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2 悩める日々(1)

遅くなりましたが、読んでもらえると嬉しいです!







 あんなに嬉しかった異世界転生を少し後悔したあの日から早数年。


 この数年間で私は確信したことがある。



 私の生まれた家庭、大分面倒臭い!!!



 そう、私の今世での家族は一見普通の何処にでもある家庭だ。現代日本の昼ドラで見た、泥沼な家庭の事情より全然良い方だと私も思っていた。思っていたのだけど!


 それでもちょっっと普通の家庭とは言い切れない事がこの家庭にはあるのだ。


 まず一つ、母親と父親の仲が不仲。


 不仲なのは大して珍しくもない、よくある事だと思う。私の前世の両親も喧嘩する度に絶えず離婚話が出ていたし。


 だけど!あの二人は食事も一緒に取らなければ、話をしている所も見た事がない。それは流石に行き過ぎだと思うのだ。食事を取る時も私とルティアーヌ、時々お母様が入る三人のみ。寂し過ぎる。

 というか、お父様に限っては私も滅多に会わないし、寧ろ姿を見かけたらいつの間に家に居たんですか状態だ。


 え?お父様に挨拶?あぁ、初めて廊下で会った日に挨拶無視されてからしていませんが何か?


 まぁ私の腹の虫が収まらない話は置いといて。

 ここで注目すべき事は、お母様は多分それでもお父様を愛しているのだということ。


 例えば一緒に寝る時、時々お話の後にお父様の話をしてくれる。

 例えば廊下でお父様の背中を見かけた時、お母様はその背中が見えなくなるまで目を離さない。

 例えば夕食の時、私たち子供との食事の時間をずらしてまで、お父様の帰りを待っている。

 あまりのお母様の健気さに、傍で見ている私は泣きそうになった。


 あ、思い出したら腹の虫がまた収まらなくなってきた。

 因みにこの時点で既に私の中のお父様の評価は最低ラインを通り越してマイナスである。


 第二に、ルティアーヌがお母様の不義により生まれた子供ではないかと言われていること。


 これには流石の私も驚いた。情報収集の為、やっと歩ける様になった時、使用人の話を聞いてしまったのだ。


 私は正直使用人の頭を疑った。

 どうしたらそんな噂が流れるのか、聞けるものなら聞いてみたいものである。確かにルティアーヌは母親似で、お父様に似た所は正直ないように見える。お母様の遺伝子強すぎワロタ。だが、ルティアーヌは確実にお父様の子である。


 何故ならルティアーヌは性格が悪い!そして派手な物を好む!


 ルティアーヌやお父様は赤や黄色などの原色を好むのに対し、お母様は淡く、混ぜ合わせた様なワインレッド、エメラルドグリーンなどの色が好きだ。

 性格だって、お母様は見た目とは裏腹に、優しいし誠実だし使用人にも好かれてるし余り目立ちたがらない。それに比べてお父様とルティアーヌは、すぐ人を小馬鹿にするし、目立ちたがり屋だし、お父様はお母様に、ルティアーヌは私に不誠実だ。


 ほら、そっくりではないか。


 別に無視されて根に持ってるとか、虐められてて主観的に見てるとかそういうのじゃないよ?ちゃんと執事長に聞いたり、侍女長でもあるフリーダに聞いたりしてるんだから!


 第三に、ルティアーヌの性格。

 正直これが私がこの家を面倒臭いと言う一番の理由である。


 彼女、我が家で初めて生まれた子供であるからか、非常に甘やかされて育ったのだ。この時点で察して欲しい。いやぁ、確かにね?跡継ぎじゃないなら殺してしまえ的な過激な家じゃなくてよかったよ?…いや、今はそこじゃないんだけど。


 兎に角、彼女は性格がひん曲がっている。


 理由その一、私と廊下ですれ違う度に足を引っかけてくる。

 …子供か!いや、子供だったわごめん。でも毎回避けれずに顔面から床に突っ込む私の身にもなって欲しい。足が上手く動かせないんですぅ!絶賛成長期ですからぁ!


 理由その二、物を貸してくれない。

 妹だから貸してもらえると思い込んでいた私が馬鹿だった。ルティアーヌは私が貸してという前に無視する。それなのに私が物を貸さないと癇癪を起こすのだ。理不尽すぎる。


 理由その三、執拗な嫌がらせをしてくる。

 ここまでで充分執拗な嫌がらせなのだが、ルティアーヌはそれを超えてきた。


 先に言っておこう。私がこの世で一番嫌いなもの、それは虫だ。

 バッタのような虫は特に無理、嫌い、思い出すだけで鳥肌が止まらないし寧ろこの世界に存在している意味がわからない。そんな私がいきなり奴を投げ付けられて平気で居られるだろうか。否、居られるはずがなかった。私は余りの気持ち悪さに大泣きし、侍女達を困らせたのだった。

 因みにルティアーヌは笑ってた。お前この野郎…!


 まだある。理由その四、暴力。

 これは子供にはよくある事だと思う。感情のコントロールが効かず、ありのままの気持ちに流され、怒りや悲しみで思わず手が出てしまう。大人と幼児期では力の差が歴然だが、今は私も子供なので、実際同じぐらいの子供に加減無しの拳を振るわれるのには骨が折れる。正直、めっちゃ痛いしオマケにめっちゃ辛い。

 ああいう暴力は一発じゃ収まらないのが辛いところで、侍女が止めに入るまで私はやられっぱなしだ。ルティアーヌはその間泣きっぱなしだけど勿論私も号泣している。


 と、言うふうに、ルティアーヌと接するのはなんと言うか、労力を非常に使う。ここ数年で私は我儘な孫に付き合うお婆ちゃんの様な心境になっていた。

 あれ、これまずいよね?だって私まだ五歳に満たないピッチピチの幼女だよ?つまりロリだよ?中身お婆ちゃんなロリなんて私なりたくないんだけど!


 まぁ私の心境は置いといて。確かにルティアーヌをチヤホヤしたい気持ちもわかるのだ。


 はぁ、と溜め息をついた私は廊下の窓から広い中庭を見下ろす。


「見て、ルーナ!満月華よ!」

「えぇ、とても可愛らしゅうございます」


 そこには楽しそうにはしゃぐルティアーヌとそれに笑顔で付き添う専属侍女のルーナが仲睦まじそうにしている。


 ルーナの返答を聞いて「ふふふっ」と嬉しそうに笑うルティアーヌは年相応の子供で、中身さえ知らなければ天使が降りてきたのかと思えるような可愛らしさだった。


 柔らかな日差しを浴びて輝く、月光を表すような癖のない銀髪。薄く整った眉毛の下には、長い睫毛に縁取られた吊り目がちな蒼空を連想させる瞳。透き通った肌に浮かぶぷっくらとした赤い果実のような唇。そしてその顔は幼く、童顔で、だからこそ溢れる中性的な美しさが尚際立つ。

 ルティアーヌはそんな美しさを持った予想以上の美少女だったのだ。


 正直、私は初めて真正面からルティアーヌと向き合った時、自分の目を疑った。これが私の姉なのかと。そしてその次に見惚れた。余りにも長い間、ジッと顔を見続けていたから、ルティアーヌには気味が悪かったのだろう。


「なにこれ、きもちわるい」


 と言い残してさっさと部屋を出ていったのだ。


 その言葉を聞いた使用人達は、惚ける私が心を痛めたと見えたらしく、様々な言葉で慰めてくれていた。ただ私はその時彼等の言葉に耳を傾けるどころではなかったため、記憶にない。申し訳ない。


 ルティアーヌのその言葉は、私に何も傷を残さなかった。痛くも痒くもなかったのだ。惚けていたのは、ただただ胸に残る高揚感に身を任せていただけだった。

 私は舞い上がっていたのだ。彼女の妹に慣れたことを心の底から喜んだ。


 だってそうだろう。

 彼女の顔は私にとってまさに理想そのもので、簡単に言えば超ド好みどストライクな少女だったのだ!これは一目惚れと言っても過言ではないのでは?


 まぁ冗談はさておき。

 そんな可愛い子供がねだれば、何でもあげたくなっちゃう気持ちも分からなくない。いや、寧ろ凄く分かる。


 だからこそ私の中で彼女は、嫌いではなく面倒臭いで終わっているのだから。

 まぁ、あの顔を見る度につい「顔がいい…!」ってなり、許してしまう私も私なんだけれど。


「でも…あれじゃあ私の身がもたないよ…」


 疲れたようにボソッと呟いた声に返事はない。私の侍女は私が頼んだものを取りに行っている為、廊下には私の他に誰もいないからだ。


 そうなのだ。廊下ですれ違う度、食事をとる度、挨拶をする度に突っかかられては溜まったものじゃない。


 私の中身は大人なのだから、軽く流したいところではある。だが、ここでもまた問題が生じてしまう。


 どうやら私は自分の感情がコントロール出来ないらしい。


 ルティアーヌと衝突する度、お母様に怒られる度、お父様に冷たく当たられる度に身体の年齢に沿うように、感情が激しく揺れるのだ。

 頭の中ではハイハイ、と思っていても次の瞬間には怒りが爆発し子供のようにボロボロと涙を流す事などしょっちゅうだ。


 これには私も手の施しようがない為、非常に困っている。


 何なの!?異世界転生と言えば、前世を思い出した主人公が、見た目は子供、頭脳は大人な粗アニメのように私TUEEEEな人生送るんじゃないの!?

 TUEEEEどころかルティアーヌにやられてばかりのYOEEEEな私は一体どうしろと!


 中身が身体の感情に引きずられるとかそんなの聞いたことない。改善とかそんな域じゃないと思われるのですが。


 窓の前で頭を抱えていた私は、肩をすぼめると顔を上に向けた。私の内心とは裏腹に、空は快晴で陽の光がとても眩しい。


「それでも、私の為にまずはルティアーヌをとめなきゃ…」


 私はため息と共にそう呟くと、相変わらず中庭で遊んでいるルティアーヌに目を向けた。


 天使のような笑顔を見せるルティアーヌを見ながら私は、目の保養だなぁ、なんて現実逃避をするのだった。






 *



読んで下さりありがとうございます!


後に本編でも説明を加えようと思いますが、満月華とは鈴蘭のような花だとでも思ってください。

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