職質するのも時期を選んでくれ……
「ふっふーん」
「やれやれ」
今、GW。真っ最中である。
広嶋健吾と沖ミムラのなんちゃってカップル未満も、その例に漏れず、休日だからこそ
「買い物だよね!買い物!2人で買い物!」
「だからって、ホームセンターかよ。買い物買い物、うるせぇー」
「家具とか新しいのにするの!ほら行くよー!」
買い物も特別なモノにしようとする。
この時期に近づくと、大掃除も含めて、何か新しいモノを買いたいというのは自然の流れである。それは周りも似たようなこと。
「旅行するよか良いけどな」
「何か言った?」
「別に……」
広嶋としては何が悲しくて、渋滞に巻き込まれたり、混雑に巻き込まれたりするのか分からない旅行よりかは、ちょっと遠出してでもホームセンターとかショッピングモール辺りで良かったようだ。
一方でミムラは、自分達の進展よりも先に行っている子供連れの家族を羨ましく見てしまった。いつか、そんな関係に彼といきたいものだ。車で一緒にお買い物。自転車でお買い物。子供と一緒にだ。
「あーっ、あーっ、マッマ、パッパぁ」
「!」
いつだって駐車場、駐輪場には子供にも至らない幼児が居たりする。
車の中とか自転車の子供用の椅子とかに。
両親は一緒にお買い物だろう、子供は外に置いていく。
「むぅー」
「……関わるな。ミムラ。他の家族のことだろ」
「だけどさー」
ちょっとだけの買い物だったりする。あるいはトイレだったりする。
子供よりもさらなり下の幼児に、選ぶ権利はない。せっかく楽しみな買い物がいきなり、くら~くなる様な光景を見てしまった。どうかすぐに戻ってくるようにとミムラが願うと。
すれ違うようにドタバタした若夫婦が店を出て行く。
「あーー、財布忘れた!」
「もー!ここまで来ておいて、肝心なもの忘れないで!」
「ごめんごめん」
「先弥、ごめんねぇー!今日は買い物、パパ1人にやらせるから!パパのオカネでやるの!好きな物食べてもいいからね!」
「あーっ!マッママッマ!」
ちょっとムッとした子にも、幸せが起きたかのような締め方。
「なんかしたか、ミムラ」
「べっつにー!なんか財布拾っちゃったけど、広嶋くんにあげるよ」
「あとで本人に俺が投げ返してやるよ」
ともあれ、なんとか悲しいというか、分からんでもないというか。気まずい光景が無くなって良かったミムラは、徐々に明るい顔を取り戻し始めた。
広嶋としてはちょっとは自重して買い物して欲しいもんだと思いながら、無言で付き合う。荷物係も楽じゃないのだ。
どデカイ買い物を終わらせ、帰り道で広嶋から切り出した。
「お前としては幼児と買い物したかったのか?」
「え?」
「ちげぇーよ。なに勘違いしてんだ。結構前の話しだが、自転車に子供を置いてけぼりにして、可哀想とか思ったのか?」
「ああ。そりゃそーですよ!だって、今。結構暑いし、日の当たるところに幼児を置いていく親なんて酷いと思いました!泣いているし」
「子供は泣くのが仕事だろ」
ぷんぷんと、自分だったら絶対にしないとミムラは怒りっぽく言うも、分からんでもないと、広嶋は割とアッサリに思ってあげられること。
「食品売り場と違って、無邪気に暴れられたら周りに迷惑だからな。買えばいいもんじゃないし。両親の気持ちは分からんでもないよ」
「それなら家に置いてくればいいじゃんって!お爺ちゃんとかお婆ちゃんとか!いるでしょ!」
「いない家族もあるだろ」
「あっ……むーっ、広嶋くん。厳しいね!」
人の考えはそれぞれである。
放っておくというのは確かに危険なことだ。ましてや駐輪場、駐車場。
「とはいえ、あんなとこに置き去りにしたら、ウッカリ跳ね飛ばすかもな。それが良くないとは、俺は思ったかな」
「そーいうこと言わない!あたしはぜーーったい、そーいうことしません!」
そーいう彼女に彼氏はまだできず、赤ちゃんも当然いない。
子供を持てば、そーいう気持ちが分からんでもない。
いや、法律とか親の配慮が欠けているとかあるわけだが。遠い世間と近い世間は結構違う。
「えーーん、えーーーん」
「あー、よしよし!オムツ変えるねー」
もう少しでバスが来るというのに粗相をしちゃう。空気の読めない赤子はいるものだ。
「おい!親ならちゃんと子の躾をしろ!」
「す、すみません……」
「ったく!ぎゃーぎゃー騒ぎやがって!」
しょうがなく、次のバスを選ぶ。なんという悪循環。そーいう理解は赤子にはまだ早いものだ。
どーして怒られるのかも分からない。
パッ
「!あれ……」
バスに乗り込んだおじさんは急に、赤子の声だけでなく、色んな声、音が聴こえなくなった。
なんでだろうか。新たな世界に行ってしまったのだろうか。
周りは誰も気付いておらず、おじさんがこの異変に気付くのはもうちょっと先のこと。
ゴミ捨て場を通り縋った広嶋は何食わぬ顔で、先ほどとった物をミムラに気付かれないよう捨てる。
「赤子の世話は大変だな。バスや電車に乗れないとかあるし。あーいうおっさんやおばさんがいるからな」
「そうだねー。でも、私としてはさっきのおじさんの言い方。ないんじゃないかなって」
「あれだろ?家族連れ見て嫉妬してんだろ。弱い相手だから攻撃すんだよ」
「うわぁ、かっこ悪いね」
……俺も人の事、言えないけどな。
「配慮が欠けていく社会になっているよな。あーいうのがいるから思いやるなんて、早々できることじゃねぇーな。それでも個人個人、やっていかなきゃならないぞ」
「配慮や思いやりか……よーし!それじゃあ、広嶋くんに配慮して!あたしが夕飯を作るよ!お片づけとかもするよ!」
「すまんが出前にしてくれ。俺を殺す気か?」