54話 生まれて初めての恐怖
【ヌウウウウウウウウ……!】
剣を砕かれ、鎧に大きな傷をつけられた騎兵のオンネンは、生まれて初めて恐怖していた。
まだ生み出されてそれほどの時間は経ってはいない。
しかし、この狂気の塊のようなオンネンは初めて『恐怖』という感情に呑まれていたのだった。
「はあああ!!」
だんだんと動きが鈍くなってきたオンネンに、もう一発斬撃を。
もはや避けることも出来ず、再び俺に斬りつけられる。
【オノレェ!!】
砕かれた剣、弾かれた弓、奪われた鉄球。
次に取り出した武器は長い槍だったが、宇水さんのおかげで体力が回復している俺に、疲れてスピードが落ちた槍は当たらない。
【コレデドウダ!】
すると、オンネンは頭上でプロペラのように槍をぶん回すとそのままこちらに斬りかかってきた。
そして槍から小さな竜巻がいくつも生まれ、こちらに向かって迫ってくる。
初めて戦った時に、鉄球で作った竜巻の小さい版だろうか。
「無駄だ!」
しかし、この程度の風ならどうということはない。
俺のカマイタチでも十分迎撃可能だ。
「可能だけど……あれぐらいの威力が限界か」
だとすれば、カマイタチではさすがにオンネンの止めはさせない。
しかしだ、地天反逆も少し微妙なところである。
地天反逆はカウンター技、すなわち相手の技の威力が高ければ威力が増す。
では、今のオンネンはどうか。
ずっと俺達の有利で進んできたせいですっかり弱っている。
多分だが、今のアイツにはもう大した攻撃はできないだろう。
『つまりは……止めは爆決天牙しかないというわけですね』
村正ちゃんが俺の思考を読んで、脳内に語りかけてくる。
『ああ。そういうわけだ』
『まあご主人が止めをさす義務があるわけではないですがね』
『そうだけども。薫の四無一閃は隙が大きすぎるし、シナトスの土龍神弓は馬の上にいるアイツには当たらない。決め技なしで止めはさすがにキツイだろ?』
『それもそうですね』
ただオンネンが弱って来たとはいえ、まだ爆決天牙で止めをさせるほどではない。
ならもう少し削る必要がある!
【コシャクナ……!!】
オンネンは力強い薙ぎ払いを薫に向けて何度も放つが、シナトスと連携して動く薫になかなか槍は当たらない。
俺のように見切りが使えなくとも、ああやって連携すれば薫やシナトスでも避けられる。
「どした! どした!? お前の実力はそんなもんか!?」
【グアッ!!!】
また再び斬撃。
確実にオンネンの体力は少しずつ削れていっている。
薫とシナトスが削っている間、俺は何をしているのか。
答えは爆決天牙の準備だ。
爆決天牙は摩擦の突き技、敵との距離が長ければ長いほど威力は増す。
つまり接近戦では使えないのだ。
だから今は二人に頼るしかない。
幸い二人で連携すれば問題ないようなので良かったが。
そして今はちょうど俺にむかって向かい風が吹いている。
より一層爆決天牙の威力が増すということだ。
「さて、そろそろ仕上げといこうか!!」
「そうね!」
まずシナトスが正面からオンネンに斬りかかる。
もちろんこれをオンネンは槍で迎撃しようとするが……。
オンネンも疲れて判断が鈍ったのだろうか。
さっきの弓もそうだが、分かりやすすぎる行動を戦闘でとるのは命取りだ。
「アホか! てめぇ!? 同じミスを一度の戦闘で二度もするなんてよ!!」
どういうことか。
すなわち槍は簡単に薫に吹き飛ばされる。
武器を失い、体勢がのけぞった!
「これで……決める!!」
その瞬間に俺が走り出す!
騎兵のオンネンに向けて、最後の技を放つために!!
剣を砕かれ、鎧に大きな傷をつけられた騎兵のオンネンは、生まれて初めて恐怖していた。
まだ生み出されてそれほどの時間は経ってはいない。
しかし、この狂気の塊のようなオンネンは初めて『恐怖』という感情に呑まれていたのだった。
だがそれは普通の『恐怖』ではなかった。
死に対する恐れではなく、痛みに対する辛さでもない。
不安の一種ともいえる恐怖。
すなわち『物事が上手く進み過ぎることに対する恐怖』だった。
誰だって予想通りに行き過ぎると何か裏があるんじゃないかと恐怖する。
それはこのオンネンも同じだった。
しかし、どうもこの恐怖は杞憂に終わりそうだ。
もうすぐ、この恐怖は歓喜に変わりそうだ。
なぜなら、愚かにもあの少年はあの技を放とうとしているのだから。
ルークの仕掛けた必然たる罠にも気が付かず……。
オンネンとの距離もあと少し!
「跳べ! ヤケッパチ!!」
薫の助けを受けて、大きな馬の上にいるオンネンの目の前へ!
「これで終わりだ! 爆決天牙!!!」
〈続く〉
次回 55話「残酷な朝日」




