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魂のレッドライン  作者: ギン次郎
1章 夢を見た天使
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32話 関わりの境界線

「シナトス……あなた、どういうつもり?」


 急にエルメさんの顔が険しくなる。

 さっきまでとは違う、素の彼女と言った感じだ。(俺は知らないが)


「『どういうつもり』って言うのはどういうことですか、姉さん」


「どうもこうもないわ。確かに、クロカゲ討伐において人間との協力は許可されている。だとしても、だとしてもよ!」


「学校に忍び込んだり、一緒に遊びに出たり、あまつさえ死神の仕事に生きた人間を同行させるなんて!」


 ……まあ、確かに。

 こないだは少しばかり「俺、ここに居てもいいのかな?」とは思ったけど。


「そんなの簡単なことですよ。私は彼を、城内 ヒカルを信頼しているから」


「信頼?」


「ええ。彼は私達と人間達の調律を乱すようなことをする人ではない。それに、彼は私を信頼してくれている、ならこちらも相応の対応をするのは当たり前のことではなくて?」


「どこが相応なの! 確かに条例には違反していない、でも貴女も知っているでしょう!?」


「天界の者と下界の者が深く関われば、災いを引き寄せるって、昔から言われてるじゃない!」


「……」


 災い。

 確かにそれは嘘ではない気がする。

 もともと、人間の範疇を越えている事だから。

 確かに良くないことが起きることもあるだろう。

 でも……


「とにかく! シナトス、もう少し考えて行動しなさい!!」


「考えて……? 怯えての間違いじゃなくて?」


「なッ……。それは、どういうこと」


「だっていつもそうじゃない!!」


 響くシナトスの怒鳴り声。

 こんなに怒ったシナトスを見るのは初めてだ。

 思わず俺まですくみあがる。


「姉さんはいつもそう! 『危険だ』だの『良くない』だの、昔のことばかり気にして全然未来を変えようとしない!!」


「確かにそうね! 今まではそうだった。だからって今度またそうなる確証がどこにあるの!?」


「私は過去に縛られたりはしない!! 必ず未来を変えてみせる!!」


 そう言い残すと、苛立たしげに部屋を出ていってしまった。

 部屋に残された俺たち。

 しばし、沈黙が続いたがー


「エルメ、まあ君の気持ちも分からなくはないがね。お嬢の気持ちも分かってやっておくれよ」


「……。城内 光さん」


「は、はい!!」


「とりあえず、何かを変えろとは言いません。ただ、もう少し警戒心を持って行動しなさい。忘れないであの子は人間じゃないんだから」


「分かりました」


「以上です。見苦しいところを見せて失礼しました」


 そう言ったエルメさんの顔は、なんだかとても悲しそうだった。




「リーム、いつもあんな感じなのか?」


 とりあえず、シナトスを追うことにした俺とリーム。

 歩きながら俺は質問した。


「まあ、いろいろあってね……」


 そうだろうな。

 ただの姉妹喧嘩ではなさそうだ。

 何か事情がなければああはならないだろう。


「……。君には話してもいいかもしれないな」


「え?」


「お嬢とエルメの母親はね、まさに災いの被害者だったんだよ」


「どういうことだ……?」


「昔、まだエルメ達が生まれる前。彼女たちの母親がとある事情で、下界へ行ったんだ」


「まあ、死神が下界に行くのはそこまで珍しいことではないがね。その時、母親はとある人間に恋をした」


「人間に……?」


「ああ、その人間もまた母親に恋をした。つまり二人は相思相愛だったわけだ」


「初めは彼の周りの人間達も祝福した。しかし、母親が死神だと分かると態度は一変した」


「……」


「彼がどんなに説得しても無駄だった。それどころか彼は『死神に味方する者』として処刑されてしまったんだ」


「そんな!!」


「もう1000年も前の話だ、今とは勝手が違うんだよ。そして母親は授かっていた二人の子供、すなわちエルメとシナトスを天界に逃がし、子供たちを庇うため彼女もまたおとりとなって……」


「処刑されたのか……?」


「ああ……」


 ……。

 ひどすぎる。

 死神だから、ただそれだけで二人は殺された。

 何が、何がいけないんだ。

 一体何をしたって言うんだ!?


「だから、エルメは人間との交流を恐れている。そして、シナトスに同じような道を歩んでほしくないから時に、お嬢にキツくあたることもある」


「でも、お嬢は違った。そんなことはない、死神と人間が共に生きることもできる。お母さんを不幸な人だなんて言うなと。人間との交流を諦めなかった」


「……。なあ、一ついいか? 人間に死神は見えないはずだろ? なんでその人間には見えたんだ?」


「そんなもの答えは一つしかないんじゃないか?」


「え?」


「その人間は特異器官」


「ま、まさか……」


「全てを見通す『次元眼』の持ち主。すなわち……」


「城内 光。君の先祖に当たる人間だ」


 そんな!

 いや、でもそんなことがあるのか!?

 いくらなんでもそれは……!


「ありえない話ではない。事実、その人間は母親に会う前に人間と結婚し子供が一人いたんだ。しかし、妻に逃げられてしまった。そのあと、母親に出会い再婚したわけになる」


「じゃあ、俺とシナトスは……?」


「遠い親戚になるわけだ」


 衝撃が隠せない。

 もしかしたら初めて出会った時よりもびっくりしたかもしれない。

 ならシナトスと俺が会ったのも偶然ではないのか?


「まあ、お嬢もさすがにそこまでは知らない。まあ、エルメの方は物心もついていたみたいだし知っているかもしれないが」


「とにかく、お嬢たちは少し人間といろいろあるわけなんだ。そこを理解してくれると助かる」


「なんで……」


「?」


「なんで、シナトスに言わないのに、俺に言ったんだ!?」


「……。吾輩もまた君を信頼しているから。君ならお嬢を幸せにしてくれると思ったから」


「そんな……俺にはそんなー」


「ヒカル? 何してるの?」


「ふえ!?」


 急にシナトスが出てきてびっくりしてしまった。


「いや、そのなんでもないよ」


「そう。ねえ、会議までまだ時間あるじゃない。だからさ、先生の部屋に行かない?」


「へ?」


「凄い綺麗なの! きっとヒカルも気にいるわ!!」


 俺の手を取り、走るシナトス。


 分からない。

 どうして、君は笑顔でいられるんだ?

 どうして、彼は俺に出来ると思ったんだ?

 どうして、彼女はシナトスを下界に行かせたんだ?


 確かに、物心がついていなかったから記憶にないのかもしれない。

 確かに、ここ数日の彼女は楽しそうだった。

 確かに、仕事は別な話かもしれない。


 でも、それとこれとは違うことなんじゃないか?


 俺がおかしいのか、それとも彼女たちがおかしいのかは分からない。

 ただ、たとえ分かったとしてもー


 無力な俺には、どうにも出来ない事だった。


次回 33話「美紀 正路と秋の庭」

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