86話 無心の境地
火炎のオンネンに放つ、沖田の新たな奥義。
二人の戦いは決着を迎えようとしていた。
「喰らえ! 新撰無心一弾!!!」
沖田は鋭く、そして力強く技を放つ。
見た目はただの突き技に見えるが、その威力はまさに桁外れだった。
【ヌオオオオアアアアアアアアア!?!?!?!?!】
オンネンの鎧に付いた小さな小さな傷。
そこを狙って放たれた技に、オンネンはその身をよじらせながら吹き飛んでいく。
【グオァ!!】
そして呻き声とともに地面に倒れ、動かなくなってしまった。
「これが私の新しい奥義だ。『三弾』を再び『一弾』の突きとした時、この威力が生まれる」
【グウウウウウ……】
オンネンは何とか立ち上がろうとするが、それは叶わず。
その身は再び消え始めていた。
「薫さん……。沖田さんは何をしたんですか……?」
「わ、分からねぇ……」
傍から見ていた薫と宇水は何が起きたか分からずに、戸惑っている。
そこに沖田がゆっくりと解説し始めた。
「何、原理は『三弾突き』と同じさ」
「何?」
「違うのは打ち込む場所だ。別々の場所に一発ずつ打ち込むか、同じ場所に三発打ち込むか。違うのはただそれだけのことだぞ?」
「……」
神速の三弾の突きを同じ場所に三発。
攻撃範囲は狭くなるものの、打ち込まれた場所のダメージは計り知れない。
まさに『奥義』と呼ぶにふさわしい技だった。
【オ、オノレェ……。コノ儂ガ……】
火炎のオンネンは悔しそうに呻くが、最後まで言葉を紡ぐことは出来なかった。
その言葉を言う前に霧のように消え去ってしまったから。
「……」
「ほら、何をぼーっとしている。早くお前たちは少年の手助けにいかないか」
「え? あ、そうだな……。ってお前は来ないのか?」
「私にはまだ仕事があるんでな」
「へ?」
返事の代わりに沖田はクイっと指をさす。
その先には大量のクロカゲが迫ってきていた。
「あれは私が引き受ける。お前たちは少年の方に行け、アイツは私には止められないからな」
「……? わ、分かった。頼んだぞ!」
くるっと沖田に背を向け、走っていく二人。
そんな二人の足音を聞きながら、沖田は独り思う。
「まったく……おかしな奴らだ。私とは目的も立場も使命も違うとはいえ、戦場に立っていながら未だに『心』を失わない」
自分に言うように静かに語る沖田。
その顔には一抹の哀しさがあった。
「敵を倒すことに躊躇いはないのに、傷つけることには躊躇いがある。自分が殺されることを恐れないのに、仲間が殺されることには恐れを抱く」
「弱く脆く甘いくせに、戦場に立つ。戦場に立つくせに、弱く脆くそして甘い」
「戦場には『善』も『悪』もなく、ただ殺伐と殺し合い斬り合うことしかないと、『無心』となることが一番の強さだと僕は生前に悟ったのに……」
「彼らはまるでそれが間違いだとでも言うように戦う……」
静かに切なく語りながら、しかしその手は襲い掛かるクロカゲを確実に斬り落としていく。
そしてその手が止まることもない。
「戦場に立つには、どう考えても『無心』となる方が効率がいい。なのに彼らはそうしない、いやそうならない」
「嘆き、躊躇い、恐れながらも『心』を捨てることをしない。もちろん僕の悟った答えが間違いだとは思わない、でも……」
「僕はいつからこうなったのだろうか」
沖田総司は後悔はしない。
自身の見つけた答えが、新撰組としての在り方が、戦場における信念が間違いだとは思わない。
戦場には『善』も『悪』もない、あるのは『死』か『生』のみ。
しかし、沖田総司は後悔はせずとも疑問には思う。
自分はいつ無心の境地に至ったのだろうか。
自分はいつから心を無にしたのだろうか。
恐らく、その答えはどれだけ探そうと見つかりはしない。
彼が新撰組としての在り方を、生前の自分の答えを否定しない限り決して辿りつくことはない。
だから彼は死してもなお、戦場に立つ。
遠い日に戦場に落とした『心』を懐かしむように。
いつの日からか失った、平穏な日々を追い求めるように。
ー扉の奥、天使の眼前ー
「こちらに来る手段をまだ隠し持っていたとは、これは少し意外だったよ」
本当にびっくりだ、といった感じで美紀正路は目の前の光達に向かって話す。
「まったく……夜明けまではまだあと2時間ほどかかる……。まあいいだろう」
「……」
「ここまで多くの者に時間稼ぎをさせたんだ。最後ぐらいは自分も働くとしようか」
空間が歪み、一本の剣が現れる。
不思議な雰囲気を放つ長い剣を手に取り、光に向け構える。
「さあ、来るがいい。楽園の邪魔は絶対にさせん!」
「絶対に止めて見せるさ。今までとは背負ってるもんが違うんだ、ここで負けるわけにはいかない!!」
光は村正を、美紀は剣を構え互いに迫っていく。
まるで自身の全てを吐き出すような雄叫びを上げながら、最後の戦いは遂に始まった。
次回 87話「それでも彼は信じぬく」




