57話 決別と決断
「私、この戦いから退いて天界に帰ろうと思うの」
「なッ!? どういうことだ、死神娘!!」
シナトスの言葉はその場にいる全員を驚かせた。
まあ、無理もないことだが。
「言葉のままよ。もういいの……」
「『もういいの』じゃねぇだろ!?」
と、そのタイミングでドアが開き部屋に光が入ってくる。
「お、おい! ヤケッパチ、お前も止めてくれよ! 死神娘が……!」
「帰る……って言ったんだろ?」
「え?」
「聞こえてたよ、ドアの向こうから」
「そ、そうか。ならー」
「いいんじゃないか。シナトスがそうしたいなら、俺は止めないよ」
「なッ!? てめぇ!! どういうつもりだ!!」
「どうもこうもない。シナトスがそうしたいなら、俺にそれを止める権利なんてないさ」
光も一緒になって止めてくれるだろうと思っていた薫は、光の言葉に声すら出なくなってしまった。
それと同時に湧き上がるのは……怒り。
光に対する怒りではない。
こんな奴に自分は負けて、認めたのかという怒りだった。
「そうか……。そうかよ」
薫はうつむいたままそう呟くと……。
「いくぞ、アウラ。もうここにいる必要はない」
「わ、若……」
「見損なったぜ、城内 光。てめぇはもう少し骨のあるやつだと思った俺が馬鹿だった」
光はその言葉に返事はせず。
そもそも返事をする暇もなく、薫はバタン!と扉を閉めて部屋から出ていく。
そして、アウラも光達のことを気にしつつも一緒に外に出て行ってしまった。
「……お嬢」
「さあ、早く荷物をまとめて天界に戻るわよ。これ以上ここにいるのは迷惑だわ」
「そうか……」
リームは悲しそうな顔をするも、シナトスに逆らうことはしない。
「ヒカル……」
光は振り返らない。
それでも、シナトスは光の背中に向けて言葉を続ける。
「いままでありがとう。短い間だったけど、本当にお世話になりました」
その言葉にも振り返ることはなく……。
シナトスとリームは天界に帰ってしまった。
ー四日後ー
四日後、日曜日なので学校は休み。
それは城内 光にとって久しぶりのなんでもない、なんにもない日曜日だった。
彼の周りにはもう不思議な彼女たちはいない。
シナトスとリームは帰ってしまった。
薫とアウラはどこかへ行ってしまった。
目を覚ました宇水も薫を追うと言ってどこかへ行ってしまった。
唯一、光の傍に残った村正ちゃんもいつものような元気さはない。
「……村正ちゃん。ちょっと留守番頼んでいいかな?」
「別に大丈夫ですけど、どちらへ?」
「ちょっとね……」
曖昧な返事を返すと、光は一人外へ。
静かになったお向かいとお隣の前を通り、街へ出かける。
暖かい日差しに照らされて、街を歩く。
その途中、いろいろな場所を通った。
シナトスと初めて会ったビル。
一緒に出掛けたショッピングモール。
薫と闘ったなんてことない道。
伊農村へ向かう時に乗った電車の駅。
また、その間いろいろな話を耳にした。
『終息にはあと1年ぐらいかかるかもしれないって……』
『死神病の感染者はとうとう1万人を突破し……』
『見て、あの車。こんな時期だって言うのに県外ナンバー……』
『お父さんはどこへ行ったの?……』
光が最後に着いたのは学校だった。
しかし、先日エルメが訪れた時とは違いほとんど生徒はいない。
先日まで、命を奪いこそするがそこまで爆発的な感染を見せていなかった死神病。
しかし、ここ数日で突然感染者が加速し学校も急遽休校になったのだ。
「そうだよな……。やっぱりそうするしかないもんな」
そのセリフは誰に対して向けたものではない。
強いて言うなら自分に向けたセリフだろうか。
今日の外出は光にとってとある確認だった。
シナトスが帰ると言ったあの時から、そうしようとは思っていたが……。
ここでそれは決断に変わる。
ーその日の夜、別の場所ー
「ちっ……。黒幕の野郎、俺達が完全に戦意を失ったとみてここに来て一気にクロカゲを地上に流しやがった」
「おまけに、完全に止めをさすべく新しいオンネンを連れてくるなんて……」
「それでも……やるしかないでしょう」
薫、アウラ、宇水は新たなオンネンを感知し、そのオンネンを待ち構えていた。
こんな短期間でオンネンが出現したことは今までにない。
地上に大量発生したクロカゲも含め、薫たちの推測は間違っていないのだろう。
「……! 来るぞ!!」
薫の声と同時に、目の前に剣士のようなオンネンが現れる!
【……? 話が違うな……。確か、特異器官が三人と、死神が二人いると聞いていたのだが……】
「オンネンが……まともに喋った!?」
【私は剣士のオンネン。多少、他のオンネンと生まれが違ってね……。しかし、数が少ないのはどういうことだ?】
「ふん。そんなことよりも自分のことを気にするんだな。お前なんか、俺らだけで十分だ!」
【威勢がいいのは結構だが……。私はそうとう強いぞ? 果たしてお前たち三人で勝てるかな?】
顔をしかめる薫たち。
分かっている。
騎兵のオンネンより、さらにこのオンネンが強力なことぐらい。
それを前回より少ない人数で戦うなんて、無謀なことも。
しかし、それでもこの場にいる三人が引くことはなかった。
そして……
「悪いな、お前の敵は三人じゃなくて四人だ。俺もそこに混じるんでね」
「なッ!?」
薫たちの後ろから聞こえた声、それが誰の声なのか。
薫たちにはすぐに分かった。
「ヤケッパチ……。お前どうして……?」
次回 58話「これが俺に出来ること」




