それを聞けるのは、僕だけ
この回はアリレイちゃん視点でーす!
思ったより聖蘭さんの心の声を出すことができなかった……
――……けて……助けて……
……何か聞こえる……。
「……助けて?」
「有坂ー、また居眠りか?」
「はい、そうです……」
「素直でよろしい!!」
本当はよくないが。それにしたっていくら寝ても眠いものは眠い……
「それより将司先生、小豆ちゃんの"助けて"って声が聞こえたんですけど……」
「えっ……? でも横川はトイレだって言ってなかったか?」
「でも声が遠いんです……完全に校外ですよ?」
「えっ!! それはマズイな……」
集中して聞かなければ、それこそ聞こえないような小さな声だ。
でも、それを聞いてあげられるのは唯一、僕だけだ。
「そういや小豆、日本地図出して"2年A組どこですか"って言ってたな……」
「は……マジか」
「センセッ、オレアズキガシンパイッ……サガシニイキマショ?」
「ウチの生徒はみんな素直だな」
かわぜんは明らかに棒読みだ。能力を使うまでもなく別の意図があることは見て取れる。
僕も人のことは言えないがそんなに授業を受けたくないのか?
「仕方ない……皆で探しに行くか……今回だけだぞ。有坂案内頼んでいいか?」
「はぁーい……あっ、でも、ちょっと先に行っててください」
「えっ……? ……わかった」
そうだ。僕は「あの人」が何かを隠していることを知っている。それを問い詰めなければならない。
「よし、探しに行くぞ!」
クラスの皆が小豆ちゃんを探しに校外へと向かう。 ……僕と、"あと1人"を除いて。
――何で皆、あの子のことなんか……
――何で私よりも、小豆を……?
「聖蘭ちゃん……聖蘭ちゃん!」
「零月くんっ!?」
「えへへー、何か険しい顔してたからさー! 小豆ちゃん心配?」
「えっ……ええ……そうね……」
――まさか……零月くんは……
……嘘だ。
「あれ……でも小豆ちゃん今日初日だから待っててあげればよかったのに……」
――ちっ、しつこい……これじゃまるで私は零月くんに……!
「それは小豆が"先に行ってて"って言うんだもの、その後は私は何も知らな……」
――ありえないありえないありえないありえないありえない!!
「……ねえ?」
……そんな見え透いた嘘が、僕に通用すると思う?
「いつまで嘘ついてんの?」
「……!?」
僕はあまり怒りを露わにしないタイプだ。だけど僕は……怒っている。
「やれやれ……人の能力も把握してないの?」
いくら上辺だけの言葉で飾ってみても……心の中の本音は僕には全てお見通しだ。
「"私は何も知らない"……? 僕に嘘を突き通そうだなんて、いい度胸」
僕は聖蘭ちゃんに手の甲の目玉を見せ、自分の能力を示す。
「一番動かないとダメな人がそこにいてどうするの? 小豆ちゃんの身に何かあってからじゃ遅いんだよ?」
……効いてるのか? 聖蘭ちゃんが大きな音を立てて立ち上がる。
「そもそも聖蘭ちゃんが本当にしたかったのはそんな事じゃないでしょ?」
……効いてる! 聖蘭ちゃんは悲しそうにその場を立ち去る。
心の声すらぐうの音も出なかったのか、聖蘭ちゃんの心の声が聞こえることはなかった。
「まったく……素直じゃないんだから……」
元々「蚊の鳴くような声」というタイトルだったんですがどうしてもマイナスイメージを拭えなかったので変更しました。