59話 幸せの守護者
「うおおおおおお!!!!」
傷だらけの光が、再び沖田に斬りかかる。
もうこれで何度目の特攻だろうか。
薫やアウラが疲れ切って動けないなか、光は宇水の回復を繰り返し何度も沖田に立ち向かう。
しかし、見切りが効かない沖田にはさしてダメージを与えることも出来ず。
しかも宇水の回復は傷までは治せない、光は体中から血を流していた。
【いい加減にしたらどうだ……。何を考えているかは知らないが、もう分かっただろう。お前では私には勝てないと】
「いいや、分からないね。言っただろう? 『この命尽きるまで、戦いは終わらない』と!!」
【くっ……!】
沖田の身体にはほとんど傷はない。
しかし、少しずつだがその表情には焦りのような表情が見え始めた。
取るに足らないはずの相手との決着が何故か一向につかない。
沖田自身が死して蘇った存在でありながら、まるでゾンビの相手でもしているのではないかと錯覚するほどに光は立ち上がって来た。
もちろん、体力が回復しているのだから。
肉体的には問題ないのだろう。
しかし、沖田が恐れたのはそこではない。
いくら斬り返されても折れない光の精神にこそ、一抹の恐怖を感じたのだ。
【いいだろう……! 何にそこまで執着しているかは知らんが、そこまで諦めきれないのなら! 私がここで終わらせてやる!!】
「さ、三弾突きだ! 避けろ、ヤケッパチ!」
「くそ!!」
薫の忠告に反して、光は避けようとしなかった。
斬り合ううちに誘い込まれたのか、今光は薫とアウラのちょうど正面にいたのだ。
この三弾突きを避けたら、薫達が犠牲になる!
【砕け散れ! 三弾突き!!!】
「ヤケッパチー!!!!」
しかし、次に響いた音は剣が肉体を切り裂く音ではなくー
金属同士がぶつかり合う、甲高い音だった。
「……シナトス」
光の身体を貫くはずだった三弾突きは、シナトスの手にするリームによって受け止められていた。
さすがの沖田もいきなり現れた相手に対してまでは、技を食らわせることは出来なかったようだ。
【……死神か】
そう言いながら一旦距離を取る沖田。
しかし、シナトスは沖田にではなく光に向けて……。
「どうして……?」
「え?」
「どうしてまだ戦うの?」
泣きながら問い掛けるのだった。
「シナトス……」
「もう、アナタを巻き込みたくないから……。これ以上、傷つけたくないから……。私は帰ることにしたのに! どうしてアナタはまだ戦うの!?」
「……」
「分かってる……。自分から手伝ってと言っておいて、急に帰るなんて言い出すのは自分勝手だってことぐらい。でも! 私が帰ったら、もうアナタはもう戦う必要はないでしょう!?」
「……まあ、婆ちゃんを生き返らせてあげたいと思ってるわけだから戦う必要がないわけじゃないけどね」
「でも! だからって!!」
「嬉しかったんだよ、俺」
「え?」
「俺は昔から変な奴だった。周りの人間とどうしても考えることが違った」
そう語る光の顔には、懐かしさと辛さが同居していた。
「だからさ、いっつも変な目で見られて。『宇宙人』だとかよく言われたよ」
「ヒカル……」
「でも、俺は他人を恨まなかった。いや、恨めなかった」
「……どうして?」
「俺は『誰かがいないと生きていけなかったんだ』」
「……?」
「おかしな話だよな。みんなから変な奴だと言われているのに、俺は誰かとの共感を求め続けた。誰かからの評価を求めた。いや、変な奴だから求めたのかな?」
「……」
「でも、俺みたいな奴を差別もしないで扱ってくれたのは……。家族と茉子たちみたいな一部のやつだけだった……」
「だからあの日、婆ちゃんが死んだ日。俺は死のうと思った。この世界で俺は生きていけないと思ったから。俺は『人』ではあっても『人間』ではなかったから」
シナトスは何も言えなかった。
そこに介入することは出来ない。
いくらシナトスが『ヒカルは普通の人間だ』と言っても過去は変えられないのだから。
「茉子やヒナには悪いとは思ったけど……。それでも、生きていきにくすぎた。茉子たちは俺を認めてはくれても必要とはしなかったからね。茉子たちは普通の人間だから……」
しかし、ここで光の顔と声が一段階明るくなる。
「でも、違った。この世にはまだ俺を俺として認めてくれる人がいた。俺を必要としてくれる人がいた!」
「え……?」
「シナトスからすれば大したことはしていないのかもしれない。けど、俺からすればまさに命の恩人だった! 生きていく意味を与えてくれた!!」
「だから、俺は俺に生きる意味をくれた人のために生きようと思った。俺はシナトスを幸せにすることは出来なくても、君を不幸にしようとする奴を倒すことは出来る」
「だから俺は戦う。君を不幸にするやつがいる限り、決して剣を手放しはしない!」
「ヒカル……」
シナトスからすれば信じられない事だった。
ただ、自分のために声を掛けただけなのに。
それが彼にとっては、まさに本当の意味で『命の恩人』となっていたのだから。
【まさに……幸せの守護者だな。なるほど、命の恩であればそこまで執着するのも……。いや、普通はおかしいがお前は普通ではないのだったな】
「……」
【今の言葉は嘲りのつもりではない。私もお前の気持ちは分からんでもない……。私を『人間』として見てくれたのは子供たちだけだったからな】
その言葉に含まれた、小さな感情に気づいた光は思わず呟く。
「沖田……」
【なら! 証明してみせるがいい! 私を倒し、幸せの守護者としての在り方を見せつけてみろ!】
「言われなくとも……!」
再び、迫る両者。
東の空に少しづつ、明るさが出てきた。
もうすぐ、戦いの終わりが来る。
〈続く〉
次回 60話「変わらずの世界」




