波流人、初めて瞑想する
マジョリカの話しはこうだった。
物心ついた頃から幽霊が見えていて大変怖い思いをしていた。両親に話しても、見えない両親はまともに取り合わず、ただ面倒くさそうに聞いていただけだった。
成長していっても至る所で幽霊を目撃した。ある時は学校の帰り道で、ずーっと家まで付いてこられたりもした。でもどうしていいか分からず、その内にそんな状態にも慣れていった。
マジョリカが大学に進学し、大学の友達からの誘いで、当時流行っていたチャネリング講座に行くことになった。そこでテクニックを身に付け、周りの人にチャネリングで得たメッセージを伝えたりしていた。そういう事を続けていたある日、夜に就寝していたら、ある光の存在がやってきて、マジョリカをずって見ていたと言う。そして、あなたにヤル気がるなら、私達に協力して、人々に光を届ける手伝いをしないかと誘われた。マジョリカは、暖かい波動を感じたので、すぐに協力すると返事をして、その日から光の存在達とのワークが始まる。そしてマジョリカの準備が整ったと思った光の存在達は、マジョリカにあるヒーリングを授けた。これを世界の人々に広めるように言われ、今に至っている、という事らしい。
そんなこともあるんだー、て人事の俺は、それでも、チョッピリ期待を胸に、心を躍らせていた。
「さあ、私の話しはこれくらいにして、皆さん、楽しくワークをしましょう。まずは、質問します。瞑想をするのが初めての人はいますか。手を上げて下さい」
俺も含めて手を上げたのは5人だった。多いのか少ないのか分からないが、ここは焦っても仕方ない。正直になっていこう。初めてなんだから失敗しても大丈夫、と自分に言い聞かせた。
「わかりました。では、まず最初に皆さんにやって頂きたい事があります。眼を閉じてイメージして下さい。黄金色の光で出来た虫かごをイメージします。縦、横に格子になった状態です。これは皆さんの両手の間にあります。イメージ出来ましたか?
では次に、この虫かごをこの部屋一杯に拡大させます。ドンドン大きくなりますよー。端から端まで、黄金色の虫かごが張り巡らされています。イメージして下さい。
さあ、この虫かごは、あなたやを守る光の壁です。ネガティブな物は入って来れません。絶対的な安心な壁になってます。その中にいるあなたは絶対的な壁に守られて安心です。どうです?出来ましたか?では一度解除しましょう。眼を開けて下さい」
集中していたからか、一息入れた。
これは結構簡単だったな。これなら付いていけそうだ。
「では、次の段階に移ります。次は呼吸法を勉強します。普通に呼吸をしても良いのですが、もっと良い呼吸法がいくつかあります。まずは、簡単なものから始めましょう。
1.2.3で息を吸い、4.5で頭の天辺に意識を持ったまま呼吸を止め、6.7.8.9.10で息を吐きます。
ではやってみましょう。これをゆっくりとやります。何度も行えば慣れますからね」
1.2.3…
思ったよりカウントはゆっくりだ。息をゆっくり吸い肺を一杯に膨らませ、意識を頭頂に持ってくる。
4.5…
息を止めたが、なんて事ない。
6.7.8.9.10…
ゆっくり息を吐いたつもりだったが、カウントはまだ8だ。もう吐く息がない。最後は無理矢理な感じがあったので、続かなかったのが悔しい。余分な力が入っていたのが今なら理解できる。もっと落ち着いて、心を静めなければ!
次のカウントが始まる。
次はさっきと違い、心をゆったり持って、力一杯吸ったりせず、あくまでもカウントの分だけ事前に吸った。息を止め、さっきよりもゆっくりと吐き出す。これも自然な感じで吐き出せた。
今回の成功で、コツを掴めたようだ。
何度もカウントされ、何度も吸って、留めて、吐く、を繰り返す。
息を吐き切った時、眼を開けるように言われた。
「皆さん、大変素晴らしかったです。気付いていましたか?最後の方は、最初に比べると、カウントのスピードは倍ぐらい遅くなってました。それだけ皆さんは呼吸法をマスターしたのです」
確かに、そう言われると随分ゆっくりだったと思う。そうか。俺はちゃんと出来ていたんだな。
「さて、今度はこの呼吸法を使って、あなたのネガティブなものを吐き出す事にしましょう。皆さんには、それぞれが沢山のネガティブな思いを持っています。人間だから仕方ないですよね。でもこのネガティブな気持ちはいつまでも持っていても良くありません。だからこれを手放します。さて、じゃ、ネガティブな気持ちって何でしょうか?そこのあなた、何だと思いますか?」
一番前に座っていた女性が答えた。
「嫉妬ではないでしょうか」
「それもそうです。では他には?そこのあなた、どうかしら」
右手に座る男性が答えた。
「怨みとか妬みとか、あとは…怒りもでしゅうか」
「そうです!ネガティブな感情は、沢山あります。人の人生には沢山の出来事があり、その時に抱いた感情があります。それが強いと魂に刻み込まれ、いつまでもいつまでも頭で再生されます。そして再生した分だけネガティブな感情にエネルギーを与え、あなたから光の穏やかな波動を下げさせてしまうのです。こんな感情いりませんよね?嫌な気分を何度も思い出したくないですよね?じゃぁ、どうすればいいのか。捨てればいいのです。あなたがもう要らないと思って捨てれば、捨てられるのです。記憶に残らないのが一番ですが、問題の大きさにより、どうしても残るものもあります。でも捨てれば記憶に残っても、『確かそんな事もあったな』と、嫌な気持ちにはなりません。
さぁ、自分のネガティブな気持ちを捨てましょう。少し長めに時間を取りますから、自分に問いかける事が出来るでしょう。さあ、次のステップはさっき練習した虫かごと呼吸法を使ってネガティブな感情を吐き出しますよ。始めますから、眼を閉じましょう」
先ずは会場一杯に虫かごエネルギーを張り巡らせた。そして呼吸法。ゆっくり吐いて、留めて、吐き出す。呼吸を何回か行ったら、マジョリカの声が聞こえた。
「あなたの中にあるネガティブな気持ちが、上へ上へと浮上します。ドンドン出てきます。その感情を全部吐き出しましょう。吐く息と一緒にネガティブな気持ちが出て行きます。それと同時に、あなたの気持ちは軽くなります。さあ、次の気持ちを吐き出しましょう。その度にあなたは心が軽くなります。まだまだ出てきますよ。それだけ重い波動を持ち続けていたのです。もういりませんね。どんどん手放しましょう」
ついこの間、同級生にクラスのみんなの前でオタクと笑われた。言い返せなかったから凄く腹が立った。
中学の時、塾の先生から、志望校を変えるように言われた時、その理由が、その先生が贔屓している女子生徒が俺と同じ志望校で、成績が同じくらいだから、俺がランクを下げれば、その女子生徒の合格率が上がるというものだ。怒りを覚えた。
小学生の時に、サッカーで活躍したら、同じクラスの女子に、どんなにサッカーで活躍しても
A君には敵わない、身の程を知れと言われた。その時、お前は何様だと思ったし、遣る瀬無い気持ちになった。
幼稚園だったかな?両親に遊んで貰い凄く楽しかったが、仕事の時間だと言われ、そこで中断された。もっと遊んで欲しかったのに、断られて寂しくてギャン泣きした。
ドンドン浮かび上がってくる感情を、もう手放したいと思い、息を吐き出す。吐き出す毎に軽くなる心。でもよく分からない。自分の中にあった感情にただ驚き、自然に手放す。これを繰り返し、気付けば結構な時間が経っていた。、
「さあ、皆さん、沢山のネガティブな感情を吐き出しましたね?では、最後の仕上げに致しましょう。これからさっき張り巡らした虫かごには、吐き出したネガティブな感情が沢山入っています。これをこのままには出来ませんから、捨ててしまいます。ですが、街のゴミ捨てのルールと同じで、捨て方があります。まずは、皆さんが作った虫かごを両手で持てる大きさまで小さくします。勿論、解除しないように気を付けて下さい。小さくなりましたか?じぁ、ここからは新しいステップです。天使のミカエルを呼んで、自分の虫かごを渡し、捨ててもらって下さい。ミカエルは大天使で力をしている象徴しています。また、浄化の力もあります。さあ、イメージしましょう。ミカエルが飛んであなたの前にやってきます。そうしたら、あなたの虫かごを渡しましょう。受け取ったミカエルは、虫かごを持って捨てに行きます。後はミカエルに任せておけば大丈夫です。さあ、やってみましょう」
ミカエルって、やっぱり金髪なのか?男の天使だっけ?天使って事は羽と天使の輪があるんだな。おっと、思い出した。確か何かのラノベで表紙にイラストが書いてあったな。古代ローマの軍人みたいな格好に、真っ直ぐの剣を掲げていたっけ。思い出したわ。あれねー。ならイメージはバッチリよ。
ラノベの表紙のミカエルが俺の前に飛んできた。兜はかぶってなかった。金髪がキラキラ輝いて、凄い美貌と、惚れ惚れする均整の取れた筋肉。間違いない美丈夫が俺の前に浮かんでいた。ジッと俺の眼を見つめ、俺は黄金色に輝く虫かごを渡す。
受け取ったミカエルに対して、
「初めまして。俺は波流人。これ宜しくな」
俺の言葉に対してミカエルはコクリと頷き、素晴らしく爽やかな笑顔で飛び立った。
白い大きな羽がバサリと音を立てていた。
ミカエルは空を超え、宇宙へと向かい、そして見えなくなった。
何とも言えない余韻が漂い、俺は暫くミカエルが飛んで行った方を見つめていた。
そして俺はワークが終わったので自然と眼を開けた。