89話 穏やかな日
さて、結局徹夜で戦うことになった俺達。
地味に邪竜のオンネンからぶっ続けだったのもあって、天界で休んでから下界に帰ることになった。
実際戦ってる間は緊張感もあって気にしていなかったが、死ぬほど眠い。
というわけでぐっすり眠って、目が覚めた頃には12時になっていた。
「おや? お目覚めかな」
起き上がるとそこにはリームだけがいて、後は誰もいなかった。
「あれ? 皆は?」
「お嬢たちならもうとっくに起きて、それぞれ何かしらをしているよ」
「へー」
「まあ昨日は君が一番頑張っていたからね、最後まで寝ていても不思議ではないだろう。怪我はまだ痛むかい?」
「……。ううん、もう大丈夫」
「そうか。ならなるべく早く外に行ってあげるといい」
「なんで?」
「お嬢たちはなかなか起きない君を心配しているし、それ以外の連中も君のことが気になってるようだからね。まあ、天界と下界の危機を救った英雄なんだから、それも無理はないことだが」
「英雄……ねぇ」
まあ自覚はなくとも事実がそうなんだから、こればかりはどうしようもない。
出来るだけもみくちゃにされなければいいな、と思いながら俺も寝室から出ていくことにした。
「あ、ヒカルさん。起きたんですね」
「……ああ、エルメさん。おはようございます」
まず、部屋を出て一番最初に会ったのはエルメさんだった。
「えっと、昨日はありがとうございました。あの状況だとエルメさんにしか頼めなくて」
「別にお礼を言われるようなことはしていませんよ。さて、それじゃあ私についてきてください」
「……? なんかあるんですか?」
「まあ、それもそれもそうですけど。貴方が今一人で出歩いたら大変なことになりますよ?」
なるほど。
わざわざそのために待っていてくれたのか。
それは純粋にありがたかった。
と、言う訳でエルメさんと長い廊下を歩いていく。
天使や死神たちは、エルメさんがいるからか遠目に見ているだけで、話しかけたりはしてこなかった。
いや、正確には一人だけいた。
「やー! 光くん! 話は聞いたよ、なんでも大活躍だったそうじゃないか!!」
「あ、ロメリアさん」
黒い煙を纏ったロメリアさんだ。
また、なんか失敗して爆発したんだろうか。
しばし、ニコニコしながら俺の肩を叩いていたが(意外と痛い)、エルメさんに気づくと急に表情がハッとなる。
「って……なんだか良い雰囲気だったのか。申し訳ないね、私はどうやら邪魔者みたいだ」
「なッ!? ち、違います!! 私はヒカルさんが、速やかに移動できるようにと思っただけで!! 特にそういう何かがあるわけではありません!!!」
「分かった、分かった。まあでも一応シナトスには内緒にしておいた方が良いと思うよ? あの娘、意外と嫉妬深いからね」
「だから!!!」
真っ赤になって抗議するエルメさんと、ケラケラと笑いながら話すロメリアさん。
当の本人の俺だけ、蚊帳の外だった。
「それじゃあ邪魔者である私はさっさと退散するとしよう。私もそんなに野暮ではないさ」
「だから!!」
「あの! ロメリアさん!!」
「ん?」
そそくさと退散しようとするロメリアさんを呼び止める。
一つ、聞きたいことがあったんだ。
「あの、もしかしてロメリアさんはなんとなく美紀さんが黒幕だって気づいてたんじゃないですか?」
「……」
俺の質問に、すぐには答えずに少しの間黙っていたロメリアさん。
が、フッと笑うとなんだか遠くを見るような顔で答える。
「それは残念ながら答えられない。……だけど別のことなら話してもいいかな」
「別のこと?」
「ああ。正路がね君を気に入っている、というの本当なんだよ」
「へ?」
「正路は人間を許せなかった、でもどうしても人間を嫌いにもなれなかった」
「どうしてですか?」
「彼が誰よりも愛した彼女も『人間』だったからさ。考えてみてくれ。確かにクロカゲはたくさんの人の命を奪った。でも、それもすぐに生き返れるようになっていたし、彼の最終目標も人間を『生まれ変わらせる』ことで『滅ぼす』ことではなかっただろ?」
「そう言えば確かに……」
「彼は人間が好きだった。特に君のようなね」
「俺……みたいな?」
「君は人を差別しない。人だけじゃない、『天使』も『死神』もなんなら『オンネン』にだって君は根本的な態度を変えることはなかった」
「……」
「だから正路は君を気に入ったのさ。その気になればいつでも排除できたのにそれをしなかったのも、もしかしたら心の何処かで思っていたのかもしれない。『君なら変えられる』とね」
「俺なら……?」
「さあて! 立ち話もこの程度にしておこう! シナトス達が君のことを首を長くして待っているよ」
「あ、そうだった! えっとありがとうございました!」
「ああ、また今度実験室に来たまえ! その時はゆっくりと話をするとしよう
そういって、ロメリアさんはいそいそと自室に戻っていった。
俺達も先に進んでいく。
さて、少し進んで何度も来たロビーに到着。
シナトス達は皆ロビーで俺達を待っていた。
「遅い! 何やってんだよ!!」
薫は待ちくたびれたのか若干キレ気味である。
「悪い、ちょっといろいろあってな……」
「そうですよ、若。そう急かすものでもありません」
「それで、ヒカル? もう怪我は大丈夫なの?」
シナトスが心配そうに聞いてくる。
まあ、結構昨日の俺はヤバかったので無理もないが。
「うん! もう絶好調さ、どこも痛くないから平気だよ」
「あは~。そんなこと言って、ホントはまだ痛むんじゃないですか?」
村正ちゃんがツンっと、俺の腰をつつく。
すると電流が流れたかのように、ビキッ!と痛みが!!
「痛たたたたたたたた!!!」
「あ、ほらやっぱり」
「ちょっと大丈夫!? う、宇水さん!!」
「はい……!」
どたどたと駆け寄る、皆。
なんだかカオスなことになって来た。
「おほん! あの、話してもいいでしょうか?」
と、エルメさんが呆れた感じでこちらを見ている。
「あ、すみません……。どうぞ」
「まったく……。それではまず初めに皆さん、此度は本当にありがとうございました」
エルメさんは恭しく礼をする。
そして、身体を起こし再び話を始めた。
「皆さんのおかげでクロカゲ・オンネンは完全に消滅。死神病による死者も随時生き返っているようです」
「良かった……」
「はい、これでどうやら全部が元通りになりそうです。で、皆さんに集まってもらったのは報告したいことがありまして……」
と、エルメさんの声の調子が少し変わる。
「報告?」
「はい。実は昨日我々が天界で戦っている間、六文市には大量のクロカゲが発生していたようなのです」
「なッ!?」
「ところがとある二人の人間のおかげで、被害はほぼゼロでした」
「人間……まさか!」
「はい、未だ合流出来ていない『味覚』と『聴覚』だと思われます」
「それで!? その二人はどうしたんですか!?」
「クロカゲの消滅と共に姿をくらませたようですが……まだ近くにいるものと思われます」
「なるほどな……」
一体どんな二人なのか、まだ検討もつかないが……。
なんとか友好な関係を築ければいいな、と思う。
特に薫みたいな対面は出来る限り避けたい……。
「では、話はこれで以上です」
「そうか……。それじゃあそろそろ帰るか!」
薫が伸びをしながら一言。
確かにそろそろ帰らないと、ヒナと茉子が怒りそうな気がする。
「それじゃあ、皆で先に帰ってて。私はまだ仕事があるから」
「分かった」
ということで、毎度お決まりの恐怖の絨毯タイム。
本当にどうにかならないのだろうか、これ。
ー天界ー
「でも、これでようやく終わったのね」
ゆっくりと語るシナトス。
「そうね、長かったけどね」
エルメも落ち着いた様子で話す。
「ヒカルもお婆さんと再会出来るし、これこそまさにハッピーエンドって感じ」
ふふんとご機嫌な様子で、話すシナトス。
ところが……エルメは不可解な顔をしながら……。
「え? 何を言っているのシナトス?」
「え?」
「ヒカルさんのお婆さんは生き返らないわよ?」
今までの全てをひっくり返す、一言を放った。
次回 90話「おかえりなさい」




