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魂のレッドライン  作者: ギン次郎
1章 夢を見た天使
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80話 今昔天使物語 ~ソシテ花ハ枯レテイク~

「うーむ……。やはり冬になるとなかなか見つからないものだな」


 雪のなか美紀正路は食料を探して山を歩き回りますが、なかなかお目当ての物は見つかりません。


「まあ貯蓄が一応あるが……。出来れば使いたくはないよなぁ」


 木の先に出来た小さな小さな蕾や、未だに残っていた木の実などをちょくちょく回収しつつ、さらに山の奥へ入っていきます。


「まあ最悪私は食べなくとも問題はないんだがな。楓が『ダメです! 食事はちゃんと食べてください!』と言ってきかないからなぁ……」


 誰に言う訳でもなく、独り言を言いながら歩いていく彼。

 しかしそろそろ時間も時間です。

 もうこれ以上奥に入っても意味はなくなってきました。


「そろそろ帰るかな。……ん? これは」


 帰ろうと来た道を振り返った彼の目に、一輪の花が映りました。


「なんと、こんな雪の中でも逞しく咲く花があるとは。今度楓にも見せてあげないとな」


 花を摘むことはせず、フフと笑いながら白い雪道を戻っていきます。

 その先で一体何が起きているのかも知らずに……。



 ー小屋ー

「待ちきれずに外で遊んでいるかと思ったが、意外とそうでもなかったな。楓は寒いのが苦手なのかな?」


 雪がどんどん積もっていくため、足跡などは見えませんでした。

 また仮に誰かが通ったとしてもすぐに埋められてしまうでしょう。


「楓。遅くなってすまなー」


 ドアを開けながら声を掛ける彼でしたが、その言葉は最後まで紡がれることはありませんでした。


 もうそこに楓は居なかったのです。

 そこに居た……いや()()()のはもはや死体とも言えない肉の塊でした。


 これ以上どうやって傷つければいいのかも分からないほどにその塊は傷ついていました。

 そしてその赤い塊の周りには綺麗な宝石がいくつか散らばっています。

 まるで、出したのはいいがこれ以上持って帰ることも出来ず置いていったかのように。


 確かに、痛みを感じたり泣いたりするたびに宝石を作り出す体質ならば。

 すぐに殺してしまうよりもなるべく時間を掛けて、ゆっくりゆっくり傷つけていく方がたくさんの宝石を得ることが出来るでしょう。

 ギリギリまで拷問のように痛めつけ、泣かせる方が効率的でしょう。


 彼は……美紀正路は自分が天使であることも忘れ、その瞬間確かに思ったのです。

 人間の欲望、自分と違うの者を見下す性質、そして身分が低い者になら何でもするその思考回路。

 人間は『悪魔』であると。



 ―白い雪道―

「あーはっはっはっはっは!!! やった! やったぞ! これで俺達は大金持ちだ!!!」


「これからは都で貴族として好き放題やって生きていけますね!!!」


「ああ! そうだとも!! もう俺達は自分の好きなことだけやっていればいい! 面倒なことは全部、他人に押し付けられる! なぜなら俺達にはこれだけの財産があるのだから!!」


「そうですねぇ! あのガキの分もせいぜい俺達が幸せに生きてやらないとですねぇ!! あっはっはっは!!!」


 白い雪道を三人の男が大笑いしながら、歩いていきます。

 周りの白い風景とは似合わず、赤い返り血のついた身体と顔で。


「しかしあのガキが死んじまったのは計算外だったな。生かしておけばまた宝石を作り出せたのに」


「何言ってるんですか! 兄貴が『いや、まだいける。もう少し痛めつけろ!』って言ったんですよ」


「そうだっけか? まあ、ガキ一匹死んで俺達三人が幸せになるなら差し引き2で得してるし別にいいかぁ!!!」



「……いいや。差し引きは-4だ。もっともお前たちのようなクズを一人としてカウントするのはどうかと思うがね」



「え?」


 聞きなれない声に振り返ったその瞬間。

 三人の男のうち、一人の頭が上から下へ。


「ひっ!!! 何だ!? 何だ、てめえは!!!」


 兄貴と呼ばれた男が叫びますが、その声が終わる前にもう一人の男の頭が再び下へ。


「お前たちのような外道に名乗る名前など持っていない」


 赤い血を浴びたその顔には、この世の全ての怒りを凝縮したかのような、恐ろしい表情がありました。


「た、助けてくれ!! 宝石ならいくらでもやる!! だから命だけは!!」


「無抵抗な一人の少女を無惨に殺した男のセリフとは思えないな。そうだ、訂正しよう。さっきの差し引きの話だがお前の言う通り確かに2だったよ。お前たち-3を殺して+3、そこに楓の死で-1で2。良かったじゃないか、跡形もなく崩れ去る前に簡単な計算ぐらいは出来て」


 その男はその後、3週間ほど生き続けたそうです。

 もっともそれが果たして『延命した』と言えるような状態だったかは定かではありませんが。



 ―小屋のあった場所―

「……」


 そこにはもう小屋はありません。

 彼が今作っているのは……墓ではありません。

 彼は知っていました、それを作っても無駄だという事を。


 魂が形を保つことが出来なくなるぐらいに傷つけられると、その人は天界に行くことも出来ないのです。

 白い霧のような何かになって、天界でもないされど高次元の世界でもない。

 数字にすれば1.5の、微妙な空間を漂うことしか出来ないのです。

 そしてそれを目にすることが出来るのは、死を司る死神だけでした。

 つまり天使である彼にはもう見えないのです。

 そして、天界にいない魂は墓を作ってもそこに帰ることは出来ないのです。


 しかし、それでも彼は何かを作っていました。

 それは石碑のようなものでした。


「楓……、約束しよう。いつか私が君の夢を叶えてみせる。君の望んだ『全ての人が仲良く暮らせる世界』を私が作り上げてみせる。君の望んだ楽園は私が作ってみせるよ……」


 彼はそう言い残し、そしてもう二度とその場所に行くことはありませんでした。



 これは天使と、『普通』を失った人間の物語。

 愛すべき者を無惨に奪われた天使は楽園を作り上げるべく、少しづつ少しづつ狂っていく。


 ああ……。もうすぐだ、もうすぐ全ての人間が生まれ変わる。楽園にふさわしい存在に……。楽園に居るべき人間に……。


次回 81話「楽園の生まれる夜」

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