第6話 目覚めし少女
昨日のアクセスが前日の二倍になっていてびっくりしました。
あまりに嬉しさに報告するレベルでした。
今後ともよろしくお願いします。
「この子あんたの知り合いよね?」
この子とはボロボロの制服を着た女の子のことだろう。知り合いかどうかと聞かれた知り合いだろう。
「一応は知り合いかな」
だが一度も話したことはないし名前も知らない。知っているのはクラスで常に独りでいるというところだろうか。この人は孤高さんその人であった。
「じゃあ連れて帰らないとね。あんたの知り合いなんだからあんたが連れて帰りなさいよ」
と言って、孤高さんを祐也に無理矢理背負わせた。サーシアは体が軽くなったって感じだ。
逆に祐也というと、自分の本能と格闘中だった。
む、胸があた、当たって……。
祐也は思春期の男でさらに童貞である。女子を背中に背負った経験なんてあるわけがない。孤高さんは美少女で胸が大きく柔らかな感触が背中に伝わっていた。さらに吐息が耳に当たっている。
平常心を保つために素数を数える。そうでもしないと耐えられなかった。
祐也は孤高さんを背負ったまま帰路につく。歩く速度が極端に落ちたのは想像に難しくないだろう。
テントにつくと一番に背中から孤高さんを下ろした。祐也は自分の本能に打ち勝ったのだった。
その後は狩りの獲物を解体した。量が量だけにサーシアと二人でやった。調理は祐也が担当した。こちらは手伝ってはくれなかった。殆ど自分が食べるくせに。相変わらず食べる量が凄い。料理だけでヘロヘロになった。
やっとの思いで作り終わって自分の分を食べながら今後のことを話す。
「あの子どーするんだ?」
テントについてから四時間ほどたっているが目を覚ます様子は見られない。ちなみに解体が一時間で料理が三時間だ。
「私はどうもしないわよ?あんたが拾ったんだからあんたが面倒見なさい」
捨て猫を拾ったような言い方だな。
でも聞いてない。ここまで運ぶだけだと思ったのに面倒まで見ないといけないなんて。
だが祐也は拒否することはできない。同じ日本から来た漂流者で、さらに女子を見捨てるとか男としてできない。
祐也はかなりのお人好しだった。自分のことで精一杯なのに見捨てることが出来ない。
「わかった……」
了承するしか選択肢がなかった。
ゆっくり湯船に浸かりながら孤高さんのことをどうするかを考えた。
自分に何ができるだろうか。サーシアのように魔法が使えるわけではないし、狩りも武器頼りだ。この世界のことを上手く教えれる自信もなかった。手詰まりだ。
どうすればいいのかと頭を悩ましていると、肩を叩かれた。後ろを振り返ると全裸でサーシアが待機していた。
「私もお風呂入りたいんだけど」
創らなかったら無理矢理にでも入ってきそうだ。目を逸らしながら急いでバスタブとお湯を作った。ドラム缶にしなかったのは見るためなのか、いつものお礼でゆったりとしてほしかったのか。それは祐也本人にしかわからない。
サーシアはお風呂に飛び込んだ。足を伸ばしてゆったりとお湯に使っている。当たり前だがお湯は透明のため、ない胸や長くて綺麗な足が丸見えになっている。祐也は目を逸らしているが視界に入っていないわけではない。反対向くなりすればいいのだがそうしないのはむっつりだからだろうか。
見られている本人は一切気にしてないので別に問題はないが。
足をバタバタと遊ばせながらサーシアは口を開いた。
「あの子のことなんだけどね……」
あの子というのは孤高さんのことだろう。
「よく考えたんだけど、あんたに面倒を見なさいって言うのは酷かなって」
「まーな」
酷というか無理だ。さっきも手詰まりだと思っていたし。
「それで、ある条件を飲んでくれるなら二人とも私が面倒を見ていいかなって」
「ある条件って?」
死ねとかは無理だが、それ以外なら大丈夫だ。私を養ってとかならむしろ喜んでやらせてもらう。
だが条件は祐也の予想の斜め上をいった。
「この契約に同意して」
「契約?」
つらつらと指を動かして契約文を書く。
契約の内容は至ってシンプルだった。
『互いのことを決して裏切らない。決して見捨てない』
ただそれだけだった。
「この程度でいいのか?もっとこう養って!とかじゃなくて?」
もともとそんな事をするつもりなんてないのだ。祐也にとってはあってないような契約である。あ!でも期待を裏切るって言葉があるしどうだろうか?多分大丈夫だろ。
最後の養っては佑哉の願望だ。
「この程度って……。まぁでもあんたはそういう奴だったわね」
そういう奴ってどういう奴よ。誉めてんのか?それとも貶してんのか?わからん。
信頼されてるということにしよう。そうしよう。
無理矢理納得させた。
祐也は血を着けて契約を完了させた。
「ただ責任は自分で持ちなさいよ。私はあの子が何をしようと責任を負わない。あくまでも面倒を見るだけだから」
「それはわかってる。じゃあそういうことで!今日は疲れたから寝る」
祐也はドラム缶風呂から出るとタオルで体を拭いて二つ目のテントに入った。一つ目のテントは孤高さんが寝ているため新しく創ったものだ。
同じテントで寝るなんて祐也にはできなかったようだ。さすが思春期の童貞である。チキンだ。
サーシアはまだ風呂に入ってるようだったからタオルを風呂の近くに置いて宣言通り寝ることにした。
寝ている時、布団の中がモゾモゾした気がしたが気のせいだろうか?眠たかったので気にしないで寝たのだが。
もちろん気のせいではなかった。
朝起きると祐也の布団の中にサーシアが眠っていた。Tシャツにショートパンツで露出度が高い格好で寝ていた。祐也を抱き枕代わりにして。
胸が当たっている。や、柔らか……くない!こ、これは由々しき事態だ。何度も見ているため予想はしていたが女性特有の膨らみがない。見る分には良いが抱きつかれたら感触を味わえないとは……反応に困る。
胸のおかげで一気に冷静になった。眠気も吹き飛ぶ勢いだ。だが、冷静になったらなったで困った。
これどういう状況?何で同じ布団で抱き枕にされてるわけ?わざわざ孤高さんのいるテントに人間サイズ用の布団一式と妖精サイズ用のテントをしっかり置いていたのに。
だけど今は考える前にとりあえず朝の料理をしなくてはならない。量が量なため時間が掛かるからな。それにしても寝顔も可愛かったな。少しきつめで油断のない顔だったのが、無防備になって気持ち良さそうに寝てるのだ。見てるだけで笑顔になれた。おっと、飯作らなきゃ。
サーシアを起こさないようにそっと布団からでた。
今までご飯を作るときはサーシアが起きてないと作れなかった。なぜなら祐也は次元倉庫を使うことができなかったからだ。だが今は違う!
祐也は次元倉庫から食材を出して調理を始めた。そこであることに気付いた。体が軽い。包丁を使って切るスピードも違うし、肉を持ったときに昨日感じていた重さと違う。
料理はスムーズに進んだ。まるでプロの料理人になっているかのような手捌きだった。
昨日の夜ご飯の時の半分くらいの時間で下準備を終えることができた。ここでサーシアが起きた。
「ふわぁ~おはよう」
相変わらず寝癖が凄い。さっきはそうでもなかったような気がするのだが……謎だ。
「おはよう。って何で俺の布団に入ってたんだ!」
料理が上手くいって気分がよかったせいか、忘れるところだった。
どういうことか説明してもらわなくてはならない。朝から大変だったんだぞ!主に下半身が。
「何でって寝込みを襲われる心配がないからに決まってるじゃない。あんたも嫌じゃないでしょ?ならいいじゃない」
「嫌じゃなけど……」
良くない。健全な男子高校生をなんだと思っているんだまったく。毎朝起きたら横に美人なお姉さんがいます。どうすれば良いでしょうか……ってどこのギャルゲ主人公だよ!
毎朝本能と格闘しないといけないのかよ!美人との添い寝の代償はかなり大きいらしい。
「サーシアは嫌じゃないのか?」
嫌だったら布団に侵入したりしないだろう。ダメ元で聞いてみた。嫌って言われたらそれはそれでショックだけどな。
「嫌なわけないでしょ?それに正直に言うと、私はあんたのことを弟のように思っているわ。なんなら『お姉さん』とか『お姉ちゃん』って呼んでくれてもいいのよ!」
「お、おう。遠慮しとく」
薄々気付いていたが、やはり異性として認識されていないようだ。これはこれでショックだな。告白してもいないのに振られた気分だ。
「ちなみにいつから俺のことを弟だと思っていたんだ?」
最初からではないだろう。思われるようなことしたか?
祐也の記憶にはなかった。だがそれは忘れているだけである。人間都合の悪い記憶はすぐに忘れるものだ。祐也も一人の人間なのだから当然そうなる。
もうお気付きだと思うがあのときである。
「昨日勘違いで『お姉さん』って呼ばれたのが始まりかもしれないわね」
「ガッテム!」
アアァァ!せっかく忘れてたのに思い出してしまったじゃないか!羞恥心再び登場。出来れば退場願いたい。
「それに家族になるための契約をしたじゃない!」
それは身に覚えがない。
「いつした?」
「昨日の夜」
昨日の夜……あ!もしかしてあれのことか。
「お風呂の時の……」
「そうそれ。『互いのことを決して裏切らない。決して見捨てない』これは妖精種の間では家族になるときに使うのよ。あれ、言ってなかった?」
「聞いてない!超聞いてない!」
「もしかして嫌だった……」
こういう時だけ上目遣いするのはずるいと思う。これで嫌と言えるやつはある種の勇者だろう。
それに元の世界にいたときから姉か妹が欲しかった。
「嫌なわけじゃない!」
「ならいいわね。はいこの話おしまい!」
サーシアは話を無理矢理終わらせて食事を始めた。それに祐也に文句はなかった。むしろ頼れる姉ができて嬉しかった。それに説明がないのもいつものことだし、いい加減慣れた。
祐也も一緒になって食事を始めた。
祐也たちは食事を終えるとゆったりとした時間を過ごしていた。生活魔法も使えるようになり、狩りもできるようになったため今日一日は休みにしてくれるようだった。
お姉さん事件からサーシアが甘い気がする……。家族になったからだろうか?わからん。
休日がもらえたので祐也は孤高さんの様子を見ながらテントの中でぐうたらしていた。
すると……
「っ……ここは」
ついに孤高さんが目覚めたようだ。
「サーシアこっち来てくれ!目が覚めたみたいなんだ!え、えとどうしたら」
「お、落ち着きなさい。え、えっとこういう時は」
二人でオロオロしていた。どうやらこういうのはサーシアもよくわからないようだ。焦っているところを初めて見た。
「お前は……神凪か?」
孤高さんは祐也の名前を知っているようだった。これでは「あなたの名前は」とか聞けない!相手は知ってるのに自分は知らないとか最低すぎる。
どうやって名前を聞き出そうか考えているとき思わぬところから助け船が入る。
「そういうあなたは誰なの?」
サーシアが聞きづらいことを聞いてくれたおかげで少し楽になった。
「私は月野瀬咲夜だ。君は同じクラスの神凪だろ?ではあなたは神凪の先導者か」
「悪い。そもそも先導者ってなんだ?」
「神凪は聞いてなかったのか?女神様が最初に説明してくれたではないか」
祐也は首をかしげる。
そんなこと言ってたっけ?ただ聞いてなかっただけである。当時は興奮しすぎて話を聞いていなかったのだ。
咲夜は呆れたと言わんばかりの顔だ。
「先導者とはこの世界に来て何も知らない私たちを導く存在だ」
さすがにその辺はしっかりしてた訳か。
これからはしっかり話を聞くようにしよう。
「じゃあサーシアも先導者なのか?」
「いいえ、違うわ」
「「え!?」」
二人の声が被った。
先導者じゃないなら何なんだ?ただの通りかかった人?
「何言ってるのよ。私はあんたの『お姉さん』でしょ?」
「……へ?」
あーそういうこと。先導者はやめて姉にジョブチェンジしましたと。つまりもともとは先導者だったてことか。
「えっと月野瀬さん、一応自己紹介しとくよ。俺は神凪祐也。こっちは先ど――――」
「お姉さん」
言い切る前にサーシアに遮られてしまった。
祐也は諦めることにした。
「……姉で妖精種のサーシア」
「妖精種!?」
咲夜は妖精種と聞いた瞬間驚いた。
「どうしたんだ?」
「妖精種がどれだけ凄い種族なのか知らないのか?」
「そうなのか?」
サーシアの方を見る。凄い誇らしげな顔をしている。凄いのは知ってるけどそんな驚くほどかな。
「妖精種は数ある種族の中で魔力量が一番多いんだ。そして数は少ないため滅多に人に姿を見せない。だから幸運の象徴とされているんだ」
そんな凄い種族なのか!サーシアが先導者の祐也はかなり幸運ということである。
サーシアは誉められて胸を張っている。胸はないが。
「咲夜、と言ったかしら!良く分かってるじゃない!」
そうだった。サーシアは持ち上げられると弱いタイプだった。
「でも先導者には漂流者を使って成し遂げたいことがあるはず……。大抵は何でも一人でできる妖精種にそんなものがあるのか」
「成し遂げたいこと……どういうことだ?」
「何のメリットもなく私たちを助けるわけないだろ」
確かに言われてみれば……
祐也を助けたところでサーシアにまったくメリットはないのだ。家族が増えた程度である。それもメリットとは言い難い。
「先導者は漂流者にしかできないこと。もしくは漂流者と一緒ならできることがあるからこそ選ばれるんだ」
なるほど。つまりサーシアは何か目的があって助けてくれたということか。
ふと思った。
「月野瀬すこしいいか?」
「あぁ構わない」
「この世界の知識は先導者から貰ったんだろ。ならその先導者はどこにいるんだ」
祐也は何か違和感を感じていた。そしてわかった。違和感の正体はこれだったのだ。
「そいつは逃げた……私を盾にしてな」
「っ―――」
祐也は言葉を失った。あの虎の魔物の盾にされたということだろう。自分の先導者がサーシアだったことを幸運に思ったと同時に、その下衆野郎を殴りたくなった。
女を盾にするとはどういう了見だ!男ならむしろ盾にならないとダメだろ!別に男と決まったわけではないのだが。
「そこで死にかけてるところを助けて貰ったという訳だ。もっとも、私は今まで気を失っていたがな」
「そっか……それならどうだ。俺たちと一緒にいるっていうのは」
やはり祐也は見捨てることは出来なかったようだ。それにある程度はサーシアが面倒を観てくれるため安心していた。
「それは私としては願ってもない話だが、サーシア殿はそれでいいのか?」
「私は構わないわ。その辺の話は既についてるし」
「それならよろしく頼む」
それにしても喋り方が硬いな。殿とか初めて聞いたぞ。何でそんな話方をしているのか気になったため聞いてみた。
「私の家は元は武家だったようでな、周りがこういう話方だから気付いたらこうなっていたんだ」
へー。つまりかなり金持ちってことか。
羨ましい。元の世界では一般家庭だったのでこっちの世界では金持ちになってやろう!と決める祐也だった。
―――グゥ~
話していたら誰かのお腹がなった。
「朝ごはん少なかったのか?」
祐也が最初に疑ったのはサーシアだ。昨日と同じ量食ってたと思ったんだけど少なかったのだろうか?
「何で私なのよ!」
あれ、サーシアではないっぽい。もちろん自分のお腹がなったら気付く。なら、残ってる人は一人である。
咲夜は恥ずかしそうに下を向いていた。
それを見て申し訳ない気分になってしまった。
「えっと、朝の余りでよかったら食べるか?」
「い、いいのか!」
咲夜は顔をあげる。満面の笑みだ。
「別に構わない。ただそこまで豪華なものは期待しないでくれ」
「それはいいんだ。むしろ食べれるだけで充分だ」
……今まで食べてなかったのだろうか?なんか不憫に思えてきた。
祐也は冷めている今日の朝の残りを渡した。
それを受けとるなり、凄いスピードで食べ始めた。かなりお腹が空いてるようだった。
あ、そうだ。祐也は咲夜の気になる発言のことをサーシアに聞かなくてはならないのだ。
そう。サーシアの目的のことである。
「サーシア。すこしいいか?」
咲夜が食べてるのを邪魔するのも可哀想なので、テントの外で話を聞くことにした。
「さっき月野瀬がいってたこと。サーシアが俺と一緒に成し遂げたいことってなんだ」
「……そうね。もう話してもいいかもね」
サーシアの表情が変わる。
さっきまでは咲夜を見て憐れみの表情だったのが今は憎悪となっている。
「私の目的は親の敵である怪物を倒すことよ」
サーシアはそう言って自分の過去を語り始めた。
お気付きの人もいるかもしれませんが祐也の魔力が中の上ってのは妖精種基準です。つまり……