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君を分かりたい  作者: 創泉
2/3

春 2

学校の中で式と付くものはたいていの生徒にとって最初か最後に待ち受ける定期テストと並び学期最大級の苦痛行事である。

転入してきたばかりの生徒にも分け隔てなくその苦痛を学校は味わせる。

里山高校に転入した鈴木蓮も最初の行事である始業式が誘う眠気と悪戦苦闘していた。

校長先生のありがたい長い長いお話が終わり、閉式の言葉へと流れていった。

やっとこの地獄から抜け出せると思うのも束の間、今度は何やら表彰をするらしい。

今、閉式と言わなかったかと思いつつも大人しく気を付けを姿勢を保った。

「サッカー部」

蓮の意識をステージに集中させる単語が突然飛び出した。

おめでとうの言葉と共に二人の生徒が賞状とトロフィーをそれぞれ貰っていた。

どうやら春休み中の市内大会で優勝したようだった。

市内と言ってもたしかこの市内には八つほどの学校しかなかったはずだからすごいことなのかそうでないのかは判断出来ないが、優勝はおめでたいことだ。

蓮自身にもステージの二人のような経験があった。

蓮の中学は普通の公立中学ではあったが九州でも毎回四強に名を連ね、三年生最後の大会では九州大会で優勝し、全国大会にも出場するサッカーの強豪校だった。

蓮もその学校で十番を背負いレギュラーでキャプテンとして活躍した。

そんなこともあり、福岡でも県内屈指のサッカー強豪校に入学したが、こっちでは学校選びにサッカーはこだわらなかった。いや、サッカーの事など微塵も考えすらしなかった。

回想に浸っていた蓮は唐突に前にいた少女によってそれを遮られた。

急に振り返った少女は自分から見ても整っていて、クラスでも人気があるんだろうなと思わせる見事な顔立ちだった。

あまりまじまじと見ていた訳では無いが、彼女は俺の顔を不思議そうに上目遣いで覗き込んだ。

少し温度が上がったような気がしたが気のせいだろう。

そのうち、彼女はにこっと微笑みまた前を向いた。

不思議な子だ。

それが俺が彼女に抱いた最初の感情だった。

やがて、長かった始業式も終わりクラスでは簡単なホームルームを済ませ下校となったがほとんどの生徒はそそくさと部活に向かった。

部活に入っていないであろう生徒もすぐに帰宅し、教室には自分と担任の教師だけになった。

そろそろ帰ろう、そもそもなぜ最後まで教室に残ったのか自分でさえわからない。

帰ろうと扉を開けようとした時、担任から声を掛けられた。

「鈴木、もう帰るのか。部活何に入るか決めたなら言ってくれれば入部届け渡すからな」

「あ、いえ。部活に入るつもりはありません」

端的に自分の意思を伝えたが、語尾は弱くなってしまった。

少し緊張する。

「ぅぇ?」

目の前の先生から「う」とも「え」とも聞き取れない不思議な音が発せられ、苦笑いを浮かべるほかなかった。

「てっきり、こっちでもサッカー部に入るものだと思ってな。ほら去年のインターハイに一年生ながら福岡代表の学校で試合に出ていたじゃないか」

覚えていたんですねと言い蓮は下を向いた。

「俺はこの学校のサッカー部の顧問兼監督でな、楽しみにしてたんだがな。なかなか強いんだぞ」

語尾を上げて俺を見る先生はどこか残念そうだった。

先生は無言の俺に向かい、気が向いたら見学でもしに来いと言って教室を後にした。

外では野球部の叫び声が大きく響いていた。


 

あの先生に影響された訳では無いが家に帰ってもすることは無いので、どんなレベルなのか気になったこともあり少しだけ練習を覗こうと思った蓮はグラウンドを歩いていた。

ぱっと見それらしき集団が見当たらない。

別に練習場所があるのかと思い、学校中歩いみたがやはり見つからなかった。

体育館前の水道で水分を補給し、自分が汗を流していることに今更ながら気付いた。

「あ、鈴木蓮くん!」

自分の名前を口にした方を振り返るとあの不思議な子が立っていた。

運動してますといった服装で首にタオルを巻いた彼女はどうやらバスケ部なのだろう。

会釈する俺に彼女は近づき、どうしたのと声を掛けてきた。

「サッカー部の練習が見たくて」

それだけ言うと、彼女は嬉しそうににっこりし、サッカー部は校外の芝の練習場でやっていることを丁寧に教えてくれた。

ただ、練習場へは皆自転車を利用するそうで歩くと三〇分以上かかると言うので残りの部活時間が一時間になっていたこともあり今日はもう帰ることにした。

帰り際、例の不思議な子にバイバイと手を振られ俺も手を振った。

本当に不思議な子だ。

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