33話 美紀 正路と秋の庭
シナトスに連れられてやってきたのは、シナトスが先生と呼んだ人『美紀 正路』の部屋。
「うわぁ……。凄い……」
そこに広がる光景はまさに文句なしの絶景だった。
赤く燃えるように美しく広がる紅葉、そしてその中心に広がる大きな池。
京都とかの山奥で運が良ければ見れる、そんな感じの綺麗な景色がそこにはあった。
「やあ、よく来たね」
と、美紀さんが迎えてくれる。
「改めて自己紹介しよう、私は美紀 正路。シナトスの教師をしていた天使だ」
「あ、えっと城内 光です」
「うん。まあ、大したもてなしは出来ないが釣りでもしながらゆっくりしていってくれ」
「釣り?」
「うん。先生は釣りのプロなのよ? 私も先生から教えてもらったの」
なるほど。
だから、あんなに釣りが上手かったのか。
もっとも、シナトスが上手かったのは釣りではなく、釣りゲーだが。
「凄い、綺麗ですねこの部屋。池と紅葉がとても風流です」
「ん? それは違うよ、光君」
「へ?」
「これは紅葉ではなく、カエデさ。まあ、厳密にはそう大きな違いはないが、カエデと呼んでくれ」
「あ、はい」
カエデか。
何が違うのかよく分からないが、まあなんか違うんだろう。
「ええと、美紀さん?」
「なんだい?」
「ちょっと聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
「ああ、なんでもいいよ。何が聞きたい?」
ここで美紀さんが一匹釣りあげる。
生き生きとした……アユ?
美紀さんがこの池に放してるのかな?
「あの、天使なのに死神の教師って言うのはどういうことなんですか?」
「ああ、それか。いや、昔は確かに死神の教師も死神だったのだよ」
「昔は?」
「そう、それが前の教師がとある不祥事を起こしてね、教師の資格を剥奪された。そして、その代わりとして私が教師になったわけだ」
「天使なのに?」
ここで今度はシナトスがフィッシュ。
あれはスズキかな?
「天使、というがその実『天使』と『死神』の仕事はそう違いはないんだよ」
「そうなんですか?」
「私たち『天使』は天界から下界に魂を運び、人を生まれさせる。そして……」
「私たち『死神』は下界から天界に魂を運び、人を死なせる。要するにどっちに運ぶかが違うだけなの」
「へえ……」
「だから、さして問題はないんだよ」
ここでまたもや美紀さんが釣り上げる。
あれはハスだな。
この池なんでもいるな。
「そうなんですか。えっとじゃあ全然違う質問ですけど、この部屋は元からこんな感じなんですか?」
「いいや。私が自分で作り直したのさ。昔、下界に行った時にこの美しさに目を奪われてね、ここにも同じものを作りたかったんだ」
「……」
「まあ、カエデの木はどうにかなったが、魚にはあまり詳しくなくてね。とりあえず淡水魚を連れてきたから本来池にはいない魚もいるかもしれないがね」
ハハと少し顔を赤くして言う美紀さん。
まあ、確かに川魚が混じってるような気はしてました。
と、またまた美紀さんがフィッシュ。
あれはボラかな?
「さてここで教師として、少しお勉強の時間だ。ああ、竿は持ったままで結構」
「お勉強?」
「ああ、私なりに特異器官についてまとめたのでね。ああ、今回は特異器官ではない純粋な超能力者に関しては省略するよ」
「はい」
「特異器官、その始まりはなんと生命誕生の瞬間まで遡る」
「ええ!?」
「私達、天界の住人でさえその存在を深くは知らない『神』がはるか昔、宇宙を作り、地球を作り、生命を作った」
「神……」
「しかし、生まれた生命はただ生きているだけの存在だった。そこで神はその生命を自ら発展し、『ただ生きているだけ』の存在から『世界を生きている』ものへと進化させた」
「進化ですか?」
「そう、神は始めに生み出した5体にそれぞれ五感を与えたんだ」
「! じゃあ、それが!!」
「そう、これが特異器官の始まりだ。この五体がさらに繁栄をしていき、今ではほぼ全ての人間が五感を持っている。しかし、始めに五感を授かった者の子孫たちは他よりもさらに強い感覚を持っていた」
「なるほど……」
「だから多分、光君。君の母親か父親どちらかが特異器官持ちだったと思うよ?」
「……さあ、もう何年も前に亡くなってるから。俺も子供だったし」
「なら、会って確かめてみるかい?」
「ええ!?」
「『ええ!?』ってここは天界だぞ? 会えるに決まってるじゃないか」
「いや、でもそれはいいんですか?」
「まあ、今回は特別さ。どうする? 行ってみるかい?」
思わず、シナトスとリームの方を見るが二人とも特に反対する雰囲気ではない。
リームに至っては、なかなか魚が釣れないのが悔しいのかあんまり気にしてなさそうだ。
「そ、それじゃあ、行ってみます!!」
「分かった。シナトス、案内してあげてくれ。私は、他に仕事があるのでね」
「え? 大丈夫、シナトスで? また迷子にならない?」
「……最初ここにヒカルを連れてきたのは誰だっけ?」
「ああ、そうか。えっと、ありがとうございました! わざわざお忙しいなか」
「大したことではないさ、またいつでも来たまえ。ところでリーム、君は行かないのかい?」
「一匹釣れたら後を追います」
「……そうか」
ああ、やっぱり釣れないの気にはしていたのか。
まあ、俺も釣れなかったが。
「緊張してるの?」
途中、シナトスが話しかけてきた。
「当り前さ。父さんは俺が5歳の時に死んで、母さんに至っては記憶にすらないもの」
「そう……。そうだ、先に行っておくけど会えるとは限らないわよ」
「え?」
「だって下界と同じくらい広いんだもの。一応、家には行くけど旅行とかしてたら諦めなさい」
「へえ……旅行……」
なんだろう。
一気に緊張が抜けた気がする。
と、話しているうちに俺たちは大きな大きな扉の前へ。
そしてシナトスは特に躊躇うこともなく、その扉を両手で開いた。
次回 34話「再会」




