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君を分かりたい  作者: 創泉
3/3

春 3

家に帰ると母の久仁子が学校について色々聞いてきたがほとんどを生返事で返していた。

「またサッカーするの?」

ただこの一言には自分でも情けないと思えるくらいすぐに本気でキレてしまった。

「やるわけ、やるわけないだろ!もう昔みたいなプレーは出来ないんだよ。もう……」

そこで蓮の目から水滴が落ちたのを久仁子は見た。

バタンと音を立ててリビングを後にする我が子に久仁子は何も言えなかった。


 

「サッカーなんて……」

蓮はなぜか止まらない涙を吹きながらベッドに横になった。

一年前には壁一面に貼ってあった有名選手のポスターや飾ってあった多くの賞状、トロフィーは福岡の祖父母の家に置いてきた。

こっちではあまりあのことを思い出したくなかったからだ。

もう今では昔みたいなプレーは出来ない。

サッカーが出来ないわけじゃない、まして嫌いなわけではない。むしろ今でも好きでいたい。

あんなことさえ無ければ……。

「蓮」

ノックと共に聞こえてくる母の声。

俺はとっさに寝た振りをした。

扉が開く音がする。

「ごめんね、蓮。でも、お母さんね。また蓮のサッカーしてるとこ見たいの。自分勝手な願いだけど……。あの頃の蓮は本当に輝いてたんだよ。ご飯、作ってあるから食べるなら下りてきてね」

ふりは実の母親の前では無意味も同然のようだった。

久仁子の話ぶりは今にも泣きそうな、いやもしかしたら泣いていたかもしれない。

そう思うとまた蓮の目から水滴が流れた。


 

父親の仕事関係で引っ越したということもあって父親は毎日忙しいようで兄弟もいない蓮はたいていの日が久仁子と二人だった。

久仁子が風呂に向かったタイミングでそそくさと食事を済ませ、また自室に篭った。

今は顔を合わせたくない。

 


「行ってきます」

朝起きてからはいつもの久仁子に戻っていた。

朝ごはんにトーストを一枚とヨーグルトを食べて家を出る蓮を久仁子は気をつけてね、と見送った。

家から学校までは家が駅の目の前にあることもあって電車とバスで二〇分程で着く。

登校時間の八時半よりも余裕を持って登校し、本を読んだ。

外は朝練に励む野球部員の大声。

教室に一人でいた蓮にまたあの男がおはようと声をかけた。

「おはようございます、先生」

栗田は今日も笑顔で俺に挨拶をしてきた。

「顧問なんですよね。朝練はいいんですか?」

嫌な言い方だっただろうか。自分でもそう思ったが栗田は気にした様子もなくサッカー部には朝練が無いことを教えてくれた。

「それで、サッカー部。どうだ、入らないか?」

またサッカー。ここ二日でここまでサッカーを意識せざるを得ないとはなかなか悲しい現実だ。

もう鬱陶しい。

「俺、怪我したんですよ。去年の秋に。当時の先輩に試合に出てるからって足を三人で蹴ってきて。怪我は治ったけどもう昔みたいなプレーは出来ないんです、だから……」

真実だ。去年、インターハイ後も試合に出続けていた唯一の一年であった俺に二年の先輩が生意気だ、などと適当な事を言って怪我させられた。

「そんなことがあったのか。悪かったな、何も知らなくて。」

「いや……知らないのは仕方ないですよ……」

「でも敢えて聞くぞ。本当にやらなくていいのか?」

先生の口調が変わった。

ドキッとしながらもはい、と答え本に目を移した。

特に何を言うでもなく先生は黒板に何かを書き出した。

興味もなかったので本に集中することにした。


 

 

「おはよう!」

肩を叩かれ振り返るとそこにはあの不思議な子がいた。

おはようと答えてまた本に目を移す。

それでも彼女は俺を見ているようだった。

なに?と聞けば、話そうよと言ってきた。

「私、篠原菖蒲。一応このクラスの学級委員やってるんだ。部活は昨日知ったと思うけどバスケ部。自己紹介まだだったからさ。よろしくね」

終始同じテンションで喋り終えた菖蒲はまたにっこり微笑んだ。

「サッカー部に入るの?」

またサッカーの話だ。いい加減にしてもらいたい。とは言っても当の本人達に悪意は全くない。

「部活は入らないよ」

彼女はそっかと言ってさらにそれもいいよねと付け足した。

やがて戻ってきた栗田によってホームルームが始まった。 



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