使
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90話 おかえりなさい

「え……? 姉さん……それってどういうこと!?」


 エルメの放った衝撃の一言。

 それは今までの全てをひっくり返す一言だった。


「どういうことって……。報告したでしょう!? ヒカルさんのお婆さんは死神病に感染はしていたけど、死因は死神病ではなかったから対象から外れたって!!」


「そんな報告聞いてないわよ!!」


「初めに言ったのに、貴女がろくに話も聞かずに下界に飛び出すからでしょう!? それに、その後もなんどか渡したスマートフォンに連絡は入れたはずよ!?」


「ウソ!?」


 焦りながら、前にエルメから貰ったスマホを取り出す。

『上手く使えないから』と、ろくに使っていなかったスマホには確かに何件か着信が来ていた。


「そんな……! それじゃあ、今までヒカルは何のために戦ってきたの……?」


「……」


 絶望のあまり、うなだれるシナトス。

 しかし、事実は変えられない。


「……どうするの、シナトス。まだ、あと数日は誤魔化せるでしょうけど、いつかは必ず気づくわよ」


「……」


 シナトスは、今までにないぐらい動揺していた。

 何を言えばいいのかも分からず、冷や汗だけが無情に流れる。


「……これは、私のミスだから……私が正直にヒカルに言う……」


「……大丈夫なの?」


「分からない……。でも、その後どうなったとしても……それはしょうがないことだし……」


 圧倒的な恐怖におびえながら、シナトスは下界に向かっていく。

 汗は止まらず、ガクガクと震えながら……。




 ー下界、光の家ー

「あ、シナトスさん! お帰りなさい」


 まずは家に行くが、光の姿は見当たらず。

 代わりに村正ちゃんが元気に挨拶してきた。


「……ただいま。ねえ、ヒカルいる?」


「学校に行きましたよ? なんでも、一応ヒナさん達に報告するって」


「そう……」


「……どうかしたんですか? なんか顔色が凄い悪いですけど……」


「大丈夫よ……、気にしないで」


「そうですか……」


 そうは言うも、シナトスはまったく大丈夫そうではなかった。

 そんな様子を見かねて村正ちゃんは、シナトスに向けて一言。


「シナトスさん!」


「……?」


「何があったのかは分かりませんが、私達は貴女の味方ですからね! あまり一人で抱え込み過ぎないでくださいね!」


「……ありがとう」


 その言葉は嬉しかったが、今彼女に話すわけにはいかなかった。



 ー学校ー

「え? 光なら、神社に行くってさっき出てっちゃたけど」


「ついさっきまでいたのにねぇ……」


「……」


 学校に急ぎ足で向かったシナトスだったが、入れ違いになってしまったようだ。

 そこにはヒナと茉子はいたが、光はいなかった。


「ありがとう、ならそこに行ってみる」


「……大丈夫、サキちゃん? なんか顔色良くないよ?」


「……大丈夫。そんなに大したことでは……ないから……」


「……」


「白井さん」


「何?」


「何があったのか……具体的には分からないけど。貴女は何かしてしまったのでしょう?」


「……」


「ならそれを正直に言うのは怖いと思うけど……でもちゃんと言わなきゃダメよ」


 ヒナの厳しい言葉に、少し顔をしかめるシナトス。

 しかし、ヒナは言葉の調子を崩さない。


「貴女も私の大切な友達だから……敢えて厳しいことを言うけれど。間違いをしてしまった時点で、『許してもらおう』という考えは傲慢なもの、『許してもらえるかは分からないけど、それでも誠心誠意謝罪する』それぐらいの気持ちで行きなさい」


「……分かった」


「もしそれで何かどうしても辛いような結果になったら、いつでも相談していいから。やるべきことはちゃんとやらなくてはダメ」


「……ありがとう、ヒナ」


「さあ、早く行きなさい? 光って意外と素早いから、また入れ違いになっちゃうかもよ?」


「うん」


 また、急いで駆け出していくシナトス。

 その背中を二人は見守る。


「大丈夫かな……サキちゃん」


「……」


 茉子の言葉に返事はせずに、ヒナはその背中を見守っていた。



 ー八雲神社ー

「まったく……この間はひどい目にあったにゃー」


 神社に着いたシナトス。

 しかし、そこには光どころかアリサも神主さんもいなかった。

 ドドンパだけが縁台でゴロゴロしている。


「あの……ヒカル知らない?」


「にゃ? アイツならさっき来たけどお嬢ちゃんがいないことが分かったら、オイラに伝言残してどっか行っちゃたにゃ」


「ヒカルは……なんて?」


「ええと……『お陰様で助かりました。すっかりもう解決しました』とかなんとか言ってたにゃ」


「そう……。これからどこに行くとか言ってた?」


「なんか買い物するとか言ってたけどにゃ」


「……! ありがとう!」


 そう言って駆け出そうとするシナトス。

 その背中を見て、ドドンパは何かを察する。


「一つだけ言っておくにゃ」


「へ?」



「初めから本当は出来ないことをしようとしていたんだから、あんまり気にしすぎるにゃ」



「……え?」


「以上。オイラはもう寝るからもう話かけるにゃ」


 そのままゴロンと寝ころんだ、ドドンパ。

 その姿をしばし見ていたシナトスだが、また駆け出して行った。



 ーショッピングモールー

「はあ、はあ。やっと着いた……」


 方向音痴のシナトスは1時間近くかけて、ようやくショッピングモールに到着。

 ここは昔、火炎のオンネンと闘った場所だ。


「まだ……ヒカルはいるかしら……?」


 まるで迷子の子供のようにガムシャラに走るシナトス。

 どこにいるか、そもそもいるかも分からないがそれでも探すしかないのだ。


「……? あ、死神娘じゃんか、何してんだ? 迷子か?」


 と、走り回っていると聞きなれた声が耳に入る。


「薫! それに宇水さんも……」


「何かあったんですか? 汗が凄いですよ……?」


「ちょっとね……。ねえ! ヒカル知らない!?」


「ああ、ヤケッパチなら食品売りー」


「ありがとう!」


 最後まで話を聞かずに、駆け出していく。

 そのままポカンとした様子で、残される二人。


「どうしたんでしょうか……」


「さあな……」



 さて、食品売り場と分かればもう迷うことはない。

 狭い売り場のなかを必死に探し、そして……


「ヒカル!!」


「……って!? シナトス!? どうしたのさ、そんな汗だくになって……」


「アナタに……言わなきゃいけないことが……!」


「と、とりあえずこれで汗拭いて……。いったん休憩して、呼吸整えて……」


 優しく介護してくれる光に、申し訳なさを感じながら休むシナトス。

 少ししてゆっくり座れる場所に移動した。


「それで、どうしたの? 言わなきゃいけないことって……」


「……」


 難しい顔をしてなかなか切り出さないシナトス。

 光は疑問に思うも、ゆっくりと答えを待つ。


「これから私は凄くショッキングなことを言うわ……。でも、どうか最後まで聞いて欲しいの……」


「分かった」


「あのね……ヒカルのお婆さんは……生き返れなかったの……」


 半泣きになりながら、なんとか言葉を絞り出すシナトス。

 光は……まだ何も言わない。


「ヒカルのお婆さんは確かに死神病にかかっていた……。でも、その死因は死神病ではなかったの……」


「……」


「本当にごめんなさい……。完全に私のミスで……貴方を……騙す形になってしまって……」


「……」


「私のことは恨んでもいいし、嫌ってもいいから! でも! どうか、どうか死なないで!! あの時のように自分で自分を殺そうとしないで!!」


「……」


「お願い……」


 ぼたぼたと涙を流しながら、懇願するシナトス。

 黙って話を聞いていた、光だったが……。


「泣かないでよ、シナトス」


 彼の口調は穏やかだった。

 びっくりして、光の顔を見るシナトス。

 その表情は口調と同じくとても穏やかだった。


「……え? ……え??」


「なんとなく……なんとなくは分かってたんだ」


「分かってた……?」


「天界でね、婆ちゃんに会ったときに言ってたんだよ。『まだ私は来たばかりだけど』って。婆ちゃんが死んでからもう1ヶ月ぐらい経ってたのに」


「……」


「シナトスは言ってたよね? 『死神病で死んだ人は死神の管轄外だから、勝手にあの世に行く』ってだから、あの時から変だなとは思ってたんだ」


「……じゃあ、どうして……?」


「確かに……あの時の俺には生きる意味も気力もなかった。でも、もう今は違うさ」


「……?」


「言っただろう? シナトスは、真の意味で俺の『命の恩人』なんだって。今の俺には大切な人も、生きる意味も、気力もちゃんとある。死んだりなんかしないさ」


「……!」


「シナトスに対して俺は怒ったりも恨んだりもしてない。命の恩人にそんなことするわけないだろう?」


「それじゃあ……これからも……」


「うん! よろしくね、シナトス」


 その優しさに、抑えきれなくなった涙を流しながら笑顔で向き合う。

 こうして……今度こそすべては元通りになったのだった。




 ー光の家ー

 さて、光の家では祝勝会のために皆が集まっていた。

 シナトスはとりあえずエルメに話に行くためにいなかったが、他は全員いた。


「おーい! ヤケッパチ! 飯はまだかー!?」


「若!」


「はいはい、ちょっと待てって!」


 やれやれと言いつつも、その顔は笑顔だった。



 貴女に、貴女に言いたかった言葉があった。

 貴女にもう一度言いたかった言葉があった。

 しかし、どうやらそれはやはり許されないことのようなのです。

 やはり貴女にはもうこの言葉は言えそうにないのです。

 だから僕はすっぱり諦めましょう。

 もう、貴女にはこの言葉は言えないから。

 だから今日からは、貴女ではない別の大切な人にこの言葉を言おうと思うのです。



「ただいまー! ごめんなさい、遅くなって!」


「遅せえぞ! 死神娘!」


 シナトスが天界から帰ってくる、しかしその顔はもうすっかり笑顔だ。

 そしてゆっくり一言。


「シナトス」


「ん?」


「おかえりなさい」


「……ただいま!」


 今日からは君にこの言葉を。


























「本当に良かったんですか?」


 リームがゆっくりと質問する。

 その相手はまた、ゆっくりと回答する。


「ああ……これでいいんですよ」


「……確かに貴女の死因は死神病ではない。しかし、()()()()()()寿()()()()()()()()()()()。なら、その分は生き返ることが出来るのに……ですか?」


「ええ……」


「どうして?」


 リームは心底疑問そうに聞く。


「あの子の顔ですよ」


「顔?」


「前までのあの子は私に隠れて、怯えてばかりだったのに。いつの間にか立派で逞しく、そして自分で行動できる子に、怯えのない立派な顔になっていました。


「……」


「今、私が戻ったらまたあの子はもとのあの子に戻ってしまうでしょう」


「……」


「だからこれで良かったんです」


 ゆっくりと遠くを眺める、光の祖母。

 いろいろな過去を懐かしむように、次に空を見上げる。

 その空にはまだ輝きは放たぬ白い昼の月と、綺麗な入道雲が一つ。


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