第三幕 問い詰められる
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トオルは、何とか記憶喪失作戦で、乗り切ろうとするも…
トオルは、広間のテーブルにてアルドにフェーリルと妻サラーナの三人に囲まれて話をしていた。
トオルが首を傾げ
「マキナ・スティグマとか…マキナ・マイスターとか…何ですか?」
トオルの問いに三人は訝しい顔をして、アルドが
「マキナを知らんのか? さっきワシがお主をドラゴンから救ったあの機神の事じゃぞ」
フェーリルが首を傾げて
「常識だぞ…」
トオルは「ええ…」と困った声を出す。
サラーナが
「マキナは、この世界の大地を作った創造機神デウスエクスマキナが、ドラゴンから人々を守る為に、授けた機神の事よ」
「へぇ…」とトオルは興味津々な顔をする。
アルドが
「各地に伝わる伝説の語りは違えど、こう口伝として。
太古の時代、まだ、世界が雲と氷と海だけの世界だった。
そこへ、三柱の神が降臨した。」
サラーナが
「三つの神の内、二柱が女神で、生命を創造するニア・アウサ(生命創生愛の女神)
魔法や太陽の女神。ニア・ドラクエルリオン(天照大神超龍神麒の女神)」
フェーリルが
「そして、男神が一人。大地、金属や技術の神、デウスエクスマキナ(創造機神)だ」
アルドが
「二人の女神と、一人の男神は、海と氷と雲だけの世界に、今の生命溢れる世界を創造した。デウスエクスマキナは、七つの分身…デウスマギウス(創生神機)を作り、それが大地になった」
サラーナが
「その七つのデウスマギウスの大陸に、二人の女神は、生命達を植えていった。それが私達であって、こんにちの命が溢れる世界になったの」
フェーリルが
「だが、問題が発生した。デウスマギウスの大陸の奥深くから、マグマが噴出、火山が誕生し、そこからドラゴン達が這い出てきた」
アルドが
「デウスマギウスの大陸が、二人の女神が生み出した生命達に影響され、自身の血肉から似せた者達を作り始めた。それがドラゴンだ」
サラーナが
「ドラゴンは強大で、デウスマギウスの大陸にいる生命達を脅かし始めた。それに、二人の女神達は、デウスエクスマキナに、ドラゴンを何とかするように頼んだ。それを聞いたデウスエクスマキナは、人の中に、自分の力を分け与えた男達を作ったわ」
アルドが
「ネオデウス(神機)と呼ばれる強大な力を持った機神を授けられた男達によって、ドラゴン達を退治させた。そして、倒されたドラゴンは、人々に恩恵をもたらした」
フェーリルが
「そのネオデウスを持つ男達の子孫、男系が代々、ネオデウスを受け継ぎ、その分家からネオデウスより下位のマキナ(機神)が発生し、マキナが世界に広まったのさ」
「ほう…」とトオルは好奇心の驚きを見えた。
フェーリルがトオルを覗き
「本当に知らないのか? 大体、どこの七つあるデウスマギウスの大陸にもある伝説だぞ」
トオルは顔を引き攣らせて
「すいません。記憶喪失なので…思い出せないかも…」
トオルの反応に三人は訝しい顔を見合わせる。
それに、やべ…とトオルは、焦っていると…。
「ただいまーーー」
と、別のエルフの女性が帰ってきた。
「ああ…お帰り」とフェーリルが
「おかえりなさい。ミリ-ア」とサラーナが
そして、そのエルフの女性の後ろから五人の、女の子4人と、男の子1人の子供達が来た。
『だだいまーーー パパ! サラーナママーーー』
と、お帰りの声を出す。
フェーリルが微笑み
「おかえり、みんな…」
トオルは、ジーと五人の子供達を見て
「え? パパって…フェーリルさんの子ですか?」
フェーリルは首を傾げ
「ああ…そうだよ」
トオルは瞬きして
「え? だってサラーナさんは…奥さんですよね…?」
サラーナが首を傾げ
「私と、ミリ-アは、フェーリルの妻よ」
トオルは困惑した顔で
「え? 奥さんが二人? ええ? ええ…」
フェーリルは何を言っているんだという顔で
「普通の事だろう…」
トオルは、アルドを見ると
「ワシは、5人いるぞ」
と、驚きの答えが返ってきた。
トオルは戸惑いながら
「その…フェーリルさんって、高貴な生まれとか…」
フェーリルが眉間を寄せて
「いたって、普通のエルフの男だぞ」
ミリ-アが、フェーリルの隣に来て
「アナタ…この人、誰?」
フェーリルが
「それを今、みんなで相談している」
「は?」とミリ-アは頭を傾げる。
トオルが立ち上がって
「いや、待ってくださいよ。大体、夫一人に妻一人ですよね…」
アルドが
「確かに、そういう男もいるが、そんなのは極僅かだぞ」
「いやいやいやーーー そんな、一人の男が、幾つも妻を娶ったら、男が余りますよ!」
サラーナが
「何を言っているの? 女性の方が多いのよ。見なさい。私とミリ-アの二人で産んで、やっと四人目で、男の子一人が出来たのよ」
トオルは驚きつつ
「いや、だって、この里に来た時、いっぱい、そちらの男性が沢山いましたよ」
フェーリルが「ああ?」と眉間を寄せ
「あれ全部が、この集落の男の人数だ。その三倍くらい、女性が多いぞ」
アルドが
「ドラゴンを運んだり、解体したりするのは男性の仕事だ。だから、倒したドラゴンの事を聞く為に、男衆が集まったのだよ」
トオルが声を出し
「いやいや、オレは、兄弟三人、全員が男だし」
ミリ-アが
「そんなのおかしいわよ。男の子は生まれにくいんだから。私の兄弟だって8人いて、男の子は二人だけよ」
フェーリルがジーとトオルを見て
「おい、今、兄弟って言ったよなぁ…」
サラーナが鋭い顔で
「記憶喪失なのに…兄弟が、家族の事が分かるのっておかしくない?」
トオルは固まり、暫し考え
「今、子供達が来たので、ちょっと思い出しました」
トオル以外の四人が鋭い顔で疑っている。
アルドが
「ワシが若い二十歳の頃に…大きな戦争があってな。その戦争でとある者達を見た。
お主と同じ黒髪で、何機ものマキナの使い手、マキナ・マイスターがな。
この世界に黒髪の者なんぞいない。
では、なぜ…髪が黒いか…それは、その黒髪の男達は、神も恐れぬ外道の術式によってマキナを埋め込まれた者達だった。
その術式のせいで、髪が黒くなり、体を蝕まれ、戦争が終わった頃には…皆…死んでしまった。故に、その術式は以後、使用禁止となり封印された。
だが、この世界の何処かには…まだ、その禁忌を続けている輩がいると聞いた事がある」
それを聞いたフェーリル達夫婦が、お互いにアイコンタクトして、サラーナが
「ねぇ…もしかして…逃げて来たんじゃない?」
フェーリルが
「お前の服の両手足の裾が爆ぜたようになっていたのは…、両手足を縛る拘束具を破壊して逃げたから…」
ミリ-アが
「正直に話してくれれば。貴方の事、誰にも言わないから…」
サラーナが
「さっき兄弟って言っていたよね。もしかして…家族が人質に…」
アルドが
「もしくは、貧困故に、自ら家族を救う為に身売りして、実験体になり…逃げてきたオチとか…」
トオルは項垂れる。記憶喪失作戦失敗だ。
ゲロした。本当の事を言った。
それを聞く四人は、子供達に囲まれて聞き、フェーリルが額を押さえて
「子供でも、もっとマシなウソを言うぞ…」
サラーナが
「やっぱり、本当の事を言うと迷惑になるから…」
ミリ-アが
「じゃあ、実験体って事が」
トオルは首を横に振り
「違います。本当に、オレは、こことは違う異世界から来たんですーーー」
アルドが訝しい顔で顎を押さえ
「そんなの信じられんなぁ…」
トオルは青ざめて、どうする…?と悩んでいると…玄関がノックされ
「私よ。ソニアよ」
ミリ-アが
「おばあさまが来てしまったわ。今、行きまーす」
と、ミリ-アが玄関に来て、ドアを開けるとエルフの老婆がいた。
エルフの老婆、ソニアが入り
「ほら、新しい苺のジャム…」
と、お土産が入ったバケットを翳した。
「おばあさま、ごめんなさい。ちょっと、込み入った事が…」
ミリ-アの様子に、祖母ソニアが
「どうしたの?」
と、事情を聞いて、中に入った
広間に来たソニアが、トオルの前に来て
「こんにちは、ミリ-アとサラーナの祖母のソニアです。異世界から来たと…」
トオルは肯き
「そうです。異世界の地球という惑星の日本という国から来ました」
フェーリルが
「そんな法螺話、誰も信じないぞ。本当の事を話せ」
「いや、本当なんですって」とトオルは押す。
ソニアは考えた後、「ちょっと紙とペンを借りるわ」とメモの紙に何かを書いてトオルに見せた。
「これ、何て読みます」
トオルは「あ!」と目を点にする。
そのメモには漢字が書かれていた。
”東京都千代田区”
トオルは素直に
「東京都千代田区です」
ソニアは驚きを見せ
「そう…読めるんだ…」
サラーナが
「おばあさま…何が…?」
ソニアが確信した顔で
「この人の言っている事は、間違いないわ」
『ええええええ!』とフェーリルとサラーナにミリ-アの夫婦は驚き、アルドは目を見開き
「何を根拠に?」
ソニアが
「私の旦那が、そうだったからよ」
◇◆◇◆◇◆◇
トオルはソニアの話を聞いた。
百数十年前、エルフの寿命は二百年と長寿なので…人間の感覚で百数十年は、数十年前になる。
その時も、里の傍にあるウルフファング火山群が活発となり、ドラゴンが多かった年、森の奥から一人の男性が来た。
この里に助けられ、持っていたマキナを使って里や、この国に貢献し、やがてソニア達と夫婦になった。
夫である男性が、国の仕事で各地を回っている時に、何かの痕跡を探していた。
それは、自分と同じ異世界からの来訪者だ。
それは以外に多く残っていたらしく、その痕跡や、先人の同じ地球からの来訪者が残した知識、本や、魔導書を回収していた。
そんな話を聞いて…トオル以外の四人が
「そんな事が…」とサラーナが驚きを向ける。
ソニアは、自分の右腕にあるブレスレットを見て
「あの人は、人族だったから100年と寿命が短かったけど…。色んなモノを残してくれたわ。この人造マキナ。マキナ・アーサーもね…」
アルドが感慨深げな顔で
「まさか、この里にいた人族のマキナ・マイスター。百機使いの匠が、異世界人とは…」
ソニアが
「あの人の体には、多くのマキナを所有するマキナ・スティグマが沢山あったわ。貴方も異世界から来たのなら…」
トオルは、袖を捲って
「これの事ですか?」
右腕に十数個もあるマキナ・スティグマを見て、ソニアが
「そう…やっぱりね」
フェーリルが頭を傾げて
「信じられない…。本当にあり得るのか?」
アルドが考え込みながら
「確かに…数百年くらいの長い歴史の周期で、突如としてマキナ使いが増える時代がある。もしかして、コヤツのように異世界から来た大多数のマキナ・スティグマを持つ者が…。なら、ありえない話ではないか…」
トオルは皆を見ながら
「あの…自分は…どうすれば…」
ソニア、フェーリル、ミリ-ア、サラーナの四人が顔を合わせ肩を竦め、フェーリルが
「まあ、当分の間、この里に暮らすと良いだろう。ゆっくりと身の振り方を決めればいい」
ソニアが
「夫が残した資料が沢山あるわ。あと、もし…同じように来る者がいた場合、識字が出来るようにする為の本や魔導書もあるから、それで、この世界の字を勉強すると良いわ」
トオルは両手を合わせて「ありがとうございます」と感謝した。
アルドが
「やれやれ、厄介な男が来たものだ」
「すいません」とトオルは項垂れる。
アルドが
「お主はマキナの扱い方を知らんだろうから、ワシが教えてやる」
「ありがとうございます」
トオルはアルドに頭を下げた。
こうして、当面の生活の問題は、何とかなりそうだ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話もよろしくお願いします。
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