29話 茉子の恐怖の映画ツアー
「光くん! 今度の日曜日ヒマ?」
放課後、今日もまた部活をサボろうとしていた俺を捕まえながら茉子が聞いてきた。
「別に特に用はないけど」
ズリズリと引きずられながら俺は答える。
「じゃあさ! 映画見に行かない?」
瞬間、俺は全ての力を振り絞り茉子を振り払う。
そして逃走。
全速力で茉子から距離をとー
「廊下を走らない!!」
ヒナに襟首をつかまれ、急速に減速する俺。
しかし、逃げの体制は崩さない。
「ヒナ! 茉子!! 映画!!!」
カタコトではあったが、それだけでヒナは全てを察する。
「……。迷惑にならないように逃げなさい」
「ヒナは逃げないのか!?」
「生徒会の仕事って言えば、私は逃げられるし」
卑怯者!!
そう思ったが、今は逃げるのが先だ!
再び走り始めー
「廊下を走ったら危ないわよ?」
シナトスー!!!
再び、襟首をつかまれ失速。
そして、流石に茉子も追いついた。
「なんで? 逃げるのかなぁ??」
「ひぃぃぃ!!」
「あ、茉子」
しっかりと俺を捕まえながら、茉子は会話の相手をシナトスに変える。
「あ! ねえ、サキちゃんも今度の日曜に映画見に行かない?」
「映画!!」
シナトスの顔が一気に明るくなる、そう言えばシナトス映画館に行ってみたいと言ってたな……。
「行く行く!!」
「ヒナちゃんは?」
「ごめん、私日曜は仕事があるの」
「そう……。じゃあ、今度の日曜日私とサキちゃんと光くんの3人で映画ね!」
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
茉子と映画に行くのだけは絶対に嫌だ!!
「待って! 茉子、俺も日曜日は」
「ヒマなんでしょ?」
「そうなんだけど……。イースターイベントが!!」
「いつでもできるでしょ?」
なんとか逃げようとするが、結局俺は逃げれらなかった。
「ヒカル、なんであんなに嫌がるの?」
「……。いや、でもまあ死神なら平気なのかな?」
「?」
ー日曜日ー
死にそうな顔の俺と、キラキラした顔のシナトスと茉子。
俺たち3人は映画館に向かっていた。
「もうすぐだね!」
「……」
ああ、ここまで来てしまった。
なんでこういう日に限って部活オフなんだよ……。
「じゃあ、私買ってくるから!!」
茉子が笑顔でチケットを買いに行く。
今のうちに逃げようか。
いや、そしたら今度は後が怖い。
「どしたのよ、ヒカル?」
「今に分かるよ」
「お待たせ!!」
そう言って茉子が取り出したチケットにはー
『ファントム ~Death's right there~』
予想通りホラー映画のタイトルが書かれていた。
しかも、割と本気で閲覧注意のやつの。
「茉子……これって?」
「私ね、この映画が見たかったの!!」
「そ、そう……」
シナトスの表情が明らかに曇っている。
死神でもホラー映画は怖いのか。
そう、前にも話したが茉子はホラー映画が大好きだ。
小さい頃、4歳ぐらいからもう既にそうだった。
しかも、観るのはあの婆ちゃんが「観たくない」って言うレベルの、グロくてエグイやつばかり。
そんなS級のホラー映画を巻き添えで見せられてきた俺と、ヒナはすっかりトラウマになってしまった。
茉子もそれは分かったのか基本的に観る時は一人で観ている。
しかし、最近部活をサボる俺のお仕置きとして俺を強制参加させるようになった。
じゃあ、部活行けよって話なのだが……。
俺がこの世で一番怖いのは、死神でも悪魔でもなく『笑顔でホラー映画を鑑賞する茉子』だったりする。
さて、もちろん逃げられるはずもなく映画はスタート。
ストップ映画泥棒のやつを永遠にやっていて欲しかった。
冒頭は、冒頭だけは和やかなのだがそれもすぐに終わる。
さて、茉子が選ぶ映画の何が怖いのか。
なるべく映画から意識を離すためにご紹介しよう。
まず、リアルすぎる。
マジで人殺してんじゃねぇの?って言いたくなるぐらいリアルなのだ。
吹き出す赤い血、変に明るい色の内臓、ぐちゅぐちゅいってる肉。
全部がリアル。
1ヶ月くらいは肉が食べられなくなるようなぐらいに。
「うぅ……」
死神的にも100点のようだ。
次に、タイミングが完璧すぎる。
どのタイミングでどのBGMを流し、どのタイミングでびっくりさせるか。
人が一番恐怖を感じるタイミングでぶっこんでくる。
「ひぃ!」
訂正、死神も恐怖するタイミングだ。
そして最後に、目が離せない。
別にいくら怖くても、観なければいい話なのだが。
なぜか目が離せない。
おそらく本能的に『目を離すのは危険だ』と思わせる演出をしているのだろう。
残念ながら人間は本能には逆らえない。
「あああ!!!」
死神も逆らえない。
もちろん、そんな映画を前にして俺の意識が持つはずがないのだが今日は別だ。
さっきからシナトスが俺の腕にしがみついている。
その至福感でなんとか意識を保っている状態だ。
そうでもなければ、俺はとっくのとうに気絶し悪夢に苛まれている。
しかし、それもまた地獄だ。
なぜならこの映画は長編。
全部で2時間はあるのだ……。
あれから2時間。
体感的にはもう1年ぐらい経った気がする。
フラフラになった俺とシナトスが外に出る。
「……」
「……」
互いに何も喋れない。
シナトス、死神なのにグロいの苦手なんだな……。
「面白かった~!!」
茉子だけは超楽しそうだ。
俺としてはちょっと吐き気までするのだが。
しかし、茉子の恐怖はこれでは終わらない。
「じゃあ、次行こうか!!」
「え?」
シナトスが驚愕のあまり声を漏らす。
そう、これは映画ツアー。
もちろん夕方、日が沈むまでホラー映画を見続けるのだ。
今日の夜はサラダにしよう……。
次回 30話「命の理」




