68話 見慣れた恐怖、聞きなれた狂気
「今度こそここで仕留める!」
三度目、結構な間をあけて遭遇しているとはいえもう見慣れた相手だ。
見切りがなくなってもう戦い方は熟知している。
しかし、それは相手にも同じことが言えるわけだ。
つまり同じ相手との戦いであったとしてその本質はまったく異なる。
【走レ……】
オンネンが小さく囁くと、首なし馬が一人飛び出した俺に向かって突進してくる。
あらゆる抵抗を無視して走るその馬は、まさに疾風のように空間を滑る。
そしてオンネンはその勢いも攻撃に乗せるべく、槍を構えて馬に跨っていた。
風を纏い、理さえ超越する勢いをもつ槍に俺が正面から挑んで勝てるはずもない。
オンネンと距離を詰めながら、構えた村正をー
オンネンでもなく、槍にでもなく、槍に当たる直前に地面に打ちつける。
その反動を生かし、俺は普通よりも高くジャンプ。
そのままヒラリと槍をかわす。
ここまでの時間僅か30秒程度。
そもそも初めて戦いを見た時から知っていることだが、オンネンの強さは人の領域を遥に凌駕している。
そんな相手に俺は『見切り』と『狂気ともいえる執念』だけでここまで戦ってきた。
もはや薫達は俺の狂気の信念に聞きなれたのか、あえて指摘はしてこない。
あの時、初めてこのオンネンを見た時。
コイツのことを『恐怖と狂気の塊』だと思った。
しかし、いつの間にか俺も大して変わらない存在になってしまっていることに、三度剣を交えて気づいてしまった。
「お互い……来るところまで来たって感じだな」
【……】
「もっともお前は初めからそうだったのかもしれないけどな」
【……】
オンネンは返事をしない。
殺気を纏わせながら、穏やかに語る俺を意味の分からない存在だと思ったのか。
それとも戦いの最中に敵と言葉を交えるつもりなどないというつもりなのか。
再び馬を歪に走らせ、矢を放つ。
5本、10本、50本、矢はどんどん増えすぐに数えられなくなった。
けれどもこれは前にもやった戦い方だ。
前と同じように自分に当たりそうな矢だけに意識を集中させ、1本1本丁寧に落としていけばいい。
「……雨のような矢なんて、面白いのは初めの1回だけだぞ? 2回目は流石に飽きる」
矢を撃ち落とし、軽い挑発のつもりで一言。
しかし、この言葉にはさっきと違い返事が返ってきた。
【……ナルホドナ】
「……!!」
相変わらず壊れた機械のような狂気に満ちた声だったが、そこに潜む感情は今までと大きく違う。
それに気づいた俺は少しばかり鳥肌が立った。
【確カニ……汝モソロソロ追イツイタカモシレヌ】
ー少し離れたところー
【シャアアアアアア!!!】
「この!!」
光がオンネンと剣を交えていたころ、シナトス達は大量のクロカゲに囲まれていた。
一匹一匹はとても弱くてもこれだけ多ければ、流石に厄介にもなってくる。
前回、連携して戦ってきたことの反省なのかシナトス達は光に助太刀が出来ない状態だった。
【ウガアアアアアアア!!】
「しつこいんだよ!!」
腹立たし気に薫が剣で振り払うが、そんな薫を嘲笑うかのようにクロカゲ次々と現れる。
「ヒカル……! お願い、なんとか頑張って!!」
ー再び、前線ー
「追いついた……だと?」
【アア。汝ハ我ニ追イツイタカモシレヌ。ソノ証拠ニ……】
「その証拠に……?」
【汝ハ戦イヲ楽シンデイル】
「……」
【汝ハ戦イニ恐怖ヲ感ジナガラモ、愉悦モ感ジテイル】
「……愉悦か、確かにそうかもな。こうやって誰かのために傷つくことでしか俺の罪は償えないからな」
【汝ハ何ヲ抱擁シテイル?『幸セノ守護者』タル狂気イガイニモ何カヲ隠シテイルナ?】
「それを教えるわけにはいかないけどな……。それにしても随分と喋るようになったじゃないか、勉強でもして来たのか?」
【……戦イニ語ライナド本来ハ要ラヌハズナノダガナ】
憐れむような、悲しむようなそんな声で話しながら再び槍で斬りかかる。
鉄球は利用されることが多いから使うのはやめたのか?
槍なら鉄球よりもリーチが短い分避けやすい。
地面に刺さった槍を足場に、距離をつめオンネンに剣を向ける。
「爆決天牙!!」
【グッ……!】
今度のはこの間とは違う、正真正銘の爆決天牙。
まともに食らったオンネンは吹き飛び、一瞬馬から落ちる。
しかし、すぐさま馬が駆け付け再び馬上へ。
どうやら馬から降ろして戦うのは無理なようだ。
「……」
ならば、馬の上に乗せたまま戦うしかない。
再び斬りかかるべく、無言で距離を詰める。
【……】
オンネンの方も、話すべきことはもう話したと言わんばかりにもはや言葉は発さない。
槍を鉄球の時のように頭上で振り回し、竜巻を作り上げる。
しかしそれは今までとは違い、俺のさらに外側に。
「……風の壁か」
竜巻に囲まれて自由に身動きが取れない。
オンネンの方は自分で作った竜巻は効かないのか、問答無用で突っ込んでくる。
「くそ……!」
この状況をどう利用すれば有利に戦えるだろうか……?
と、その時竜巻に煽られ石が俺に向かって飛んできた。
「危ね!!……そうか、これだ!」
俺は剣を構え地面に向けて爆決天牙を放つ。
爆発を受けたアスファルトは砕け散り、バラバラになった石が風に乗せられていく。
【何ヲシテイル!!】
再びオンネンが迫るが、今度の特攻は当たらない。
風に乗って宙を舞う、石を足場に竜巻の中を器用に動き回る。
【ナルホド……】
互いに実力も、残りの体力も同じ。
しかし、タイムリミットのある俺の方がやや不利だ。
残り時間は約2時間。
夜はまだ終わらない。
〈続く〉
次回 69話「さあ戦いを続けよう」




