76話 失墜するもの、失墜すべきもの
「撃ち落とされたりなんてするもんか。お前の攻撃はもう見切った!!!!」
その声を合図に、リームが邪竜に迫る。
襲い掛かる邪竜の全てに意識を向け、リームに指示を出していく!
まずは迫るのは、黒く鈍く光る爪の一撃。
ギラギラと光りながら俺達を穿とうと迫りくる!
「右から爪だ! そのまま左にかわすとすぐに迎撃されるから、曲がりながら移動するんだ!」
予想通り。
左側にも爪が待ち構えていたが、しっかりとそれも避けることに成功。
邪竜の左の爪の上をスレスレで進んでいく!
次は炎。
邪竜が頭を少し、上に向け炎を吹く体勢に入る!
「炎は下に向かいやすい! 気持ち上に移動して避けろ!!」
吐き出される灼熱の炎。
少しかすったが、この程度なら問題はなく。
着実に距離を詰めていく。
「翼の暴風は上に逃げても無駄だ! 下から回り込め!!」
流れるように暴風も避け、邪竜の巨体の下を滑る。
足をくぐり反対側へ、どんどんと翼へと近づいていく。
振り返りながら、爪を向ける邪竜。
しかし、もうその攻撃は当たらない!
「今度は上だ! 次に左に避けるんだ!!」
リームは言われた通り、まずは上へ。
そして次に左に避け、一気に翼に接近……。
「なッ!?」
ところが、左に避ければ完全に避けきれたはずの爪が目の前に迫る。
見切ったはずの攻撃の軌道が……ズレている!?
その時、邪竜の尻尾が再生していることに気づく!
『しまった……! 尻尾が再生したせいで微妙にバランスが変わったのか!!!』
しかし、もう遅い。
迫りくる爪は今度こそ、俺達を容赦なく……。
【ぐおおお!?】
引き裂かない!
寧ろ、引き裂かれたのは邪竜の方だった。
完全にがら空きだった背中に、どこからか攻撃が飛んでくる!
そして、その隙が命取りだった。
「うわああああああああああああああ!!!!!!!!」
命の全てを吐き出すかのような雄叫びと共に、俺がリームを構え翼に向けて空から迫る!!
ヒュン、ヒュンと風を斬る音が二回。
そして、その雄叫びとは反対に邪竜の翼はあっけなく切り落とされた。
【!!!!!!】
邪竜は声を出すことはなく、翼を斬られたことで空から地面に向けて失墜していく。
そして、その下で薫は剣を構える。
「空を飛んだのがお前の敗因だ。翼を広げて飛ばなければ、地面に失墜することもなかっただろうに……」
憐みのような感情が籠っていたような気もするが、それでも薫は容赦なくその剣を振るった。
「四 無 一 閃 !!!!!」
邪竜の巨体に、大きな大きな切り傷がつく。
それが最後の一撃だった。
【……】
地面に横たわる邪竜。
他のオンネンと同じようにその身体は少しずつ消え始めていた。
しかし、何かを話そうとはしない。
「……なあ、薫」
「なんだ」
「俺達が爪にやられそうになったとき、お前が邪竜に攻撃したんだろ? どうやって攻撃したんだ?」
「何、別に俺だけの力じゃないさ」
「?」
「村正に記憶されていたお前の『感覚』を宇水が俺に自由感覚で合わせる。お前と同じ『感覚』になれば、まあ俺でも村正を使えばカマイタチは出せるってことだ」
「なるほど……」
「それを思いついたのは俺じゃない。死神娘だよ」
【そうか……。まさに正義のものじゃないか】
と、ここで今まで黙っていた邪竜が口を開く。
「どういうことだ?」
【どうもこうもない。互いに協力し、知恵を出し合い、傷つき合いながら戦う。我を倒してきた……いや、我を倒すべき正義のものは皆そうだった】
「……」
【そして我は……失墜すべきものは確かにその理の通り、今ここで文字通り失墜したと言う訳だ】
「お前は……いやお前もー」
【その先は言わなくていい。あの剣士と同じこと、我も我の在り方はイヤというほど理解している。どうあるべきで、どうなるべきなのか】
「……」
【しかし、それは一度死したものの話。少年よ、まだ生きし身でそれを見出したというのは些か傲慢ではないか?】
邪竜がニヤリと笑った気がする。
実際にはあまり変わっていないが。
「見出した……なんて大層なものじゃないさ」
【まあいい。我は邪悪なる竜。人に正しき道を示すのは我の役目ではない……】
まだ……まだ何か言いたげではあったが、邪竜はそれ以上は話すことは出来ず。
霧となって消えてしまった。
「……おい、ヤケッパチ」
「ん?」
「……。いや、なんでもない」
薫も何か言いたげだったが、それを口には出さなかった。
しばし、沈黙が続いたが……!
「まあ! 今は素直に喜ぼうじゃないか! 遂に我らは5体のオンネンを全て討伐したのだから!」
リームが明るい声で雰囲気を変える。
「そうね。アウラがいないのがちょっと残念だけど……」
「あ、そういうえばそうだね。なんでいないの?」
「ちょうど天界で仕事中だったんだよ。てかなんだ? お前気づいてなかったのか?」
「……いや、そんなことはないよ?」
「本当ですか~? ご主人」
「ちょっと嘘っぽいですよね……」
ここでうっかり笑いがこぼれ、しばし皆で一笑い。
アウラさんには申し訳ないが……。
「さあ、帰りましょうか!」
シナトスがそう言った、その時だった。
「まあ待ちたまえ。私からも少々称賛の言葉を言わせて頂きたい。まさか本当に5体のオンネンを討伐した、君達の呆れるほどの実直さにね」
その声を聴いて、俺と宇水さん以外の全員が驚く。
なぜか、それはその声を知っているからだ。
宇水さんだけは会ったことがないので知らないが、後の全員は知っている。
そして、俺はその声の主が『それ』であることをなんとなく悟っていた。
誰も口をきけないなか、俺はゆっくりと冷静に告げる。
「やっぱり……貴方が今回の事件の黒幕だったんですね」
「美紀正路」
次回 77話「語られる真実、そして……」




