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魂のレッドライン  作者: ギン次郎
1章 夢を見た天使
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70話 約束

「さあ戦いを続けよう。夜が明けるにはまだ早い」


【なんと……!】


 暗い下水道の中を、光は外にいる時と変わらぬ足取りで駆けていく。

 外とは違い街灯も、月光も、星明かりもない正真正銘の暗闇なのだが、視覚の特異器官持ちの光にはさほど影響はないのだろうか。

 オンネンからすればそれはまさに暗闇が襲ってくるという、人々の恐怖そのものを体験しているとも言える状況だった。


【ぬ……ううううう……!!】


 下水道に落とされてから、オンネンはすっかり防戦一方である。

 あと、20分ぐらい耐えればどっちにしろ逃げられるためその判断は実際正しいのだが。

 オンネンが防戦に徹したのは、それだけではなかった。


 オンネンは気づいてしまったのだ。

 光が抱える狂気の正体、『幸せの守護者』としての在り方以外のものに。

 それは古き日から、時に人の命を奪い、時に人を殺人に駆り立て、時にどんな善行さえ無視させた感情。

 人はそれを『罪悪感』と呼ぶ。


 別にオンネンも光が何かしらに罪悪感を感じていることは初めから気が付いていた。

 実際本人が『罪を償う』だのなんだの言っていたのもある。


【ええい……! 我に纏わりつくな!!】


 恐怖と焦りから来る怒り。

 オンネンは腹立たし気に槍を振るい、光を弾く。


「……。どうした? 力が籠ってないぞ、その程度の威力じゃあ俺は倒せない」


【お、おのれ……!】


 再び、迫る光。

 それに合わせてオンネンは槍を構える。

 もう後時間も少し。

 ここを耐えれば実質オンネンの勝ちなのだ。


「くらえ!!!」


 が、この大事な時に光は何を思ったのか、村正を投げつけてくるではないか!


【愚かな……!】


 真っすぐ投げられた木刀を避けるなど、他愛のないことだ。

 簡単に村正は避けられてしまった。


【ふ……。焦って判断を誤ったか?】


 オンネンが薄れ始めながら、光に嘲りの言葉を贈るが……。


「いいや? 寧ろ、最高の判断を俺は出来たはずだ」


 朝日に照らされた光の顔は、傷ついていながらもニヒルにニヤリと笑った。


 その時、オンネンは光が何をしたのかを一瞬にして悟る。

 まさにそれは騎兵のオンネンに対して最大の皮肉ともいえる止めだった。


【ぐおおあああああ!!!】


 避けたはずの村正が、オンネンの背中に刺さり胴体を貫く。

 倒れながら振り返ったオンネンの目に移ったのは……村正を投げ返した体勢のシナトス。

 光は最後にお返しの嘲りの言葉を贈る。


「どうだ? 避けたはずの武器が戻って来た気分は?」




【ぐ……うう……】


 オンネンと首なし馬が地面に倒れ込む。

 身体はさっきと同じように薄れているが、その意味はさっきとは違う。


【なるほど……汝は……意外と根に持つ性格なのだな……】


「……まあ、クナイが戻ってきてやられたのは俺じゃないけどな」


【そういえば……そうだったか……】


 薄れていくオンネンの身体。

 しかし、オンネンは話すのを止めない。


【少年……汝の内包する狂気……確かに見切ったぞ】


「……」


【まさに狂気……これだから……人間は面白い】


「……?」


 話の内容が分からずに難しい顔をするシナトス。

 しかし、光にはその意味がひしひしと伝わる。


【少年よ……最後に一つ良いことを教えておいてやろう……】


「……なんだ?」


【罪である罪にはいつか必ずや神判が下る……。しかし、罪ではない罪には神判が下ることはない……神もそこまで暇ではないのだ……】


「……」


【いい加減、罪でもない罪が許されることを求めるのは……止めにしておくんだな……】


 そう言い残し、オンネンは消え去る。

 それは光にとっては呪詛ともいえる言葉を残して。


「馬鹿野郎……。俺が求めているのは許しじゃなくて贖いなんだよ。罪人に許しを請う権利なんてあるもんか」


 消えていく光の霧に向けて光が呟く。

 その顔にはかつて光が見せた、辛さと懐かしさの同居する顔だった。


「……ヒカル?」


 そんな光にシナトスがおずおずと話しかける。


「ん?」


「えっと……その……大丈夫?」


「う~ん……。まあ、普通に体中は痛いかな? とりあえず家に帰ろうか」


「あ、うん……」


 シナトスの『大丈夫?』はそういう意味で言ったわけではないのだが……。

 今はまだその答えは聞かないことにした。



 ー城内邸ー

「……本当に戦っている間は痛くないのかね?」


「そうなんだけどな……痛!」


「ああ、もうご主人。無理に動かないでください!」


 と、言う訳で治療中。

 毎度のごとく、大きな怪我はないがそれでも体中傷だらけではあるのである。


「まったく……今回はほとんどヤケッパチに任せきりだったな……」


「今度分断には十分に気をつけなくてはいけませんね」


 薫からすれば戦い足りないという意味で不満だったのだが……。


「ありがとう、リーム結構楽になったよ」


「そうか、それは良かった」


「まったく……まあもう今更かもしれないけど、あんまり無茶しないでね?」


 シナトスは若干呆れ気味だ。


「あはは……。でも、ちょっと無茶したから今日はちゃんと勝てただろ?」


「そうだけど……」


「これでようやく約束も果たせたし!」


「……そうね」


 フフっとシナトスは笑う。


「残るオンネンはあと1体。これさえ倒せば……」


「黒幕も本格的に動きを変えるだろう。もうすぐ直接対決も近いな」


「おう!」



 ー天界の暗い部屋ー

「遂に騎兵も倒れました……」


「そうか、とうとうコイツを使う時が来たか」


「はい……」


「まだもう少しだけ時間が必要だ、その分の時間しっかりと稼ぐのだぞ?」


 そう言われた最後のオンネンは背中の翼をはためかせ、地上に向かっていく。

 その姿はまさに……邪竜。

 5体目のオンネン、『邪竜のオンネン』は確かに地上に向けて放たれた。


次回 71話「再び、天界へ」

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