71話 再び、天界へ
「お帰りなさい。ご主人」
「ただいま」
今日もいつものように早朝の配達のバイトを終え帰宅。
家に戻ると村正ちゃんが朝の準備をしてくれていた。
騎兵のオンネンを倒して数週間。
しばらくは特に音沙汰なく、平和が続いていた。
と、言う訳で今日も優雅に紅茶でも飲んで……。
「ヒカル!!」
「ごふっ!!」
優雅タイム、一瞬で終了である。
相変わらず鍵かけてるのにナチュラルに入ってくるのは何なのか。
合鍵渡しましたっけ?
「な、何?」
「あ……なんかごめんなさい。いやあの天界にこれから行くだけど良かったら一緒に行く?」
「……? 俺なんか呼ばれてるの?」
「そうじゃないけど。今日日曜日だし、暇かなって」
うーむ。
一応部活があるので暇ではないが、一緒に行けば公式的にサボれる。
よし、行こう。
「うん。それじゃあ行くよ」
「分かった。じゃあ準備して待ってるね」
「……ご主人。なんか今、良からぬことをお考えではありませんでしたか?」
「ま、まさかぁ」
「……怪しい」
村正ちゃんから鋭い視線を浴びながらも、朝食を済ませた俺は向かいのシナトスの家へ。
そこには前にも見た空飛ぶ絨毯が敷かれていた。
「……あれ? 次までにはなんか新しいの用意するって……」
「非常に申し訳ないのだが。開発が間に合わなかったそうだ」
全然申し訳なさを感じない表情でリームが言う。
「……どうする? やっぱり行かない?」
部活はイヤだ、でも空飛ぶ絨毯もイヤだ。
しかし……今日は珍しく薫達がいない。
つまりはシナトスと二人になる可能性も高いという事で……。
「光くーん?」
その時、向こうから茉子の声が聞こえた!
ヤバい! もう悩んでいる時間はない!!
「行く! 行くから早く出してくれ!!!」
「そう? じゃあ、乗って」
「おう!!」
大丈夫だ。
数多の(そこまで多くないけど)強敵と闘ってきたんだ。
もう今更高い所なんてなんともないだろう。
そう、高所恐怖症はもう治って……。
「じゃあ! 行くよ!!」
絨毯が浮かび、超スピードで空に向かう!!
「ダメだ! やっぱり怖いわー!!!!!!」
無理でした。
ー天界ー
という事でまたまた気が付いたときにはシナトスの膝の上。
つまり相変わらず気絶していたわけです。
「すまないね……。何分こちらも結構忙しくて……」
美紀さんとは久しぶりに会ったのだが、会って早々いきなり申し訳ない顔をされてしまった。
どっかの鎌とはえらい違いである。
「いや……大丈夫です。俺が克服できないのが悪いので」
そう言いながら起き上がる。
いや、出来ることならもう少し寝ていたかったのだが。
村正ちゃんが絶対面倒くさいことになるのでそれは諦めた。
「じゃあ、私は行くから」
「行く? 行くってどこに?」
「姉さんの所。今日は報告と会議に来たんだもの」
……じゃあシナトスと二人きりになる時間はないじゃないか!
俺は何しに気絶してまでここに来たんだ!!
「あは~。ご主人、残念でしたね」
「……」
村正ちゃんがニヤニヤしながら俺を見る。
ちくしょう……。
「あ、何だ城内 光。それなら吾輩は旧友に会いに行くのだが、一緒に来るかい?」
「旧友?」
「そうだ、前に『幽霊が見えるメガネ』を渡しただろう? それを作ったヤツさ」
「へー。せっかくだし行こうかな? 美紀さんはどうします?」
「せっかくだが遠慮しておこう。私も私で仕事があるのでね。あとで暇になればまた部屋に案内するよ」
「そうですか」
てなわけでリームの旧友に会いに行くことになりました。
「それで? 旧友とはどんな方なんですか?」
歩きながら村正ちゃんがリームに質問する。
「そうだな……。まあ一言でいえば『変わり者』かな……。昔から発明ばかりしているんだよ」
「へえ。その人もリームさんみたいに死神の鎌なんですか?」
「いいや? 彼女は普通の天使だよ」
「普通のって……」
あと、ナチュラルに『彼女』って言ったってことは女の人なのね。
発明好きの女天使。
一体どのあたりが普通なんだろうか?
20分ほど歩き、それっぽい部屋の前でリームが止まる。
なんか大学の理科室みたいなところだな。
「ロメリア。入るぞ」
「その声はリームか! ちょっと……ちょっと待ってくれ! 今実験の途ー」
ドゴォン!!!
と、最後まで言い切る前にド派手な爆発音が響く。
ドアの間から黒い煙がモクモクと出てきた。
「ロメリア!? 大丈夫か!!」
「あ、ああ……。少し配分を間違えたようだ。私の発明品はどれも壊れていないので心配する必要はない」
「いや、吾輩が心配したのはそっちではなー」
「ん? おお! そこにいるのは……人間だね! しかも生きている人間じゃないか! き、君ちょっとこっちに来てくれたまえ!」
グイっと豪快に腕を取られる。
しかも意外と力があって逆らえない。
「え!? ええ!?」
「いや~。生きた人間が天界来るなんてそうそうないことだからね。いろいろと試しておきたいんだよ!」
展開が変わるのが速すぎて全く追いつけない。
なんか引っ張りまわされて、よく分からない機械とかを押し当てられまくっているんですが!?
「これは陽性……。こっちはマンガンが少し足りないか? うーん、こっちはニッケルが多いな」
「ロメリア! とりあえず落ち着け! 順番に話を進めたまえ!!」
「ん? ああ、申し訳ない! 私はロメリア・アストロ、いついかなる時も未来への憧れを失わない天才科学者さ!」
科学者って!
オカルトそのものみたいな天使が科学者って!!
「ささ、とりあえず適当にかけてくれ。散らかっているがね」
「まったく……何百年経っても君は変わらないな……」
ようやく落ち着いて先に座る。
フラスコで沸かしたコーヒーを飲みながら、一旦落ち着くことが出来た。
ロメリアさんは下界だとまずいない、綺麗な長い青い髪をしている。
顔も整っていて、身長はだいたい180cm、リームと同じぐらいある。
誰が見ても分かる美人なのだが……。
一瞬で性格がどんな感じなのかも分かる、俗に言う『残念な美人』ある。
おまけに長い髪もシナトスと違い、ぼさぼさで多分とかしたりとかしてないのだろう。
部屋もぐちゃぐちゃで足の踏み場がない。
「いやー。済まないね、つい興奮してしまって」
「いや……まあ別にいいんですけど」
「話はリームから聞いているよ。城内 光くんと村正ちゃんだろう?」
「あ、はい。そうです」
「うん! よく来たね、まあなんでも自由に見ていってくれたまえ! なーに、最悪ミスっても死にはしないさ。多分……」
絶対触らないです。
なんで『多分……』なんですかね、最悪死ぬかもしれないってことなんですかね!?
「それにしても大丈夫なのかね? さっきの結構な爆発だっただろう? 発明品もそうだが、君の方心配だ」
「それなら問題ない。あの程度の爆発しょっちゅうさ。今回は割と弱い方なんだぞ?」
「あ、そう……」
リームも呆れ顔である。
「さて、光くんには何かお礼とお詫びをしないといけないな。ちょっと待っていてくれ、確かこの辺に……」
そう言うとロメリアさんは箱の中をあさりながら、あれもでもないこれでもないとポイポイ機械を投げていく!?
やめれ! 爆発でもしたらどうするんだ!!
「あ、あったあった! これだよ!」
良かった……爆発しないで。
「これはね? リームから話を聞いて君のために作ったんだよ?」
「俺のため?」
そう言ってロメリアさんは手を開く。
そこにあったのは……ボタン?
これは一体何なのだろうか……?
〈続く〉
72話「未来の科学者 ロメリア」




