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魂のレッドライン  作者: ギン次郎
1章 夢を見た天使
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78話 今昔天使物語 ~落ツル花ビラアト二枚~

 それは天使と、『普通』を失った人間の物語。



 それは遠い遠い昔の話。

 人が立ち寄らぬ森の奥、美紀正路はそこで15回目の朝日を眺めていました。


『……ああ。もう限界が近いな。まさか獣を捉えるための罠にかかってしまうとは……』


 木々の紅葉の美しさに目を奪われた彼は、それをもっと近くで見ようと森に降り立ったのです。

 そこまでは良かったのですが、頭上の木ばかりを見ていたせいで足下の罠に気づかず、おまけに罠には毒まで仕込まれていたせいで、もう動くことも出来ませんでした。


『助けを呼ぶにも動けず。3か月は天界を空けると言ってしまったから、天界の者達が変に思うのもまだまだ先の話。しかも人間が通りかかる様子もなしか……』


 実際彼の足についている罠はそうとう古いもので、罠を仕掛けた人間が様子を見に来ることもなさそうです。

 もう彼はこれ以上目を開けていても意味はないだろうと思い、ついに目を閉じてしましました。

 しかし、その時ー


「なッ!? た、大変!!」


 誰かの声がしたのです。

 しかも、その声はなんとなく幼さが残る少女の声でした。


『どういうことだ?』


 現状が分からず、閉じたばかりの目を開ける彼。

 目の前には足元の罠を必死で取り外す少女の姿がありました。


「取れた! ちょっとだけ、待っててくださいね!」


 そう言い残し、少女は急いでどこかに向かっていきます。


『……? わけがわからない。どうしてこんな山奥に少女がいるんだ? というか、なぜ私を見てなんとも思わない?』


 彼の疑問はもっともでした。

 果たしてこの時代の人間が『天使』というものを知っているのかは分かりませんが、それでも背中に翼が生えている時点で変に思うのが普通でしょう。

 しかし、彼女は何か不思議に思った様子はありませんでした。


 と、いろいろ考えているうちに彼女は何かを持って戻ってきました。

 その小さな手には緑色の何かが握られていました。


「これ……薬なんですけど、なんとか飲み込めませんか?」


 そう言いながら彼女は緑色の薬を、彼の口に近づけます。

 残る全ての力を使いなんとかそれを飲み込んだ彼は、その苦さに思わず悶絶しましたがそれでもなんとか飲むことが出来ました。


「良かった……。もうこれで毒は大丈夫ですよ。この薬は効きが早いのですぐに動けるようになると思います」


 脳天を突き抜けるような苦さに半泣きになりながらも、確かに彼は自分の身体が回復していることに気づきました。

 さっきまでピクリとも動かなかった身体が、ちゃんと動くのです。


「……あ、あ。おお、声も出るようになった……」


 元々天使は人間よりも数倍回復速度が早いので、薬の効きもより早かったのでしょう。


「ありがとう、君のおかげで助かったよ」


「いえ、そんな大したことはしていませんよ」


 彼女は恩着せがましい態度を取ることもなく、嬉しそうな顔でそう言いました。


「しかし……君は天使を見たことがあるのかい? どうして私を見てなんとも思わないんだ?」


「天使……?というものは知りませんし、確かに少し驚きはしました。でも、まずは助けることのほうが先決だと思ったのでそうしただけですよ」


「そうか……。君はとても心優しいのだな」


「そ、そんなことはありませんよ……」


 少し顔を赤くしながら照れる少女。

 そんな様子を見て、彼も笑顔になりながら次の質問に移る。


「この山奥には村か何かがあるのかな?」


「いいえ、村はありませんよ」


「何? なら、君は一体どこに住んでいるんだね?」


「この山に住んでいるんです。一人で」


「なッ!? どういうことだ!? 何故君のような少女が一人で、山に住んでいるんだね!?」


「そ……それは……」


 口ごもってしまう少女。

 何か、特別な事情があるようだ。


「……まあ、君が言いたくないのならいいんだが。ここで一人で生活するのは大変だろう?」


「まあ、確かに少し大変ですけど……。私はこういう所じゃないと生きていけないんです」


「……?」


 彼女の言葉が理解できず、難しい顔をする彼。

 と、その時少女が木の根に足を掛けて転んでしましました。


「痛!」


「大丈夫かい!?」


「あ、大丈夫です。これぐらー」


 と、言葉の途中で彼女は一瞬にして青ざめます。

 その目線の先には……今の今までなかった綺麗に輝く宝石が落ちていました。


「どういうことなんだい? 何が一体どうなっているんだ?」


「……そ、それは……」


 彼女は青ざめた顔のまま、ガクガクと震えています。


「……大丈夫だ。ゆっくり、落ち着いて話してごらん」


「……」


 少し彼女が不思議そうな顔をした後、呼吸を落ち着かせてゆっくりと話し始めました。


「あの、私……昔から普通じゃなくて……。痛かったり、泣いたりするとこの石が出てくるんです……」


「宝石が……かい?」


「はい……」


 そこから先は言われなくても彼は事情が理解できました。

 そんな能力を持っていては、都で生活など出来るわけがありません。

 だから彼女はこの人の寄り付かない山奥に逃げてきたのでしょう。


『可哀そうに……。こんな呪いのような力を生まれ持ったせいで……』


 すこしの沈黙の後、彼は柔らかい笑顔で話しかける。


「君の名前はなんていうんだい?」


「私の名前ですか……? 私の名前は(カエデ)です」


「そうか、良い名前だね。なあ楓、私は君に命を救われた。君が大したことではないと思っていたとしても、私にとってはとてもとても嬉しいことだった」


「……」


「だから私は君に恩返しをしたいんだ。まあ、他人のいう事をどうしても信じられないのは分かるが……、それでもどうか信じて欲しい。私は君を傷つけたり、君を泣かせるようなことはしないと」


「……」


「ここでの君の生活をどうか手伝わせてくれないか? 本来なら都で生活すべきだが、そうもいかないし……」


「手伝う……ですか?」


「ああ、そうさ。君が少しでも幸せに生きられるように、尽力を尽くさせてもらうとも!」


「……! ありがとう!!」


 楓はとても、とても嬉しそうな顔でそう答えました。

 今まで何度も裏切られてきただろうに、それでも楓は彼の言葉を信じたのです。


 これが彼……美紀正路と楓の出会い。

 一人の天使を狂わせた悲劇の始まりの時。


次回 79話「今昔天使物語 ~落ツル花ビラアト一枚~」

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