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魂のレッドライン  作者: ギン次郎
1章 夢を見た天使
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30話 命の理

「ふう……」


 学校から帰るときにはもう夜になっていた。

 ヒナの手伝いをしていたら、こんな時間になってしまったのだ。

 なんであんなに仕事多いのか……。

 暗い道を一人で歩いていると、道の先にシナトスがいた。


「シナトス、何してんの?」


「え? ああ、仕事よ」


「仕事……?」


 気のせいだろうか、なんだか寒気がした気がする。


「仕事って……何?」


「何?って……。忘れたの? 私は死神なのよ、ならもう答えは一つしかないでしょう?」


「なッ……!? ほ、本気で言ってるのか!?」


「アナタも気を付けた方がいいじゃなくて? その気になれば、その首いつでもスパッとできるのよ」


 鳥肌が立つ。

 体中が警戒している。

 初めてシナトスに会った時の、人ならざる冷たい雰囲気を感じる。


「お嬢、冗談はそこまでにしておいたらどうだ?」


 ……え? 冗談?


「そうね。ごめんね、ヒカル。アナタの反応が面白くってつい」


 いつものシナトスに戻った。

 まったく……勘弁してほしい。


「で? 今のが冗談なら、仕事ってなんなんだ?」


「前に言ったでしょ? 『死神はアナタたちが想像するような死神とは少し違う』って。死神の仕事は人を殺すことではなくて、死んだ人をあの世につれていくこと」


「連れていく?」


「そう。死んだ人は魂だけになって体から抜け出す。その後、すぐにあの世に行くわけじゃなくて1ヶ月くらいはこの世に留まるの、それが幽霊ね」


「ほう」


「で、死神はその幽霊をあの世に連れていくの。1ヶ月ごとに決められた範囲の幽霊達を集めてね」


 なるほどね。

 ということは婆ちゃんもこのあたりをフヨフヨしてるんだろうか。

 というか、今ここにいるんじゃないのか?


「まあ、ヒカルのお婆さんはいないけどね。クロカゲの影響で死んだ人は、死神の管轄外だから勝手にあの世に行っちゃうのよ」


 あ、そうなのね。


「今から幽霊を集めるところなんだけど、ヒカルも見学していく? 将来、ヒカルもこうなるわけだし」


「ハハハ……。まあ、せっかくだし見ていこうかな」


 たまにシナトスは、えげつないブラックジョークをかましてくる。



 というわけで、シナトスと一緒に夕食の匂い漂う街を回ったわけだが、一つ忘れていたことがあった。

 俺には幽霊が見えない。

 途中で気が付いたのだが、今更言い出すことも出来ず。

 結果、見えない何かに話しかけるシナトスについて街を周っただけだった。


「そういえば、ヒカルって幽霊見えないんじゃなかったっけ?」


 シナトスが気づいたのは、もう幽霊を集め終わった後だ。


「うん、見えない」


「まあ忘れてた私が言うのもあれだけど、早く言ってよ。そしたら、これ渡したのに」


 そう言ってシナトスが取り出したのは……メガネ?


「これは幽霊が見えるようになるメガネ。天界のリームの友だちが作ったものなの」


「そんなのあったの!?」


「うん、あったの」


 なら、さっさと言い出せば良かった。


「お嬢、一人幽霊が足りないのだが」


「え?」


 リームがメモのようなものを見ながら、悩ましそうにしていた。


「ホントだ、女の子の幽霊がいないわね。じゃあちょっと様子見に行ってくる。リームはここで幽霊たちを見てて」


「了解した」


「ヒカルも来る?」


「うん、そうしようかな」


 というわけで、不思議なメガネをかけてシナトスと女の子の家へ向かうことになった。



「この家ね……」


 特になにかあるわけでもない普通の一軒家だ。

 まだ電気は付いており、最近女の子が亡くなったとは思えないような明るい声が聞こえてくる。


「ホントにここ?」


「そのはずなんだけど……」


 シナトスと一緒に、こっそりとの庭へ。

 窓から中の様子をうかがうとー


「大きな悪いオオカミが、最初の子ブタの扉を叩いて言いました。『子ブタくん、子ブタくん、おれを中に入れておくれ』」


「だめだよ! おおかみにたべられちゃう!」


 3匹の子ブタの本を読み聞かせる母親と、それを聞く女の子がいた。


「どういうこと? なんか、普通に生活してるけど?」


「……多分あの女の子は気づいてないのよ。自分が死んだことに」


「自分が死んだことに気づいてないと、幽霊でも見えるの?」


「そんなことはないわ。多分、あのお母さんは幽霊が見える体質なのね……。死神はともかく、幽霊なら霊感があれば一般人でも見えるのよ」


 なるほど。

 母親の方も、見えるせいで気づいていないのかな?


「どうする?」


「あの子がいなくなるのを一旦待つ。それから話をする」


「そうか……」



 ー10分後ー


「こうして、子ブタたちは楽しく暮らしましたとさ。めでたしめでたし」


「よかった! ぶたさんたちたべられなかったね!!」


「そうね、さあもう寝ましょう。そうじゃないとまた病院で点滴よ?」


「やだ! ねる!!」


「ベットに行っていてね、お母さんも準備したらいくから」


「うん!」


 とてとてと寝室に向かっていく女の子。

 明るい部屋に一人残った母親にー


「いいんですか? 普通、子供を寝かせる前には歯を磨いて、トイレに行かせるものでしょう?」


「!? なッ……誰!?」


「死神……って言えば貴女ならもう、何をしに来たか分かりますよね?」


「!!」


 瞬間、母親の顔が凍り付く。

 表情が死に、その後泣き始めた。


「ど、どういうこと? 説明してくれ、シナトス!」


「このお母さんは、あの子が死んでることを分かってるのよ」


「え?」


「そうでしょう?」


「お願い! お願いです!! どうか、どうかあの子を連れて行かないで!!」


 母親が泣きながら懇願する。

 まさか、本当に気づいていたのか……?


「ヒカル、よく考えてみて。自分の子供が死んだことに気づかない人なんて普通いないでしょ?」


「……」


「それに『病院で点滴』って言ってたから、多分病気で亡くなったんだと思うけど。ならなおのこと変よ。行方不明とかでひょっこり幽霊が帰ってきたならまだしもね」


「じゃあ、ホントに……」


「はい、気づいてました」


 相変わらず、泣きながら母親は話し始めた。


「3週間前、あの子は病院で亡くなりました。生まれつき病弱だったんです。生まれた時からずっと病院で入院生活、元気になったらいろんなことをしたいと言っていました」


「そんなあの子がひょっこりと家に現れたのは2週間前のことでした。その時は奇跡が起きたのかと思いましたよ」


「でも、違いました。夫に喜んで話したんですけど夫には見えなかったんです。それに、一緒に生活していても分かりました。お腹は空かないし、トイレにもいかない、怪我もしないしー」


「触れられなかった」


「それでも! それでもあの子はあの子です!! やっと元気になれて、やりたかったことができるようになったんです!! お願いします、どうかあの子を連れて行かないでください!!」


 この時、もし俺がシナトスの立場ならどうしていただろうか。

 もしかしたらこの親子に同情して、見逃していたかもしれない。

 大切な人を失う悲しみを俺も深く理解しているからだ。

 でも、シナトスはうなずかなかった。


「……やっぱり、ダメですよ」


「どうして!?」


「いいですか。確かにその気持ちは分かります。でも、これは生きていくうえで絶対に避けられないことでもあります」


「人間も、動物も、死神だってこの世に生きる全てのものはいつか死ぬ。それはなんであっても逆らえない絶対の理」


「なら出会えば、いつかは必ず別れが来る」


「この世に生まれた者はみな、別れを経験する。誰一人として別れを経験しないものはいない」


「それをいくら悲しい過去があったからと言って、貴女だけ逃れようというのは許されない事なんです」


「だから……たとえ貴女に恨まれようと、私はあの子を連れて行かないといけない」


 シナトスはそう言い切った。

 恐れはなかったのだろうか、怖くなかったのだろうか。

 俺なら、怖くてそんなこと言い切れない。

 母親は、静かに聞く。


「あの子は連れていかれた後、どうなるんですか?」


「天国で暮らした後、時がくればまた生まれ変わります」


「天国では幸せに暮らせるんですか?」


「そのための、天国ですから」


「おかあさん、まだー?」


 その時、女の子の幽霊が戻ってきてしまった。


「おかあさん? どうしてないてるの? このひとたちにひどいことされたの?」


「違う、違うのよ……ひどいのはお母さんの方なの。ごめんね、ごめんね」


「なんであやまるの?」


「分かってた。死んでいることも、この子はもうこの世では幸せになれないことも。いつか自分が普通じゃないことに気づくって。でも、言い出せなくて……ごめんね、ごめんね」


 明るい部屋で、母親はなんでも「ごめんね」と繰り返していた。

 そんななか、俺はただそれを見ていることしかできなかった。



「それじゃあ、行こうか」


「どこに?」


「うーん、いいところかな?」


「おかあさんは?」


「大丈夫、お母さんも後でちゃんと来るから」


「そう……」


 不安そうではあったが、女の子の幽霊はシナトスについていった。


「じゃあ、ここからは流石にヒカルは来れないから」


「あ、うん分かった」


 そのままシナトスは他の幽霊たちもつれて、空高く昇っていく。


 その背中を見ながら、俺は思った。

 シナトスは俺のことはどう思っているのだろうか。

 シナトスは『いくら悲しい過去があったからと言って、貴女だけ逃れようというのは許されない事』だと言った。

 なら、婆ちゃんを生き返らせようとしている俺はどうなんだろうか。

 クロカゲによる不正な死であればそれは許されるのか?

 なら、あの子の死因がクロカゲだったらあの子は生き返れたのか?

 答えは分からない。


 ただ、空に昇っていくシナトスの背中はなんだか、とても寂しそうだった。


次回 31話「緊急帰還命令」


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