87話 それでも彼は信じぬく
最終決戦、光と美紀の互いの信念を懸けた戦いが始まる。
「うおおおおおおおおおお!!!!!!」
己の全てを吐き出すかのような雄叫びと共に、ぶつかり合う二人。
渾身の力が込められた剣は、衝突するたびに衝撃波が迸る!
「喰らえ!!」
一瞬の隙をついて、美紀正路は鋭い蹴りを放つ。
まともに喰らった光は、真っすぐ壁へ吹き飛ばされる。
ガラガラと崩れ落ちた欠片と共に、床に崩れる。
「ヒカル!!」
「遅い!!」
シナトスが光を助けようとするが、間に合わない。
ルークと同じように鞘に剣を収め、抜刀。
ルークよりもさらに強力な真空の刃が光に迫る!
「砕け散れ!! 城内 光!!!」
「誰が……砕け散るか!!」
迫りくる刃に向けて、光も同じように抜刀。
しかし、その刃は今までとは違った。
今までは本家の3割ほどの威力しか出せなかったのに、今回のそれは簡単に本家の威力を凌駕している。
ぶつかり合う二つの真空は互いにせめぎ合った後、双方ともに打ち消されてしまう。
「何!?」
予想外の事態に戸惑う美紀正路。
しかし、光はもう既に次の行動に移っていた。
「喰らえ! 空烈十字斬!!!」
「なッ!?」
かつてはルークが使った奥義を今度は光が使ったのだ。
しかもそれはもう『模倣』の域ではない。
唸る風の音と、神速の刃。
それもまた本家の威力を遥かに上回っている。
「ぬおおおおお!!」
美紀は剣を振りかざしなんとかそれを受け止めるも、完全には受けきれずに所々に傷が。
「まさか……ルークの魂、いや『意志』が城内 光に宿ったとでも言うのか!? だから今まで使えなかったルークの技を貴様が使えるようになったのか!?」
「さあ……。これが奇跡なのか、ただの模倣なのかは分からないが、俺がこれらの技を使えるのは事実さ」
「くっ……!」
『ルーク! お前まで私が間違っているというのか……?』
生まれる疑問と葛藤。
そしてそれは苛立ちとなり、より一層剣の斬れ味を増す。
「そんなことが……あるはずがない!!」
再び繰り出される真空。
しかもそれは一つではなく、暴走したかのように無数に繰り出される。
「砕け散れ! 消え失せろ!! 私の邪魔をするな!!!」
「邪魔なんかじゃない!!!!」
鋭い心からの声と共に、光はその場で剣を振り払う。
凄まじい闘気と剣気は、狂ったカマイタチを見事に全て消し飛ばしていく。
「邪魔なんじゃない……だと? ふざけたことを言うな! 大体貴様も分かっているはずだろうに! 人間の邪悪さを! 他人との違いすら認められない愚かさを!」
「ああ、知ってるさ。どれだけ人間が弱くて、邪悪で、愚かかなんて! 人間はどうしようもないぐらい弱くて、だからなんとか自分を成り立たせようとする。自分と違うものを間違っているとして、差別して冷酷に切り捨てる!」
「肌の色、国籍、信じるもの、生まれ、髪の色、性別、年齢、あらゆる違いを認められない! 自分と違うものを全く認めようとしない!!!」
「ああ、お前の言う通りだ城内 光! そして人間は欲深い、自分の欲を満たすために平気で残酷なことをする! 人の命を奪う事すら躊躇わない!!」
「それでもだ!!!」
「それでも人間が全て邪悪なわけじゃない! 自分たちの間違いを間違いだと分かって、直そうとする人達だっている! 悪いことを弁えて、善良な道を進む人がたくさんいる!!」
「そんなことは分かっている! だが世の中を見ろ! いつもいつも善良な人間は、邪悪な人間に踏みにじられる! 善良な道を知っているくせに、悪事を行う人間がたくさんいる!!」
「だとしてもだ……! 俺は最後まで人の善を信じる!!」
「だからこそだ……! 私は最後まで人の悪を滅ぼす!!」
互いに自分の信念をぶつけ合う。
どちらの方が正しいとは言えない。
どちらも正しい信念だからだ。
だからこそ、彼らは剣をぶつけ合う。
お互いの信じたものと滅ぼすべきものを懸けて戦うのだ。
「そうか……。ならもはや対話は不要。相互理解など出来はしない」
「……」
「夜明けまであと、30分だ。それまでに私を止められるものなら、止めてみせろ!」
ぐっと剣を構えながら、一滴の汗を流す光。
『頼む! エルメさん、どうかどうか急いでくれ!!』
あの時、ここに来た時に頼んだものはまだ来ない。
それが来るまではなんとしても耐えなければいけない!
「貴様の甘い信念も、人間の未来も! 全て消し飛ばしてくれる!!」
「なッ!?」
ルークの時のように、剣に力を込め全力の真空を構える美紀。
さすがにあれは光達も耐えられない!
ー長い廊下ー
「はあ! はあ! ごめんね、辛いとは思うけど頑張って!!」
襲い掛かるクロカゲを、途中で合流した薫が消し飛ばしながら急いで廊下を走るエルメ達。
エルメは先ほどから何かに向けて、話しているが薫達にはそれは見えなかった。
「あと、少し! あと少し……着いた!」
扉を丁寧に開けている暇などない。
薫が思い切り蹴破ると、そこには技を放つ直前の美紀がいた!
「エルメさん!」
「ヒカルさん! この子が!!」
「ありがとうございます! 宇水さん、俺の視覚と空間を繋いでくれ!!」
「ええ!? で、出来なくはないですけども! 触覚とは違う感覚の接続は、ほんの僅かな時間でしか出来ませんよ!?」
「いいんだ! だから早く!!」
「はい!」
宇水と何もない空間に手を差し伸べる光。
感覚の接続は、邪竜と闘った時にもやったことだ。
全ての手が繋がれた瞬間ー
「消えろー!!!!」
『待って!!!!』
その場にいた、誰の声とも違う声が響く。
その声が聞こえた瞬間、美紀正路は凍り付いたように動かなくなった。
そしてしばしの沈黙の後、震えるように声を絞り出す。
「……楓?」
次回 88話「大切な思い出」




